オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 92 

台風は散々猛威を振るったあと、街から去っていった。今は外の暗闇の中で静かに降る雨の音しか聞こえない。先ほどの雷を伴う嵐が嘘であったかのようだ。

「ミナちゃん、台風行っちゃったと思う」
「そうですね」
「部屋に戻って寝る?」
「部屋は暗すぎて」
「まだ寒い?」

ミナが小さな頭を振る。それでミナの頭が、田島の胸のあたりにあるのを感じた。台風の激しさに気を取られて今まで気付かなかった。

「ショーゴさんは温かい」
「ん?」
「心臓の音がする。生きてる」
「生きてる? うん、俺は生きてるよ」

いつからミナは、こんなふうに田島の心音を聞き取るように体を傾けていたのだろうか。

「ショーゴさん、心臓の音が消えていくのを、見たことがありますか?」
「音が消えていくのを見る?」

ポツリと胸の辺りから、田島だけに聞こえるような声がする。

「私の母はそうして亡くなりました。クモ膜下であっという間でした。去年です」

つぶやくように話すミナに、田島は耳を傾けた。

「ショーゴさん、人って、簡単に亡くなるんですよ。さっきまでそこに一緒にいて、笑っていたのに」
「ミナちゃんは、お母さんのそばにいたんだね」
「救急車を待っている間、何もできなくて、ただこうして母の最期の音を聞いて、見ていました」

ミナはその場を再現するように、田島の胸に頭を置いたままじっとした。ほんの少しの沈黙の中で、記憶の中から悲しみの闇が思い出される。

「それは、母がどこか暗くて深いところにさらわれていくような・・・」
「自分だけがそこに置いていかれるような、そんな感覚」

ミナは素早く頭をもたげた。眉間を寄せ、言葉無く少し首をかしげる。

「声が届かなくて、世界が切り離される」

その時を見ていたかのように淡々と語る田島に、ミナは目を見開いた。「知っているのか」という疑問を無言で投げかけるように田島を見つめる。

「俺も瞬のそばにいた」
「シュン?」
「俺の親友。瞬は俺の目の前で消えていった」
「ああ、ショーゴさん・・・見たことがあるんですね」

ミナはふっと力が抜けるように田島から目を落とし、どこに視点を定めるとも無く目じりを緩めた。

「ショーゴさんはどうしましたか?」
「どうもできなかった」
「壊れましたか?」
「壊れる?」
「母の音が見えなくなってしまった時、私、おかしくなっちゃって。救急車で運ばれたのは私でした」
「そうなんだ」

田島は柔らかい声で相槌をうった。

「サロンのみんなが、ずっとそばにいてくれました」
「一人じゃなくて良かったね」

ミナは微笑み、コクンと頷いて再び田島を見上げた。

「俺は瞬から命をもらって生かされている」

ミナと視線を合わせて、田島も静かに話し始めた。

「今、俺が見ていること、やっていることは、瞬が見ることもやることもできなかったこと」
「だから、シュンの分も生きる?」
「ううん、瞬の分は消えた。けど瞬は俺に俺の分を残した。俺は俺の分を生きてる」

田島は「ふう」と軽く一息置いて、前方に見える背の低くなったろうそくと、今は真っ直ぐに立つ灯りに目を向けた。

「俺には今日もあるし、明日もある」
「ショーゴさんは強いですね」
「全然。弱くて、気はミナちゃんよりちっぽけ。明日、あ、もう今日か、店開くのかな、とか心配しちゃう」

クスッとミナが笑い声を洩らす。

「ショーゴさんの心臓の音は消えないのですね」

田島は「うん」と頷き、いつも見せる笑顔を返した。

「ショーゴさんはやっぱり強くて、優しくて・・・」

ミナは再び田島に体を寄せ、胸に耳をあてるように体重を預けた。

「聞こえる。生きてる」

田島はミナの小さな肩に自分の毛布をかけなおし、そのままそっと手を置いた。



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台風は去った。。。


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - lime  

Title - No title

台風が去ったあとは、寄り添う二人の余韻。・・・かと思ったら。

ミナちゃん。
そういう話をここで切り出してきたのですね。
田島くん、どう出る?

・・・と思ったら。
やっぱり、田島くんはもう、しっかり自分の中で答えを出してるんですね。
むやみに悲しみに飲み込まれたりせずに。
大事な人の死は、その人の思い出と意志を取り込んで、いっしょに生きていくってことなのかな。

ミナちゃんは、まだ悲しみの中から抜け出せずにいるのかも。
田島くんの力強さに、ちょっと安心をもらえたらいいですね^^。
2012.12.17 Mon 00:59
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

人は結構・・・簡単に死ぬものですけどね。
それでも人が死ぬのを目の前で見るのは悲しいものですけどね。
自分も仕事をしていると死に目をよく見ますからね。
生きていることを感じるのは大切なことですね。
2012.12.17 Mon 08:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

えっと、いちお、余韻のつもりです(汗)
こう出ました。過去話なので、短くしたつもり・・・です。
(つもりばかりで滝汗)

> やっぱり、田島くんはもう、しっかり自分の中で答えを出してるんですね。
> むやみに悲しみに飲み込まれたりせずに。
> 大事な人の死は、その人の思い出と意志を取り込んで、いっしょに生きていくってことなのかな。

