オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 46 第二章・さやか(1) 

 ふとマスターは、田島の演奏するコーナーから一番離れた、隅の席に座っている女性に目が向いた。周りの客は、みんな歓声を上げて最後の盛り上がりを見せているというのに、その女性だけは、はらはらと涙を流していからだ。

 しかも、そんな風にしたら、千切れてしまうのではないかというぐらいにハンカチをぎゅっと握り、その手を震わせている。

 大抵の若い女性客は、友人と一緒の二人連れかグループで来るのが普通なのだけれども、この女性は一人で来ている。

 仕事帰りなのか、淡いピンクのブラウスに、ブランドデザインのスーツを品よく着こなしている。田島か花園の知り合いの学生、という感じではない。

 その若い女性は、小奇麗に後ろにまとめた髪を気にすることもなく、田島から目を離さずに、零れる涙を何度も何度も拭いていた。



 たくさんのお別れの言葉と感謝を残して、田島はラストライブを終了した。

「田島君、お疲れ」

 マスターはいつもと全く変わらない。花園は、カウンター裏に引き上げてきた田島と言葉を交わすことなく、ただお互いの腕を組んで笑った。

 ライブが終わると客が一斉に帰る。今日の会計は前金ですでに済んでいるので、マスターは客に頭を下げるだけだ。花園もいつも通り、フロアの片付けに入る。

 田島はカウンター裏にギターを立てかけたあと、表に出てきて客を見送った。客のほとんどが、最後の別れを惜しんで田島に握手を求め、言葉をかける。

「祥吾さん。最後、めちゃくちゃカッコ良かったです」
「えっと・・・」
「ケンドリです」
「うん、鍵鳥策。来てくれたんだ。ありがとう」

 以前、一度だけ大学で声をかけられたことがあった。大きなクリクリの目を向けて「一緒にバンドを組んで欲しい」と言っていたこの青年を、田島は覚えていた。

「友達の阿部君です」
「ああ、学園祭実行委員長の・・・」
「祥吾さん、ラストライブ、すごく良かったです。卒業後の音楽活動、頑張ってください」

 これからそうする、とは一言も言っていないのだが、田島は苦笑と共に礼を言った。

 次々に店を後にする客に頭を下げながらも、マスターは先ほどの田島を見詰めて涙を流していた女性から目が離せなかった。

 その女性はライブが終わり、他の客が帰り始めてからも、座席から立ち上がる気配はなく、しばらくハンカチで目頭を押さえていた。

 けれども、やっと自分が最後の一人となったときに、他の客と同じようにゆっくりと遠慮がちに田島の方へ歩み寄って来た。

 座席に座っているときは分からなかったが、立ち上がると彼女は女性にしては背が高く、スレンダーでファッションモデルのようなスタイルをしている。

「・・・さやか!?」

 女性に気が付いた田島がそう呼ぶと、彼女は「祥吾」とだけ言って歩みを止め、ポロリと大粒の涙をこぼした。

 田島が素早く彼女に近づくと、女性は今までずっと我慢してきたかのように激しく泣き出した。田島が、そんな彼女の肩を優しく抱き寄せる。

 まるで恋人のように振舞う二人を前に、マスターも花園も唖然とし、言葉を失ってしまった。

 そのうち、「さやか」と呼ばれたその女性は、泣くのを押さえようと必死にしゃくりあげた。

「ごめん。祥吾」
「大丈夫か、さやか。元気にしていたか。今、何してるんだ?」

 花園が気を利かせて、さやかと田島に椅子を持ってきて勧めると、二人はカフェのフロアの中央で向かい合って腰掛けた。

「さやか、手を見せて」

 彼女が差し出したその細い手を、田島は包み込むように優しく握り、丁寧に見回した。

 さやかの両手には、手の甲にも手のひらにも所々肌の色の違う部分があり、薄くだが引きつったようなケロイドの痕もある。それを見て田島は辛そうに眉間を寄せた。

「大丈夫。何の問題もないから」

 さやかは、長くしなやかな指を順番に折ったり開いたりして田島に見せた。

「これでも今、描く仕事をしてるのよ」
「そうなんだ。良かった。けど、どうやってここに?」
「高校時代の友だちがカフェのホームページを教えてくれたの。祥吾じゃないかって。それ見てびっくりした。来ようかどうしようかずっと迷っていたんだけど、今日は最後だからと思って」
「そうか。来てくれてありがとう」
「でも、あの曲をやるなんて・・・」

 大体の片づけが終わって店を閉めたマスターが、椅子に座っている二人に近づき、声をかけた。

「あ、居残ってしまったみたいで、すみません。中川さやかと申します」

 さやかは立ち上がって、マスターに頭を下げた。

「いや、良いんだよ。座って座って」

 ちょうどフロアの掃除が終わった花園が、マスターと自分の椅子を運んできて、四人は小さなサークルを作るように座った。

「さやかさんは、田島君の・・・?」
「瞬の彼女です」
「違います」

 さやかはきっぱりと否定して続けた。

「瞬とはただのいとこです。祥吾が彼女だって言いふらすから、あたし、高校の時、彼氏が一人もできなかったんだからね」
「良いじゃないか、瞬がいたんだから」
「瞬には祥吾がいつもくっついていたでしょう」
「さやかの方が、瞬といつもラブラブだっただろう」

 先ほどからの二人のやり取りには、マスターも花園も困惑するばかりだ。お互いに顔を見合わせ、首をかしげる。

「ま、とにかく、田島君の高校時代の知り合いなんだね」



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 さすがマスター。うまくまとめた(?)


