オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 48 第二章・さやか(3) 

 田島とさやかが交互に語るその話を、マスターも花園も言葉なく黙って聞いていた。花園は、田島からギターを燃やした話を少しは聞いていたが、さやかのことは初耳だった。

「祥吾がギターを燃やしたあの時は、星が一つ消えた、って思った」

 田島にとっては、高校卒業で長谷川のことと思い出のすべてを捨て去るはずだった。

 けれども、田島の取ったその行為が、さやかにはありえないこととして、両手と心に大きな傷を残した。それはもちろん、田島の心にも傷を刻んだ。

「さやかさんは、どうして卒業後のその日、学校に来ていたの?」

 マスターがたずねた。

「先生に大学合格の報告をしに来ていたんです」

 さやかは第一志望の美術大学に合格し、世話になった高校の教師に挨拶するために学校に来ていた。その帰り、田島がギターを燃やしているところに遭遇した。

「さやか、大学はどうした?」
「始めの二ヶ月くらいは休学。その後もリハビリで実技はだめだった。でも、治ってからはきっちり挽回して、ちゃんと四年で卒業したよ」
「そうか。大変だったんだ。ごめん」

 さやかに対して田島は、大罪を謝罪する被告人のように、がっくりと肩を落としてうなだれた。

「祥吾が悪いことなんか何もないし、謝ることもないのよ」

 さやかは田島の肩に手をかけ、微笑んだ。

「今はリサーチ関係会社のアート部門でいろいろな仕事をやってるの。ちゃんと美術の道に進んでいるから安心して」
「良かった」
「田島は、さやかさんのその後を知らなかったのか?」
「私が説明します」

 さやかが緊急処置を受けている間に、田島がさやかの家に連絡を入れると、さやかの両親が、血相を変えて病院に駆けつけてきた。

 田島は、さやかの両親に状況を説明したのだけれども、さやかの父親はその話に納得せず、娘が傷つけられたと勘違いして激高した。父親は「もう、うちの娘と会うな!」と田島を罵倒し、病室から追い出してしまった。

 後ろから、さやかの母親が父親を制止する声と、泣きながらさやかが田島を呼び止める声が聞こえたが、背を向けた田島が二度と振り返ることはなかった。

「お父さんも、あの時は祥吾に悪いことをした、って後悔しているから」
「いいよ。分かってる」

 もちろん、田島が直接さやかを傷つけたわけではなかった。けれども、実際自分が傷つけたようなものだという意識が、田島の心に重い塊を落とした。さやかとはそれっきりとなった。

「でも、祥吾が瞬のギターを持っていたなんて、驚いた」
「あのあと、瞬のお母さんがうちに来て、持っていてくれって渡されたんだ」
「そう。叔母さんが。それは燃やされなくて良かった」

 さやかがホッと安心したように言うと、田島は苦笑した。

「でも、持ってるだけで、何年もずっとできなかった」
「そうなんだ、やっぱり」
「ここでライブをさせてもらえることになって、また弾けるようになった」

 田島は、ちらりとマスターと花園に目配せをする。

「祥吾がまたやれるようになったのは、マスターと花園さんのお陰なんですね」
「こいつはギターが弾けるとか、バンドやってたなんて事は、ずっと隠していたんですよ」
「隠してねえし」
「じゃあ、忘れた振りをしていた、って言い直すよ」
「わかります。何でも抱え込んで表に出さないっていう祥吾の性格は、高校の時から変わらないんですね」

 さやかの前では、田島は黙るしかない。

「祥吾、あの曲は?」
「やっと今日できた」
「今日、なんだ」
「カフェには前々からリクエストが来ていて、ずっと田島君に知らせていたんだ。けど、なかなかやってくれなかったんだよ」

 マスターが、さやかに告げ口をするように付け加える。

「そうでしたか。私は、あの曲はもう祥吾には歌えないと思っていたので、今日は本当にびっくりしました」
「もしかして、高校卒業以来?」

 花園が田島に目を向ける。

「瞬が亡くなって以来」
「瞬のときは祥吾大変で。声は出なくなっちゃうし、ギターも弾けなくなっちゃうし。成ちゃんがいなかったら後追い自殺してたよね」
「してねーよ」

