オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

怒涛の一週間 14 木曜日(2) 

 ―――今日は残業か。

 そう思いながらフロアに入ると、二年目の後藤が残って仕事をしていた。

「後藤だけか?」
「あ、課長代理、今帰りですか? お疲れ様です」
「ホント、今週は疲れる。後藤も早く帰って休みな」
「いや、俺もさっき戻ったばかりで・・・ちょっと帰る前にやっていかなくちゃいけないことがあるんで」
「そうか。俺もだ」
「そうなんですか。今週は課長代理、大変っすよね」
「『課長代理』なんて呼ばれ方には慣れねぇ」

 清野さんにもその話はしなかった。

 そうして後藤と俺はしばらくそれぞれの仕事を片付けていた。と、俺は思っていたのだが・・・。

「・・・うっ・・・くっ・・・」

 ―――何だ? 後藤、具合でも悪いのか?

 背を伸ばして後藤のデスクのほうを覗くと、後藤が声を抑えて泣いていた。

「どうした後藤? 今日の営業で客に酷い文句でも言われたのか?」

 そういうことが女性の営業社員には時々ある。その度に、派遣事務の相田さんが慰めてくれていた。このフロアの母親的な存在だ。

 外回りなどで疲れて帰って来たときに、相田さんからそっと出されるお茶に癒されている者が、この営業部のフロアには何人もいるはずだ。

「大丈夫か。水でも飲むか?」

 退社時刻後のこの時間に相田さんはいないが、俺でも水くらいは出してやれる。後藤は男だし。

 デスクのそばまで行って声をかけると、後藤は一瞬泣き止んでびっくりしたように顔をあげた。俺を見上げる目に涙が溢れていた。

 ―――こいつの目って、こんなにでかかったか・・・。

 その大きな目から涙が零れ落ちるのと同時に、後藤の腕が俺のスーツの胸元をつかみ、子供のように頭を摺り寄せてきた。

「課長代理、代理、代理――!!」

 ―――何? 号泣?

 俺はどうしたら良いのかわからず、とりあえずそのまま後藤を泣かしておくことにした。

 どのくらい経ったか。後藤はかなりの間、俺の胸の中で子犬のようにワンワンと泣いていた。俺も少し困ったが、だんだん落ち着いてきたようなのでそっと話しかけた。

「どうした、後藤。仕事か? 失恋でもしたか?」

 また泣き出した。やばい。スイッチでも押してしまったのか。もう、この泣きにはついていけないと思い、俺の胸にしがみつく後藤をを引き剥がして言った。

「飲みに行こう。な、後藤。飲みに行こう」

 俺は相田さんのようにうまく慰めてやることはできそうにない。とにかく、この状況を脱しなければと会社から外に出る提案をしたつもりだったが・・・。

 飲み屋でさんざんまた泣かれた。理由は・・・

 失恋だ。

 遠距離恋愛中の彼女が仕事でこちらに来るということで、今日の会社帰りに久々に会うはずだったらしい。彼女からの連絡にすぐに出られるようにとスタンバイしていたが、来たのはいきなりのさよならメール。