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - 奏響  

Title - No title

けいさんおはようございます♪

田島君お疲れさま!
さやかさんは瞬君のいとこだったのですか…

ラストライブに駆けつけてくれ、きっぱり否定する女心とは
田島君を懐かしんで駆けつけたのか
田島君の新たなドラマの幕開けなのか
また楽しみが増えて来ました~♪(*゚ー゚)ワクワク
2012.02.04 Sat 09:18
Edit | Reply |  

Name - ソライエ  

Title - 恋ばなの予感

恋の話の予感。。。
背中がムズムズするような、
キュンとするような話
最近、餓えていますので、ぜひにぃ~
2012.02.04 Sat 10:28
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - ま、とにかく、田島君の高校時代の知り合いなんだね

↑ここに、おお…! と思っていたら、けいさんが「さすがマスター。うまくまとめた(?)」とのお言葉。やはりっ!!!

いや、だから何? っていう突っ込みはなしにしませう。

ふふふふ。
しかし、はやりそうであったか~!!!

なんだか、懐かしくも切ない再会です。
田島くん、どうするっ
(どうもしねぇよ(--;)

マスターの前で再会出来たこと、なんだか、良かったと思えました。
マスターがいたら、何でも丸く収まりそう(^^;
2012.02.04 Sat 10:54
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

な、なんだか、突然のジェラシーが・・。

田島君の、優しげで紳士的な言葉と仕草にキュン。
こういうのに弱い^^

瞬くんの彼女・・いや、いとこですか。
でもなんだか、気になる存在です。
手の傷も、気になる・・・・。
でも、田島君の優しさが、一番きになります><(しつこい)
2012.02.04 Sat 13:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます♪

瞬君のいとこ登場です。
懐かしんで駆けつけてくれたのだと思います。

前回の奏響さんの予想は結構当たりでしたね。
ちょいわけありです(^^;)
次回に・・・
2012.02.04 Sat 18:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 恋ばなの予感

ソライエさん、コメントありがとうございます。

> 恋の話の予感。。。

恋バナはマスターのところで散々やったので、連続はちょっと・・・(^^;)

> 背中がムズムズするような、
> キュンとするような話
> 最近、餓えていますので、ぜひにぃ~

次回は、キュンよりムズムズの方で行くかも。
ソライエさんの飢えが満たされますように^^
2012.02.04 Sat 18:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: ま、とにかく、田島君の高校時代の知り合いなんだね

fateさん、コメントありがとうございます。

ややこしい話をまとめられるのは、マスターしかいませんから。

彼女が亡くなった親友の家族? 恋人? という、前回のfateさんの予想はかなり近くてドキドキでした(笑)

田島はどうもしませんが、さやかとはわけありです。

マスターは田島のサポーターですから、何でも丸く収めてくれるでしょう^^
2012.02.04 Sat 18:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

え、ジェラシーメラメラですか(^^;)

> 田島君の、優しげで紳士的な言葉と仕草にキュン。
> こういうのに弱い^^

おお。limeさんの弱点発見。メモメモ^^

> でも、田島君の優しさが、一番きになります><(しつこい)

田島はさやかにすっごく優しいんです。
わけあり、です^^
2012.02.04 Sat 18:51
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - こんばんは~

あら~。気になる女性は「いとこ」
彼女だとてっきり思い込んでたのに
読み手をイイ意味で裏切りましたね~i-179
さやかちゃん苦労してたんでしょうね~
2012.02.04 Sat 21:14
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

くそっ、おかんじゃなかったか。

手と絵が何か絡んでいそうですね。
2012.02.04 Sat 23:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは~

おなかぴーたろーさん、コメントありがとうございます。

田島の彼女ではなかったんですねぇ。
考えたら、高校生バンドでボーカルだったら、いそうかな(?)

ぴーたろーさんを裏切ってゴメンi-179

さやかもですが、田島も苦労しました(^^;)
2012.02.05 Sun 08:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

ぷぷぷ。おかんじゃなかったよ^^

> 手と絵が何か絡んでいそうですね。

絡んでます。どう絡んでいるかは次回に^^
2012.02.05 Sun 08:51
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Name - LandM  

Title - No title

なかなかこういう場面で一緒になるというのも面白いですよね。
偶然・・ではなく。
必然なんでしょうけど。
それにしても、こういう子どもの頃の知り合いはそのときの口調になって面白いですよね。
2012.05.15 Tue 08:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

さやかが来てくれたので必然なんですよ。
田島にしたら、良く来てくれたぁ、という感じです。

> それにしても、こういう子どもの頃の知り合いはそのときの口調になって面白いですよね。

そうですよね。一瞬にして時が戻りますね。
あだ名とか、方言とかね。
急にゆるくなったりする。(のは私かな? ^^;)
2012.05.15 Tue 17:51
Edit | Reply |  

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