オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 86 

翌日早朝、鳴り始めたiPhoneのアラームを三秒で止め、田島はそっと起き上がった。

荷物を手にゲストハウスの外に出る。夕べの通りの喧騒が嘘のように静かな朝。

見上げる空にあるひつじ雲は、誰かに追い立てられているかのように速く流れ、薄くなり、青空の割合が徐々に増していく。

今日の日が始まったばかりの朝の雰囲気をかみしめながら、田島は予定通りカンボジアに向かう小型バスに乗り込んだ。

「どうも」
「はじめまして。私の名まえはキム・ミナ(金美雅)です。私は韓国人です。どうぞよろしくお願いします」

先にバスに乗っていた小顔の女の子が日本人だと思って、田島は軽く声をかけた。その一言に対して、日本語の教科書に例文として載っているくらいの完璧な「はじめまして」の挨拶が返ってきた。

「三年前、日本に留学しました。ちょっと日本語が話せます」

ミナはそう流暢に説明しながら親指と人差し指を差出し、間を少し開けてウインクした。はは、と口元を半開きにして固まる田島に、ミナの隣に座る女性が続いた。

“Hello. I’m Lai.”
「どうも、ライさん。ショーゴです。あ、えっと」
“Nice to meet you, Shogo.”

ライは中国系マレーシア人で、英語を話す。髪をきっちりと後ろにまとめ、朝から一糸の乱れも無い。バスの座席にビシッと姿勢良く座っている。

田島は二人の後ろの席に座った。すぐ後からイギリス人のカップルと、インドネシア人の男性二人連れが乗り込み、合計七人の乗客で小型バスはいっぱいになった。

カオサンを出発したバスは、真っ直ぐにカンボジアとの国境に向かう。

座席に身を任せ、何となく窓から外に目を向ける。路肩の景色は、バスのスピードに合わせてビュンビュンと音をたてるように流れ、遠くの田舎の景色は、のんびりと移って行く。

そんな車窓の移ろいを田島は何の心配も不安も無く眺めていた。

「昨日、ショーゴさんはギターを弾きました。歌を歌いました。私は見ました」

ミナが、久しぶりに日本語が話せるのが嬉しいと、後ろを振り返っては田島に色々と話しかけてくる。

「とても上手でした。カッコ良かったです」
「ははは。ありがとう、ミナさん」

ミナは、顔だけでなく体も小さくて小鹿のように華奢な女の子。韓国のソウルでマッサージ師の仕事をしている。

「そんな細腕で仕事が勤まるのか」と心配するライに向かって、「筋肉はある」とミナが筋肉などなさそうな白い腕をまくって見せると、二人はキャラキャラとはじけるように声を上げて笑った。

ライはバンコクの大学院に留学している学生で、アジアの歴史と経済学を研究している。バンコクに留学する前は、シンガポールの大学にも留学していて、将来は研究者かエコノミストになりたいのだという。

「へえ、ライさん、すげえ才女」
“What?”
“Shogo said, you’re a very clever lady.”

韓国人のミナが、田島の日本語を英語に訳してライに説明する。そんなことも何だか自然に感じてしまうアジアでの旅。

狭いバスの中では、イギリス人カップルのベンとアン、インドネシア人のタックとバウともすぐに仲良くなり、みんなでワイワイと話が弾んだ。

コミュニケーション手段としては、みんな一応に英語を使う。けれども、英語で分かり合うというよりも、このバスで縁あって一緒になったという雰囲気や、旅の時間を共有するということ、そして何よりも、旅を楽しむお互いの笑顔がWiFiの役目をするようにみんなを結び付ける。

―――俺たちのパスワードは‘笑顔’だな。きっと。

お互いを理解し合うために必要なのは、語学もそうだがそれだけではない。田島は一人一人の笑顔を眺めながら、改めてそう感じた。

「パスポート、パスポート」

バスで数時間走り続けた後、タイとカンボジアの国境の町に着いたところで、運転手のバクさんからパスポートを出すように言われる。カンボジアに入国するのに必要なビザを申請するためだ。