 長谷川の事故の後、一番辛かった時期の田島をさやかも知っている。田島とさやかの繋がりは、やはり単に友だち止まりではないのだ。

「あれからもう5年だね、祥吾」

 さやかが言うのに、田島が「うん」と小さく頷く。

「田島君、声が出なくなった、って時のこと、聞いても良い?」

 マスターからの問いに、田島は戸惑いなく「はい」と返事をした。



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Comment

Name - 奏響  

Title - No title

けいさんおはようございます♪

さやかさんのご両親が怒るのも
仕方ありませんね…><
さやかさんが無事、4年間で卒業できたのが
幸いでした。(頑張り屋さんだ!)

田島君がまたギターを弾くきっかけになった
マスターと花園くんに感謝の気持ちでいっぱいの
さやかさん瞬くんのギターを持っていると知った時には
嬉しかったでしょうね*^^*

2012.02.18 Sat 09:38
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

田島君、瞬君のこと以外に、さやかちゃんのことも心にずっしりと抱えながら、生きて来たんですねぇ。
なんて辛い。
だめだよ~、心に溜めたままじゃあ。
花園君っていう、いい友人が居るんだから、吐き出して楽にならなきゃあ・・・。
(と、うちの春樹にも言いたい^^;)

さやかちゃんの登場が、このあと田島君を楽にしてくれるといいなあ。
友達以上になったって、いいのに~~。
2012.02.18 Sat 11:22
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

田島君・・・・・・若いのに、いろいろ背負いすぎですよね。本当に。

でもまた弾けるように、そして歌えるようになって良かった。
マスターと花園君との出会いに感謝ですね。

大台突破記念企画楽しみにしています!
(これで逃げられませんよ。笑)
2012.02.18 Sat 13:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます♪

さやかの父親が怒ったのはたぶん勘違いだったのですが、
あの状況では仕方ありません…><

さやかは進学した美大で頑張りました。
さやかも瞬が大学に行きたがっていたのを知っていてのことだったのでしょう。

さやかはまず、田島が再び音楽をやりはじめたのが嬉しくって、
田島が瞬のギターを使っていたことに驚いたのと、もちろん、嬉しかったのでした。。。

もうちょい、田島とさやかの高校時代の話が続きます *^^*
2012.02.18 Sat 13:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

田島は高校時代に色々抱えましたが、
浪人で1年冷却期間があって良かったです。

心に溜めるという点では、limeさん宅の春樹くんと共通するところがあるかな。
田島には徹さんとマスターという強力なサポーターがいるので安心です。

さやかとの再会で田島はまた一歩前に進めることになります。

ホント、歩みが遅いんだけど、引き続き応援のほうをお願いしますね^^

ちなみにさやかと田島は確実に友達以上ではありますが、
lime姉さまが(たぶん)希望している(?)方向へは行かないのですぅ~
特別にネタバレコーナーでした^^
2012.02.18 Sat 13:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

田島なんだか、おっさんくさいですかね。
ここで色々とそぎ落としてあげようと思っています。

マスターと徹さんとの出会いは命を救われるくらいのものでした。
感謝してます。言葉ではあんまり言わないけど。

> 大台突破記念企画楽しみにしています!
> (これで逃げられませんよ。笑)

女神は逃げないよ~ん(笑)
たいした企画は企画していませんが、規格内の企画で・・・^^
2012.02.18 Sat 13:51
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Name - おなかぴーたろー  

Title - お仕事おつかれさまです

大台おめでとうございます!

残念ながら訪問させていただいたときは既に
・・キリ番ではなかったです

娘がケガすりゃ
さやかの父親が取り乱すのは親としては当然。
田島クンも余計なこと言わず立ち去るところが
もうこの頃から大人ですね。
2012.02.18 Sat 19:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: お仕事おつかれさまです

おなかぴーたろーさん、コメントありがとうございます。

> 大台おめでとうございます!

ありがとうございます!
ぴーたろーさんの応援のお陰です^^
キリ番はまた次の機会に。。。

娘がケガすりゃ、お父さんもどうにかなっちゃいますよね。たぶん・・・?

