オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 100 

「その太鼓教室にセーちゃん先生、っていう先生がいてね」

その名まえが出たとたん、田島の心臓がドクンと跳ねた。

「若いんだけど、凄いんだこの先生が。パワーとスピードがあって、スキルが高くて、それでいてセンシティブ。音がドーンってお腹に響くの」

ナタリーの話を、息が詰まるような思いで黙って聞く。

「鏡太鼓の先生たちは皆凄かったけど、セーちゃん先生が一番だったね。打ちすぎて、ばち折っちゃったりするの」
「そいつ、成太郎って名まえ?」

ザワザワと胸が騒がしくなるのを感じながら、田島は訊ねた。

「ソイツ、なんて苗字じゃなくて、カガミ。カガミ・セイタロウ先生。そういえば、ショーゴと同じくらいじゃない? ショーゴって、何歳?」

ナタリーは、自分のことを穴が開くほどに凝視してくる田島を、まじまじと見つめ返した。

「成ちゃん」

―――全然、変わってねえ。

こんなところで、唐突に挙がったその人物の消息について、今の田島には受け入れる準備も、心構えもなかった。ただ数年前の、まだ自分が知っていた頃の映像だけが、目の前でちらつく。

「そう。みんなセーちゃん先生って呼んでる。先生は腕っ節はあるのに、普段はすごく優しい。太鼓の前では、冬でも汗だくで打っているのがかっこ良くて、惚れたわ」

思い出が昨日のことのように甦る。田島の呼吸は浅く速くなり、頭がクラクラしてきた。それは、酸素不足のせいでも、酔いのせいでもない。

―――やっぱり、成太郎は続けていた。打っている。

ずっとそうだと、信じていた。けれども、今までそれを確かめるすべが無かった。それがはっきりと確信できると、一気に胸の鼓動が高まった。

「先生は民謡界では若手の超有名人。だからショーゴも知ってたの? 若いのにかわいい奥さんがいて、子どももいるんだよね、良いダディー。あれ、ショーゴ、どうしたの?」

ナタリーの明るい声は、もう田島の耳には入っていなかった。我慢できなくなり、目頭を押さえる。目尻からは涙がどっと溢れ、いくすじも頬を伝っていた。

「ショーゴ、私何か悪いこと言った? だったらゴメン」

ナタリーは驚いて、田島の肩に手を置き、顔を覗き込んだ。

「違うんだ。ナタリー、成ちゃんのことが聞けて・・・」

田島は、嗚咽を押さえて泣き笑いを見せるが、肩の震えと涙が止まらない。

「ショーゴ、大丈夫? セーちゃん先生がどうかしたの? 先生はいつも元気だったよ」

ずっと連絡の途切れていた鏡が、今何をしているのかがわかって、それが自分の想像していた通りで、田島は嬉しいはずなのに、どうしてなのか涙が止まらない。それどころか、後から後から溢れてくる。

「やだ。ショーゴは、酔うと泣くタイプなの?」

ナタリーは、泣きの収まらない田島の肩や背中をさすりながら、自分のバッグからティッシュを出して渡してやった。

「そうだ、ショーゴ、カラオケに行こう」

ナタリーはふと思いつくと、会計を済ませ、泣きじゃくる子どもを連れる母親のように田島の手を引き、とにかく外に連れ出した。

眠らない街、ニューヨークの通りは、田島を起こすのに十分明るかった。その灯りを目にして、田島は自分が今どこにいるのか、何をしに来たのかを思い出した。

「ごめん、ナタリー。成ちゃんと俺は・・・」
「イイよ。気にしないで。私、なぐさめ上手。サラリーマンの味方」

ナタリーは、恋人つなぎをした田島の手をしっかりと握り、「こっち」と引っ張って行く。

「カラオケに行きたかったんだけど、お一人様じゃね。だからショーゴ、一緒に行ってよ。お願い。ニューヨーク最後の夜だから」
「カラオケ? ニューヨークで?」
「そう。ニューヨークには、何でもあるのよ」

