オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 52 第二章・さやか(7) 

 その日の朝は、特に寒かった。マフラーをしなければ首筋を通る冷たい風に、まだまだ冬が終わりでないことを知らされる。

 鏡がいつものように田島の家に迎えに行くと、そんなことは今までなかったのに、田島が玄関で鏡が来るのを待っていた。

「成ちゃん、おはよう」

 それが聞こえたとたん、鏡の目が普段の1.5倍は大きく開かれた。田島はいつも鏡にしてもらっていたように、鏡の頭をくしゃくしゃとなでると、「学校に行くぞ」とはっきり言って先を歩き始めた。

 鏡は、先に行こうとする田島を後ろから羽交い絞めにすると、「この野郎!」と自分にされたよりもぐしゃぐしゃに田島の頭を撫で回した。

「うわっ! 成ちゃん、やめろ、髪がぐちゃぐちゃになるじゃないかっ」
「昨日、俺に挨拶もなくとっとと帰ったと思ったら、髪切ってたのか」
「やめろ、さわんな、いじるなー」
「頭にスプレーつけすぎてくっせーんだよ」

 高校に向かう途中、田島は浪人して大学を目指すこと、長谷川のことは吹っ切れたわけではないが、自分の中では少し落ち着いたこと、卒業後の進路を決めたら妙に気持ちが落ち着いて、声が出るようになったこと、などを鏡に話した。

 そして、気持ちを切り替えるために、それまでは手入れもせずに伸びきっていた髪を切った、と付け加えた。

「祥吾、お前、短髪でも良い男だなあ」
「お前もな」
「俺は元々短髪」
「頼りになる良い男だ、っていう意味」
「今頃気づいたか」
「毎朝迎えに来てくれてありがとう。感謝してる」
「やめろ、キモイ」
「成ちゃん、ありがとー」
「うぜえー」

 その日の朝は、二人で小突きあいながら登校し、遅刻しそうになった。



「みんなまだ高校生だったんだよね」

 マスターがしんみりと呟いた。

「この時もさやかにすごく心配をかけた。さやかだけでなく、俺は周りに心配をかけてばかりだった」
「一番祥吾の事を心配して、いつもそばにいたのは成ちゃんだったね」
「成太郎だって、瞬の事では辛かったはずなのに。あいつにはいくら感謝しても感謝しきれねえ」

 もしこの時、鏡がそばにいなかったら、田島はどうなっていただろう。さやかにも全く想像がつかなかった。

「祥吾、泣いてない」
「え?」
「よく泣かないでこの話ができたね」
「泣くわけ」
「そういえば、最近の田島、泣いてねえな」
「何だよ。人のこと泣き虫みたいに」
「祥吾は、いっつも泣いてたから」

 さやかも、火傷のときに後味の悪い別れ方をして以来、田島のことがずっと気がかりだったのだ。

「さやか、俺のことはもう心配ないから。今は前を見てる」
「祥吾、ホントに大丈夫なんだね」

 さやかは、安心したように大きな笑顔を見せた。

「マスター、花園さん。私、今日ここに来て本当に良かったです。祥吾があの曲を歌ってくれたのが一番嬉しかった」
「さやか、来てくれてありがとう。俺はもう平気。曲作りも始める」
「祥吾、復活するんだね。曲が出来たら聴きたい」

