オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 42 第二章・良い出逢い(2) 

「田島君も良い出会いをしてるよ。別れの経験もあるしね」

 それは、田島と長谷川のことを意味していた。田島はふとマスターから視線をはずし、うつむいた。長谷川の事に応えるとき、田島はいつも間を置くのだ。

「そうですね。そっちはまだ整理がつかないんですけど、卒業までには整理つけますよ」

 うつむいたままの田島から戻ってきた返事に、マスターは「やはり未だにそうなのか」と思う。けれども、口にはしない。

「それで。旅に出てどうするわけ?」
「え?」

 田島の視線がマスターに戻る。けれども、不意に出されたその質問に答えるために、田島は少し時間を必要とした。

「それ大事なところだからね。今日はそれを僕に話していかないと」
「はぁ・・・」
「花園君からも、ちゃんと聞き出すように言われてるから」
「やっぱり。ここ、きっちり繋がっているわけなんですね」
「田島君の前では、僕たち義兄弟だから」

 マスターと花園は、本当に良く似ている。今更ながら田島は思った。きっちり突っ込んでくるところや、まっすぐでぶれないところが特に。

 まるでどちらかと会っていなくても、どちらかと会っているようだ。きっとどこかの世代とかでは、本当の兄弟だったに違いない。羊っぽく、やわらかくてソフトな感じもそっくりだ。いや、外見のことではない。

 そんなことを思いながら、田島は曖昧に微笑んで「ったく」ともらすと、マスターの目をまっすぐに見つめた。

「俺、やりたい事があるんです」
「だよね。何を?」

 マスターには、何もかも見透かされているのだ。だから、自分をきちんと見せて、ただ身を委ねれば良い。田島はそんな安心感に満たされた。

「曲を作りたいんです」

 やっとそう来たか、とマスターは「うん」とだけ相槌を打つ。

「俺も花園みたいにしっかりと自立して、一人でやらなくちゃいけないんですよ」
「そう? 田島もしっかりしてそうに見えるけど?」

 田島は、視線を落として首を横に振る。

「俺、体がでかくて結構目立つから、しっかりしてる系に見えるかもしれないんですけど、実は気がちっちゃくてナイーブで、心臓は触れると割れるシャボン玉のように繊細で、心は取り扱い注意の壊れやすいガラス細工のようにデリケートで・・・」

 聞きながらマスターは、肩を揺らして笑いを堪えながら田島の言うことを遮った。

「そんなこと言われなくても、田島君がただの、泣き虫子ウサギ、だってことは知ってたよ。見た目とは全くのミスマッチだよね」

 マスターは、何とかそれだけを言うと、あとは堪えきれずに声を上げて笑った。

「俺ほら、高校の時に一回挫折してるから、やり直すのに度胸がないって言うか、自信がないって言うか・・・」
「一回挫折? 何言ってんの、田島君。僕が何回挫折したって話したっけ?」

 そうか、それでマスターはあの失恋話をしてくれたのか、と田島は今更ながらに気が付く。

 挫折してもあきらめずに思いを遂げたマスターの話。そこに田島が感じたことはたくさんあった。だからマスターには、正直に弱いところを見せられる。

「俺はマスターみたいに、真っ直ぐには行けそうにないです」
「そう? 行けそうだけど?」
「俺、止まってた時間が長かったから、そこから動くのはまた最初からやるみたいなものなんですよ」
「別に最初からやり直す必要はないんじゃない? カフェのライブはかなり良い感じだと思うけど?」
「いや、スキルの問題じゃなくて、気持ちの問題で・・・」

 田島が言葉を濁し、眉尻を下げる。

「ったく、ウサギの目を持つ男の面倒を見るのは大変だ。花園君の苦労も分かるよね。まあ、寄り道しても、本流に戻ってくれば良いだけのことでしょ」

 核心を突かれて、田島は「はぁ」と気のない返事をすると、ビールを口にする。

「ま、田島君のデビューはまだ少し先ってことなのかな」
「その夢は挫折しました」

 そこはきっぱりと言った。それは田島の想いが違う方向に向いていることへの断言のようだった。

「今は新しい夢を見ています。今度はあきらめません。瞬の夢でもあるし。少し時間がかかるかもしれないけれど、絶対に叶えるんです」

 田島の新しい夢が何か、なんて聞くのは野暮なこと。マスターは田島に向かってにっこりといつもの笑顔を見せた。

「何か、良いね。あぁ、僕も夢を持っていた頃に戻りたい」
「マスターの夢は叶ったじゃないですか」
「そうだね。贅沢言っちゃいけないよね。それじゃあ、田島君を応援しながら、僕の第二の夢を模索しよう。うん、それが良い」

 マスターは、ふと店のフロアーのほうを見渡した。

「この店には足りないのが一つだけあるんだよね。暖炉。ここじゃ無理なのかな」
「マスター、お勧めの国のイベントとか、もっと教えてくださいよ」
「そうだね・・・あっ、それまた今度、田島君、時間見て」

 マスターに言われて、田島はカウンター越しの壁にあるスイス製の壁掛け時計を見て驚いた。マスターはあわてて帰り支度を始め、田島も最後のビールを飲み干してジャケットを羽織る。

