オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

怒涛の一週間 10 水曜日(1) 

 水曜日。二日酔い。根性で出勤。

 渡辺部長は欠勤。きっと専務につぶされたのだろう。長谷川専務、あの人も相当飲む人だ。サル、いや、ザルだな。

 ―――専務は今日、出勤しているのだろうか。

 いや、そんなことはどうでも良い。仕事仕事。

 事務処理が山になっていた。昨日のメーカーの営業報告を書かなくてはならなかったし、月曜日の出張の報告もまだ書いていなかった。

 課長のデスクに来ている他からの報告書をまとめるのも今は俺の仕事だ。俺は課長の事務処理と自分の仕事を交互にやりつつ、課長のデスクと自分のデスクを行ったり来たりしていた。

 プルルル・・・ 

 課長のデスクの外線だ。

 電話を取るとものすごい勢いで怒鳴られた。

『上の者を呼び出せ!!』

 クレームだ。怒り指数は10のうちの10。とにかく嵐が去るまで聞くことしかできない。

 会社にはクレーム担当がいない。自分に来たクレームは自分で受け、課長に報告するのがマニュアルだ。しかし、今課長はいない。

「・・・なので、よろしければ私に伺わせてください」

 どうやら最近中途採用で入った新人君が何かをやったらしい。指導していたのが課長だったから課長の外線番号を持っていたのだろう。

『とにかく、今日のうちにもう一度うちまで来い!』
「大変申し訳ございません。本日2時までに必ず伺わせていただきます」

 電話を切って、新人君を呼んだ。

「水谷君、クレームだ。ちょっと良いかな」

 うちの会社は製品の出張説明をしていて、つい先週のリクエストを受けて水谷が出かけていったところからのクレームだった。水谷は新人だから訪問は課長と行っている。

 プログラムの使い方について説明をするときに水谷がコンピュータを扱い、その後、あるデータが消えてしまった、ということだった。

 週末にそのことに気づき、月曜日にうちの会社に連絡を取って、火曜日、つまり、課長が休暇に入った日に水谷が一人で訪問し、クレーム処理に当たった。

 普通、新人が訪問説明をするときには上司がつくものなのだが、この日は課長は休暇、部長は俺と例の商談に出かけ、他の者も自分の仕事で手一杯でついていってやれる者がいなかった。

 水谷のほうも、訪問したは良いが、データ復旧をしていたはずが、どうやらさらにいくつかのデータを消してしまったらしい。しかもそれに気づかないまま、直したつもりで引き上げてきてしまったらしいのだ。

 相手はデータ復旧を期待していたのが、逆にさらに消されてしまったわけだから怒るのも無理はない。

「大体分かった。じゃあ、出かけるよ」
「すいません」
「心配しないで。クレーム処理は慣れてるから」

 実際は慣れているわけではなく、むしろできることなら関わりたくない業務の一つだ。水谷の不安そうな顔を見ながら、自分が新人の時も課長がクレーム処理について来てくれたことを思い出した。

 ―――自分も課長のようにうまくできるだろうか。

 会社の車を運転し、1時半には目的の場所に着いた。客と俺は初対面だったが自己紹介もそこそこに、さっそく作業に取り掛かった。

 俺はコンピューターの修理屋ではなく、もちろんエンジニアでもないただの営業マンだが、自社の製品に関しての知識・特性はすべて頭に入っている。

 客は消されたデータをどうしてくれると怒り心頭だった。だが俺は、水谷の話からデータは消されてしまったのではなく、どこかに移動させられたのだということに確信を持っていたから、それを引き出すように操作した。

 作業を覗き込む客の後ろで水谷が暗い顔をしてすまなそうに立っていた。

「こちらのデータでしょうか」

 探すのに結構時間がかかったが、何とか見つけてスクリーンに戻すことができた。失くされたと思っていたものが出てきたことで、火山が噴火したかのようだった客の怒りも静まった。

 落ち着いたところで今回の件についての原因をきちんと説明した。ここに到着した当初はものすごい怒りの形相で迎えられたが、何とかその説明に納得してもらえた。

 プログラムの内容についても、もう一度話をさせてもらい、操作の確認を客と一緒にやった。最後にはプログラム自体は気に入っている、と言ってもらえて再度頭を下げて訪問宅を後にした。

「どこかで何か食おうか、水谷。昼メシ抜きでこっちに来たからな。腹減っただろう」
「課長代理、すごいっす。俺、もう客の前で土下座するしかない、って思ってましたから」

 ―――ははは。そのセリフ、俺が何年か前に課長に言ったのと全く同じ。

 俺も水谷の前であの時の課長の様にできたのかな。課長は手取り足取り教えてくれるタイプではなく、自分がやって見せてくれるタイプだからそれを真似しただけなんだけどな。

 俺にも『秘密の花園』の息がかかったのかと思うと少し気分が良かった。

 遅い昼食を取った後、会社に戻った。明日俺は自分の営業で外回りに行く予定があったから、それの準備をしながら相変わらずの雑事に追われた。

「そうだ、課長の見舞いに行かなくっちゃ」

 ふっと思いつき、久しぶりに定時に退社して課長の入院する病院に向かった。



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   クレーム処理も何とかクリアして、久々に課長とご対面です。

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 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - rurubu1001  

Title - こちらから失礼します

あ、下にきちんとコメント欄が別にあったんですね!
そっか、拍手コメントとコメントはまた違うのか。なるほど!
(気づくのが遅れ、すみません><)

次、課長だ。嬉しい~。

私、実は会社を舞台にしたもの(企業小説というのでしょうか?)とかあまり読んだことがなかったんです。(苦手意識があったのか)

でも、けいさんのは読みやすくていい!
これが初めて書いた小説とはすごいですよ!!

これからもお邪魔します&応援しています^^
2013.07.28 Sun 10:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こちらから失礼します

rurubu1001さん、コメントありがとうございます。

はい。こちらに^^
私もブログを始めた頃はわからないことだらけで、色々手探りで、ありゃりゃなこともたくさんありました(><)
いまだにわからないことたくさんありますねぇ(^^;)

> 次、課長だ。嬉しい~。

こーじくんの背後で、徹さんが何気に存在主張しているんですよ(^^;)
でも、こーじくんにとって徹さんは結構良い上司ではないかと。
クマ部長も、頼れる上司で、こーじくんは恵まれていますね。

へえ、企業小説、というジャンル(?)があるのですか。
私もあまり読んだことがないです(><)

そうなんです。これが初めて書いたお話なんです。勢いで。書いた時期もこの時期です。
初めてなりに拙く、あちゃーなまま修正もせずに放置されていますが(汗)
初めてなりに、思い出深いお話でもあります。

これからもこーじくん(と作者)をどうぞよろしくお願いします^^
2013.07.28 Sun 14:02
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

おお==営業らしい、対応だ。
クレーム対応はこちらの職場でもありますからね。
人がかかわることですからね。
基本的に謝り、修正するのはどの職場でも同じか。。。
2015.08.01 Sat 19:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

らしいですか。良かった(^^;)
クレーム対応はどこでも大変ですよね。
うちもボスに必ず報告です。
ボスの対応の仕方がかなり好きです。
2015.08.01 Sat 21:54
Edit | Reply |  

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