オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 97 

中学校に上がった祥子は、吹奏学部に入部し、初めてクラリネットを手にした。

中一の夏休みに、部活動の友人と行った初めてのオーケストラ・コンサート、それがニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団の来日公演だった。

この公演に心まで響くものを感じた祥子は、その時「将来はニューヨークに行く」と決めた。そして、その後の中学・高校の6年間を、吹奏楽部での部活動一筋に過ごした。

進学はニューヨークにある音楽学院に、という祥子の希望は、やはり視覚障害があるということに始まり、様々な問題に面した。

けれども、その問題の一つ一つに時間をかけたのと、もちろん祥子の頑張りもあって、最終的にはすべての懸案をクリアし、留学を果たした。

小学生となっていた弟の祥吾は、姉がアメリカに行く、とは聞かされていたが、その意味は本当のところ、良くわかっていなかった。

いよいよ空港からニューヨークに発つという時、祥子は「行ってくるね」といつものように弟の頭に手を置き、髪をなで、頬に手を下ろし、目元を探った。

「泣かないで。祥吾がニューヨークに来れば良いのよ」

目に涙を溜め、泣くのを必死に我慢している祥吾に気付いたとき、祥子は、両腕でぎゅっと弟を抱きしめた。それまで気丈にしていた祥子の目にも、思わずジワッと涙が浮かんだ。

その時、祥子は高校卒業したての18歳。弟の祥吾は、7歳で小学校2年生。大好きな姉と別れるには、祥吾はまだ幼かった。





“Morning, Shogo.”
「おわっ。クリス、いたの」

リビングのソファで、朝からオムツについての妄想を繰り広げていた田島は、不意を突かれたようなクリスの登場に、声が裏返った。

“Sorry. Did I scare you?”
「ノー、ノー。グッド・モーニング、クリス」

今日は仕事が午後からで、その代わり帰りが遅い、と説明しながらクリスはトーストを焼く。

クリスの仕事は楽器の注文販売。デザインからの製造と、整備・調律などのアフターケアまで何でも受け持つ。今日は、お得意の客のところに納品に行く、とのこと。

“Shogo, would you like to see our studio?”
「スタジオ?」

朝食を済ませた後、クリスに案内されたその広く大きな部屋で、まず目に付いたのは、ベランダに続く大きな窓と、その窓際に置かれたグランドピアノ。クリスが弾くものだ。

壁に作り付けのキャビネットには、祥子のクラリネットがずらりと並ぶ。部屋には他にもギターやバイオリンを始め、様々な楽器が所狭しとディスプレイされていた。クリスの仕事関係のものがほとんどだという。

グランドピアノのそばに置かれたテーブルには、コンピュータが設置され、様々な機材が周りを囲んでいた。

“This is our office.”
「すげえ」
“Shogo, feel free to use this room for your work.”
「マイ・ワーク?」

クリスは、キャビネットに並んでいるDVDのうちの一つを取り出して、「これを見て」と田島に差し出した。それが目に入ったとたんに、何ともいえない笑いがこみ上げた。

「これ、マイ・ソング」
“Shoko made it.”

それは、田島が今までにユーチューブにアップした曲を集めたディスクだった。「Shogo’s」とまず大きく記され、ユーチューブにアップした順にタイトルが並んでいる。

“Shoko must be the biggest fan of you.”
「アイ・ノウ」
“I’m jealous. No, joking.”

その手作りDVDを手にした田島は、凄く嬉しいような、かなり照れてしまうような、自分でも説明できない感情に包まれた。

しばしそれを見つめたあと、バレンタインのチョコレートを渡す女の子のように、伏せ目がちにそっとクリスに返した。

“Next song will be about New York?”

次の曲についてのクリスの問いには、軽い笑顔で曖昧に答える。そうして二人は、ドアを開いたままのその部屋から出た。

そのまま午前中はゆっくりと過ごし、午後クリスが仕事に出かけるのに合わせて、田島もギターを背負い、一緒に家を後にする。

“Have a nice day, Shogo.”
「バイ、クリス」

地下鉄の駅の方行くクリスに手を振った後、田島はアパートメントからすぐ近くのセントラル・パークに向かった。



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田島、外に出ました。ニューヨークの空気に溶け込めるのか。


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

クリス、いい人ですねえ^^
田島くんの曲、大事に聴いていてくれたんだあ。
感動と、照れくさそうな田島くんの表情が目に浮かびます。

田島くんが音楽に興味を惹かれたのは、お姉さんのことがあったからでしょうか。
それとも、音楽に惹きつけられる血を持ってたのかな、二人共。

遠く離れて生活していても、こうやって深いところでつながっているって、いいですね。

田島くんは、素晴らしいアーチストだけど、やっぱりお姉さんにはかなわないと、どこかで思ってるんでしょうね。だから、更に頑張る^^

田島くん、次はどんな曲を作ってくれるんでしょう。
2013.01.19 Sat 10:45
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

クリス、良い旦那さんです。
こんな旦那が欲しい。

田島が音楽に興味を惹かれたのは、DNA系かな。
ふふふ。イミフで^^
実はそこのところの設定を少ししてみたんです。
limeさん、するどい。けど、多分描かない(^^;)

田島はアネキには追いつくことすらできないでしょう。
なので、違う方向に行くのです。
それはどんな方向かなぁ~~(^^;)

またお越しください^^
2013.01.19 Sat 12:08
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

意外に無茶振りだ、姉よ。
目的もなくニューヨークには来れないと思いますよ。
・・・と思ってみる。
意外に外国で勉強する人は
それなりに選ばれた人ではありますからね。
大変です。
ショーゴも年月を経てくるのもすごいですね。
2013.02.02 Sat 20:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ははは。姉はこうしてみると、ドリーム・キャッチャーだったりして。
障害もあるので、たくさんの人に支えられて来ているはずです。
ま、本人も頑張り屋さんではあります。

> ショーゴも年月を経てくるのもすごいですね。

姉の方が、あくまでも弟を引き寄せるのです。この姉弟の場合。
不動の上下関係は変わることはないでしょう。たぶん(?)
2013.02.02 Sat 21:36
Edit | Reply |  

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