オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 47 第二章・さやか(2) 

 高校時代のさやかは、長谷川といとこで仲が良いということを除いても、何かと理由をつけては、田島たちが毎日セッションをしていた軽音楽部の部室を訪ねていたのだという。

 美術が得意だったさやかは、田島たちのバンドが学校の文化祭でライブをするときなど、宣伝用のパンフレットや校内に展示するポスターなどを製作した。『バンド甲子園』の時は、三人のメンバーのヘアメイクをやっていた。

「成ちゃんのバスドラにデザインを入れたのが、一番うまく出来たと思う」
「あれはカッコ良かったな」
「成ちゃんは何をしているの? 連絡取ってる?」

 さやかがだずねると、田島はゆっくりと首を振った。

「あいつが京都に行ってからは、それっきり」
「じゃあ、祥吾がここでライブをしていたことは?」
「知らないだろうな」
「その京都の友達に連絡取ってみたら?」

 花園が横から口を挟むと、田島はまた以前のように黙ってしまった。

 田島が「そうだ」とも「そうでない」とも言わないときは、抱え込んでいる、ということなのだ。花園は「しまった」と思ったが、この話題はここで終わった。

「それにしても。ギターを燃やしちゃった祥吾が、またやるとは思わなかった」

 さやかは色々と事情を知っているようだ。ギターを燃やしたというその話は、花園も田島から少しだけ聞いている。

「それって、どんな話? 聞いても良い?」

 話を知らないマスターが、遠慮がちにさやかにたずねる。

「俺が話すよ、マスター」

 田島がさやかと目を合わせてから、大丈夫というようにうなずく。田島の記憶の中で、そのときの映像がまるで昨日の事のように蘇っていた。



 高校の焼却炉は、特別校舎北側の人影のないところに設置されていた。長谷川の遺影を抱いて証書を受け取った卒業式の次の日、田島はその焼却炉の前にたたずんでいた。

 田島が持っていギターは、今は四本とも全てが火の中。中から煽られる炎の熱風や火の粉を避けて田島は焼却炉から数歩下がり、煙突から昇る煙をただ呆然と見上げていた。

 もうこれで終わった、と思っていた矢先、突然、一人の女生徒が田島の脇をすりぬけ、焼却炉に向かって駆け込んできた。

 焼却炉の中に素手を突っ込むと、中で燃えていたギターの一つを掴み、まるで熱さなど感じないかのように取り出した。

 突然のことに田島はあっけに取られ、身動きが取れなかった。彼女は燃え盛る炎に包まれたそのギターを、後ろにいた田島に向かって思い切り投げつけた。

「何するんだよ!」

 田島は、投げられたギターを避けてとっさに後ろに倒れると、しりもちをついた。ギターを投げつけてきたのが、長谷川のいとこのさやかだというのはすぐに分かった。

「何でお前ここに!」

 さやかの次の動きは素早く、田島が地面に転がっている間、さやかはすでに二本目を引っ張り出していた。だが、彼女の掴んだ二本目のギターはすでにネックだけとなっていた。

 火の残るそれをさやかは無言で、けれども悲痛な表情で、足元のコンクリートに向かってたたきつけた。田島がさやかに近づくのを許さないように、火の粉が飛び散った。

「やめろ、さやか!」

 さらにさやかが、焼却炉に手を突っ込んで三本目を探っていたところで、田島は後ろから彼女の腹部に腕を回して体ごと引張り、焼却炉から離した。そのまま彼女を抱え上げ、水道のところに連れて行った。

 地面に転がっていたプラスチックのバケツを素早く拾い、蛇口をひねって水を貯め、さやかの手を浸した。彼女の両手は赤黒く焼けただれ、腫れてしまっていた。

「さやか・・・」
「祥吾! 何てことしたのよ!!」

 さやかは大声で田島に怒鳴った。悲鳴に近い泣き声だった。

「お前こそ、自分が何したか分かってんのか!」

 田島もさやかに怒鳴り返した。それから田島はくるりと後ろを向き、焼却炉の周りにばらけて落ちていたギターの残骸を拾うと、再び焼却炉に突っ込んでバンッと蓋を閉めた。

「祥吾! ぃたっ・・・」

 さやかは後ろを振り返り、田島に向かって叫んだ。けれども、今度は火傷の痛みで動けなかった。

「さやか、歩けるか」

 田島はすぐに戻ると、さやかの肩を抱いて歩くのを支え、その場を後にした。校外に出てタクシーを拾い、彼女を病院に連れて行った。

 田島に支えられ、さやかははらはらと涙を流し続けた。さやかにとっては、火傷よりも、ギターを燃やしてしまうという、田島のしていたことのほうが、ずっと痛く、悲しいことだった。

 さやかは、火傷の痛みはもうほとんど感じていなかった。けれどもそれは、神経にまでダメージを及ぼしているという証拠でもあった。

 田島はさやかのそばに寄り添い、手の動かせない彼女の涙を、無言でぬぐい続けた。



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 アツイタタ・・・(泣)


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 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - 奏響  

Title - No title

けいさんおはようございます♪

田島君大事なはずのギターを
すべて燃やしちゃったんですね…
田島君の気持ちも分からない訳ではない
だからさやかは何やってるの!って
歯がゆさもあって火の粉からギターを
引っ張り出して田島君に気づいてほしかった…
気持ちも含め捨てないで欲しかったのかもしれませんね><

ケロイドの跡が残る程のさやかさんのやけど
田島君負い目を感じますね…
2012.02.07 Tue 09:38
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Name - lime  

Title - No title

さやかの手のやけどは、そういうわけがあったんですね(;_;)

それであんなに田島くん、彼女の手を気遣ってたのかあ。
なんか、二人それぞれの想いが、じわじわと沁み入ってきます。

しかし、さやかちゃん。
そこまでして、田島のギターと思い出を守ろうとしたなんて、ただの友達にできることじゃないです!!
ぜったい、友達以上の感情があったはず!(と、お姉さんは推測する。誰がお姉さんじゃとか、いわない、いわない)

田島とさやかちゃん。このままでいいの??けいさん。
2012.02.07 Tue 09:54
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - けいさん…っ(ToT)

泣いちゃうじゃないっすか~~~
どこが琴線に?