 外に出てマスターがカフェのドアを閉めたときには、家で待つ葵さんが心配してしまうのではないかと思うくらいの遅い時間になっていた。



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 さあ、このカフェ訪問中、田島は何杯タダビールをもらっちゃったでしょうか。
 いえ、私にもわからないんで・・・(^^;)(←これ覚えた・遅いっちゅう)


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - fate  

Title - それじゃあ、田島君を応援しながら、僕の第二の夢を模索しよう。うん、それが良い

↑良いなぁ、そういうの…
マスターは生涯少年っぽい。

っていか、「やったぜ、久々に一番乗りを奪~取っ!!!」
とかって騒ごうと思ったのに、西幻さんが執筆モードに入って、引きこもっちゃったので、fateは寂しい…

いやいやいや。
しかし、ようやく二人とも帰りましたね!
ああああ、夜が弱いfateはちょっと心配でした(^^;

田島くんが、お友達と一緒に新たな‘夢’の模索を始めたんだ、ということがすごくよく伝わって来て、ああ、良かったなぁ、と。
そして、こんな風に語りあえる空間がそこにある、という安心感を、彼と一緒に抱きました。

‘場’って大事だよな、と思います。
お年寄りがお茶のみ出来る場も、若者が夢を語り合ったり、挫折に涙を流せる場など。
そういう場所が、今、日本には少ないよね。
マスターみたいな人がもっといれば良いのにな。
よし、fateが喫茶店を…
いや、コーヒーしか淹れられないから無理だ。
あ! ではけいさんが鶏唐揚げを!
で、西幻さんと秋沙さんとlimeさんetcが裏方で料理をして~
ヒロハルさんが常連さんで~

ああ、妄想が服着て歩いているfateくんの妄想は留まるところを知らず(--;

まぁ、良い。
次なる機会に、田島くんにはもっと語っていただこう。
2012.01.19 Thu 10:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: それじゃあ、田島君を応援しながら、僕の第二の夢を模索しよう。うん、それが良い

fateさん、コメントありがとうございます。

> マスターは生涯少年っぽい。

そうかも。。。

いやいやいや。やっと話が終わりました。長い長い。徹夜にならなくて良かった(笑)
fateさん、夜弱いんだ。(メモメモ・・・)

田島はマスターにも徹さんにも話ができてラッキーです。
聞いてもらえるだけで安心できます。

> ‘場’って大事だよな、と思います。
> お年寄りがお茶のみ出来る場も、若者が夢を語り合ったり、挫折に涙を流せる場など。
> そういう場所が、今、日本には少ないよね。

そうですね。本当あるのかもしれないけれど、見つけられないというのも。

> マスターみたいな人がもっといれば良いのにな。
> よし、fateが喫茶店を…

お、やる気になりましたか。是非!
から揚げでも何でもお手伝いしましょう。(にくまだあるよぉ)

田島は次はちょい行動を起こします。
あ、次の次くらいです^^
2012.01.19 Thu 12:28
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

マスター、そのために恋バナをしたんですね。
田島の気持ち、もうお見通しでしたね。

歳を取るごとにいろいろとあって、自由に動けなくなるんですけど、
やっぱり夢はいつまでも持っていたい。

「心は取り扱い注意の壊れやすいガラス細工」という言い回し。
キザだけど、クール。
どこかで使いたい。小説じゃなく、リアルで。笑。
2012.01.19 Thu 12:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

> マスター、そのために恋バナをしたんですね。
> 田島の気持ち、もうお見通しでしたね。

そうなんですよ。分かっていただけますぅ~
マスターは大人です。

> 歳を取るごとにいろいろとあって、自由に動けなくなるんですけど、
> やっぱり夢はいつまでも持っていたい。

そうですね。ヒロハルさんの夢が叶うよう、応援していますね^^

> どこかで使いたい。小説じゃなく、リアルで。笑。

いやぁ、こんなセリフ、リアルで言ったら、蹴っ飛ばされますよ、きっと。
マスターだったから笑いでおさまったわけで・・・
ご使用の際はお取り扱いにお気をつけて~~

ガラス細工の田島を、これからも宜しくお願いしますね^^
2012.01.19 Thu 14:50
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

そうか~、ひと夜の語らいだったんでしたよね。
マスターの人生と、田島君のひたむきな夢と、年は違うけど二人の熱き友情を、長い時間堪能した気分です!
夜が明ける前に解散できて良かったけど、もっとず~っと語って欲しかったですね。

やっぱり、このマスターはタダものじゃない。
柔らかそうで、実は狙った獲物は逃がさないタイプ。
いや、葵さんじゃなくて、今夜は田島君の夢話。

吐露しちゃいますよね^^ 
さすがの田島君も。
うかうかしてたら、またマスター、でっかい夢を追って、遥か先を行っちゃいそうです。

なんか、やっぱり、けいさんとマスターがダブるなぁ~~。

もうしや・・・本当にマスターは、けいさん??・・・ほんとうはけいさんは、女の子じゃなくて、おやじさんだったとか!
(イメージ調査、これで行こうかしら)
2012.01.20 Fri 01:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

