オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 51 第二章・さやか(6) 

 田島が学校を休んだ日、放課後の時間に鏡が田島の家を訪ねてきた。

「明日は学校に来い」と言う鏡に、田島は首を横に振った。声が出るようになるまで、田島は学校を休むつもりでいたからだ。「明日迎えに来るから」鏡はそれだけを伝えて帰った。

 翌日の朝、田島は学校に出かける時間になっても、まだまでベッドで横になっていた。眠っていたわけではなく、鏡が家来たのも気づいていた。

 鏡が迎えに来たと部屋に来た母親に言われ、しぶしぶ支度をして出ると、玄関口で鏡が憮然とした顔で待っていた。「遅い」とひとこと言われて家を後にした。

 その日の朝は完全に遅刻。けれども、鏡が通学途中、学校に連絡を入れていたので、問題なく教室に入れた。クラスメートからはまるで幽霊でも見るような目で迎えられた。

 実際、その日の田島の目は死んだように暗く、声が出ないので何も喋れず、制服の中身は空洞ではないかと思われるほど全く存在感がなかった。

 それから毎朝、鏡が田島を家まで迎えに来た。鏡は「学校には来い」とそれだけは言うけれども、あとはあまり多くは語らなかった。

 放課後は、軽音楽部の部室で時間を過ごした。そこしか居場所はなかった。田島はギターを抱えて最終下校時刻までただぼーっとしていた。

 始めはギターを弾こうとしていたのだが、弾けなくなっていた。ピックをつまもうにもつまめない。ネックを掴んでキーを押さえようにも押さえられない。指が動かない、ということではなく、痺れて力が入らなかった。

 声が出ない、歌が歌えない、ギターも弾けない、という状態にイライラして物に当たったりするときは、すぐに同じ部室にいた鏡が寄ってきて頭をくしゃくしゃとなでてきた。

 それは田島にとっては、何かのおまじないのようだった。鏡にそうされると、田島はなぜか安心して落ち着いた。

 だからといって、何かをするわけでもなく、結局は窓際に行って意味もなく外を眺めたりするだけで、放課後の時間をただ無駄に過ごしていた。

 鏡も田島と一緒に部室にはいたが、ドラムの練習をすることなく、他の部員と喋ったり、後輩の練習を見てやったり、音楽雑誌を見たりしていた。

 受験の時期になり、さやかが希望の美大の実技試験の練習をしたいとの名目で、田島をモデルにスケッチの練習をしに来るようになった。

 さやかから、ポーズをああしろこうしろとうるさく言われ、田島は口を膨らませ思い切りのドヤ顔を見せるのだけれども、言葉で文句が言えない。

 さやかを睨みつける田島の頭を、鏡がいつものようにくしゃくしゃとなでて、「やってやれ」と言う。鏡にそう言われてやっと渋々ながらポーズをとる田島だった。

 さやかはこの時、田島のスケッチを何十枚と描いた。

「さやか、そのスケッチ、どうした?」
「全部実家にあるよ。祥吾みたいに消さなかったし、捨てもしなかったし、お焚き上げもしなかったから」
「お焚き上げ、って」
「あれは私のあのときの思い出だから」

 田島が思い出を消し去ろうとしたのに対し、さやかは思い出を残そうとした。



 鏡も田島の声が出なくなってからは、ドラムをやめていた。叩かないと体が鈍るのか、よくグランドに出て、陸上部やサッカー部に混ざって一緒に走ったりしていた。

 鏡は、さやかが部室に絵を描きに来ない時は「お前も走るか」と田島を誘った。けれども、田島は視線を下げて首を横に振り、くるりと背中を向けるだけだった。

 卒業式が近づいてきた頃、鏡は田島に京都行きの話が具体化したと教えた。鏡は高校卒業後、京都に行くことを決めていたのだ。

 京都では祖父が大棟梁を勤める宮大工の修行に入ること、それから、やはり祖父がまとめている民謡会の「鏡太鼓」のグループに入り、和太鼓をすること、などを田島に話した。

 その時、鏡が田島に高校卒業後はどうするのかとたずねたけれども、進学もなく、就職もなかった田島には、進路についての考えなど何もなかった。

 その日の夕食後、田島はテレビも見ずに二階の自室にこもった。寝るにはまだ早く、ベッドにごろりと横になったら何となく学校の事が頭に浮かんできた。

 長谷川がいなくなってから、何もする気がなくなっていた。声が出なくなってからは、さらに毎日を無駄に過ごしていた。

 さやかのスケッチに付き合っている時間を思い出す。さやかは美術大学を目指して前に向かっている。鏡も京都で新しい生活を始めると話してくれた。二人とも高校卒業後の先を見て、動いている。
 
