オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 31 第二章・ジャズライブ(7) 

 ギターとサックスのセッションが行われているカフェのコーナーでは、三曲目の後半で、ヤマサダがアドリブソロを演奏し始めた。

 その大ヒットした刑事ドラマのオープニング曲を知っている客は、喜びの歓声を上げ、さらに大きな手拍子を送る。客の手拍子と、ヤマサダのソロが一体となり、小さな店の中に大きな音のうねりが湧き上がった。

 ソロを吹き上げた後、ヤマサダは足を踏み鳴らしながら、田島のギターを指差した。それはまるで「お前もアドリブをやれ」と言っているようだ。

 田島も明るい笑顔を見せ、手拍子に合わせてソロを弾き始めた。それは、ジャズのフレーズではなかったが、『バンド甲子園』時代にやっていたバンドのオリジナル曲を髣髴させるような、メロディーを持ったフレーズだった。

 田島のそれにも客は大きく反応した。客の拍手と歓声を受けて、ヤマサダが再びアドリブを入れた。数フレーズを演奏し、ソロを田島に引渡した。

 それを受けて、田島がまたギターで答えてヤマサダに返す、というようにして、二人のアドリブの掛け合いが始まった。

 客はどちらのアドリブにも歓声と拍手を送った。その狭い空間で二人の創り出すサウンドが交錯し、ライブはいっそう熱くなった。

 田島もヤマサダも客の手拍子の作るリズムに乗り、まるで二人で会話をするように何度もアドリブソロの交換を続ける。それが客も巻き込む音響の波となり空間一杯に行き交っていた。

「祥吾、さすがだね、ヤマサダさんのサックスにちゃんと答えてる。あれ、ヤマサダさんがクインテットのライブをやる時に、メンバー全員と必ずやる即興なんだけど、ライブの目玉なんだよ。祥吾、知ってたのかな?」

 そんなことを田島が知っていようがいまいが、マスターにはどうでも良いことだった。

 それよりも、リハーサルもなくそれに合わせてしまう田島の音楽的な力量に、ただ感嘆していた。田島もただの素人ではないということの証だ。

「凄いねー、ヤマサダさんも祥吾も。あの二人が演り合っている事がホントに凄いよ。最高だね、マスター」
「ヤマサダさんをあんなふうに動かしている田島君が、一番凄いのかもよ」

 田島の持つその感性の高さが、心を閉じていたヤマサダを動かし、その結果、今こうして目の前のセッションが展開されている。マスターはそう確信する。

 カフェの中の空気は完全に一体化し、ギターとサックスの奏でるここだけのサウンドが、この場にいる誰もの心の中を満たすように響き渡っていた。



 最後の一音を惜しむように、一瞬の間をおいてから、二人の演奏者を拍手の波が包み込む。

 いつまでも鳴り止まない客の拍手と歓声の中で、ヤマサダと田島は共に笑顔でがっちりと握手をした。

「祥吾君、ありがとう。ギターも歌も、すごく良かった」
「こちらこそ、ありがとうございます。ヤマサダさん、ご本人だったとは、びっくりです」

 三女の美香のリクエストで、刑事ドラマのオープニングに使われた曲は、山下貞夫クインテットのアルバムからシングルカットされたものだった。

「祥吾君のオリジナルも良かった。早く音源化したのをフルで聞きたいね」

 田島の耳元でそうささやいてから笑顔を見せると、ヤマサダはクルリと客に向かい、両手を振ってから深く礼をした。

 目を丸くするだけの田島は、ヤマサダに言われたことの意味が一瞬わからなかったのだけれども、客の歓声にその小さな疑問がかき消される。

「ヤマサダー!!」
「祥吾―!!」

 田島も客の歓声に何度も感謝の言葉で答え、やっとライブを終了させた。

 ヤマサダは、笑顔を見せながら娘たちのいるテーブル席に戻っていった。姉妹は三人とも自分たちの父親に手を伸ばし、抱きついて泣きじゃくった。

 マスターは一気に帰る客の会計に追われ、花園はテーブルの片付けに追われた。常連客の三宅はビールしか頼んでいないのに、カウンターに札を一枚残していつの間にかいなくなっていた。

