オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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怒涛の一週間 9 火曜日(3) 

 7時きっかりに居酒屋に着くと、部長はすでに来ていた。今朝といい、これといい、部長は10分前行動の人なのか。まだ飲んでいないはずなのに、ずいぶんと機嫌が良さそうに見える。

 「こっちに来い」と呼ばれて部長の隣に座った。部長の酒豪ぶりはすでに知っていたので、合わせないようにと決めていた。

 飲み会が始まると、部長は課長の事故のことを各部課長に報告のように話し、俺のことを課長代理だと紹介してくれた。

 俺みたいな昨日まで平だった社員が、この席にいて部長の隣に座っているのが何となく場違いな感じがしていたので、紹介してもらえたことに恐縮したが嬉しかった。

「遅れてしまって申し訳ない」

 飲み会が始まり、30分ほどしたところで、専務がやってきた。会社の専務、長谷川紀夫(はせがわのりお)は留守の多い社長の代わりに会社を動かしている実質副社長のような存在の人物だ。

「専務、こちらに座ってください。こいつが課長代理です」
「え? あ、佐藤です」

 突然紹介されて、驚いてしまった。専務が俺の隣に?

「おぉ、君か、『秘密の花園』の秘密兵器は。今日はご苦労だったね」
「専務にもあのプレゼンを見てもらいたかったですよ。花園がこんなすごい部下を育てていたなんて知りませんでした」

 専務と部長の間で俺のわからない会話が始まった。月一とはいえ、専務が会社の普通の定期親睦会に来るのは珍しいことだ。普通は社長やその他幹部と料亭にでも行くだろう。

 固まっている俺の耳元で部長が小声で囁いた。

「こーじ、今のお前はただの下っ端社員じゃないんだぞ。会社に何億という利益をもたらした営業部課長代理様だ」

 ―――何だ? 部長、もう酔っ払っているのか。

 俺は思わず隣の専務のほうに引いてしまった。

「そういえば、お前はまだ知らないよな。今日の取引の結果はイエスだ。商談成立だよ」

 それは良かった。それが聞けて俺は素直に嬉しかった。

「それ本当ですか。すごいですね」
「何言ってんだ。すごいのはお前だぞ。すぐに返事が来たそうだ。ねぇ、専務」

 専務の説明によると、俺が今日プレゼンをした新プログラムは、会社の海外戦略を見越しての売込みを狙っていくプロジェクトの第一弾で、部長と課長とでいくつかのメーカーをまわり、数ヶ月にわたって交渉を進めていたものだったらしい。

「佐藤君は何も知らないであのメーカーを取ってきたのか?」

 数ヶ月も前から、いや、プログラムの企画開発のところから数えたら数ヶ月ではきかない。そんな前から温めていた会社のプロジェクトを、部長と課長とで扱っていたなんて。そんなこと俺が知るはずがない。

「そんな大きなプロジェクトだったなら、企画や開発や制作や・・・えっと、会社全体で頑張っていたってことですよね」
「もちろんそうだ。だが、言ったろう。最後の最後に確約をもらえなければ、企画が良くてもそれまでのすべてが良くても、どんでんがえしに遭うんだ。俺たちは何度もそれを経験してきた」

 今日行ったメーカーはうちの会社が一番に狙っていたところで、課長が主に担当していた。

 営業を進めていくうちにメーカーの上層部が課長のことをとても気に入って、それならば話を詰めようということでのミーティングが今日だった、というのだ。

「人なんだよ、営業ってのは。基本のキだろ」

 当たり前のことように部長はそう言うが、俺にとっては驚きだった。酔ってもいないのに息が上がり、舌がしどろもどろになってしまった。

「部長・・・俺、そんな大事な、課長の取引を・・・」

 昨日の電話では課長はそんなこと一言も言わなかった。一緒に行った部長だって、何も。

「こーじ、言ったろう。イエスだって。メーカーの常務がお前のプレゼンにずい分感心していたそうだ。ですよね、専務」
「ああ。良い若手を持っていると羨ましがられたよ」

 専務が言うには、海外とのつながりの強い今日のメーカーを取ったことにより、うちの会社のプロジェクトも第二段階に進み、国際事業部を立ち上げて近々海外特にアジアとオセアニアに本格的に乗り出す、のだそうだ。

 自分の会社の話だが、俺には全く他人事のようだった。

「君たち営業部はうちの精鋭だってことだね」

 専務も機嫌が良いらしく、ビールを何杯も頼んでいた。

「でも、課長がそれをやってきたのに。部長と一緒に。課長がこんなことにな
ってしまったのなら、プレゼンは部長がした方が良かったのでは?」

 何となくいまだに事情がわからなくて、俺は部長に訊いてみた。

「何を今更そんなことを言うんだ。あのメーカーのお気に入りは見るからに柔道部の俺ではなくて、あの細っこい花園だったんだぞ。あいつのどこが気に入ったんだか。一人で何回か訪問していたらしいが、どんな手を使ったのか。全くあいつは『秘密の花園』だよ」

