オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 50 第二章・さやか(5) 

 さやかも、消されようとしているその曲に思い出を乗せながら、二人の奏でる音の響きを忘れまいと耳を澄ませていた。

 田島がようやく歌い出した。鏡も目を閉じ、田島が歌うのに聴き入りながらあくまでも軽くリズムを合わせる。

 ワンコーラスが終わると、田島はひとつ咳払いをした。涙が頬を伝っていた。けれども、その涙をぬぐうことなく、震える声を抑えながら演奏を続けた。

 曲の前半、ステージでのライブでは盛り上がるところを何とか歌いきり、瞬のギターソロのパートに入ったところで、田島の演奏が急に乱れた。

 それまで目を閉じていた鏡は、素早く目を開いた。ギターを弾いていた田島の指は止まっており、「成ちゃん・・・」と助けを求めるように弱々しく口を動かすと、田島は抱えていたギターに覆いかぶさるようにして崩れた。

 鏡はスティックを投げ出し、慌てて腰を上げた。田島の体を支え起こすと、田島はすでに過呼吸を起こし、体が激しく痙攣していた。

 鏡は動揺を見せるさやかに、すぐに水を持ってくるよう頼んだ。田島の体がとても熱く、高熱を帯びていたからだ。さやかは大きくうなずくと、バタバタと足音を立て、部室から出て行った。


 田島の呼吸は不規則に乱れ、のどからはヒイヒイという酷い音を立てていた。鏡は激しく震える田島の体を抱え、自分の体にぎゅっと引き寄せた。

 田島は苦しそうに顔を歪めながら、必死に鏡に何かを言おうとするのだけれど、呼吸の乱れに遮られて言葉にならない。目からは涙がどっと溢れ、田島を支える鏡の腕にぽたぽたと垂れていた。

「何も言うな」と鏡は田島に告げ、気持ちを落ち着かせるために田島の肩や背中を何度も何度もさすった。

「どうしてそのとき、突然そうなってしまったのかはいまだに分からない」
「田島君、何かの拍子でパニックを起こしたんだね」
「瞬の事で、祥吾は体も心も限界だったんだろうって、成ちゃんが言ってた」
「俺には分からない」
「その曲を消そうとしたことに、お前の気持ちが付いていけなかったんじゃなないか?」
「それは後で成太郎からも言われた。『取っておけ』って」
「じゃあ祥吾、もしかして、あれ残ってるの?」
「うん。あるんだ」

 さやかが水を持って部室に戻ってくると、田島は鏡に体を支えられたまま気を失っていた。鏡の胸の中で、田島はまるで遊び疲れて眠る子どものように、静かな寝息を立てていた。

 鏡はそっと田島の体をカーペットの上に横にすると、自分の制服の上着をかけてやった。さやかも心配して田島の顔を覗きこむと、田島の頬には涙の跡がいく筋も残っていた。

 さやかは、自分のハンカチを持ってきた水で湿らせ、田島の涙の跡を拭いてやった。それから再びそれを濡らして冷やし、額に乗せた。

 鏡は、田島の横に胡坐をかき、眉間を寄せた辛そうな表情で、窓の外に目を向けた。さやかも体育座りで膝の上に顔を伏せ、田島のそばに寄り添った。

 部室には鏡とさやかの他に誰もいなく、外で活動する運動部の部員のかけ声が遠くに聞こえる以外は、しんと静まり返っていた。鏡とさやかは何も話さなかった。何も話せなかった。そうして静かに時間が過ぎていった。

 しばらくして鏡とさやかが思っていたよりも意外に早く、田島は意識を取り戻した。けれども、目を覚ました田島は、声が出せず話しもできない、という状態になっていた。



「瞬の事故のあとも、学校だけは何とか行ってたんだけど、この時はさすがに次の日学校を休んだ」
「この時は私も、すごく心配しました。瞬が亡くなって、デビューがなくなって、声も出なくなって、祥吾はどうなってしまうのだろう、生きる気がなくなるんじゃないかって」

 学校では、田島が後追い自殺でもしてしまうのではないか、という噂になっていたらしい。あとで鏡からそれを聞かされて田島は驚いた。

「俺は瞬が死んだことだけが頭の中をぐるぐる回っていて、自分が死のうなんてことはこれっぽっちも思っていなかったんだけどさ」
「お前も学校では有名人だったんだよな」
「それだけの事があって、田島君の動向が注目されていたんだね」
「成ちゃんもあの時は、泣きそうな顔してた」
「俺、成太郎には絶対に頭が上がんねえ」

今は当時の事を冷静に語れる田島が、本当に申し訳なさそうに眉尻を下げた。



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 何だか、このところ(去年から)ずっと誰かの過去話をしているような気がする・・・(ちょい汗)

 これが終わったら現実に戻りますのでお許しを~~(^^;)


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

>「その曲を消そうとしたことに、お前の気持ちが付いていけなかったんじゃね?」

そうだと思います。
田島君の中で、何かが激しく拒否反応を起こしてたんでしょうね。
でも、一方で、全部消してしまいたいと。

消す作業は、田島君に取って、どういう意味を持つんでしょうね。
消して、楽になりたかったのか、
瞬君への弔いか。罪滅ぼしか。

その時は、田島君にも分からなかったのかな。
でも、残して置いて良かったです。
答えが出ないままに消えてしまっては、可哀想ですもんね。その曲。

でも、田島君の傍に、鏡君が居てくれてよかった。
本当によかったです。
2012.02.24 Fri 08:20
Edit | Reply |  

Name - 奏響  

Title - No title

けいさんおはようございます♪

どうにもできないですよね…><
現実なんて受け止められない事も
多々ありますもの…
田島君には辛すぎたんです…
目の前の事に身をおくことだけで
精一杯だったのでしょうね…

