オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夢叶 96 

朝、田島を起こしに来たエダはハーネスを装着し、出かける支度ができていた。ベッドから手を伸ばし、軽く頭をなでてやると、それだけでエダは「クウ、クウ」と人懐っこく鼻先を向けてくる。

「おはよ、エダ。お前ホント良い子だなあ。また俺を起こしに来てくれたのか」

ひとつ大きく伸びをして「よしよしと」エダとスキンシップを取ってから、田島はベッドから起き上がった。

「今日は本当の朝だろうなあ」

窓のカーテンを開けると、ぱっと明るい夏の光が部屋に差し込んだ。それが眩しくて一瞬目を細めるが、窓の外をしっかりと見つめなおす。

この高層アパートメントの22階からは、眼下のセントラル・パークをはさんで、向こうの方にマンハッタンのビル群がくっきりと良く見える。

「良いとこに住んでるよなあ」

この絵葉書の写真のような景色を見ると、「ニューヨークに来た」という現実が胸にじわじわと湧きあがる。

そんな、お一人様的な感動の朝を迎える田島の背後から、申し訳なさそうにエダが「クウ」と声をかけた。

「あ、ごめん。ちゃんと起きたから」

エダの問いかけに苦笑で答え、ゆらゆらと左右にゆれる尻尾の先導に従い部屋を出る。今朝のキッチンは、祥子が淹れたコーヒーの香りが漂っていた。

「祥吾、今日は一日いないけど」
「平気。適当にしてるよ。俺、ビッグ・ボーイだから」
「どれ、どんだけ、ビッグになった?」

祥子が差し出す手を取り、田島は「こんだけ」と自分の頭まで持ち上げた。祥子はいつものように軽く弟の髪をすき、その手を顔にずらし、指で目元を探る。

「大分ソフトになったね」
「何も心配ないよ」
「そうみたいね」

祥子は安心したように田島の顔から手を離し、「もう行かなきゃ」とエダ呼んだ。

「スペアの鍵をテーブルに置いといたから」
「サンキュ。途中まで送ろうか?」
「何で?」

「何で」と言われても、と固まる田島の存在など傍に無いかのように、祥子は「エダ、ゴー」と家を後にした。

―――エダがいるから俺に用は無いよね。てか俺、荷物持ち以外で頼られたことなんか一度もないし。

祥子は、外出するときはいつも盲導犬のエダと行動を共にする。生まれながらに目が不自由で、光を薄く感じる以外は視力も視野もほとんど無い。

今日も所属するニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団のリハーサルに出かける。今の時期は全米各地で行われるサマーコンサートの公演に忙しい。

専門はクラリネットで、上音域のソプラニーノ・クラリネットから下音域のコントラバス・クラリネットまで何でもこなす。楽団からの要請でフルートなど他の管楽器を演奏することもある。

「うまい」

田島は祥子の淹れたコーヒーを飲みながら、少し遠慮がちにソファに腰掛ける。

広く明るいリビングを見上げると、白い壁に掛けられた鮮やかな色の花の絵画や、窓際に置かれた都会風なデザインのインテリア照明などが目に入る。

障害を持ちながらそれと共に生き、こうして自分の生活をきちんと持つ姉には、子どもの頃から全く頭が上がらない。

―――センス良いよなあ。見えてるみたい。俺のこともきっと。

祥子は茶褐色の濃いヘーゼル・カラーの瞳を持って生まれた。その不思議な目の色をした赤ちゃんは皆から愛されるが、その瞳が視線を持たないことを両親はすぐに気付いた。

瞳という器官が機能しないために、本能的に感覚のバランスを崩すのか、祥子はかんしゃくを起こすことが度々あった。その度に母親は祥子を抱いて、優しく子守唄を歌ってあげていた。

母親の歌声を聴くと、祥子は何かを思い出したように安心して、何も写さないはずの瞳を母親に向けた。母親が歌うのを、耳から聴くのではなく、目から聴いているのではないかと勘ぐるほどに真っ直ぐであったという。

弟の祥吾が生まれたのは、祥子が小学校5年生のとき。11歳違いの弟ができたのが嬉しくて、毎日学校からできるだけ急いで帰ってきた。

家では両親をさしおいて、ミルクもあげたし、オムツも替えたし、お風呂も一緒に入った。祥吾の泣き声を聞くだけで、ミルクなのかオムツなのかがわかるようになるほど、弟の面倒を良くみた。

寝るときは、自分が母親にしてもらったように、子守唄をたくさん歌ってあげた。時々弟がぐずってなかなか眠らないときは、適当に言葉とメロディーを作って寝るまでずっと歌ってあげることもあった。

『祥吾のオムツを替えたのは誰かなー。お風呂で遊んであげたのは誰かなー。熱出したとき、抱っこして、一緒にねんねしてあげたのは誰かなー』

いまだに姉からそれを言われると、田島は赤面してしまう。

―――クリスも俺のオムツ話を聞くより、自分の子どものオムツ話をしたいよな。よし、その線でいこう。

新しい作戦でもひらめいたかのように、田島はコーヒーを片手に、一人ニヤリとほくそ笑んだ。



< 前話  TOP  次話 >



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




説明が続くので、いったん切ります(--;)