「へえ、カンボジアは『王国』なんだ」
「そうですよ。ショーゴさん、知らなかったですか?」

手続き後、ポンとスタンプを押してもらったビザをしげしげと眺めて、思わず呟いた言葉をミナに拾われた。

そのパンチの効いた突っ込みにあわてて田島は「知ってたよ」と今更なぼけで不器用に取り繕う。

田島の言い訳が聞こえたのか聞こえなかったのか、「ふふ」と小さく目元を緩めるミナはライと共にさっさと先を行く。

田島はまるで「姫様方、お待ちを」というセリフが後押しをするお供の者のように、小走りで二人の後に付いて行った。

タイのイミグレーションを出たところにあるゲートを通過し、国境越えをする。カンボジア側のイミグレーションで今度は入国審査を受け、カンボジアの地を踏む。日本では出来ない陸路で国をまたぐという経験だ。

一行は、カンボジアでの目的地であるアンコールワットのある町、シェムリアップに向けて、再びバスに乗り込む。

出発が朝早かったのと、バスでの長旅に少し疲れて仮眠を取る。仮眠からさめると外の景色を眺めるか、誰かとおしゃべりをするかを繰り返し、バスでの旅は続いた。

パーン―――!!

突然の爆裂音に全員が身を起こす。「何だ、何だ!?」とザワつくバスが、息切れを押さえるかのようにゆっくりと路肩に止まる。

―――パンクだ。

道路は悪路ではなかった。だが「こんなこと、ここ数年はなかった」とパンクした後輪を見て、運転手のバクさんが眉間を寄せる。

「ドント・ウォーリー。アイ・ウイル・ヘルプ・ユー」

田島は気を落とすバクさんに声をかけ、「自分も」と手を挙げたインドネシア人のタックと共に、タイヤ交換を手伝うためにバスから降りた。他のみんなもバスから降り、丁度良い休憩がとれたと体を伸ばす。

“Ann, would you like my massage?”
“That’s nice. Thanks, Mina.”

道端の木陰に、少し疲れた顔をして腰掛けていたイギリス人のアンに、ミナがマッサージを施し、旅の疲れを癒す。

田舎道に停まる午後のひと時。こんな想定外のことが起こるのも旅のお約束なのだ。

田島はタイヤ交換を手伝いながら、口笛と共にボビー・マクファーリンの「ドント・ウォーリー、ビー・ハッピー」を軽く歌い始めた。



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月一更新の『夢叶』です(汗)
新しい出逢いです。今回は女の子です。
来月も頑張って更新します(-_-;)


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

え、次回は来月なんですか?
でも、待ちます。
とにかく、久々の更新、うれしいです。

今回はかわいい女の子との旅なのですね?
アジアの女の子って、ちょっと気が強くて凛としてますよね。
田島君、がんばれ(いや、勝負じゃないかw)
また今までと違ったたびになりそうですね。

まずはカンボジアですか。
私も、王国だとは知りませんでした。
(知らないことだらけですが><)

さっそくハプニングですが、きっと田島君たちはハプニングも良い思い出に変えちゃいますね。
旅の続き、のんびりと待ってます^^
2012.08.27 Mon 08:29
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

えっと、今月はもうあと数日なんで・・・ははは。

田島と女の子との絡み、どうなるかな(ちょい汗)
バスで出会った二人はホントしっかり者なので、
ボンヤリしている田島はついて行けるかな。
しっかりとお供するように、です。

カンボジアのビザに‘キングダム’の文字が・・・
それで私も知りました(^^;)

そうそう。旅にハプニングはつきもの。
パンクなんぞ、お約束です。
これからどんなハプニングと出遭うのくあっ。
2012.08.27 Mon 21:08
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 旅

青い空が、その澄んだ乾いた空気がふわっと取り巻くような。
そんな臨場感ある文章に、視界が開けた気がします~

けいさん、・・・じゃなくって、田島くんの目に映る世界、出会う人々、雄大な地球の吐息や息吹、そういうモノが今回、この世界のテーマとして彩られてますねぇ。

若い彼はまだまだ吸収する時期で、友人の死を乗り越えた先に進もうとしている途上で、本当に何でも貪欲に、かつ淡々と受け止めて受け入れて、進み続けている。
そんな印象です。
そこには、異国の大地も可愛い女の子も、オッサンでも、或いは赤ん坊でも、彼にとっては刺激を受ける風景以上のものではなくって、これは別れを前提とした期間限定の出会い、そして、関わり。だからこそ、そこで得られるモノはとことん楽しんで関わっていくと決めている、感があって、こちらも楽しく一緒に旅をしている気になりやす~(^^)

へへへへ。
頑張れ、田島くん。
fateが行ったことのない世界をどんどん見せてくださいな!