 自分は・・・。

 ずっとデビューを夢見ていた。高校を卒業したら、大好きな仲間と大好きなバンドを一緒にやる。それだけをイメージしてきた。けれども今は・・・。

『俺は大学に行きたいんだ』

長谷川がそう言ったのが思い出される。

「瞬・・・」

 田島は、はっとした。長谷川の名まえを呼んだそれは心の声ではなく、口から出た言葉だった。ベッドに横になっていた体をがばっと勢いよく起こすと、一瞬頭がクラッとした。

 何かが頭の中を竜巻のような猛スピードで巡っている。何だか分からないそれを掴み、確認するために田島はぎゅっと目を閉じた。



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 10000アクセス突破記念もどき、忘れているでしょ、と思っている?
 ふふ。着々(遅々)と進行中。


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

鏡君、本当に良いやつ。
彼がいなかったら、田島君も、立ち直るのに時間がもっと掛ったでしょうね。

この間の田島君の辛さ、そしてそれに縛られてる歯がゆさが、
しみじみ伝わってきます。
でもまだ、若さって言う武器があったから、なんとかなったのかもね。
それから、優しい友人と。
さやかも、あまり深く入り込まない程度の距離で見守ってくれてて、
良い子ですね。
そして、女の子の強さも感じます。

もしかしたら、男の子よりも、女の子の方が、芯が強いのかなあ~なんて、思いますね。
(私は、強い女の子描くのが好きさ^^)

次のキリバン、ねらってますよ~~^^
2012.02.27 Mon 08:10
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Name - 奏響  

Title - No title

田島君…自分を責めることで
心が空っぽ…空虚な心になってしまった
んですね…
さやかはしっかりとスケッチに刻んで
対照的だけどちゃんと受け止められている
さやかは偉いなって思いました☆彡

2012.02.27 Mon 09:50
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 田島が思い出を消し去ろうとしたのに対し、さやかは思い出を残そうとした

↑ああ、これ。
いや、全然違いますが、姉弟の対比に似たようなことをfateも最近使いました。
最近、で、お分かりかもしれませんが、『花籠』と同時進行のやつにです。
ふふふふ。
(↑すみません、何の意味もない笑いです(--;)

limeさんおっしゃるように、男女の性差では、体力的な面では男がもちろん強いけど、内面的には女の方がしなやかですね。強い、というより、たおやかというのか、したたかというのか。
守って生きることを知っている。

関係ないけど、知り合いがこんなことを言ってました。
今回の被災県出身者です。直接津波の被害が遭った方ではありません。
「一人目の子どもを生んだとき、もし、何かあっても自分の命と引き換えにこの子を絶対に守る、と誓った。だけど、二人目が出来たとき、もし何かがあったら…と怖くなった。一人なら、絶対に守れる。だけど、二人は守れないかもしれない。だから、二人目の子には神の加護を願って、名前を付けた」
神様に丸投げかいっ? ってなもんすが、続いて彼女は言った。
「震災で津波が押し寄せる中、三人の子どもを連れて逃げたお母さんがいた。二人の子を両腕に抱え、一番年長の子は歩いて。腰まで浸かった水の中を。だけど体力の限界。そこに冷蔵庫が浮かんで流れていた。それを目にして、真ん中の子が言った。『ボクは大丈夫、○○(←一番幼い弟)を助けて』母親は必ず、迎えに来る、と二番目の子をその冷蔵庫に座らせた。そして、一人を抱いて、一人の手を引き、なんとか陸へあがった」
すさまじいことですね。二人でも助けられないかもしれない、と彼女は言ったのに。三人!!!
だけど、母親は子どものために生きる。絶対に子どもを助けるために。
女性ってのはそういう生き物です。