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - No title

今回の展開は、どきりと胸にきましたね。
そういうことだったんですか。
ぐっと、引き込まれていきますね。
お姉さんの、ちょっと違和感を感じるスキンシップからのアプローチが、にくいです。
この二人の、愛情深い関係が、じわ~~っときて。
姉と弟。いいですねえ~。^^
2013.01.11 Fri 07:53
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そういうことなんです(^^;)
ちょっと説明が多いのですが、こんなアネキです。
青春物のお話のはずが、今度はファミリー物になりそうです(--;)

> お姉さんの、ちょっと違和感を感じるスキンシップからのアプローチが、にくいです。
> この二人の、愛情深い関係が、じわ~~っときて。
> 姉と弟。いいですねえ~。^^

にくいですか(笑)。何だか嬉しいです(Mぢゃないですからっ)
こんな偉大な姉に少しでも近づきたいと思う弟です。

てことは、今は足元にも及ばない。
とりあえず、淹れてもらったコーヒーをすする居候。。。
2013.01.11 Fri 09:52
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

私にも生まれつき目の不自由なおばさんがいます。

さぞかし苦労もなさっていると思うのですが、

当のご本人はとても明るい性格で、

決して暗さのようなものは見せない方です。

そんな方ほど強くなれるのかもしれませんね。
2013.01.14 Mon 21:03
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうごさいます。

おお、そうなんですか。
素敵な方が身内にいらっしゃるのですね。
ご自身のお話をありがとうございます。

障害のある方のお話を聞くと、自分の悩みなんて、ケッと思います。
すべてに感謝です^^


2013.01.14 Mon 23:03
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

こういうのも懐かしいで済みますけどね。
姉と弟というのは。
私も姉がいますけど、今でも仲良くやってますね。
愛情がかどうかは微妙ですけど、今では甥や姪の面倒を見ております。長く続く縁ですね。それを感じます。
2013.01.15 Tue 11:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

私も姉妹がいます。
姉妹の昔話は笑えます^^

> 私も姉がいますけど、今でも仲良くやってますね。
> 愛情がかどうかは微妙ですけど、今では甥や姪の面倒を見ております。長く続く縁ですね。それを感じます。

おお、お姉様と仲良くされているなんて素敵ですね。ホント縁ですね。
私も姉妹とは仲良くやっていきたいです。
愛です。なんのこっちゃ(イミフ --;)
2013.01.15 Tue 13:27
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - そうだったのですか

ヘーゼルナッツいろの瞳には、視力がないのですね。
田島くんを取り巻く世界にはいろんなことがあるんだなぁ。
私には弟がいますが、まったく疎遠です(^^

そのお姉ちゃんは今は幸せなのですね。
田島くん、今度はニューヨークか。いいなぁ、あちこち行けて、とは思いますが、私にはもう無理。こんな旅をしていたら、一度日本に帰りたくなると思います。

ニューヨークでライヴを見るのが夢なのですよ。
ロンドンでは一度だけ、ロイヤルアルバートホールでブートレックビートルズ(ごぞんじですか? 公に認められた偽ビートルズですね)のライヴを見たのですが、ニューヨークでも見たい、聴きたい。

ジャズかロックがいいなぁ。
いつかはきっと、と思っています。

ところで、けいさんは世界三大都市というとどこだと思われます?
アメリカの田舎のひとだったら、ワシントン、ニューヨーク、サンフランシスコ、とか言いそうだったりしません?
2013.08.23 Fri 18:17
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そうだったのですか

あかねさん、コメントありがとうございます。

お。あかねさんはアネキでしたか。
小説書きのアネキもカッコ良いじゃないですか。
みんなそれぞれの世界で色々ありますよね。

田島のアネキは幸せですよ。長年、ニューヨークに住んでいます。
アネキのところに泊まれるので、滞在費の心配がなくて良いですね。

> 田島くん、今度はニューヨークか。いいなぁ、あちこち行けて、とは思いますが、私にはもう無理。こんな旅をしていたら、一度日本に帰りたくなると思います。

はは。日本に帰りたくなる理由、食べ物、が大きいみたいですねぇ。
長くなると慣れるか、理由なくホームシックになるというのも多いみたいです。

> ロンドンでは一度だけ、ロイヤルアルバートホールでブートレックビートルズ(ごぞんじですか? 公に認められた偽ビートルズですね)のライヴを見たのですが、ニューヨークでも見たい、聴きたい。

ブートレックビートルズ、どこかで聞いたことがあるような。
うる覚えですみません。公式、というのが格調(?)高そうですね。
ロンドンやニューヨークでのライブ、お洒落ですねぇ。
建物見るだけでも良いかも。いつかね・・・(^^;)

> ところで、けいさんは世界三大都市というとどこだと思われます?

何と。面白いお題です。
東京! ニューヨーク もうひとつは、ひいきで シドニー ですかね^^
2013.08.23 Fri 23:43
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

ニューヨーク暮らし、いいですねぇ。
憧れちゃう。

それにしても、このお姉さん、カッコいいなあ。
田島君、たじたじって感じ?(いや、シャレじゃないから ^^;
2014.01.12 Sun 09:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

ニューヨーク、良いですよね~(憧) オーストラリアも良いですよ~
いや、ジャパンも良いですって(全部良いってことね ^^;)

アネキのカッコ良さを気に入っていただけて嬉しいです^^
田島はこれからこのアネキにやられっぱなしになります。
田島、たじたじ・・・ぷぷぷ^^
2014.01.12 Sun 10:31
Edit | Reply |  

Add your comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。