2012.08.28 Tue 22:24
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Name - けい  

Title - Re: 旅

fateさん、いつもながらの深いコメントありがとうございます。
お話がそれほど深いわけでもないので恐縮です m(__)m

> これは別れを前提とした期間限定の出会い、そして、関わり。

fateさん、うまいこと言いますね。旅の日々はほぼこれです。
別れるために出会うみたいなものですね。
それにどう色をつけ、どう積み上げていくのか。

田島は今何を見て感じているのでしょうかね。
何でも受け入れる許容を持ってきてはいます。

今は吸収の時期。喋り始める前の幼児の時期です。
根を張る時期です。根っこは見えないんだよなぁ。(みつを?)

何してんだかこちらからは見えない奴なのですが、
一緒に旅してやってくださいね~^^

頑張ります。田島が。
(私はゆるゆるなんで^^)
2012.08.29 Wed 20:35
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Name - ソライエ  

Title - 楽しみ

待ってましたよ。
更新もだけどカンボジア編。
シェムリアップには息子と行ったんです。
もう一度行きたい国のひとつ。
パワフルで昭和のニッポンを見るような感じ。

そんな国で田島くん、何処へいく、何をする?

楽しみ〜。

で、けいさん。ムリしないでね。
2012.09.02 Sun 21:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 楽しみ

ソライエさん、コメントありがとうございます。

おお、ソライエさん、息子さんとご一緒にカンボジアですか。良いですね。
そこ違うよ、ってのがあったら、そっと教えてくださいね。
まだ描いてないんだけどさっ(--;)

とりあえず田島は目的地に着いて、
朝起きたら、昭和にタイムスリップして・・・
って、違う話になっちゃいますね、それ(^^;)

更新あるのか、ってくらいになりそうなのですが・・・
ムリはしません(←えばることではない)

ご訪問、ありがとうございます^^
2012.09.02 Sun 21:37
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

追いついた~~
いやー、楽しかったです。
西幻も田島くんと一緒に旅行しているような気分になれました。
いいですねぇ、オーストラリア。一度は行ってみたい。
けいさんの文章で、あの雄大な景色が写真のように鮮やかに、脳裏に浮かんできました。

トムやティムたち外国人がフレンドリーで微笑ましいです。
これぞ旅の醍醐味って感じでしょうか。

この回には女性が出てきて華やかな雰囲気になりましたね。
この海外旅行で果たして田島くんにロマンスはあるのか???

思わず頭の中で「ドント・ウォーリー、ビー・ハッピー」を口ずさんでしまった(笑)。
2012.09.20 Thu 06:45
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Name - けい  

Title - 西幻響子さん

追いつかれたぁ~~
コメントありがとうございます。

いや、もう、旅ログ化しちゃってます(--;)
オーストラリアは良い所なんで、是非お越しくださいね。
オージーは基本みんなナイスでフレンドリーです^^

> この回には女性が出てきて華やかな雰囲気になりましたね。
> この海外旅行で果たして田島くんにロマンスはあるのか???

あるのかなぁ~~(ここのネタバレはなし)
ヒント・恋バナを描くにはまだまだ修行が・・・

> 思わず頭の中で「ドント・ウォーリー、ビー・ハッピー」を口ずさんでしまった(笑)。

私も頭の中これがグルグルしていました^^
田島バージョンを聴いてみたいものです。

ご訪問ありがとうございます。またお越しくださいね。
おっと、更新が・・・ですね(--;)
2012.09.20 Thu 18:16
Edit | Reply |  

Name - 畑   

Title - さくっと読ませる力に瞠目。

86だけさくっと読ませていただきました。
そうさせるだけの文章の力、感じました。
また、暇を見つけて来ますね。
シュリムナップは娘と一緒に行ったことがあります。
良いとこですよね。
2012.10.16 Tue 13:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: さくっと読ませる力に瞠目。