 田島は、ギターをカウンター裏に置いてからグラスに水を入れると、ヤマサダに持っていった。

「ありがとう、祥吾君」

 田島からグラスを受け取ったヤマサダのその笑顔は、今日カフェに最初に来店したときの顔色の悪い無表情な男性とは全くの別人のものとなっていた。

「祥吾さん、今日は素敵なライブをありがとうございました」

 父親の横にいた長女の美穂が礼を言うと、美紀と美香も揃って田島に頭を下げる。

「リクエストありがとうございました。俺にとっても、ジャズをやるすごく良い機会になりました」

 ヤマサダの三人の娘も、今は笑顔で父親を囲み、とても嬉しそうだ。

「ヤマサダさん、娘さんたちからの誕生日プレゼント、届きましたか?」
「ここにしっかりと」

 ヤマサダが、親指で自分の胸を指差す。

「娘たちの思いと、祥吾君の弾く旋律が私の心を弾(はじ)きました。それで、乗せられました」

 ヤマサダは、首にかけていたサックスのストラップを外して、田島に見せた。

「このストラップは、妻の手作りなんですよ。私にくれた最後の誕生日プレゼントです。これをどう使わなくてはいけないか、娘たちと祥吾君が気づかせてくれました」

 それは「YAMASADA」とローマ字の名まえが美しいデザインで彫ってあるレザークラフトの作品だった。けれども、ずっとしまってあったからだろうか、途中に折り皺がくっきりと残っていた。

「俺も瞬のギターを放っといて、とんでもないことになっていましたから」

 その皺の跡に気づいた田島がそう言うと、ヤマサダは声を上げて笑った。



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 ライブ後の余韻に浸り中・・・(*u_u)


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - ansheen  

Title - No title

ライブ、お疲れさまでした!
もはや打ち上げに行きたい気分になってます(笑)。
ヤマサダ・・・いい親父だなー!!!
木管らしからぬ、いぶし銀の様な渋い音を出すんでしょうね。
そして、田島君のギターは大人な演出になる・・・素敵な競演だったんだろうな。
なんてっ、想像は膨らむばかりです(^_-) -☆
2011.11.08 Tue 10:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

コメントありがとうございます。

いや、もう、いろんな意味で、クタクタです。
けど、打ち上げだけは外せない、みたいな気分(笑)

ヤマサダと田島が、親父とアニキみたい(?)
ベテランの味、出してましたかね。

ライブを楽しんでいただけたなら嬉しいです^^
2011.11.08 Tue 14:59
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

>娘たちの思いと、祥吾君の弾く旋律が私の心を弾(はじ)きました。

けいさん、お父さんに粋なこと言わせましたね~。
凄くいいセリフ ^^

そうですよ、やっぱり田島くん、自分のオリジナルやらなきゃ!
それだけ才能あるんだから、プロにならなきゃもったいない。

きっと田島くんほどのひとなら、このままカフェでこじんまりとしたライヴ続けてても、どこかのプロダクションが絶対に目をつけるはず。
花園くんやマスター、三宅さんも応援してくれてるし、ここは勝負にでなきゃ!ですね。
2011.11.08 Tue 15:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

やた。粋なセリフ第一号^^
気に入ってもらえて良かったです。

そうですね。プロデビューが高校時代の夢でした。
今は・・・? 違うらしいよ・・・?

三宅さんが黙ってくれていても、ヤマサダさんから漏れる可能性が・・・
簡単にデビューしちゃうと、お話終わっちゃうんで~(笑)

田島、西幻さんも応援してくれてるんだから、
ちゃんと大学卒業できるように勉強しとき^^
2011.11.08 Tue 17:50
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

ライブの余韻、いい感じで漂っていますよ~。
今回は、お父さんの・・・いや、ヤマサダさんの心を溶かす、特別なライブだったんですもんね。

田島君にとってもきっと、生涯忘れられないライブですよね。
たとえ、デビューしても。

・・・え、そんなにすぐにはデビューしないの?
そっか、堅実に勉強するのね、田島君。うん、えらい。
お姉さん、応援します。(お姉さんってことで)

でも、放っておくと、何食わぬ顔で普通に就職しちゃいそうな田島君。
ある意味、ハラハラします^^;
2011.11.08 Tue 18:45
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

liveの後のあの高揚感が、無駄を省いたスピーディーな文章でより強く伝わってきた気がします~(^-^)

西幻さんのおっしゃるように、ヤマサダさんのあのセリフは、いかにもいぶし銀なミュージシャンが言いそうでいいセリフだなぁ~(*^_^*)

しかし、私が「おお!」と思ってしまったのは、奥様の手作りのストラップが、長い間使っていなくて折ジワがついている・・・という描写です。
すごくリアル!
私も10年以上ギターを放っておいたので、すごくわかります。(安物の布製のストラップ使ってたから、折ジワは付かなかったけど)(笑)。
久しぶりに楽器を触るときって、そういう違和感があちこちにあるんです。
それが、また続けていくうちに段々元通りになっていくんですよ~。

ヤマサダさんのストラップが、元通りになって、さらに皮が使い込まれて柔らかくなってくる日が来ることを祈って・・・。

さぁ、一段落ですね。
田島君、次は何をしてくれるかな。楽しみ。
2011.11.08 Tue 19:20
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

いい感じですか。良かったですぅ~。
とりあえず田島、自分の役割を果たしました。良かった良かった。

いや~、田島は大学卒業が実は微妙なのです。単位落としすぎて。
お姉さまの応援で卒論の方も頑張ってほしいです。(もちろん、お姉さまですよっ^^)

卒業したらフリーになるので、それからかなー
どうなるかなー

これからも、のろまなウサギの田島の物語にお付き合いください^^
2011.11.08 Tue 21:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。

秋沙さんにライブ感が伝わって良かったです^^

セリフに2票目、ありがとうございます。
バスケ部の安西先生を目指します。うむ(意味のない気合?)