 課長の営業手腕には部長も舌を巻くらしい。俺も今更ながら課長のすごさを納得する。部長の言う通り、『秘密の花園』は伊達じゃない。

「あいつの代わりに、もし俺がクマみたいなツラしてプレゼンやってみろ。ノーだ」

 笑ってはいけないところだが、童話に出てきそうな熊の着ぐるみを纏った部長がプレゼンをしているところを想像してしまい、思わず吹きだしそうになってしまった。

「ははは・・・確かに。お前がやらなくてホント良かった」
「それ、ちょっと傷つくなー、専務~」

 部長と専務はずいぶんと打ち解けた関係らしい。

「それから、お前は花園から推薦された」

 ―――え? 課長から推薦? どういう意味だ?

 昨日から部長の言葉の一つ一つに驚かされる。

「だから、今日のはお前のだ。プレゼンやってた時のお前はスーパー営業マンに見えたな。オーラが出ていたぞ」
「はあ・・・あの、推薦って・・・」
「いいじゃないか、そんなことはどうでも。今日は飲め」

 『推薦』の意味が気になったがそれを聞く間もなく、その後、酒豪の部長とこれまた酒豪と発覚した専務との間に挟まれた俺は、つぶれるまで飲まされた。



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   晃次君、潰されちゃいました。明日頑張って出勤してね。

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Comment

Name - あかね  

Title - がんばってますねー

こちらでもやはり「秘密の花園」なんですね。
うぷぷって笑ってしまいました。

こーじくんもがんぱってますね。
とてもとても真摯に仕事に取り組む、真面目な青年なんだなぁ。
このような営業の仕事の経験はありませんから、
新鮮な気持ちで読ませていただいています。
2012.07.10 Tue 11:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: がんばってますねー

あかねさん、コメントありがとうございます。

仕事をびしっとしているだけなのに、
なぜかわけありに見られてしまう課長さんです。
さりげないところがさらに秘密っぽい。いや、秘密なんて無いのです。

> こーじくんもがんぱってますね。
> とてもとても真摯に仕事に取り組む、真面目な青年なんだなぁ。

頼りの課長が今いないので、頑張っています。
突然リーダー的存在になってしまいましたが、何とかこなしていかなくてはいけないのです。どうなる?

> このような営業の仕事の経験はありませんから、
> 新鮮な気持ちで読ませていただいています。

ドキ。私も営業職の経験は無いのです。ドキドキ・・・
今後も怒涛に襲われるこーじくんを応援してあげてください^^
2012.07.10 Tue 13:00
Edit | Reply |  

Name - 楓良新  

Title - 火曜日

秘密の花園とはうまい具合に描いたなあって思います。

飲み会って会社でありますよね?普通は平均一年に3、4回くらいですね。歓送迎会、忘年会、新年会。
営業は月1くらいと言ったところでしょうか?

私の友人は場合によれば毎日あると言ってました。休みの日もあったり、休みの前の日は朝まで飲みあかし、昼に帰った事もあるそうです。参加しなかったらリストラ対象に入れられ、あげくの果てに辞めていった人もいるそうです。

晃次君の場合はああいった事はないでしょうが、最初ですから、参加したのは正解でしたね。
2013.08.23 Fri 22:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 火曜日

楓良新さん、コメントありがとうございます。

花園課長は普通にしていても、なぜかわけありに見られてしまうタイプ(^^;)

飲み会は気軽に参加できるのが良いですよね。
行くのが辛いのはちょっと・・・(-_-;)
リストラなんて(@@)

晃次君はまあ、普通に飲めるタイプなのですが、酒豪に挟まれるのは・・・(^^;)
2013.08.24 Sat 00:01
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

確かに商談で億単位のお金が動くんですからすごいですよね~~。
ってサラリーマンじゃないから言えるセリフなのですが。
そういうのが営業では問われるから本当にすごい仕事だと思います。あまりそういうのが好きではないので。
私は性格上。営業の仕事頑張ってほしいですね。
(*^-^*)
2015.07.25 Sat 19:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうらしい(?)ですね・・・
私もOLしたことないし、営業もしたことないので・・・なんとも・・・(やば -_-;)
こーじ君はとりあえずこの後もお仕事頑る(なければならない)のでよろしくお願いします (*^-^*)
2015.07.25 Sat 21:33
Edit | Reply |  

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