オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 30 第二章・ジャズライブ(6) 

「ヤマサダ!」

 客の方が、田島よりも先に気がついた。歓声を上げ、特別なアトラクションを喜んで受け入れるように、この突然のゲストを自然に拍手で歓迎した。

 客から「ヤマサダ」と呼ばれたその男性は、演奏しながら笑顔で田島のことを真っ直ぐに見つめ、田島のギターとのユニゾンを展開していた。

 そのパンチのあるサックスに圧倒されながらも、田島は男性と視線を合わせ、呼吸をも合わせるように必死についていく。

 白髪のサックス奏者は、二曲目が終わってからも間を取らず、田島をリードするように三女の美香からリクエストされた三曲目を軽やかに吹き始めた。

 もともとこの曲のオリジナルは、サックスリードで作られ、クインテットの編成で演奏されていたものなのだ。田島は、男性の鳴らすサックスのリードに合わせて、ギターでサポートした。足で床を踏み鳴らし、リズムを取る。

 予告なく始まったギターとサックスのセッションに、客の手拍子が呼応し、ライブはその一体感を見せるように熱気を帯びていった。

「マスター、ビール!」

 そのぶっきらぼうな頼み方で、振り返らなくても誰が来たのかマスターにはわかる。

 店の常連の三宅が、今日も遅くにやってきた。ライブは予約制だが、三宅だけはただ一人、自分は「フリーパス」と称して毎週のように田島のライブに来る。

 始めはマスターも、予約制にしてるからと断りを入れていたのだけれども、それを全く無視して来るのでマスターもあきらめていた。

 三宅が店に到着するのが、大抵ライブの後半から終わりにかけてであったこともあって、いつの間にか良しとなる。

 自分のことをフリーにしておかないと、田島とこのライブのことを音楽業界にばらすとも言われていたが、それはもちろん冗談で、この常連客の愛嬌だとマスターはただ苦笑するだけだった。

「祥吾、ヤマサダさんと何やってるの?」
「ヤマサダ? やっぱりあの人そうなんだ」
「ジャズ界の大御所だよ。山下貞夫クインテットのヤマサダ。マスターも知ってるでしょ」

 三宅にそう言われて、やっと「山下美穂」という姉妹の長女の名まえと、客が「ヤマサダ」と歓声をあげたのが繋がった。マスターもその名まえぐらいは知っている。

 山下貞夫、自身のアルバムをたくさん持ち海外公演も行う、日本を代表する有名なサックス奏者が、そこに威光を放っていた。



「ジャズやるからって、呼んだの?」
「まさか」

 マスターが大きく首を振る。そんな有名人が、こんな小さなカフェのライブになんか、冗談でも来るはずがない。

「じゃあ、どうしてここで、祥吾とセッションしてるわけ?」
「いや、偶然というか、必然というか・・・田島君が引き寄せたのかもよ」

 あっという間に始まった二人のセッションについて、マスターは三宅にうまく説明ができない。マスターだって、どうしてこうなっているのか、誰かに教えてもらいたいくらいなのだから。

「相変わらずマスターの言うことはわかんねえな。祥吾と知り合いだったってこと?」
「違うと思うよ」
「大体、自分の店にあんな有名人が来てるのに、マスター、知らなかったの?」
「いや、ヤマサダ、って名まえは知ってたけど、あの人がそうだったとは」

 気づくはずがなかった。先程までの寡黙な様相からは、あの白髪の男性が、世界をまたに駆ける活躍をしているミュージシャンだなどとは信じられない。けれども今、田島とライブセッションをしている男性ならば、そうだと思える。

「ヤマサダさん、髪があんなに白くなって。ほんの数年前にスタジオで見た印象とは随分違うなあ。奥さんが病気で亡くなった後、鬱になって引きこもってるって聞いてたんだけど、そのせいかな」
「相変わらず良く知っているね」
「取材で撮らせてもらったこともあるからさ」
「へえ、三宅さんも良い仕事してるんだね」

 実はマスターは、この自称カメラマンの常連客のことをほとんど知らない。自分と年は同じくらいに見える。渋谷に自身の事務所を持ち、自宅が近所だというのは聞いた。

 重いカメラ機材を常に持ち運ぶせいか、筋肉質な逞しい体つきをしている。色黒で顎にひげを蓄えている容姿は、いかにも業界人ぽい。

「俺のこと、見くびんないでよ、マスター」

 そう言うと三宅は、マスターに片目をつぶって見せた。

 カメラマンと言っても、どんな仕事を受け持っているのか、キャリアはどのくらいあるのか、いつか聞いてみても良いだろうかとマスターは思いを巡らせる。

「サックス吹いている感じは、変わらないみたいだけど。ヤマサダさん、鬱には見えないよ。祥吾とすごく楽しそうにやってる」
「いや、酷い鬱だったと思うよ。確かに」

 ほんの先ほど前までは、とマスターは三宅に少し事情を話して「あそこにいる」と姉妹のいる方に目配せをした。

 三宅がカウンター席から少し振り返って、視線を向けたそのテーブル席では、長女の美穂がハンカチで目を押さえていた。妹の二人も涙を浮かべながらも嬉しそうな表情で、自分たちの父親を見つめていた。



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 偶然か必然か、超大物とのセッション、という展開となった田島。
 片や大御所。片や一般人? には見えないらしい(?)