入ったカラオケ店は、レセプションにアメリカ人が立っているだけで、日本のそれと変わらなかった。

ニューヨーク観光の最初が公園にパブにカラオケか、とも思ったが、田島は久しぶりに入ったカラオケで、ナタリーと一緒に歌いまくった。

「ショーゴ、歌うまい。惚れる」

ナタリーは上機嫌で、何度も田島に抱きつき、頬にチューとキスもしてくる。

―――ナタリーはキス魔か。こうやって飲み友達を作っていたのか。

はじめは驚いたが、田島も酔ってしまって、何も考えずに、ただこの時間を楽しんだ。

「ニューヨークは、アニソン少ないね」
「ナタリー、日本人より日本人ぽい。何そのオタクな発言」
「カラオケとアニメは日本の代表的な文化。オタク上等。まだまだ行くよ」

散々、二人で飲んで歌って満足し、いい加減店から出ると、田島はここで初めて時間が気になった。

「エット、ちょっと、待ってください」

一気に酔いがさめるような時間だった。そして、帰り方がわからない。最寄り駅の名前だけは何とか覚えていて、ナタリーが地下鉄の入り口を探してくれた。

「私はバスで帰るから」
「じゃあ、バス停まで送るよ」
「大丈夫。何かあったら、相手ぶっとばす」

「え」と流し目を送る田島に、「ニッ」と笑ってナタリーは硬そうな細腕を上げて見せた。きっと日本で空手もしたにちがいない。

「今日は楽しかった。ショーゴ、一緒に飲んでくれてありがとう」

最後にナタリーは、両腕を田島の背中に回して、ギュッとハグをした。田島も海外生活が長くなり、こういうスキンシップにも大分慣れた。

「ニューヨークの生活を、楽しんでね。All the best」

ナタリーは、田島の耳元で囁き、チュッと軽く頬にキスをして、「See you」と小走りで行ってしまった。

―――ナタリー、面白くて良い奴。本名何だろう。

そういえば、フェイスブック。「ナタリー」で見つかるのだろうかと、いらないことがちょっとだけ気になった。



< 前話  TOP  次話 >



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




田島、久々に泣く、の巻き。

そして『夢叶』連載100話。来ました(何気に嬉しうるる)

ここに来てやはり、物書きは難しくて、深くて、けれども楽しいなあ、ということを改めて実感します。

そして何よりも、ここまで来られたのは、本当に皆様がいつもいつもご訪問くださり、温かい目で見守ってくださるお陰です。感謝いたします。

まだまだ拙い文章しか綴れない物書き初心者ですが、毎回心を込めてお贈りしますので、これからも宜しくお願い致します。

どうぞまた、田島と仲間たちをチェックしにお越しください^^


けい m(__)m


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - 祝、100話

ついに100話ですね。
大長編になってしまった夢叶。
そして、その記念日に、田島くん、泣く><

まさか、こんなニューヨークのど真ん中で、昔の仲間の消息を聞くとは。
まさに奇跡。いや、神様の贈り物かな?
嬉しいのといっしょに、どこか切ない田島くんの涙ですね。
男の子の涙は、いいもんです^^
女の子の涙は、あまり見たくないんだけど(爆

ナタリーとはこれでバイバイなんですね。
キス魔のナタリー。けっこう好きだったんですが。(嗜好がちょっと最近、変)
2013.02.02 Sat 10:53
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 祝、100話

limeさん、お祝い(?)ありがとうございます。

このお話とは長い付き合いになりそうです。
半分は超えているので、200話は無いです。
けど、まだしばらくは終わらない(--;)

嬉しいけど泣ける、っていう経験、ありますよね。
金メダルとって泣ける、みたいな。
田島の泣きはそんな気持ちです。
きっと、神様の贈り物です。

ナタリーは、ここでちょい出て、良いとこ取り、そんなキャラになったような(^^;)
limeさんのお気に入りリストに入れてもらえると、きっと喜びます。
キスされるかも。良い?
2013.02.02 Sat 12:36
Edit | Reply |  

Name - ソライエ  

Title - 『夢叶』連載100話!

そういえば、『夢叶』58話あたりまで一気読みしたのはいつだったかしら?
などと思いながら。。。
100話ですか。感慨深いですね。
思えば遠くへ来たもんだ、ですね。

さて、田島君次はどこへいく?(笑)
2013.02.02 Sat 14:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 『夢叶』連載100話!