しかーし。ストラップに気づいてくださってありがとうございます!
秋沙さん、10年ですか。田島は4年です。

私、知り合いのギターで、ふた開けたら弦にカビが生えてたっていうの、聞いたことがあるんです。
・・・絶句のあと、爆笑でした。
カビですよ。錆じゃなくて。あー、笑った^^

田島は次は、、、何をしてくれるかは・・・CMの後で^^
2011.11.08 Tue 21:50
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

あぁ、カビ。普通に生えますよ(笑)
私のギターも、ケースはカビだらけ、弦もわけわからん汚れ方(たぶんあれは黒カビ)、ボディーも同様ベタベタして取れない汚れとかホコリとか、とにかく恐ろしいことになってましたよ(^^;

よくぞまぁ、音が出たもんです。
今ではすっかりメンテナンスされて、以前よりいい音が出てますよ!
(しかし、技術は以前のレベルまで戻りません)(ToT)
2011.11.09 Wed 00:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。

カビ、普通なんですかっ・・・
弦は錆びるもんだと思っていました。。。

先輩(高校の時)が、例のカビの生えた奴をこともあろうか、
自室でボロンとやり、カビがブンッと部屋中に舞った・・・
その恐ろしさに息が詰まりつつもわろた、という思い出話です。

秋沙さんのギターも復活して良かったです。
ま、技術より、経験ということで^^
2011.11.09 Wed 15:22
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 素晴らしい奇跡の連続!

それを引き寄せるだけの何かが、田島くんにはあったのですな。
何かとは。
運、才能、宿命、背負うべきモノ、開かれた未来、導くべき観衆、ヒトの心を捕える魅力、道。
そんなものですね。

一気に流れに飛び乗るために、必要な苦しみを経て、休息を経て、大事な‘友人’たちからの‘友情’が一筋の道を指し示し。そして、父を想う娘の‘愛’と、彼を取り巻く人々の敬意と情熱と労わりと。
そんなもので構成されるこの世界に、心から敬意を表します。

今後のそれぞれの活躍を楽しみに、特に店長! 頑張れ~
調理とか後片付けとかfateも手伝うよ~♪

2011.11.09 Wed 15:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 素晴らしい奇跡の連続!

おーっ! fateさん、ここまでお読みくださりありがとうございます!
感謝感謝です!

田島はポケットにまるでドラえもんのようにいろんなものを持っているんですかね。
次はどこでもドアで、fateさんのところにお礼に行きなさい、って感じです。

お話にお褒めの言葉を頂き、とっても嬉しく思います。
感激です。ありがとうございます。

マスターはまだまだ田島(とみんなの)の面倒を見なくてはいけないんです。
fateさんのお手伝いが入るとめっちゃ助かります。
よねっ、マスター♪
2011.11.09 Wed 17:15
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

これで終わりでもいい程、素敵な演出でした。
田島もヤマサダさんも思わぬ形で、共鳴し合ったようですね。

このまま田島は夢に向かって突き進むことができるのでしょうか。

もうちょっとで最新回に追いつきまっせ。笑。
2011.12.04 Sun 20:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハル

コメントありがとうございます。

ホント、終わりのような終わりですね。
確かに、エピソードの終わりではあるのです(笑)

これをステップにして、先に進みます。

猛烈な追撃(?)ありがとうございます^^
2011.12.05 Mon 07:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ヒロハルさん

さん

が抜けたっ

by アシタカ
2011.12.05 Mon 07:36
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

昔、ここに訪問したときは途中から読んでしまったので、なかなか話が繋がらないところがあったのですけど。今改めて読むと意外に話が繋がって来て、田島くんの苦悩やあふれ出る才能。そういったところから夢を叶えようとする姿。タイトル通り、夢叶が表現されているところが素敵ですね。
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
2016.04.09 Sat 18:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

お。どのあたりからだったのですかね。
再び読んでいただけるなんて本当に恐縮です。
LandMさんのお蔭で私も端々を再読するのですが、表現がホント・・・泣きます。

色々な意味で(ブログからは下げたいと思いつつも)取っておきたいお話なので、ここに来てコメントをいただけるのは本当に貴重で感謝です!
いつかいつか、LandMさんや皆さんからのコメを参考に、改稿を誓っているものでもあります。
何年もずっと先かもしれないけれども・・・(-_-;)
2016.04.09 Sat 20:18
Edit | Reply |  

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