オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 87 

田島は、旅に出てすることを三つ決めていた。一つ目は、オリジナル曲を作ること。二つ目は、路上ライブをすること。そして三つ目は、ボランティアをすること。

“Good job, Shogo.”
「ザッツ・イージー」

着ているT-シャツもジーンズも連日の土木作業で薄汚れる。仕事は至って簡単。作業のための足場を組んだり、砂岩を運んだりする力仕事が多い。

ここアンコール遺跡は、間違いなくカンボジアの、いや、世界屈指の遺跡である。その建築や美術は歴史的・文化的な傑作をそろえる。

ボランティアに加わる前は、田島も普通に観光を楽しんだ。アンコールワットの神秘的な朝日を見るために早起きをしたり、大きく成長したガジュマルの木が太く絡みつく遺跡を巡ったりもした。

「うわぁ。SF映画のセットみたい。けど、本物!?」

どこに行っても、ミナは感嘆の声を上げた。アンコール遺跡の壮大な姿と歴史は、訪れる誰もの視線と心を惹きつける。

「ショーゴさん、この先どうなっていますかね」

コツコツと薄暗い内部に響く足音が、砂岩の重ねられた壁のどこかに吸い込まれていく。

足音だけでなく、今ここにいる自分自身も、向こうにある何かに招待されるように吸い込まれていくのではないかという雰囲気が漂う。

「この先は、どこかの異世界にでもつながっているかもね」
「イセカイ?」
「ほら、そこから見たことのない服を着た人が出てきて、『こちらへどうぞ』ってアンコールワットの宴にでも連れて行ってくれる、みたいな」

そう言って、田島は柱と柱の間の空間を指差した。

「ショーゴさん、それ何かの見過ぎ」
「ははは。でも、ここ・・・何だか別の時間の中を歩いているような感じがする。止まっているような、進んでいるような、さかのぼっているような・・・」
「ここの1分が、外の世界の100年とか?」
「ミナちゃん、それ、浦島太郎の世界? 良く知ってるね」
「何ですかそれ?」
「え?」

二人同時に笑い、その笑い声がボワンと大きく響いたのに驚き、あわてて口を閉じる。「静かに」と誰かに睨まれているのではないかと、肩をすくめて天井の方までぐるりと見回した。

「引き込まれますね」
「ミナちゃん、気をつけて。そこ、入り口だよ」
「もう、ショーゴさん、何の話ですか」
「別に・・・」

遺跡内部の、視線を惹きつける独特な空間を堪能しながら、ゆっくりと歩く。ちょっと期待した不思議なことは当然のように何も起こらず、いつの間にか回廊を抜けて光の差し込む現実の世界に戻っていた。



―――まぶしい。

6月の日差しと湿気の高さに、額から汗が流れ出る。その汗がぽたぽたと自分の動かす砂岩に落ち、じわっと染みていく。作業手袋でその汗をぬぐいつつ、田島は黙々と今日の仕事を進めていた。

遺跡群は、発見されてから150年以上経った今も崩壊が進み、一年中どこかしらで修復作業が行われている。フランスをはじめ、中国、アメリカ、日本など数カ国の修復チームが各箇所を担当し、作業に当たっている。

アンコール遺跡が傷む要因の一つに気候が上げられる。雨季と乾季の極端な気候の変化に柱や建物が劣化して、表面から剥離してしまうのだ。大学院でアジア史を専攻するライからそう教わった。

“Hi, Shogo. How’s it going?”

修復のために足場のかけられた建物の中から出てきたライが、外で作業をする田島を見つけて声をかけてきた。

「ゴーイング・ウエル、ライ。ハウズ・ユアーズ?」
‘My job is very sensitive.”

田島にアンコール遺跡修復のボランティアを紹介したライは、バンコクの留学先から短期スタッフとしてフランスの修復チームに派遣されていた。

自分の大学院の研究も兼ねて、歴史文化の保存に関するプロジェクトに加わっている。そちらは計画書をチェックしながらの繊細な作業だ。

“It’s amazing to see them holding hundreds years of history.”

千年もの歴史を持つ遺跡が今もその存在を保っているのは、それを守りたいと思う人々の心があるから。ライがそう言っていたのを思い出す。

自分がここを訪れたのは千年の歴史のうちのほんの一瞬。けれどもそのわずかな時間、確かに遺跡に纏わる悠久の時に想いを馳せた。

そして、ここを訪れた人々が重ねた時間と心を守り、次の時代へと送り出すためにできることがあるなら協力したい、そう言ってライにボランティアを申し出た。

“Shogo, come here!”