 田島、やっぱお前、すげえ・・・ 
 (by このところセリフのない徹さんより。いや、徹さんはちゃんとバイトの仕事してるんですって!)

 この共演、生で見たいなあ・・・


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

本当にこの場に潜り込んで、聴いてみたいです。
二人の一体感、観客の高揚感が伝わって、心地いいです。

マスターと三宅さんの、かみ合わない感じが面白いですね。
ちょっと三宅に素っ気ない感じのマスター、いい・笑。
この瞬間、マスターの感心はステージの二人にしかないですもんね。

このセッション、ヤマサダさんがヤマサダさん自身を取り戻すきっかけになってくれればいいなあ^^
音楽の力、計り知れないです。
2011.11.03 Thu 08:02
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

いや、もう、ただただため息。

聴きたいわぁ、このlive。
2011.11.03 Thu 13:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

limeさん、もう潜り込んでいらっしゃるかも^^
徹さんにドリンクお願いしてみてくださいね。

マスターと三宅さんがどうも大人の会話にならなくて・・・(ちょい汗)
次回に絡んだときにということで。。。

ここで田島からヤマサダさんに何かが伝わったでしょう。
きっと。(だよね。じゃないとさ~。頼むよー・・・)

音楽の力は偉大です^^
2011.11.03 Thu 15:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

ため息まじりのコメントありがとうございます。

秋沙さんも、聴いてないで、乱入乱入!
2011.11.03 Thu 15:50
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

お。さりげなく、三宅さんの人物像がみえてきました。
ほほう。なかなかかっこよさそう…(そこかいっ!

>リハーサルもなくそれに合わせてしまう田島の音楽的な力量

↑これ、凄いですね。田島くん、どんだけ音楽の才能もってるんでしょうか。ジャズに転向しないでよ~

>田島の持つその感性の高さが心を閉じていたヤマサダを動かし

↑まさにこんな感じ。音楽で人の心を動かすなんて、なかなかできるもんではないですよ~。田島くん、実は将来は大物に!?

(すっかりカラダ、回復しました。あたたかいコメント、ありがとうございました)
2011.11.05 Sat 17:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

おぉ~。お体、回復されてよかったですね。
安心しました^^

早速のコメントありがとうございます。

三宅さん、気に入ってもらえたでしょうか?
ちなみにジーンズはスリムってことで。

いや~、描いたのそこだけピックアップすると、
すごいことになっちゃうんですね~ (これかなり汗です)

ちょい過去のある大学生がなんか天才っぽくなってしまいそうです。
いやいや、天才は桜木花道だけで・・・(笑)
2011.11.05 Sat 19:07
Edit | Reply |  

Name - LandM(才条 蓮)  

Title - No title

出会いの縁っていうのはありますよね。なんにしても、色々な人が集まってきますからね。色々行動を起こすとなると、意外に結構人が集まってきますよね。私もブログ小説を書くということで、4人、ゲーム化で声優込みで計10人ぐらい募ってますからね。意外になにかやると人が集まってきますよね。

今年一年、コメントなどありがとうございました。
今年はブログで公開している小説をゲーム化して販売したりなど、など色々無茶なことをやった年ではありましたが、来年はもっと無茶ができるようにがんばってまいりたいと思います。来年もよろしくお願いします。
2011.12.27 Tue 10:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandM(才条 蓮)さん

コメントありがとうございます。

出逢いとかご縁とか本当に不思議ですね。必然だと思っています。

小説で4人、ゲーム化で10人、て凄いですね。
行動力のなせる業、ですかね。すばらしいです。

私もチームで何かしてみたいですね。参加型にちょい興味です^^

私のほうにもLandM(才条 蓮)さんからのたくさんのコメントをありがとうございます。
とっても嬉しかったです!

来年のLandM(才条 蓮)さんの無茶っぷりが気になりますが、がんばってください。
こちらこそ、また来年も宜しくお願いします^^
2011.12.27 Tue 12:00
Edit | Reply |  

Name - LandM(才条 蓮)  

Title - No title

引力ってありますよね。引かれあうっていうのか。
そういうのは感じます。
引き寄せる力っていうのを。
私の小説を皮切りに絵師を・・・背景絵師を・・・。他の執筆者を・・・。
総合計で10人以上。
私の小説を皮切りに引かれていくのを感じるときがあります。
何かすることによって、引かれあうのが人間なんですよね。
2012.02.12 Sun 21:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandM(才条 蓮)さん

コメントありがとうございます。

ありますよね。引き寄せって。
チームで一つのものを作り上げるのって、凄いと思います。

引かれあって、集まって、大きなものが出来ますね。
素晴らしいです。
私もいつかLandM(才条 蓮)さんのチームに・・・なんて(^^;)
2012.02.13 Mon 16:58
Edit | Reply |  

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