オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

怒涛の一週間 11 水曜日(2) 

「失礼します」

 ドアにかかるカーテンをよけて病室に入った。二人部屋だが、もう一つのベッドは空きだった。

「おお、課長代理ぃ~」

 笑顔で迎えてくれた花園課長は、会社でのスーツ姿とは違う、水色のパジャマ姿で意外と元気そうに見える。

 だが、骨折した右腕がギプスと共に包帯でぐるぐる巻きにされ、固定されているのにはやはり視線が向く。

「それ、慣れないっす。あ、どうもお久しぶりです」

 課長の奥さんだ。以前会社のパーティなどで何度か会ったことがある。細身の課長にお似合いの細身ですごい美人の奥さんだ。学生のときは何とかミスにも選ばれたことがあるらしい。

 失礼ながら、体が華奢で見た目どちらかといえば草食系羊男の課長に、どうしてこんなに素敵な奥さんがいるのか不思議だ。

 いや、課長の名誉のために、課長はちょいイケメン・・・か? ま、そうだと言っておこう。

「課長、体どうですか?」
「おまえー、俺の仕事横取りしやがってー」
「え? そんなことしてないっすよ」

 俺が聞いたことには答えず、課長はとても嬉しそうに自由の利く左手で俺のことを小突いてきた。

「いやー、課長すごいですね。あんな取引を抱えていたなんて」
「お前の方がすごいぞ。取ってきたんだからな」
「あれは本当は課長が・・・」
「やったなぁ。部長も喜んでいたぞ。専務からも連絡が来て、お前がどんな秘密を使ったのか吐け、なんて言ってきたぞ。ったく、お前、あのメーカーの仏頂面した役員たちにどうやって仕掛けたんだ?」
「はあ・・・俺はただ『秘密の花園』の敷いたレールに乗っかってやっただけで・・・」
「何だと、それ、やめてくれ。秘密なんか何もないのに失礼なんだよ。お前、今度それ言ったら絞めるぞ」

 機嫌の良かった課長が少し拗ねてしまった。こう呼ばれることが相当嫌いらしい。

「佐藤さん、お忙しいのにわざわざ寄ってくださってありがとうございます」

 課長の奥さんがお茶を出してくれた。

 課長の奥さんは優しそうで一つ一つの仕草がとても上品だ。課長のファッションのセンスの良さはきっとこの奥さんのものなのだろう。二人にはまだお子さんがなく、とても仲が良さそうだ。

「徹さん、今回は佐藤さんにお世話になりっぱなしね」
「そうだな。これで俺も安心して1ヶ月でも2ヶ月でも入院できる」
「え? そんなに酷いんですか?」
「たったの3週間だ」
「課長~」
「ははは、イテテ」
「徹さん?」

 奥さんがすぐに手を添える。入院は3週間でも、会社復帰には時間がかかりそうだ。

 俺は昨日のプレゼンのこと、飲み会に専務が来たこと、今日のクレーム処理のことなどを簡単に話した。

「こーじ、仕事してるって感じだなぁ」

 ―――そうだ・・・。

 話しながら気がついた。月曜日の出張は、本当は課長が行くものだったんだ。
 
 火曜日のプレゼンだって、そんな大事なものだなんて一言も言わずに、ただ行く前に準備しとくと良いぐらいのことしか言わなかった。俺が変に緊張しないように気遣ってくれたのだということが、今ならわかる。

 そうやって課長は俺が入社したときから、いつも俺のことを気にかけてくれていた。

「俺、今更ですけど、課長の仕事を引き継いで、ホント課長ってすごい人だなーってことがよく分かりました。尊敬します」
「何だ? 急に。重病人にはよくわからないぞ。俺、頭も打ってるらしいからな。脳波の検査は結果待ちだ。あ、俺のポジションだけは取るなよ」
「何言ってるんですか。俺はだだの代理ですから」
「おー、自覚できてるな。もの分かりの良い部下を持って俺はラッキーだ。ははは、イテテ」
「あ、課長!」

 課長には早く戻ってもらってまた一緒に仕事がしたい。心からそう思った。

「こーじ、骨折が利き腕だから、退院しても会社には出社できないぞ。部長にも仕事の出来ない奴は来るなって言われてるし」
「そんなこと・・・」
「部長はこーじのことずいぶん買ってたぞ。部長にお前を推薦した甲斐があった。気に入られとけ」

 ―――そうだ、その『推薦』って・・・。

「とにかく、俺のいない間、営業部を頼むぞ。あの酒飲みクマおやじだけじゃ頼りにならないからな」
「酒飲みクマおやじ・・・ですか」

 確かに。いや、笑ってはいけないと思いつつも、またクマの着ぐるみを着た部長の姿を想像してしまい、思わずクスクスと肩を揺らしてしまった。

 あの部長のことをクマ呼ばわりしてしまうなんて、課長も細い体で骨折ったりするくせに、意外と部長と肩を並べることができるほどの何かを持っているのかもしれない。課長はやはり『秘密の花園』だ。

「おまえ・・・俺の傷を深める前に、帰れ・・・クッ・・・」

 課長も笑い出した。もしかして課長も実は酒豪なのか? 部長とはザル友か? クマと羊の宴会に混ざる俺は何だ? などと想像していたら余計に可笑しくなってしまった。

 笑いが止まらずに胸を押さえて痛がっている課長を、奥さんが困った顔をして介抱している。

「じゃあ俺、課長の肋骨のひびを広げてはいけないですから、そろそろ帰ります」

 思ったより元気そうな課長に安心して、俺は病室を後にした。あの美人の奥さんとラブラブな入院生活を過ごしていれば、きっと治りも早いだろう。

 部長からも課長からも言われた『推薦』については何も聞けなかったが、そんなことはもうどうでも良かった。



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   課長の怪我、笑うと痛そう(?)なんですかね。

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 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - rurubu1001  

Title - No title

やっぱり課長素敵ですね!
こういう上司がいてくれたら~って思います。こーじ君もカッコいいです^^

>もしかして課長も実は酒豪なのか? 部長とはザル友か? クマと羊の宴会に混ざる俺は何だ? などと想像していたら余計に可笑しくなってしまった。

とか。所々、私もクスクスと笑ってしまいました。
2013.07.29 Mon 01:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

徹さんは、理想の上司ランキングにでもエントリーできますね。
いや、こーじ君もできる系です。
おっと、クマ部長も忘れてはいけません(^^;)

ほら、よく、上司とか同僚とかを動物にしません?
私はしませんけど(←振っといてなに ^^;)
クマと羊の宴会に混ざるこーじ君は、rurubuさん的には何でしょうかね。
2013.07.29 Mon 08:30
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

動物に例えるとなんでしょう。難しいですねえ。

わかります!会社とかみんな何かしらにたとえられますよね。

こーじ君は、これから成長しそうな気がするから、黒ひょうとか?
(動物占いっぽくしてみました^^)
2013.07.29 Mon 21:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

お返事ありがとうございます^^

おおお。黒ひょう。カッコ良い!
怒涛の日々をしなやかに鋭くこなしていけるのか。

動物占いによると、今週の黒ひょうはどうなんですかね(^^;)
2013.07.29 Mon 23:16
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

上司の形と言うのもありますよね。
私は肉食より草食の上司の方が好きですね。
穏やかな上司の方が好きです。
気が合いそうです。
(*^-^*)
2015.08.08 Sat 21:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

私も普段は草食で、ここぞというときには肉食になるような上司が好きかも(?)
課長さんとLandMさんの気が合いそうなのが嬉しいです(*^-^*)
2015.08.08 Sat 21:55
Edit | Reply |  

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