 さやかはハンドバッグからカードケースを出し、田島と花園、マスターにも自分の名刺を渡した。

「祥吾、いつでも連絡して。取材に行くから」
「取材?」
「リサーチの会社って、色々やるのよ」

 さやかは、いたずらっぽく笑った。

「だから曲が出来たら必ず連絡して」
「分かった」
「マスター、花園さん、今日はありがとうございました。長居してすみません」

 そう言って席を立とうとしたさやかに「電車で帰るには遅いから」とマスターがタクシーを呼んだ。タクシーが来る前に、マスターはいくらかのタクシー代をさやかに渡した。

「マスター、いらないですよ」
「田島君の今夜の出演料だから、気にしないで」

 実のところ、今までのライブで田島はいわゆる出演料というものを受け取ったことはない。毎回マスターは差し出すのだが、田島は断り続けていた。

「さやか、俺のギャラ、タクシー代に使ってよ」

 田島がまるでそれが自分のものであるかのように言うと、さやかはマスターに頭を下げ遠慮がちに受け取った。

 タクシーが到着し、外に出るさやかを田島が見送る。マスターと花園も外に出た。

「祥吾・・・」

 最後に名まえを呼んで腕を差し出すさやかを、田島は優しく包み込むように抱き寄せた。

 マスターと花園が、初めてこの二人が寄り添うのを見たときは、全く驚いたのだけれども、今は理解できる。

「また会えるよな」
「もちろん。連絡して、って言ったでしょ」
「そうだな。じゃ、気をつけて」
「うん。またね」

 軽く手を振って、さやかはタクシーに乗り込む。田島は、さやかを乗せたタクシーが見えなくなるまで、店の前に佇んでいた。

 タクシーが行ってしまった後、マスターと花園は、田島がそっと手の甲で涙をぬぐうのを見たが、見ない振りをしてやった。



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 さやかと再会できて良かったね。


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

ああ、田島君が声を取り戻した瞬間だ。
きゅん。

瞬君のおかげなのかも。
そして、この瞬間、もしかしたら田島君の道も切り開かれたのでしょうか。

鏡君、うれしいねえ。
やっぱり気がかりだったもんね。
おもいっきり、田島君をくしゃくしゃにしちゃいましょうwww

鏡君は、ドラムの腕を和太鼓に生かすのね!
それも素敵^^
うちの息子もバンドでドラムやってて、「和太鼓、カッコいい~」とか時々ほざいています^^

ああ、今日はおひなさまかあ・・・。
梅酒、そちらでも手に入りましたか^^どこからの輸入かな。

甘酒飲みたい・・・。
マッコリもいいな。
あれは甘酒じゃないか。
2012.03.03 Sat 11:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

こうして田島は声を取り戻しました。
まだ若いくせに、過去のある男です。

成ちゃんはこの時期の田島をずっと支えていました。
ヘタレの田島よりずっとしっかりしていました。

成ちゃんはね。このあとね。まだずっと先なんだけど。
おっと。ちょいネタバレ。成ちゃんのこと、覚えていてね。

> うちの息子もバンドでドラムやってて、「和太鼓、カッコいい~」とか時々ほざいています^^

おお。息子さんがドラムを・・・カッコいい~

梅酒はチョーヤではなく、タカラで、アメリカ物(なぜ?)
2012.03.03 Sat 12:45
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 田島くん、髪切ったのかっ

なんて偶然!!!
fateもばっさり切ったんだ~~
宮沢賢治より短くなっちゃった(何故、宮沢くんと比べるか? それには理由があるが、長くなるので割愛する!)!!

そんなことはどうでも良いっ!

卒業後の進路かぁ。
暗闇にうずくまって傷を治していた彼が、トンネルの先に光が見えたんだろうね。きっとそんな感じかな。
いや、違う。むしろ、ずっと差しこんでいた‘ひかり’が、ようやく心に届いた、ってところだろうか。ひかりがずっとあったことに気付いた、というのか。

なんだか、否応なしに人を惹きつける何かを彼は持っているのかも知れないですね~。あの、革命もののリーダーのように。

梅酒~~~???
fateも大好きです~~~!!!
(だから?(--;)
いえ、何でも…




2012.03.04 Sun 10:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 田島くん、髪切ったのかっ

コメントありがとうございます。

って、えー・・・それってベリーショートを越えたショート? 
てか、それショート? 雨にも風にも負けない髪型って事で・・・

fateさんにいきなりやられた・・・

田島はやっと光を見つけました。な場面です。
でもまだ瞬が寄りどころで、成ちゃんに支えてもらっています。

この先トンネルの中で停滞し、徹さんにやっとトンネルから引き出してもらうという展開になりました。
そういえば、そこも長かったなぁ。のろい奴です。

田島は弱い奴なんでね。一人の力ではなく、トータルと言うか・・・
お陰でまわりにしっかり者が揃っています。

本人にもしっかりしていただきたい。
いや、しっかりしていただいたら、話が終わってしまう・・・(^^;)

梅酒、久々なのに、ちびちびいけない・・・
すぐなくなるぅ~~
2012.03.04 Sun 12:27
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

宮大工に和太鼓か……成ちゃん、大変なところに生まれたなあ。
こりゃ。

きっと、田島と違うしんどさがあるんでしょうね。

ということで、次は成ちゃんが主役のお話だ!
2012.03.04 Sun 16:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

