オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 91 

ミナはナチャンが気に入り、「また来たい」と何度も繰り返した。

ナチャンをあとにして、再びツーリストバスでビーチ沿いを北上する。到着したホイアンは、ベトナム東海岸線の中央部にある街。

市内の歴史深い街並みが文化遺産として保護されるのとは対照的に、ビーチ沿いは観光地化が進み、明るい太陽の光を反射するリゾートホテルが立ち並ぶ。

けれども、田島とミナが泊まるのは、ゲストハウスと呼ばれる街中の安宿。そして、今夜は他の宿泊客と共に、薄暗いラウンジにいた。

「ろうそくって、凄く明るい。知らなかった」

ミナが小さく呟く。部屋に灯されたろうそくの火は、不規則に揺れ続け、ラウンジをまるで洞窟の中にでもいるかのように照らす。その明かりを囲み、そこに集う者は、皆一様に息をひそめていた。

停電してから、すでに数時間が経つ。いつもはテレビがつきっぱなしの明るく騒々しい空間が、今夜は何の騒音も漏らすことなく暗がりに包まれている。

建物の外からの、ビュービューと迫り来るような音が、否応なく耳に入る。窓はずっとガタガタと音を鳴らし続け、刻々と激しくなる雨と風に呼応していた。

「外、凄いですね」
「まだまだこれからじゃないかな」

ラウンジのソファに身をもたれる田島は、腕を組んでただじっとおさまっていた。ミナは田島の横で部屋から持ってきた毛布を被り、不安げに両足を抱えている。

宿のフロントでは、ラジオの天気情報がかかりっぱなしだが、言葉がわからない。中型で激しい雨と雷を伴う台風であるということだけ、宿のスタッフから告げられていた。

そのうち雨と風は、ゴロゴロとこれから来るものを予測させるような、唸りの音を重ねてくる。

天気予報士でなくとも、それがひたひたと遠からずやってくるのがわかる。それを裏付けるように、ザーと降り続く大雨が、さらに激しい嵐へと様相を変えてきた。

「ショーゴさん、いよいよですかね」
「うん。上陸だ」

ビュッとひときわ大きな風が通った途端、小石が当てられているのではないかと思うほどの大粒の雨がバタバタと窓に叩きつけられた。風圧で窓が割れてしまうか、雨の粒が突き抜けて来るのではないかと思うほどに激しい。

年に何度も台風に見舞われるこの地域は、特大級の台風で無い限り、避難には至らない。けれども、それが台風と呼ばれ、上陸が予想されるとなると、街は交通機関がストップするなどの警戒態勢に入る。

「きたー。雷!」

窓のカーテン越しに一瞬の閃光が走った。数秒遅れてドカンと音を伝えてくる。その音にミナは体をびくつかせ、毛布に包まった小さな体を田島に寄せた。

「ミナちゃん、怖いの?」
「怖いです。雷とオヤジは怖いんですよね」
「どこでそんなこと教わったかな」
「また来た!」

ピカッと光る白い閃光を避けるように、ミナはぎゅっと目をつぶり、横にいる田島の腕に顔を伏せた。

普段はしっかりしていて、どんなことにもキビキビと対応しているミナが、今夜はその細く華奢な見た目の通り、小さくなって雷に怯えている。

「ミナちゃん、雷が怖いなんて、意外だね」
「自然の猛威には逆らえないのですよ、ショーゴさん。ちっぽけな人間のなすすべは、何もないのです」
「ちっぽけなミナちゃんが言うと、真実味がある」
「ショーゴさん、それ、オヤジ目線」
「なんでよ、ミナちゃ・・・」

ピカッと、その自然の猛威が何の予告もなく、ひときわ大きな白光を繰り出した。それと同時に、メリメリと何かが裂けるような音が鳴り、ドドンガラガラと建物が揺れるほどの轟音が響き渡った。