ゆっくりライと話をする間もなく、向こうにいる作業仲間に呼ばれる。田島はライに「行かなきゃ」と告げ、シャツの袖をくいくいと肩まで捲くり上げた。

“It’s okay. Work hard, Shogo.”

ライにもやることが山のようにあった。修復作業には時間と手間がかかる。たとえ数ヶ月いたとしても終わらないだろう。

田島のやるボランティアの仕事など、ほんのわずかな手伝いにしかならないかもしれない。だが、そんなわずかな仕事であっても、それは遺跡千年の歴史の一部としてここに残る。そして、次代の新たな歴史へと手渡される。

その時間の流れの中に、少しでも自分が関わっているということを意識するとき、ここでやっていることが、何か特別な意味を持つように思えた。

“Shogo, hurry up! Take this one, next!”
「オーケー!」

ライに軽くウインクをして「じゃ」と片手を振り、田島は呼ばれた方に小走りで向かっていった。



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田島、ここでボランティアなんかしています。しっかりと働いて役に立つように^^


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読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - LandM  

Title - No title

おお、再開ですね。
また読ませていただきますね。
仕事すること、ボランティアすることは大切ですね。
社会に貢献するということですからね。
2012.11.03 Sat 20:10
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

亀更新です。アップのやり方忘れそうになりました(^^;)
またよろしくお願いします(実はちょい緊張)

> 仕事すること、ボランティアすることは大切ですね。
> 社会に貢献するということですからね。

そうですね。もう学生ではないわけですから。
(ほら、やっとの思いで卒業したわけだし)
何かできるようなことがあればと。
2012.11.03 Sat 21:41
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

更新、すっごく嬉しいです。
そして、止まっていた分、けいさんの想いがぐっと凝縮されて、洗練されて、87話に収まっているのが、すごく感じられます。

田島くん、ますます人間としてステップアップしていますね。(まだ彼としては途中ではあるんだろうけど)

>その時間の流れの中に、少しでも自分が関わっているということを意識するとき、ここでやっていることが、何か特別な意味を持つように思えた

ここ、好きだなあ~~。
仕事って、その苦労がすぐにお金や、誰かの「ありがとう」に変わるから耐えられることなんだけど、田島くんは、悠久の時間の中に、人々の(自分に向けられない)感動を願って、捧げてるんだもん。えらい!

いやあ、そんなにグレートな男の子になっちゃったら、惚れるよ(迷惑だって?)

遺跡の中を歩きながら交わす「異世界ごっこ」も、楽しかった。
アンコールワットには、たぶん一生行けないと思うけど、すっかり観光気分になりました^^
2012.11.04 Sun 09:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

ゆるゆる~伸びきり~更新(?)です(言い訳はなし)
一話を送り出すのに何だか緊張してます。。。

> 仕事って、その苦労がすぐにお金や、誰かの「ありがとう」に変わるから耐えられることなんだけど、田島くんは、悠久の時間の中に、人々の(自分に向けられない)感動を願って、捧げてるんだもん。えらい!

ボランティアの醍醐味でしょうか。見返りを期待しない思いやり、みたいな。

もう、世界遺産で「異世界ごっこ」しちゃう、グレート田島(ん?)にはどんどん惚れちゃってください。
今、フリーですから(何かポイント違う?)
2012.11.04 Sun 11:15
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

おお~。久々の更新! 嬉しいです。

田島くん、ボランティアですか。
しかも、場所はカンボジア。
アンコール遺跡での作業とは。
うらやましい。西幻もやってみたいです。

田島くんが黙々と作業に打ち込んでいる様子が目に浮かびました ^^
2012.11.04 Sun 17:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。
ホントお久~です(^^;)

田島、ボランティアしています。
ボランティアって、基本、どこでも誰でもどんなことでもできると思っています。
西幻さんも一つ是非^^

田島、しっかり仕事するように。それ、意味あるから^^
2012.11.04 Sun 19:00
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

おぉ!再開ですね!
ボランティアも立派な「社会勉強」です!
この経験が、世の中で役立ってくるんですよ~。
うんi-228。うんi-228
って、オレが言うな~。って感じですがi-229

