オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 89 

それは厳密にいうと、コメントでも感想でもなかった。

『STさんの曲が大好きです。詩をつけてみました』

ユーチューブにはもちろん本名ではなく、『ST』というハンドルネームを登録している。アップされているものは、歌というより曲で出来上がっていた。

曲には、タイトルやキーワードになるようなフレーズが所々に入っている以外は、まとまった言葉として書かれた歌詞はない。その代わりに、ハミングやスキャットなどの技法を用いて歌の部分は構成されている。

田島は、始めにタララ~と言葉ではない音で旋律を流し、メロディー先行のスタイルで曲作りをする。詩は作曲の過程でイメージしていた言葉を選んで、あとからつける。

高校時代その方法は、長谷川と鏡から「ハミングとスキャットの短縮形」などと説明され『ハミスキャ』と呼ばれていた。いつも二人からは「新しい『ハミスキャ』はまだか」と催促されていた。

バンドでは、その田島の作る『ハミスキャ』に鏡がリズムをつけ、長谷川がアレンジをして、それに田島が歌詞をあてて、というメンバー三人による共同作業で一つ一つの曲を完成させていた。

―――ネーミング、ベタだったなあ。『ハリポタ』みたい。

懐かしい思い出に目を細める。長谷川と鏡にしか通じない用語を、自分たちだけの合言葉のようにして楽しんでいた。

三人の絆は固く結ばれていて、永遠に結ばれたままでいける、と信じていたあの頃。

―――新しいの、どう? 瞬。

いつものように聞く。残念ながら、返事はない。「俺の曲、どう思う?」と花園のメールアドレスにタイプして、送信することなく消した。

「はあっ」

PCのスクリーンから目を離し、両腕を宙に伸ばす。大きく息を吐きながら、あくびと共にけ伸びをする猫のように椅子の背にもたれた。

ユーチューブには、まだ曲としては完成していない『ハミスキャ』の段階でアップしている。流れる画像は、日本に向けての近況報告も兼ねていた。

奏は田島の曲にフルコーラスで歌詞をつけ、英語詩もつけていた。

―――奏さん、何で俺の気持ちがわかるかな。

奏の詩には、田島が旅の中で体験し感じたことが、まるでその場に一緒にいて見ていたかのように綴られていた。

田島は何回か詩に目を通し、そのうち軽く指を鳴らしてリズムを取り始めた。タイミングが合ったところで、自分の言葉を語るように奏の詩にあわせて歌い出した。



次の日、ミナがホーチミン・シティーの市内観光に出かけている間、田島はギターを抱えて路上に立ち、奏の詩で歌った。

「カームオン(cám ơn)(ありがとう)!」

各国を訪ねて、一番初めに覚える言葉が「こんにちは」と「ありがとう」。「ハロー」と「サンキュー」という世界共通語もあるが、現地語でコミュニケーションをとる方が、よりローカルに溶け込める。

「いっただきます!」

日本人である以上、食事にこの言葉は欠かせない。路上で投げられた小銭を握って、マーケット近くにある屋台に寄る。

昼食にフォー(平打ちのライスヌードル)を注文した。麺と肉と野菜で構成される、シンプルメニュー。牛骨スープにクセはなく、あっさりとしたおいしさが口の中に広がる。

―――マクドナルドより、こっちのほうが全然うまい。

その土地のものを、その土地の人による味付けで食べる。地元というブランドはオリジナルで、その味にはずれは無い。

お腹が充たされたあとは、マーケットに寄ってベトナム土産を物色してから宿に戻った。

『フルコーラスでの歌詞付きはこちら。英語バージョンも有り』

嬉しいことに、宿で簡単にWi-Fiが使える。自分のPCで、ユーチューブの有料プログラムに参加する手続きをした。

有料プログラムを開設したのは、ただ単に今までアップした曲の‘歌詞あり’と‘歌詞なし’の違いをつけるためで、他に大きな理由は無かった。

―――これで、アクセスがちょっとでも増えてくれれば嬉しいかも。

そんな程度の希望を持つだけで、それに付随する収益については、興味は無く、期待も無かった。

『STです』

まずは奏に、詩を送ってくれたことへのお礼と、事後報告で奏の詩で歌ったものを、有料プログラムに載せたことをメッセージで連絡した。

―――あとは、花園とマスターと・・・

「ショーゴさん、ガイドブックにない穴場のおいしいレストランを教えてもらいました!」

ツアーから帰ってくるなり、ミナは今日得たばかりの情報について、興奮気味に話し始めた。それで田島は、ミナと一緒に夕食に行くことにしていたのを思い出した。

「混むみたいだから、もう行きますよ」
「はいはい。あ、待って、ミナちゃん」

田島は急いでPCを閉じた。さっとジャケットをはおり、先を行くミナのあとを追いかけるように部屋を出て行った。



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ベトナム料理、おいしいんですよね^^


<追記>

コラボストーリーについてのお知らせです^^

ブログ「茜いろの森」にて、管理人のあかねさんが、なんとっ!
あかねさんのところのメインキャラである、フォレストシンガーズのメンバーさんと、このホーチミン・シティーで路上をしていたときの田島とが出会って・・・
というお話を描いてくださいましたあ!