「うわ、今のめっちゃ近い」

今までに無いまばゆい閃光と、地面の底から突き上げてくるような大きな音に、ラウンジが少しざわつく。

すぐ近くに雷が落ちたのかもしれない、と誰かが口にする。仮にそうだとしても、被害の少ないことを祈るしかない。

嵐の中、ろうそくだけの灯る夜のラウンジは、この天候のせいか、しっとりとべたつく。床に溜まる湿気のせいで、冬でもないのに、足元から冷え冷えとした寒気を感じる。

田島の横で、ミナが不意にブルッと肩を震わせた。

「ミナちゃん、寒いの? ちょっと待って」

田島は部屋から自分の毛布を持ってきてミナの肩にかけてあげた。

「ありがとう、ショーゴさん。ショーゴさんも半分使ってください」

田島はミナが伸ばす毛布の半分を羽織って、ミナの隣に腰掛けた。

「まだ怖い?」
「ううん。ちょっと寒いだけです」

ろうそくの薄明かりの中で、ミナがうっすらと微笑む。

「こんなときに、一人じゃなくて良かったです」
「みんなもいるしね」
「ショーゴさんがいてくれるからです」

ミナの視線が上目遣いで真っ直ぐに田島に向けられる。ミナの素直でストレートな物言いは、言葉のハンデや違いという類のものではない。

「ここにこうしていることしか、できないけど」

思わず田島はろうそくの灯りの方に目を流し、つぶやくように返す。

「そばにいるのは癒しの基本です」

ミナは微笑み、まるで自分の安心を預けるように、田島の肩に身を寄せ、頭を傾けた。

―――誰かのそばに。そのぐらいはできる。

なすすべは何もなかったはずの中から、一つ、できることを発見した。それは、簡単で優しい。

外の嵐が吹き荒れる中、ミナと田島はお互いの毛布の端と端を握り、じっとすべてが過ぎ去るのを待った。



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台風直撃の夜です。


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

こんにちは!

ナチャンもホイアンも、素敵な所ですね!

ネットがあれば、旅行本とか地理本を探さなくても、
知らない土地の画像を見ることができる、というのは本当に便利です。
ホイアンは、街並みがすごく素敵!
ほとんど知らないベトナムの街を、
ショーゴと擬似旅行させていただいてます。
楽しい~。

しかし、ショーゴ、ジェントル! 気づいてない? ふり?
オヤジな城村だったら、ちゅーしてるね、もう。

「そばにいるのは癒しの基本です」

ここのところの、一瞬、空気が柔らかくなる感じが好きです!
ミナちゃんの心が! 寄り添うふたりがステキ!
2012.12.12 Wed 15:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます!

私もベトナムがこんなに綺麗なところとは知りませんでした。
ネットは素晴らしい^^
いやいや、田島に三角の旗をひらつかせてもらいましょうか。

> しかし、ショーゴ、ジェントル! 気づいてない? ふり?
> オヤジな城村だったら、ちゅーしてるね、もう。

ぷぷぷ。城村さん、オヤジ疑惑再燃です。
ダンディーな城村オヤジだったら、ちゅーも許せるのか。
ジェントル対ダンディーの対決やいかに。って、ちがーう(--;)

もうちょい、寄り添う二人のやりとりが続きます。
空気がどうなるかなあ(汗)
見守っていただけると嬉しいです^^
2012.12.12 Wed 19:01
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

初めての土地で、こんな台風に遭ってしまったら、心細いですよねえ。まして、停電とか。
日本だったら、たとえ停電になっても、小一時間待てば電気はつくけど。
ミナちゃん、そんな時に近くにいたのが、田島くんで・・・なんてラッキー(え。)
そりゃあ、頼ってしまいますよね。
田島くんも、こういう時はさらに、男を感じさせてくれますね!
くうおーのーーー。いい男だねえ。
包容力、ビシビシ感じます。

私なんか、けっこう雷好きだし、中型の台風だったら、ちょいとワクワクしてしまうタイプなので、田島くんに甘えられません><

うーーん。やっぱり、こういうシチュエイションは、可憐なオトメの方が似合うなあ><(何を張り合ってるのか・・・)
2012.12.13 Thu 17:55
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Name - おなかぴーたろー  

Title - No title


まるで、TVドラマの北の国からの初恋で
純と横山めぐみ(役の名前、忘れたi-229
山小屋にとどまるワンシーンを
思い出してしますた。

これは、おそらく、恋の予感!?

