オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 98 

「あのね」
「すみません」

頭を下げる田島は、食事をするでもなくダイニングテーブルに着き、きちっと座っていた。

目の前の祥子は椅子に背もたれ、腕と足を組み、眉間を寄せた明らかに不快の表情を見せている。

時間は深夜。祥子は弟が帰ってくるまで、起きて待っていた。

「祥吾は、ここで一人暮らしするわけじゃないから」
「すみません」

祥子の前で、田島は両手を膝に当て、昼間に行ったセントラルパークで見たリスのように、小さく肩をすくめ、上目遣いで姉を見上げる。

「あと、ここ日本じゃないから」
「よくわかっています」
「わかってたら、こうはならないよね」

田島は、ずっと走ってきたためにゼーゼーと息を切らし、汗だくになってアパートメントにたどり着いた。

区間を走り切った箱根駅伝の選手が、意識を朦朧とさせながらも、次のランナーにたすきを渡す、そんな風にギターを玄関に預けて、自身は室内に倒れ込んだ。それがつい先程。

「ま、具体的には、ここはアメリカでもニューヨークってとこで、夜も眠らぬ摩天楼な街だけど、気をつけないと色々あるのよね」
「はい」
「何で若い女の子に言うようなことを、酔っ払いの弟に言わなくちゃいけないかな」
「いえ、酔いはもうとっくに」
「なに?」
「何でもありません」

祥子の、視線の無いヘーゼルカラーの瞳が、田島に向けられる。見えていないはずなのに、見られているようで、心苦しい。田島は、顔を向けることができず、目を落とす。

祥子は家に戻ったとき、ダイニング・テーブルの上に残された家のスペア・キーを見つけた時点で、弟のiPhoneに連絡を入れた。

「そうしたら、祥吾の部屋で鳴ってるし、こっちには一切連絡ないし」

祥子はそう愚痴をこぼして、「ったく」と大きくため息をついた。

クリスと共に家を出た田島が、家の鍵もiPhoneも忘れたのを思い出したのは、アパートメントのすぐ近くのセントラル・パークを散策していたとき。

―――やべ、締め出された。

玄関ドアはオートロックだから、外出するときは必ず鍵を持っていくようにと言われていた。

けれどもそのときは、「夕食の時間ぐらいに帰れば良いだろう」などと漠然と対策を練っただけで、その後自分の身に起こることなど、知る由も無かった。

田島は、目の前に広がるニューヨークの空の青さと、セントラル・パークの緑の美しさとに、ただ心を躍らせていた。

セントラル・パークは、ニューヨーク・マンハッタン島の真ん中に広がる都会のオアシス。大きな公園の敷地内には、丘や芝生、湖や池、そしてたくさんのモニュメントやランドマークが点在している。

様々な種類の草木に囲まれ、広々とした遊歩道に足を踏み入れる。夏の爽やかな空気の中をゆっくりと歩く。

「わー、リス。普通にいるし」

樹木を走るリスは、子どもの絵本に描かれたストーリーのように、幹の穴からかわいい顔を覗かせる。地面に降りてきて、木の実を器用に回しながらかじる姿を見せるリスもいる。

「フォトジェニックだなあ」

木々に囲まれた池を左手に眺め、少し上り坂になっている道をしばらく歩く。向こうから来る犬を連れた人、ベビーカーを押す若い母親、幸せそうなカップル、様々な人とすれ違う。

そして、のんびりと歩く田島の脇を、ジョギングで行く人、ハンバーガーをほおばりながら急ぐ学生風の人などが通り過ぎていく。

並木道を抜けて、公園の中心ともいえる噴水広場に着いた。天使の像と噴水がひときわ目を引く円形の広場だ。ここではたくさんのストリート・パフォーマーを観察することもできる。

ちょうどやっていた、ジャグリングのパフォーマンスを他の観光客と共に楽しみ、小銭を投げて先に進む。広場の前の湖にかかる白く美しい橋を渡り、遊歩道に戻る。

「この辺にしようか」

ぼそっとつぶやき、腰掛けたベンチからは、重厚な様式の石造りのお城が見える。田島はギターを抱えて軽く歌い始めた。

“Hey,boy. It’s very good.”

パチパチと拍手されたのに気付き、横を見ると、隣のベンチで缶コーラを手にした黒人のおじさんが、ニコニコしながら田島を見ていた。

“What’s your name?”
「あ、ショーゴ」
“You’re so cool,Shogo. Keep up”

そう言って、どこかに行ってしまったかと思ったら、ソーダを手にしてすぐに戻ってきた。それを田島に渡し、「頑張ってね」と言って、今度は本当にどこかに行ってしまった。

―――ニューヨーカーは、路上に慣れている。

そんな印象を受けた。

はじめは練習するつもりでセントラル・パークに来た田島だったが、褒められたことに気を良くしてスイッチが入り、その場でしばらく本気で歌った。

投げ込まれた小銭を目にして、「今日は良い一日だった」とクリスに報告できると思うと、すごく嬉しくなった。



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アネキ、めっちゃ怖い。田島、何した?