あかねさんはブログ「茜いろの森」の中では数々のフォレストシンガーズのストーリーを抱え、それがメインではあるのですけれども、そのほかにも数え切れないほどたくさんの青春群像物語を発表されています。その執筆の量、早さ、バラエティーの豊かさにはもう、憧れのまなざしです。

そんなあかねさんに今回書いていただけたのは、このフォレストシンガーズのメンバーさんが一人旅でホーチミンを訪れていたときに、ふっと聞こえてきた田島の歌に耳を傾けてくださり、ちょこっと言葉も交わす。そんなピンポイントな出会いと別れの素敵なストーリーなんです。このシーンを是非是非ご覧ください。

タイトル「ハロー・グッバイ」 (ショートストーリィ:musician)
フォレストシンガーズのどのメンバーさんと絡むのか、どうぞここでご確認くださいね。

あかねさん、素敵な出逢いのアレンジをありがとうございます。
こんな風にあかねさんに想ってもらえて、田島はは幸せ者ですね。

これからもどうぞよろしくお願いします^^


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

奏さんとは、そういう関係になるのですね。
田島くんの曲に、詩を付ける。
ファンならば、楽しい作業ですが、田島くんがそれを気に入ってくれるって、最高に幸せですね。
それを、歌にして流してくれるだなんて。

奏さんって、何者なんでしょう。(うらやましいぞ)
今までに出てきたことのない人なのかな?(うたぐりぶかい)

それにしても、田島くん、いろんな思いを抱えながらも、のびのびと日々を生きてる感じがいいですねえ。

でも、メールに書き込んで消す仕草が、いじらしくてかわいい^^
2012.11.17 Sat 09:50
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

ふふふ。奏さんは、女性です。とだけ。新キャラです。
そういう関係(←どういう関係ですかっ、limeさん?)なので、実体は・・・?

うん、田島の曲が好きな、一ファンです。
おっと、そこから先はネタバレ無しです(^^;)

それはさておき(と話題を変える)
田島のびちゃっていますねぇ。引き続き旅行満喫中です。

> でも、メールに書き込んで消す仕草が、いじらしくてかわいい^^

あはは。ありがとうございます^^
相変わらず徹さんに頼ってしまいそうになる田島です。
今回は耐えたらしい(?)
2012.11.17 Sat 11:52
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

最近は世界に色々配信できますもんね。
まあ、ユーチューブもありますし。
昔は配信するためには、色々しないといけないですけど、今は多少の小金があれば世界に配信できますからね。そういった意味では今の時代は良い時代ですね。
2012.11.18 Sun 22:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。今は世界をグッと近くに感じます。
今の時代の便利な所は気に入っています。

不便だった時代を経ているからこそ、今の便利さをありがたく思えるのかな、なんて思います。
もっともっと便利になっていくのでしょう。
iPad(←田島は持参していないが)とかね、どうしましょ、です。

とりあえずの希望としては・・・私が生きている間に、
スペースシャトルで宇宙旅行ができるまでになって欲しかったり。なんちて。
2012.11.18 Sun 23:25
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

「フォー」はメチャ旨いところのお店だと
クセもなく食べられるんですが
田島クンは
「当たりのお店」に行ったのかなi-228

ユーチューブの収益・・
実は、小遣い稼ぎに
結構な額になるんですよ!
ウフフ・・i-228
2012.11.19 Mon 05:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントありがとうございます。

地元ものはどこの国でもおいしいのです。
ベトナム料理は結構好きです。私が(^^;)
お米がベースなので、日本人に合うのではと思いますi-228

> ウフフ・・i-228

ぴーたろーさん、このウフフが気になるよぉ~
裏技(?)をあとでそっと教えてください。
田島に流すから^^
2012.11.19 Mon 16:22
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - フォー

ホーチミンにはだいぶ前に行きましたので、この章、なつかしく読ませていただいています。

ベトナムでは犬を食べるそうなんですよね。フォーに得体のしれない肉が入っていると、これ、犬の肉じゃないの? と疑心暗鬼になっていたのを思い出します。
私は肉はなんでもたいてい嫌いなので、避けて食べていましたが。

ここまでのけいさんのお作を読ませてもらって思うこと。
けいさんの書かれる男性って基本、穏やかじゃありません?
そういうタイプがお好みなんでしょうか。

田島くんがアップしているyou-tube作品、ぜひURLを教えて下さい。
え? ほんとにあるんでしょ? あれ?
2013.07.24 Wed 14:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: フォー

あかねさん、コメントありがとうございます。

おお。あかねさんは行かれたことがあるのですね。
私はないのですが、いつか描いたことを確かめに行かねば、とか思ったり。

えー(@@)ワンちゃんですか。衝撃っ。
豚骨とかでお願いしたい・・・

ちょ、あかねさん、するどい。
そういうタイプがお好みです。それから、
骨太ワイルド系もお好みです。それから、
スポーツタイプ、芸術家タイプ、文芸タイプ、理系タイプ、それから、
エリート、まぬけ、プリンス、一般人、それから、
・・・いいかげん、やめときます(-_-;)
とりあえず、その他いろいろが描けないんです。ということで(滝汗)

田島のYouTubeですか。私も見たいですねぇ。ははは。
田島、URLは?
2013.07.24 Wed 16:53
Edit | Reply |  

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