オイラも間違いなく
チューしちゃってるなi-229

ささっ!けいさん。
早く、続き続き~i-203
2012.12.13 Thu 19:10
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

プロバイダーがダウンしてネットがつながらず、お返事が遅れました。
仕事にも支障をきたし、みんなでブーイングでした(><)

そうですよね。日本は素晴らしいですよ。
こちらでは停電よくあるんです。
懐中電灯はわかりやすいところに置いてあります^^

田島はいちお体格は良いので、盾ぐらいにはなるのか。
今まではミナちゃんの後をついていくのが多かったんだけど、
こんなときくらい、ね(ってなんだろ --;)

> 私なんか、けっこう雷好きだし、中型の台風だったら、ちょいとワクワクしてしまうタイプなので、田島くんに甘えられません><

ははは。実は私もワクワク系です。けど外には出られないかなあ、やっぱり。

ベタなシチュエイションですが、可憐なlimeさんは何を張り合うのかなぁ~^^

もうちょい、ベタが続きます(^^;)
2012.12.14 Fri 16:50
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Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントありがとうございます。

プロバイダーがダウンしてネットがつながらず、お返事が遅れました。
仕事にも支障をきたし、みんなでブーイングでした(><)

「北の国から」あの名作。何と、見たこと無いんですよ。
やばいやばい。みんなの話題に入れない・・・i-229
(ちなみに、あの話題作、「冬ソナ」もない (><) 人生どうなっちゃってるんでしょう・・・)

> これは、おそらく、恋の予感!?

ふふふ。しますぅ? ふふふ・・・(次回なので、ネタバレはなしです)

> オイラも間違いなく
> チューしちゃってるなi-229

え、間違いなく? と、ここに突っ込む^^
ぴーたろーさんの乱入で話し変わるね。

続きは・・・次回です(って、当たり前i-229
2012.12.14 Fri 17:10
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

雷に怖くない方が逆に怖いですけどね。
雷を舐めていると死にますからね。
私は死にたくないですから。
雷が鳴っているときはPCも動かしません。
雷がPCから伝わって感電するときもありますので。

私は根が臆病ですからね。
ミナの気持ちが良く分かります。。。
2012.12.15 Sat 09:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

おっしゃる通りですね。
世の中すべての物事をなめてはいけません。
真摯に受け止め、見つめ、過ごしたいと思います。

臆病であることを知っているのが強さだったり・・・
ご訪問ありがとうございます^^
2012.12.15 Sat 10:14
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 異国の嵐

お、こんなところでショーゴくん、女の子とふたりっきりで……こんなの慣れてますか?

私は雷は好きなほうなんですけど、外にいるときだったら怖いですよね。
我が家からわりと近い公園に、落雷のあった木がそのまんま立ってます。木肌が火傷したみたいになってますよ。

90話で「俺に夢を語るとかなうんだ」と田島くんが言ってますよね。
このタイトルはそこから来たんでしょうか。
もっと若いときに田島くんに会いたかったなぁ、夢を語りたかったなぁ、とおば(以下略)は思います。
2013.08.04 Sun 16:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 異国の嵐

あかねさん、コメントありがとうございます。

慣れてないですよぅ~。
ミナちゃんはあねさんですし(^^;)

私も落雷で木肌が削られた木というのを見たことあります。
けど、いたいけに(?)立ち続けているんですよね。
それを見ると怖いなあと思います。痛そうですし。

夢を語るとかなう、というのは、徹さんの受け売りです。
田島は、はっきりとは語っていませんが、徹さんには伝わっている、と思う(あれ・汗)

あかねお姉さま。さあ、今からでもぜーんぜん遅くはない。
田島に語りかけてやってくださいな^^
2013.08.04 Sun 19:08
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