はい。田島の場合は旅行前にすべてを整理できているんです。
今頃になって思うと、出発前に瞬に会いに行ったところで、
あの時、二人の会話が成り立っていたのかな、なんて思ったりします。

> ミナちゃんは、まだ悲しみの中から抜け出せずにいるのかも。
> 田島くんの力強さに、ちょっと安心をもらえたらいいですね^^。

ミナちゃんの場合はまだ去年なので。もう少し時間が必要なのかな、なんて。
田島といることが、ミナちゃんの安心に一役かっているのなら嬉しいですね^^
2012.12.17 Mon 21:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうなんですよね。
ちょっとリアルではセンシティブな話題かな、とも思いますが、
このお話の中では生のほうに視点を置きたいと思っています。

> 生きていることを感じるのは大切なことですね。

とても大切なことですね。
当たり前のようで、決して当たり前ではないと思います^^

2012.12.17 Mon 21:54
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - もう少し先で

コメントを書こうと思ったのに、何だかちょっといいムードなので、水を差したくなっちゃいました(うそ^^;)。
えーっと、田島くん、そこはですね、皆さんのおっしゃるように、旅先で男ならってシーンなんですよね。でも、そんなことになったら、みんなのブーイングが怖いですけれど^^;

この心臓の音のエピソード、身につまされます。本当にそうだなぁ。
どこへ行ったんだろう、みんな。
でも、いつか自分も行く道なんだな。それまで、自分の分を生きる。
その先の、その次の日を見て、その時間を生きるのは自分なのですね。当たり前のことがすごく、心に響きました。
素敵だな、と思ったシーンなので、一旦コメントでした(*^_^*)
2013.10.14 Mon 19:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: もう少し先で

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

ええもう、どばっと水掛けてやってください^^
あはは。旅先で男ならっ、何しても良いってもんじゃぁないのですよ、田島ぁ(^^;)

> この心臓の音のエピソード、身につまされます。本当にそうだなぁ。
> どこへ行ったんだろう、みんな。
> でも、いつか自分も行く道なんだな。それまで、自分の分を生きる。
> その先の、その次の日を見て、その時間を生きるのは自分なのですね。当たり前のことがすごく、心に響きました。

わあ、嬉しいコメント。
このシーンを取り上げてくださって、ありがとうございます^^

当たり前のことって、なかなか気づかないものなのですけれど、
気づくとその偉大さに驚きます。
当たり前のことを重ねることができるのは奇跡。なんちて。
2013.10.14 Mon 21:56
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 俺は俺の分を生きてる

そう言い切るってスゴイね。
そう言葉に出来るまでどれだけ苦しんでもがいたのか。
ヒトの‘死’を受け入れるのはどんなに繰り返しても慣れない。いや、相手がヒトじゃなくっても、どんどん繰り返す度に、実は重くなっていく。

>瞬の分は消えた。

消えていくんだよなぁ。人魚姫が泡となったように。
田島くんは、とにかく精一杯前向きに、前を向いて進むしかない。
背後に伸びるスポットライトの影を、決して振りかえらないけど、そこに感じ続けながら。それが彼が歩いていける唯一の方法だから。
そして、こうやって不意に思い出す。
会話の中によみがえった友人の面影を懐かしむ。

淡々と進む背後で、多くの人の人生が絡み合い、出来ていくつながりを大事にしながら、懐かしい人を同時に思う。
田島くんの人柄が引き寄せる出会いは、みんなみんなあったかくて、生きる勇気をくれて、行く先に白い光を落とし続けてくれているんだな。

オーストラリア編でストップしていると思っていたけど、fateくんたら、アジアも少し旅してたんやねぇ。

彼の一貫した生き様があたたかくってほほえましいですな♪

2014.05.13 Tue 16:22
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 俺は俺の分を生きてる

fateさん、コメントありがとうございます^^

田島は自分の分を生きるので精一杯なのです。
でもそうして、自分のことがよく分かっていくのだと思います。
自分のことが分かってからまた人の命について考えられるようになるのかなと。

田島は泡となった瞬に茫然として止まってしまっていたから、再び進めるようになった今は、進む以外にない模様。
瞬の存在は、すぐに思い出せるように心の片隅に置きつつ。
田島の行く方向を理解してくださって嬉しいです。

> 淡々と進む背後で、多くの人の人生が絡み合い、出来ていくつながりを大事にしながら、懐かしい人を同時に思う。
> 田島くんの人柄が引き寄せる出会いは、みんなみんなあったかくて、生きる勇気をくれて、行く先に白い光を落とし続けてくれているんだな。

白い光。色々と素敵に言ってくださってありがとうございます。
田島は何気なく色々な人に逢って行きますが、どれもこれも貴重な出逢い。
けれども、出逢いってもともと全てに意味があるような、自分で意味づけするような?

> 彼の一貫した生き様があたたかくってほほえましいですな♪

わ。嬉しい応援です^^
えっと、アジア編からまだ先もあるのですが(-_-;)
どうか一緒に旅していただけると嬉しいです。
2014.05.13 Tue 19:38
Edit | Reply |  

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