自分も、遺跡廻りに行ってみたいなー。
モアイ像とか、ピラミッドとか。
田島クン・・次回はエジプト!?
行っちゃうかーi-229
2012.11.05 Mon 21:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントありがとうございます。
えっと、やっとひとつできました(汗)

ボランティアについては語ってくださいな。
世の中の役にも立つし、自分の中の役にも立つはず。とか。
言って言って^^

自分も、遺跡廻りに行ってみたいです。
世界遺産巡りと、世界の絶景巡り。
とりあえず、フォトギャラリーでため息つく。

> モアイ像とか、ピラミッドとか。
> 田島クン・・次回はエジプト!?
> 行っちゃうかーi-229

うわ、そそられるぅ~~
田島のエジプトで路上の図は凄いかも(^^;)
2012.11.05 Mon 23:53
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

アンコールワット、見た事ないけど、
なんだか一緒に迷い込んだ気持ちになれました!

こうやって世界のあちこちで、
ボランティアしている青年たちがいると思うと、
エールを送りたくなります。

アンコールワットは、観光客による
心無い落書きが増えて、補修の人も困っていると、
以前何かで読んだことがあります。
日本でもパワースポットと騒がれた場所は、
同じ目にあってますよね。

その陰で、ライのような青年が頑張ってくれてるんでしょうね。

カンボジアの熱さはどこへやら、
青年たちの爽やかな風を感じる87話ですね~!
2012.11.06 Tue 16:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。
私も迷い込みそうでした(^^;)

国際協力には実はちょい興味ありです。
大事だな、と思います。
エールを送りましょう^^

> アンコールワットは、観光客による
> 心無い落書きが増えて、補修の人も困っていると、
> 以前何かで読んだことがあります。
> 日本でもパワースポットと騒がれた場所は、
> 同じ目にあってますよね。

そうですね。各々のモラルに訴えるしかないのでしょうかね。
難しいです。自分は守る側の方に協力できたらと思います。

> カンボジアの熱さはどこへやら、
> 青年たちの爽やかな風を感じる87話ですね~!

ありがとうございます~!
このまま風にのっていけるのか(むむ・汗)
引き続き、城村さんの息子(となれるのか)を見守ってあげてください~^^
2012.11.06 Tue 20:23
Edit | Reply |  

Name - ソライエ  

Title - No title

カンボジアでのボランティア活動をした事がある者、出て来ました。
ちなみにワタシは遺跡の修復のボランティアではありませんでしたが。。。

各国が修復に関わっていて、
その修復の仕方もお国柄が出ているものでした。
確かに国際的な協力がなければ
あの遺跡郡はワタシ達にその姿を見せてもらう事はできませが
果たして修復をする事がすべてなのかどうか?と
疑問に思う事も多々ありました。
崩れ、風化される遺跡。それがあるべき姿ではないか?
カンボジア人(クメール人)の手て受け継がれるべきものではないか?
圧倒的な遺跡のスケール、
「昭和」の頃を感じさせるカンボジアの人々のバイタリティーにふれて
そんな事も思ったりしました。
いくつかの国を訪れましたが
カンボジアが一番カルチャーショックを受けた国です。

上を向いて、上を目指そうとするカンボジアの人々にふれて
田島君、その歌に何が蓄えられるのか?この先が楽しみです。

しっかし、
カンボジアあついぞ!
マンゴーうまし!
猫ひろしも走る!
2012.11.08 Thu 20:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ソライエさん

おおお! ソライエさん、カンボジアでのご経験があるとは。
貴重なご意見、ありがとうございます!

なるほど。興味深いお話です。
色々な人の手が関わっているだけ、色々な考えがありますね。
遺跡の存在と人の心。それがどう絡まるのか。
どんな意見・見方も、それを思いやってのこと。
だから、それはどれも正しいと思います。

どこに行っても、人の心があるところには活気があり、安心します。
カルチャーショックを受けることは、学びになります。よね。(なぜかここで同意を求めようとする?)

> 上を向いて、上を目指そうとするカンボジアの人々にふれて
> 田島君、その歌に何が蓄えられるのか?この先が楽しみです。

田島は今まさに、蓄積のときを過ごしています。
どんなことを蓄えているかは作者にも不明(--;)
コップがいっぱいにならなければ、水はあふれないのさ(by誰?)

マンゴーたべる! 熱さには食い気!
2012.11.08 Thu 23:55
Edit | Reply |  

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