田島はかなり罪の意識があったので、
余計なこと言わず立ち去ったのでした。。。;;

今回の再会で、田島の抱えていた荷がおろされる事を願いつつ・・・

お志事、頑張ってます^^ ぴーたろーさんもね^^
2012.02.18 Sat 21:09
Edit | Reply |  

Name - ソライエ  

Title - No title

田島くんの轍になるべく話が
淡々と語られるのが、なんだか切に感じますね。
いろんな出来事は実際、淡々と進んでいってしまうものですものね。

お仕事、忙しいのはいい事です。
無理しなければ。。。
上手に手抜きしましょう、何かを。

次回を楽しみにしてまーす。
キリ番踏んだかもしれないし、でも踏んでなかったと思う。。。
カウンターみてなかった。。(すみません)
2012.02.19 Sun 06:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ソライエさん

コメントありがとうございます。

田島の高校時代の過去話なので、ずいぶん前のことになるのですが、
いつまでも引きずっていないで、ここで淡々と語ってもらいましょう、というところです。

お志事、忙しいです。いい事です。
無理しないのは得意です。
お志事からは手を抜かない分、他で抜きまくりです(^^;)

キリ番は、是非次回を狙ってください。

田島の過去話が続きますが、ソライエさんの大きなお心で癒してやってください^^
2012.02.19 Sun 08:48
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - うう~ん、泣けるわ~

関係ないけど、そうか、けいさんって、今、Australiaにいらっしゃるんだよな、って突然思ってしまった。

fateもいろいろ想うこと、引きずること、いろいろあって、しみじみしてしまう。

いや、そんなことはどうでも良い。

さやかさんの過去というか、田島くんの過去、そして、二人だけが共有する過去の重さに、‘絆’を感じました。
昨年は日本は‘絆’がやたらと流行った(?)年でしたが、また3月がやってきます。
東北も、茨城近郊もほぼ毎日に近いくらい地震があって、今では、緊急地震速報(今から揺れますから身を守ってくださいってやつ)がテレビ画面に現れても、あまり気にならなくなってしまった(--;
突然、コメ返も更新もなくなったら、もしかして地震で~
ってこともあり得るわ~(^^;
はははは。

じゃなくって!

そういう過去を越えてきた二人だということに、重い絆を感じました。
渦中ではなくて、今、しっかり一人ひとりが立っている二人だということ。
それが感動です。
こういう再会は泣けます~

でも、良かったと思える再会。
嬉しいです。
こういう幸せな瞬間があるから人は生きていられるよな、と思える。

あとは、進むだけ。
応援してるよ~~~~!!!
2012.02.20 Mon 09:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: うう~ん、泣けるわ~

fateさん、コメントありがとうございます。

今、残暑のオーストラリアです。

3月が近づいてきますね。
静粛な気持ちで迎えたいです。

今後何かがあっても、fateさんは生きなくてはいけないのだぁー
女神からの絶対指令。

さて、田島とさやかの絆は深いです。
もっと深い人が次回に登場します。(←次回予告)

同じ場に集い、同じ場で語り、同じ時を過ごす。(←ある歌の歌詞)
そこで共有した物や事は一生の絆ですね。

田島はここでもうちょい落とすものを落とします。
身を軽くしてから、進んで行きます。の予定。

応援お願いします~~~~!!!
2012.02.20 Mon 16:46
Edit | Reply |  

Name - LandM〔才条 蓮)  

Title - No title

人がなくなると色々回想しますよね。
死んだ人には対抗できないですからね。
そういうのを良く思います。
それを想起させるエピソードですね。

2012.06.01 Fri 17:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandM〔才条 蓮)さん

コメントありがとうございます。

> 人がなくなると色々回想しますよね。
> 死んだ人には対抗できないですからね。
> そういうのを良く思います。
> それを想起させるエピソードですね。

LandM〔才条 蓮)さんは、リアルのお仕事柄、よけいにそう思われるのでしょうかね。

リアルだと、創作のお話とは比べ物にならないたくさんのストーリーがあるのでしょうね。

残された者のするべきこと、なんかを考えます。。。
2012.06.01 Fri 21:15
Edit | Reply |  

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