鏡という家柄は昔から代々・・・ははは(^^;)
成ちゃんは長男ではないので、気楽な奴です。

成ちゃんのドラミングの背景は民謡と盆踊りから来ているので、基礎はばっちりです。
瞬といい、成ちゃんといい、田島は凄いメンバーとバンドをやっていたわけです。

ん~、プロ話がなくなったのが悔やまれますが、
田島もまだまだ成長の途中。
もちっと、世の中を見てもらいますよ。

ということで、成ちゃんも十分に主役を張れるキャラに仕立てる予定。
でも、あくまでも田島を支える名脇役(?)の予定。
おっと、ネタバレだぁ~~。ずぅ~~と先の話です(滝汗)
2012.03.04 Sun 19:15
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - こんばんは~。

せっかくセットした髪型、ぐちゃぐちゃにされると
その日ブルーになります
特にスプレーした後だとなかなか直らなくて・・i-229
昔、ダイエースプレーって強力なスプレーがあったことを思い出しました。

オーストラリアも「ひなまつり」ってあるんですね。
初めて知りました。i-179
2012.03.05 Mon 02:09
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは~。

おなかぴーたろーさん、コメントありがとうございます。

ぴーたろーさんもセットして学校に行っていましたか。
ぴーたろーさんの髪をぐちゃぐちゃにしたのはあの方なのでしょうか。
うーん、ぴーたろーさんの高校時代を取材に行きたいマジで。

オーストラリアには「ひなまつり」は基本ないのですが、
職場で勝手に宣伝しています。
ちなみに、「こどものひ」も宣伝します。祭日だよ、って^^
2012.03.05 Mon 08:03
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 想い出

想い出を消し去ろうとするひとと、残そうとするひと。
いやな想い出だったら消したいけど、微妙に複雑な想い出は自分だったせどうするかな? と考えました。

こういうのは性格の差が出てきますよね。
私は記録魔だったりしますので、つらい想い出ではなかったら残したいかもしれません。

猫の声が出なくなった件ですが。
去年、二十歳で逝った猫が十三歳だったころ、仔猫が我が家にきたのです。
おば猫のほうはちびが大嫌いで、嫌いで嫌いで嫌いで、避けまくっていました。晩年まで嫌いでしたが、寄る年波で多少は妥協するようになっていたんですけどね。

ちびが避妊手術をして、手術痕を保護するための全身包帯みたいなのをつけられて、そんな恰好でおば猫にからみつく。
それがよほど気持ち悪かったのか、おば猫は声が出なくなったのです。
獣医さんに話すと「ストレスでしょう」と言われました。

猫でもそんなことがあるんですから、人間だったらもっとですよね。
田島くんって感受性の豊かな少年で、だからこそ音楽にも才能を発揮するんだろうなぁ。

2013.03.09 Sat 12:10
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 想い出

あかねさん、コメントありがとうございます。

旅行の思い出とかは残したくて、微妙に複雑な思い出は、やはり微妙ですねぇ。
記録魔さんですか。私も色々と取っておくタイプです。

おっと、猫ちゃん。なんと、そんなことが・・・
声が出なくなるほど、嫌いになるのも相当ですね。
猫って、自由人だから、自由にならないことがまわりにあると、ナーバスになるんですよね。

うちも、母が面倒を見ていた猫ちゃんがいたのですが、まー、かわいく勝手な子でした。
勝手に気ままに生きたので、うちの子も20歳超えの大往生でした。

この頃の田島は弱くて、抱えきれなかったのでした。
成ちゃんは強かった。田島の分まで抱えてくれたのでした。
2013.03.10 Sun 09:16
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

どん底まで落ちた先に光がある。
・・・と思いたいものですね。
確かに落ち続ける場合もありますけど、それにしても、そこから這い上がる。
そして、そこには強くなったニュー田島が待っている!!
\(◎o◎)/!
・・・ということですね。
2016.05.22 Sun 09:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね! 底まで落ちたらあとは上がるしか道はないのですよね。
いやあ、ニュー田島はまだまだ全然へなちょこです(><)
まだまだいろいろな人に助けられながら、関わりながらやっていきます。
未熟者で申し訳なく・・・(作者同様 -_-;)
どうかこの先もLandMさんに見捨てられることなく行けますように(祈)
2016.05.22 Sun 18:17
Edit | Reply |  

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