イヤ実はよく分からんのだが、けっこうfateは涙もろくって、かな~り、昔に描いた自作を読んでも泣くことがあります(--;
ナルちゃんか?
いやいやいや、ほら、fateの世界ってfateが考えて作り出している物語じゃないからっ
(とかって、言い訳…)

さやかの心、分かります。
その、ほぼ無意識的な行動の意味も。
あああ、映像が目に浮かびます。
さやかがどんな顔をして焼却炉からギターを引っ張り出したのか、その怒りと悲しみと憤りと…もういろいろぐちゃぐちゃになって、咄嗟にそうしてしまった衝動が。

あ、衝動って良いコトバっすね。
(なんか、立ち直った(^^;)

情動とか衝動って好きかも知れない…
ふふふふ。

いや、何を言いたかったのか?

さやかって良い子だなぁ、ってこってす!
2012.02.07 Tue 09:57
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Name - ヒロハル  

Title - No title

田島の心情、さやかの心情について、
私なりに思うところもありますが、
そこはやはりけいさんに語っていただくため、敢えてここで書くのはやめておきます。

田島がギターを燃やした気持ち、少しわかります。
私もリセット願望が強いので、
すぐにヤケクソになり、何もかもゼロにしたくなるタイプです。
気の短い直情型なんです。笑。
後悔する羽目になるのにね。

もちろん、田島はそんなに浅はかではないと思いますが・・・・・・。
2012.02.07 Tue 13:13
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Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます♪

そうなんです。ここですべて燃やしちゃったんです。
さやかの思いとは裏腹に、ギターも気持ちも捨てようとしました。
そのあと引きずってしまったんですけどね。

> 田島君負い目を感じますね…

感じまくりです。さやかにはもう頭が上がりません。
でも、再会できて良かったです^^
2012.02.07 Tue 17:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そういうわけがあったんですよ(;_;)
その後は高校卒業となり、疎遠となってしまいました。

さやかがバンドの一番のファンだったかもしれません。

> ぜったい、友達以上の感情があったはず!

よっ、お姉さん^^ 合ってますよ。友達以上の「同士」って感じです。

え? それ以上ですか、お姉さんっ(汗かくよ)

田島とさやかは今のところ、これでいいんだけど・・・

お姉さん、どんな仲を推測していらっしゃるのぉ~~^^
2012.02.07 Tue 17:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - fateさん…っ(ToT)

泣いちゃった? んー、まだ号泣には至らないようですねぇ。ちっ
自作でですか。それだけキャラが生きてるって事ですよね。なーる・・・

このときはさやかも田島もあとさき考えずに行動してます。
衝動に流される高校生でしたし(^^;)
(fateさんが立ち直って良かった?)

さやかも良い子です^^
2012.02.07 Tue 18:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

えー、ダメダメ。
私が語れないところをヒロハル解説委員に語っていただかないとぉ~

> 私もリセット願望が強いので、

私もです。人生、何度でもやり直しができるのですよ。
ゼロからのスタート、何度でも。このもの書きも。
気は長いほうです^^

田島も案外、後先考えない浅はかなやつかもしれないですよ^^
2012.02.07 Tue 18:20
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Name - ざるそば  

Title - No title

深いなぁ、と思いつつ
引き込まれつつ

なるほどなるほど

リンクの申請がしたいです(懇願)
2012.02.08 Wed 01:14
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Name - けい  

Title - ざるそばさん

コメントありがとうございます。

深いですか。ふふふ(←イミフ)
ざるそばさんを引き込んでしまいましょうか(←さらにイミフ?)

リンクのほうはいつでも宜しくお願いします^^
2012.02.08 Wed 10:25
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

なるほど、手のヤケドはそーゆー事だったんですか。
さやかちゃん・・この時は無意識にギターを取り出したんでしょうね~
無意識に出る行動ってことは、一体・・
2012.02.08 Wed 22:45
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Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントありがとうございます。

はい。そーゆー事だったんです。

まさに、火事場の、、、でしたね。
ここで田島はさやかにこんなことをさせてしまった、という思いを背負ってしまいました。

火遊びは花火だけにしときなさいっ。。。

2012.02.09 Thu 08:18
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Name - LandM  

Title - No title

ギターを燃やすのも酔狂な話ですけどね。
わりかし音楽は高いんだよな~~。。
と思いながら、その辺は全く関係ないか。
感情とは難しい。それゆえに面白いのですが。
2012.09.07 Fri 06:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ホント酔狂(←これ良い)な話ですね。
ギターは高いんですよね。ったく。良いのかそれ。
ステージで叩き割る(折る?)人もいますが。良いのか。
(最近は見ないけど)

> 感情とは難しい。それゆえに面白いのですが。

そうですね。そこがうまく表現できないところに悶々としています(-_-)
まだまだです。。。

深いコメントありがとうございました^^
2012.09.07 Fri 20:32
Edit | Reply |  

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