 ―――彼女と久しぶりのデートのはずが、俺と差し、か。

 それにしても、こいつがこんなに泣く男だとは思わなかった。そろそろ帰らないと明日の仕事にひびくと思い、会計を済ませて店を出た。

「おい後藤、大丈夫か。しっかりしろ」
「ダイリー、ダイリー、こんなこと、大丈夫なわけないっす」
「明日も仕事なんだから、帰るぞ」

 後藤は何とか歩けたが、かなり酔っ払っていた。

 ―――仕方ない、寮まで送るか。

 後藤は会社の独身寮に住んでいた。寮といってもアパートではなく、会社が買い上げたワンルームマンションだ。

 社員は格安の家賃で借りられるが、入社後3年で出される。俺も3年そこに住んだ。聞かなくても場所はわかる。閑静な住宅街の一角にあり、駅からは20分ほど歩く。

「ダイリー、すいません、俺もう大丈夫ですー」

 そう言っているそばからふらついているこいつを放っとくわけにもいかず、駅から一緒に歩き始めた。

「ダイリー、俺、忘れたいっす。忘れたいっす・・・」
「そうだなあ。仕事に引きずるなよ」
「ダイリー、俺、忘れたいっす。忘れたいっす・・・」

 ―――おまえ、人の話、聞いてねえな。大丈夫か。

「ダイリー、俺まだまだ飲み足りないっすよー」
「そうか」

 ふと思いつき、途中にあるコンビニに入った。少しだけ買い物をしてすぐに出てきた。コンビニからは寮まですぐだ。

 玄関で、酔っ払っている後藤になんとか鍵を出させて部屋に入り、ベッドを背もたれにして床のカーペットの上に座らせた。

「ダイリー、すいませーん」
「少し醒めたか」

 いや、まだ意識が朦朧としているようだ。

「後藤、まだ飲み足りないんならな、このスコッチを飲め」

 俺はさっきコンビニで買った安スコッチを、後藤の目の前に置いてやった。

「それから、このヘビメタをガンガンにかけて、彼女のことは忘れろ。明日遅刻しないで来いよな。わかったか」

 そう言って、部屋にあったプレーヤーについさっきコンビニで買ったクラッシックメタルを大音響でかけてやり、部屋を出て行った。



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 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - あかね  

Title - 女性キャラも素敵ですね

若い男の子がけっこういい年の女性に、恋愛感情ではない好意を持って接するお話って、とても好きです。
年齢だけで差別する男、多いからなぁ、とおばさんはひがんでいますので。

清野さん、素敵な女性ですよね。
私が読ませていただいたけいさんのお作は、主人公は男性ですけど、女性キャラも際立っていて印象的です。

それから、後藤くん……
また襲われるのかと期待……いえ、心配してましたが、そういう怒涛はなくてよかったね、ダイリー。うふふ。
2012.07.19 Thu 13:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 女性キャラも素敵ですね

あかねさん、コメントありがとうございます。

誰ですか。おばさんだなんて。お姉さまでしょっ^^

清野さんは、その苗字からして清楚な奥様のイメージです。
こーじくんのドジを、あらまあ、とか言いながら許してくれました。

キャラ設定は、男性も女性も難しいですね。
ひとりひとりの人格付けに苦労していますョ。
褒めていただき、とっても嬉しいです。
あかねさんのところは個性的なキャラがたくさんいらして、楽しいですね。
設定は・・・?(笑)

後輩の後藤くんは……

> また襲われるのかと期待……いえ、心配してましたが、そういう怒涛はなくてよかったね、ダイリー。うふふ。

期待? ははは。じやあ、襲われるのは週一ということで、いや、あんなのは、生涯一ですよね。
ダイリー男の面倒も週一? いや、もうやだよね(^^;)

なかなか落ち着けないこーじくんの怒涛はまだ終わらないっ。。。
2012.07.19 Thu 19:21
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

私も一瞬こーじ君の身の危険を心配しました!

今回笑っちゃいました!こーじ君、人気者ですね。
何気にみんなに頼られてますし(笑)

派遣事務の相田さん、素敵です☆
私も癒されたい^^
2013.08.01 Thu 21:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

ほお。こーじ君の身に危険が降りかかった方が良いのかな?
期待にお答えして(?)、書き換えようか。
うそうそ、しないよ(^^;)

入社して数年経ち、後輩もできました。
ちっとはみんなより経験してるし、仕事わかるよね。
上司が徹さんとクマだし^^

パートのおばちゃんは、自分のことで手一杯の正社員より時に気が利くのですよね。
私も癒されたい^^
2013.08.01 Thu 22:52
Edit | Reply |  

Name - -  

Title - 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013.09.14 Sat 03:23
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 鍵コメさん

コメントありがとうございます。

2年目の後藤くん、まだまだ若い。きっと立ち直りますよ。ね。
仕事、頑張ってね、ですかね。

痴漢の件は、こーじくんはかなり混乱しました。
もう、忘れることしか頭にはないです。
まだまだ怒涛も続きますし(-_-;)

最後まで奮闘するこーじくんを見守っていただけると嬉しいです^^
2013.09.14 Sat 10:51
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

恋愛を仕事に持ち込むんじゃねえ。
(-_-)/~~~ピシー!ピシー!

って。言いながら。
私も部下と夜勤したときに。
「クリスマス前に彼氏と別れたんですよお!!」
・・・と散々、夜勤中愚痴を言われたことがあったじぇ。。。
2015.08.22 Sat 05:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

うぷぷ^^
LandMさんも、部下さんからそんなプライベートを話される頼りになる上司さんなのですね^^
愚痴られたり、泣かれたりっていうにはちょっと、ですけどね。
2015.08.22 Sat 09:00
Edit | Reply |  

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