はい。いやぁ、長ーい夜(松山千春)でした。
limeさん、中ハイ、飲みすぎていないですか。
堪能していただけて良かったです。

マスターはね、出来てます。着実と言うか。
そう、狙った獲物は逃がさないタイプ、かもしれないですね。
マスターの前ではみんな、素、になってしまうのです。

マスターと徹さんはどんどん決断して先に進むタイプで、
田島は優柔不断でもたもたするタイプ、ですかね。

> なんか、やっぱり、けいさんとマスターがダブるなぁ~~。
> もうしや・・・本当にマスターは、けいさん??・・・ほんとうはけいさんは、女の子じゃなくて、おやじさんだったとか!
> (イメージ調査、これで行こうかしら)

ははは。これうける~。報告書に載せましょう^^
2012.01.20 Fri 06:59
Edit | Reply |  

Name - 奏響  

Title - No title

けいさんこんばんは♪

田島君が新しい夢に向かって歩き出しちゃうんですね。
マスターはみんなのいいアニキ的存在で
心の大きな人ですね。(みんなに愛されている)
ゆっくり長い時間を掛けて待っていられる人で
慕われまた、ここに帰って来たくなる場所にいる。

そんなcafeいいですね♪
私も夢の候補としてちょっと考えてみたいです。



2012.01.20 Fri 19:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます♪

田島の歩みはのろいのですが、少しづつ進みます。
マスターはホント良い人です。田島の面倒も見てくれます。
マスターに話をすると、大変なことも大変でないように思われてしまいます。

> 慕われまた、ここに帰って来たくなる場所にいる。
> そんなcafeいいですね♪

良いですね。マスターにはいつまでもここにいて欲しいです。

> 私も夢の候補としてちょっと考えてみたいです。

おお、奏響さんの夢を応援しますよ^^
2012.01.20 Fri 21:13
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - こんばんは~

ビールは何杯・・んー
マスターにも判らないのでは。
お勘定の時、どーするんだろ!?

ボクも(^^)←これなら覚えましたよ
「変換なし」で簡単に作れるので
2012.01.20 Fri 21:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは~

おなかぴーたろーさん、コメントありがとうございます。

ビールは何杯でしょうね??
タダビーなので、マスターは気にしていません。
太っ腹でしょ。けど彼の腹は出ていませんが(笑)

絵文字は・・・ちょい汗 (^^;)
2012.01.20 Fri 22:00
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

なかなか人生まっすぐいけないもんですよね~~。
私も最近になって、道筋が決まってきた感じですし。
30歳までに決まってなんとか・・・って感じですね。
まっすぐ一直線に進んでいる人は凄いなあ・・と思います。
2012.04.23 Mon 20:24
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

> なかなか人生まっすぐいけないもんですよね~~。

真っ直ぐ行きたい・・・けど行けないのが現実で・・・
ま、それが人生というもの? むむ(^^;)

> 私も最近になって、道筋が決まってきた感じですし。
> 30歳までに決まってなんとか・・・って感じですね。

おお、良いですね。
私も決まるまで時間がかかりましたよ。ったくぅ~~
(ここでは語りきれない --;)

> まっすぐ一直線に進んでいる人は凄いなあ・・と思います。

そうですね。みんな何かを抱えつつ奮闘していますからね。
直線でも、くねくね道でも、前に進んでいければと・・・^^
2012.04.23 Mon 21:45
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - ひとつ夢がこわれても

また新しい夢を見る。
そんな歌詞がありましたね。
いいですね。

でも、田島くんには複数の夢を追うっていう手段もありますよね。
歌手としてデビュー、いや、プロにはならなくても彼にはいつまでも歌っていてほしいです。

ところで、先日はマスターをコケにしてすみません。にゃはっ(^^
私はまだ半分しか読ませていただいていませんが、100までupなさったようで、おめでとうございます。
まだまだまーだ続くみたいですので、楽しみにしていまーす。
2013.02.05 Tue 23:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ひとつ夢がこわれても

あかねさん、コメントありがとうございます。

> また新しい夢を見る。
> そんな歌詞がありましたね。

おお。知らないのですが、良いですね。

> でも、田島くんには複数の夢を追うっていう手段もありますよね。
> 歌手としてデビュー、いや、プロにはならなくても彼にはいつまでも歌っていてほしいです。

田島は勝手にどこででも歌っていると思います^^

> ところで、先日はマスターをコケにしてすみません。にゃはっ(^^

ふふふ。マスターは愛されキャラの模様。

> 私はまだ半分しか読ませていただいていませんが、100までupなさったようで、おめでとうございます。

ありがとうございます^^
あかねさんはすでに何百話もアップされていて、すごいなあと思います。
あかねさんと比べると、まだまだ足元にも及びませんが、続けていければと思います^^

> まだまだまーだ続くみたいですので、楽しみにしていまーす。

嬉しいです♪
亀更新なのですが、宜しくお願いしますね^^
2013.02.06 Wed 21:05
Edit | Reply |  

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