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

ありゃりゃ~。
田島くん、やっちゃったのですね。
お姉さんを怒らせるようなこと。

この感じは、まさに、しっかりお姉ちゃんと脳天気な弟。
だけど、笑ってはいられませんよね。
お姉さんは心配したんでしょう。

自由気ままに青春を謳歌している田島くん。
だけど、ちょっと気が緩んじゃったんでしょうね。すごくわかる。
そんな気の緩みが、大切な人を心配させちゃうんですよね。

でも、叱られてる田島くんが、かわいい^^
何やったか、まだ半分しかわからないけど。
もう少し(いや、もっともっと)叱ってやってください、お姉さん。
2013.01.22 Tue 18:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

たいした事ではないのですが、小事をやっちゃいました。
でも、アネキにしたら大事かな。

> この感じは、まさに、しっかりお姉ちゃんと脳天気な弟。
> だけど、笑ってはいられませんよね。
> お姉さんは心配したんでしょう。

携帯にかけて、部屋で鳴っているのが聞こえた時のがっかり感、ですかね。

> 自由気ままに青春を謳歌している田島くん。
> だけど、ちょっと気が緩んじゃったんでしょうね。すごくわかる。
> そんな気の緩みが、大切な人を心配させちゃうんですよね。

そうですね。思いやり、という点で、アネキとクリスから学ぶことがまだまだありそうです。
ワンコのエダからだって、教わることがありそうですよ。

> でも、叱られてる田島くんが、かわいい^^
> 何やったか、まだ半分しかわからないけど。

ははは。甘やかしてはいけません。

> もう少し(いや、もっともっと)叱ってやってください、お姉さん。

アネキにはビシビシといってもらいます。
まだたったの二日目ですから(それを何日かけて描く作者なのか・・・滝汗)
2013.01.22 Tue 20:38
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Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

お久しゅうございます
いつの間にか、舞台はニューヨークに来てる・・i-229

リスは、オーストラリアに
いっぱいいそう


さて、夢叶
呼び方は・・
ゆめかなう・・に再度一票!!
2013.01.23 Wed 13:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

おお。お久しぶりですねぇ。お元気そうで。

そうですよ~。ニューヨークに来てますよ~^^

リス、普通にいるんですよね、チョロチョロって。

> ゆめかなう・・に再度一票!!

これ、リードしていますねぇ。ふふふ。
最後のほうまで読んでいただくと、もれなく読みが・・・
で、最後がいつか。年内には終わらせたい・・・(滝汗)

またお越しくださいねー^^
2013.01.23 Wed 14:32
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - こんばんは~

いいですね~、行ってみたいな、ニューヨーク。
名前聞いただけでかっこいい街って、そんなにないですよね。

路上するショーゴも、リラックスしてるような雰囲気。
肩の力抜いて歌えてそうですね。
どんな展開が待ち受けているのか。

さてさて、手ごわい姉貴と、どうなりますか。
次回楽しみにしています!^^v
2013.01.23 Wed 23:36
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんばんは~

城村優歌さん、コメントありがとうございます。

私もー。ニューヨークは住んでみたい。

ニューヨークでは路上は日常なんですよね。
やる方も見る方も楽しそう。
ショーゴももうすぐ本格的に始めます。

が、その前に、アネキに怒られています(^^;)
なかなか先に進めない奴、てか作者・・・
2013.01.24 Thu 07:12
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

この辺はニューヨーカーですね。
東京もそうなんでしょうけど、
こういう街並みだからこそ歌が映えるのでしょうね。
殺伐としているからこそ、
路地の歌っていうのはそれだけで
彩りになりますからね。
私も多分お金いれると思います。
2013.01.24 Thu 20:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ニューヨーカーは気さくですよね。
東京の路上もあちたこちらでありますよね。
外人さんもやってる。
表現の場が色々あって良いなあと思います。

> 殺伐としているからこそ、
> 路地の歌っていうのはそれだけで
> 彩りになりますからね。

ホントそれだけで違う景色と空気になりますね。

> 私も多分お金いれると思います。

まいど^^
2013.01.24 Thu 21:42
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 音楽一家

やはり音楽の才能は受け継がれていくのでしょうね。
こうして才能のある男性と結婚した祥子さんの血も、遺伝していくんだろうな。

うちにはその手の芸術の血は流れていません。
子どものころから私は本好きだったのですが、「本ばかり読んでないで家の手伝いをしなさい」と言われました。
それで隠れて本を読んでいて、目が悪くなったのですね。
本だったらいくらでも親が買ってくれた、と言う友達の話を聞いてうらやましくて。

でも、祖父がものすごーく下手な絵(絵って年齢があらわれますよね。祖父の絵は明治時代してました)を描いていましたので、下手なくせにやりたがる血は引いているのかもしれません。

また脱線してしまいましたが。
家族が今年の暮れにニューヨークに行くのですよ。最近はハーレムなんかも昔ほど治安が悪くはないと聞きましたが、お姉さんが弟をこんなに心配するのだから、「日本ではない」のですよね。
けいさんはニューヨークには行かれたことがあるのでした?
2013.09.05 Thu 12:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 音楽一家

あかねさん、コメントありがとうございます。

DNAは受け継がれていくのですよね。不思議。
コピーではないところが面白いです。
どんな風に、というワクワク感が残ります。

はは。あかねさんは、おうちの方に怒られるほど、隠れて読むほど、本大好き少女だったのですね。それが高じて今は書く側に。自然ですね。
私も本には興味があって、でも、それと実際に読むかというのとは話が別で(-_-;)
文を書くも、絵を描くも、かくアートですね^^

おお。ご家族がニューヨークに。
ニューヨークのクリスマスは素敵らしいですよ~。
私も昔ほど治安は悪くはないと聞いています。楽しめますように。
「日本ではない」ところではあるので、お気をつけて。
私は一日と一晩だけ、行ったことはあるのですが、はるか昔で今となっては思い出せない(><)
2013.09.05 Thu 17:16
Edit | Reply |  

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