鏡くんとさやかちゃんもそんな様子を
分かるだけに辛いでしょうがしばらく傍にいて
支えてあげてほしいです。
2012.02.24 Fri 09:19
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - limeさんのコメントに同意です。

「消す作業は、田島君に取って、どういう意味を持つんでしょうね」

↑これ、そうだよな~と思いました。
どういう意味を持つ儀式だったんだろうと。

進みたかった訳じゃなくて。
決別しようとしてい切れなかったんだろうか、とか。

生きようとするギリギリの選択の結果なのか。

人の無意識って、ときに奇妙なことをさせますね。
2012.02.24 Fri 09:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

まさにそうですね。
田島はまだこの時は高校生だったので、
心と体のバランスが上手く取れなかったのでした。
成ちゃんは強かったけど、田島は弱かった。いまだに弱いし・・・

消す作業は・・・ただやけになっていたのか、
なんなのか・・・ふふふ・・・
ご想像にお任せを・・・

曲を残しておいたのがせめてもの救いかな。
題名、なんでしょね (^^;)

成ちゃんは頼りになる!
田島がヘタレな分、周りがやはりしっかりしている。
あくまでもその点がラッキーな奴です。。。
2012.02.24 Fri 15:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます♪

そうなんですよ。。。
田島の気持ちを分かってくださってありがとうございます。

もう、いっぱいいっぱいで、溢れてしまいました。
さやかと成ちゃんにできることはただ傍にいてあげること。
でも、それだけでも田島には大きな支えでした。

奏響さんも田島を支えてあげてくださいぃ~。。。
2012.02.24 Fri 16:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: limeさんのコメントに同意です。

fateさん、コメントありがとうございます。

儀式の意味は・・・
八百万の神のみぞ知る・・・

いや、田島の精神世界のものなので、私には・・・?
いろいろ想像してあげてください(^^;)

ただここでぴんと張っていた糸が切れて、
バランスが崩れた、みたいな感じかな。

> 人の無意識って、ときに奇妙なことをさせますね。

そうですね。さやかが火の中に手を突っ込んだのもこれでしょう。
無意識の意識って、どんなんなんでしょうね・・・
ややこしそうなので、追求はしない・・・
2012.02.24 Fri 16:14
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - 

あの曲を消してしまったら、本当に田島はおしまいでしたね。
ある意味、生命線です。

人生では時折、自暴自棄になって何もかも捨ててしまいたい気持ちになるときがありますから。

私も全ての小説を消そうと思ったことがありましたから。

置いてて良かった。
多分、同じものは二度と書けないから。笑。
2012.02.24 Fri 23:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

> あの曲を消してしまったら、本当に田島はおしまいでしたね。
> ある意味、生命線です。

確かに。生命線切ってたら、田島は狂ってましたね。
それか、確実に後追い自殺でした。

えー! ヒロハルさん、消そうとしたことがあったんですか。
思いとどまってもらえて良かったですよ。

今はクリックひとつするだけですべてが消えてしまう時代なのですよね・・・
クリックひとつで出来上がる時代の到来を希望する・・・?

いや、やっぱ、やめとこう。。。
2012.02.25 Sat 06:48
Edit | Reply |  

Name - ソライエ  

Title - No title

残された者はなにか「けじめ」をつけないと次にいけない。
そんな気持がひしひしと伝わってくる、夢叶61でした。
短くてすみません。。。
2012.02.25 Sat 08:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ソライエさん

いえいえ、長くても短くてもコメントはコメント、ありがとうございます。

田島はずっと何年も「けじめ」がつけられなくてぐずぐずしていたので、
次に進むためにきっちりして行きます。

もうちょい、こんな感じでお話が進みます。。。
2012.02.25 Sat 11:13
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - 昨日は18℃。今日は5℃・・気温差が激しすぎる・・

演奏しながら、いろんな気持ちが込み上げてきたんでしょうね~
曲にはそれぞれ思い入れがあるでしょうから。
自分も昔バンド、少しやってた時があって
田島クンの気持ち・・わからんでもないなー
2012.02.25 Sat 12:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 昨日は18℃。今日は5℃・・気温差が激しすぎる・・

こちらは昨日も今日も、38℃・・・暑いを過ぎて、熱いっ

おなかぴーたろーさん、コメントありがとうございます。

演奏しながら、いろんな気持ちが込み上げてきて、溢れてしまいました。

曲は田島が作り、瞬がアレンジをして、
成ちゃんを交えて三人で仕上げていましたから、
それぞれに思い入れがあるでしょうねぇ~

バンド、良いですね。続けていくにもやめるにも、色々あるんですよね。
ぴーたろーさんのバンドにはどんなドラマが・・・
2012.02.25 Sat 16:49
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

過去も大切であって。
過去があるからこそ未来があるということですからね。
田島くんも過去を乗り切って、生きていってほしいですけど。
それにも結構時間がかかるのでしょうねえ。。。
・・・って大分時間がかかっていますが。
2016.05.22 Sun 09:10
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ホント、時間かかってます。作者のせい(><)
ここで過去に踏ん切りをつけて次に進むために、時間かけてます(-_-;)
ステップアップするのって大変ね、と思いながら描いていたように思い出します(^^;)
2016.05.22 Sun 18:08
Edit | Reply |  

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