畑さん、ご訪問・コメントありがとうございます。

拙い文章をお褒めいただき、勘違いしそうです。
これからも身の程をわきまえ、精進していきますので、宜しくお願いします。

ちなみに、’瞠目’が読めない・・・そんな私ですが、
またお越しいただけると嬉しく思います。

私の海外旅行の経験は、皆様より少ないと思います。
住んでいると訪れるは違うのです。(力説)

畑さんは、ご家族とご訪問されたことがあるのですね。
えっと、私は、えっとぉ・・・

今後も宜しくお願いいたします^^
2012.10.16 Tue 17:16
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 漢字と色

アジア各国については、なにかを参考にして書かれてるんですか?
描写がイキイキしていて、行かれたことあるんだろうなって感じです。

私も行ったことのない場所を想像で書いたり、行ったことのある場所だったとしても思い出して書いたりしてますが、やはり大阪がいちばん書きやすいです。

先日のコメントに書いた田島くんのイメージで連想させていただきますと。

色は「スカイブルー」
漢字ひと文字は「陽」
四文字熟語だと「意気自如」ですかねぇ。

色と漢字はありふれていますが、四文字熟語のほうは。

田島くんにはつらい過去があって、だけど、それを吹っ切って前向きに進んでいこうとしている。そういう意味で、くじけないで意気軒昂に、という熟語です。


2013.07.07 Sun 00:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 漢字と色

あかねさん、コメントありがとうございます。

わっわっ、これっっ(←大興奮)

> 色は「スカイブルー」
> 漢字ひと文字は「陽」
> 四文字熟語だと「意気自如」ですかねぇ。

おおお~。めっちゃくちゃ超嬉しいですーーー!!!
色と漢字、まさにビンゴです^^

「いきじじょ」は、ググりました(^^;)
迷わず前に進む田島にぴーったりです。
「いきみずからのごとし」もかっこいいかな、なんちて。

あかねさん、田島のこと、よく分かっていらっしゃる♪
是非どこかで紹介させていただきたいです。
いつどこでしよか。考えときます^^

> アジア各国については、なにかを参考にして書かれてるんですか?
> 描写がイキイキしていて、行かれたことあるんだろうなって感じです。

ありがとうございます。行ったことはないんです。
すべてググっています。図書館に通わなくてもすべてが分かる良い時代になりましたねぇ。
あとはただの妄想です(^^;)
行ってみたいですね。書いたこと確かめに。
2013.07.07 Sun 11:11
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

―――俺たちのパスワードは‘笑顔’だな。きっと。


が、いいですね~。

国も言語も違うみんなが共通するもの。

語学ができなくても、ちょっと旅に気楽&気軽に行けそうな勇気をもらいました。

でも、今は田島くんと一緒に同行させてもらいます。
彼の見る世界の景色がとてもキラキラしていて、好きなので^^
2013.08.21 Wed 23:45
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

‘笑顔’はどこでも最強です。と思うんだなあ(by 誰かな)

旅行はお気楽・お気軽に行くのが良いですよ^^
日本語が全くできないオージー、日本で満喫してましたから。

田島で良ければ、同行してあげてください。
普通に有名どこを観光していきます。
普通がいいのょ、とか思ったり(^^;)
2013.08.22 Thu 17:05
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

流石は田島クン。出たとこ勝負なところが格好いい!!
痺れる!!

私じゃ怖くて、事前情報なしでは行くこともできないですね。。。
それでもおびえずにパンクを手伝ったりするのは素晴らしい田島君ですね!!
2016.09.10 Sat 11:23
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

いえいえ、田島を褒めすぎてはいけません。調子に乗るよ。
まだまだ、徹さんがいないところで一人でやっていくの修行中(?)

旅行情報は、ネットで調べながらですかね。
便利な世の中になったものです。
パンクはね…ちょっと大変ですよね…
手伝えよ、ってとこですかね。
2016.09.10 Sat 13:01
Edit | Reply |  

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