オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

シェアハウス物語 22  捨て主(ぬし) 

 前夜は雨音の中で眠りについたけれど、朝は鳩の声に目が覚めた。 紅の部屋は、窓が西側に面しているので、朝は眩しいほどに明るいという光は入ってこない。 宇宙はセットした目覚ましが鳴る30分も前に目が覚めた。夕べのあれこれが気になって、少し早目にベッドに入ったせいかもしれない。身を起こしてさっと着替える。 音を立てずに部屋のドアを開けそっと部屋から出ると、向かいに黄金のドアが見えた。黄金の部屋は東に面...
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シェアハウス物語 21 黄金の部屋にて(3)  

「大丈夫」「よかっ……」「とは簡単に言えないけど、そうであってほしいと思う」 それだけですべてを察することはできないものの、宇宙もムーカイも神妙な顔つきになった。「名まえはメアリー・アン(Mary Ann)。二十一歳。フィリピンから来たんだって」「二十歳過ぎてたんだあの子」 宇宙が目を丸くする。顔を見た時、日本人ではないとわかったけれど、歳や国籍までは分からなかった。細く華奢な体つきから、高校生くらいかと思...
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シェアハウス物語 20 黄金の部屋にて(2)  

「あの……」 ペタリ、という足音と共に女の子が振り返った。宇宙を見ると、傷ついた小鳥のように首をすくめる。玄関灯のほのかな明かりに照らされたその顔が目に入ったとき、宇宙は息を呑んだ。 赤黒い顔。特に目の周り。鼻血も切れた唇も痛々しい。一体この子に何が。すぐに言葉を出した。「どうしたの?」 けれども、同時に女の子が体をひるがえした。「待って」 上腕を掴むと、女の子が小さなうめき声を上げてよろめいた。す...
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シェアハウス物語 19 黄金の部屋にて(1)  

 宇宙は、天気予報を確認しないで出かけてしまったことを悔やんでいた。朝出かけるときは、青空が見えていたからだ。夕方六限の講義の途中から聞こえてきたザーという雨音に気付き、少しだけ何かに裏切られたような気持ちになる。「コンビニで傘買えば?」 こんな時はそうするのが当たり前だというように提案する桧山は、コンビニの世話になる必要はない。桧山はオンキャンパスの学生寮に住んでいて、傘を持たずに雨の中を歩いた...
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シェアハウス物語 18 アリーの引っ越し(2) 

「月に代わって、お仕置きするよっ!」 ニコールがノリノリでアニソンを歌う。 アリーのお別れ会も、食事が終わると二次会モード。リビングのiTV(最新のテレビ)がカラオケのモニターとなり、アプリからそれぞれに曲を選択する。「ほおら。アリー、歌って!」 ニコールからワイヤレスマイクを渡されたアリーは、困ったように眉をハの字にしてそれを握る。その割には意外に上手い。日本の歌を日本語で歌う。 ワンちゃんも歌え...
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