…あああ、すみません、関係ないことを…

2012.02.27 Mon 11:26
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Name - ヒロハル  

Title - No title

さやかは思い切ったことをしますね。
火の中からギターを取り出したことにしても……。

女性なら普通なら腫れ物に触らぬようにしたり、
黙ってそばに寄り添ったりとなりそうなものですが。

彼女だって、瞬がなくなって落ち込んでいるだろうに……。


記念作品の件、忘れていると思っていました。笑。
2012.02.27 Mon 13:27
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そうですね。成ちゃんがいなかったら、
田島はマジで今まともに生きてはいなかった、ぐらいの友達です。

伝わりましたかねぇ・・・良かったです(ホッ)
やはり、表現力がホント、トホホで、泣けます(涙)

さやかは別のアプローチで田島を支えました。
成ちゃんほど強かったわけではないのですが、
田島が弱すぎて、心配してくれました。

男女それぞれの強さ、弱さがありますよね。
それをうまく支え合っていくと上手くいくのかな。
けど、このお話は恋愛物ではないのですぅ~~

limeさんのところの美沙も抱えていますよねぇ。
強く行くのでしょうか・・・?

次のキリバン、ねらってください~~。
ここ踏んだよ、と申告制で^^
2012.02.27 Mon 16:29
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Name - けい  

Title - 奏響さん

コメントありがとうございます。

瞬の事故には田島が絡んでいたので
悔やんでも悔やみきれない後悔にずっと苛まれていました。

それを徹さんに解放してもらって、
やっと色々を取り戻そうとしているところです。

この時は、さやかは受け止められましたが、田島にはできませんでした。
さやか、偉い☆彡
2012.02.27 Mon 16:42
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Name - けい  

Title - Re: 田島が思い出を消し去ろうとしたのに対し、さやかは思い出を残そうとした

fateさん、コメントありがとうございます。

おっと、まだ読んでいない・・・
そうなんですか。シンクロですね。
えっと、『花籠』のあとに、いきますね。
ふふふふ。となるかどうか・・・(今からすでにちょい汗)

そうですね。しなやかで、たおやかという点ではさやかは賢かったかも。
現役で大学も受かってるし・・・と言うのとはちと違うか(ーー;)

おぉ。fateさんの経験談をありがとうございます。

あの時期に海の水に腰まで浸かるなんて、ありえないですね。お子さんは首までかな。
母の強さは真実です。

復興をお祈りしています。
海外に居ても心と思いは繋がっていると信じています。
2012.02.27 Mon 17:00
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Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

そうですね。まさに腫れ物。

さやかは瞬と親戚だったので、瞬の事を小さいときから知っていたし、
同じ年で一緒に育ったようなものだから、悲しみも深かったはず。

けど、横で田島にメソメソされてはね。。。

> 記念作品の件、忘れていると思っていました。笑。

えっと・・・作品ではなく・・・(そなことは私にはまだ・滝汗)
ちょっとした企画を企画中・・・頭痛が痛い・・・
ちょっとですから・・・(^^;)
2012.02.27 Mon 17:21
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Name - LandM(才条 蓮)  

Title - No title

音楽は何かが憑依しますよね。
それが何かなのかは人によって違いますけど。
だからこそ、人は音楽に魅せられのだと思います。
これだけ世界で普及してますからね。
2012.06.10 Sun 12:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandM(才条 蓮)さん

コメントありがとうございます。

> 音楽は何かが憑依しますよね。
> それが何かなのかは人によって違いますけど。
> だからこそ、人は音楽に魅せられのだと思います。
> これだけ世界で普及してますからね。

そうですね。本当に。
そのアーティストの表現のなかに取り込まれて、
凄い、としか言い表せないようなものには圧倒されます。

心に感覚にうったえるものに感動します。
音楽もそうですし、いろいろなもの、ことに。

そういう感動的なことに気付けるように日々過ごして行きたいな、なんて思います^^
2012.06.10 Sun 17:01
Edit | Reply |  

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