ソライエさん、コメントありがとうございます。

そうですね。思えば遠くへ来たもんだ、です(^^;)

書き始めは100話、ぐらい、を目標にしていたので、それは一応達成。時間かかった。
お話的には全然終わらん・・・(--;)

次は・・・しばーらくニューヨークに居ます。そして!
なんちて。新たな出会いがあって、どうしよ、100話記念にネタバレしようか・・・

いやいや、それとこれとは別ってことで。ははは。
ネタチェックにまたお越しください^^
2013.02.02 Sat 17:44
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - 祝! 100話!

おめでとうございます。100話ですね。
でも、まだこれからの感、ありありですね。
最終回はまだまだのほうがいいです。
楽しみが続くから~^^


昔の仲間の消息が聞けた、ということは、
ショーゴの中にどんな変化が……。

しかし、ナタリー、おいしすぎる。
ワシも一緒に飲みたい、歌いたい。
アニソンもボカロも、どんとこいにゃー!
2013.02.02 Sat 22:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 祝! 100話!

城村優歌さん、お祝いありがとうございます。

まだこれからですぅ。ありありですぅ。
申し訳ないくらいに長くなりそうで、描ききれるのかという感じです。
けど、収めます。年内には(←そこが目標なのか --;)

> 昔の仲間の消息が聞けた、ということは、
> ショーゴの中にどんな変化が……。

成ちゃんのこと、覚えておいてください。
今はそれだけ(^^;)

> しかし、ナタリー、おいしすぎる。
> ワシも一緒に飲みたい、歌いたい。
> アニソンもボカロも、どんとこいにゃー!

ナタリー、良いとこ取りキャラになったなあ。
みんなで飲んで歌って騒ぐのにゃー!
2013.02.03 Sun 08:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 

何気に・・・

20000アクセス達成! 

めっちゃ嬉しい。皆様、ご訪問ありがとうございます。感謝^^

自分、20001踏んじまった(-_-)

20000の方はどなたかなぁ。

えっと、エアハグムギュ~、で良ければお礼で(^^;)

2月節分。春は確実に訪れてきているのでしょうね。

皆様、お体にお気をつけて、ご自愛くださいね^^

ではでは。


けい m(__)m
2013.02.03 Sun 08:47
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

20000アクセス達成、おめでとうございます。
もっと、どど~んと、報告してくださいよ~~ww
でも、うれしいですよね。アクセスが増えていくの。
アクセス記念で短編とか作る方が多いけど、いいなあ~。
一回やってみたいけど、全く最近は余力が無く。

あ。そちらでは豆まきとかしないですよね(そりゃそうか)
我が家も、最近やってないです。
鬼が、住み着き放題です。
2013.02.05 Tue 07:53
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

limeさん、ははは、ありがとうございます。

控えめにどど~んと、いきます。
普通はキリリクとかするんですか。私には無理(-_-)
limeさん、是非^^

豆まきとかね、しないですね。でも、豆は食べたい。
けど、売っていないのです。え~~。
他の豆はあるのに、この豆まきのマメは売ってくれない。なぜ。
これをいただきたいのに。年の数だけ。この時だけ歳に正直になる(^^;)

鬼? デーモンか、ゴブリンか、誰か。ふふ。誰かなぁ(?)
2013.02.05 Tue 16:31
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

お、100話おめでとうございます。
ここまで続くと感慨深いものがありますよね。
ショーゴもアメリカで奮闘していますし。
これからも読ませていただきます。
2013.02.08 Fri 18:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

とりあえず、目安にしていた数字までたどり着いた、という感じです(^^;)

ショーゴはしばらくアメリカに滞在して、色々と奮闘します。
そしてですね・・・ふふ、まだ続く・・・

いつもありがとうございます。
またお越しください^^
2013.02.08 Fri 21:02
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

セーちゃん先生って、まさか…!?

田島くんと一緒に泣きそうになりました!
まさかニューヨークでその話を聞けるなんて。

ナタリーもいい人で、お姉ちゃんも愛があって、いいなあ。

アメリカ編も楽しみです^^

そして、100話おめでとうございます!!
2013.08.27 Tue 20:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

はい。まさかのあの人のことです^^
こんなところで噂だけ。
田島はちょっとでも事実が見えてそれが嬉しかったらしい。

アメリカ編も色々あって長くて(汗)
100話のあとは(も)、未知の世界を渡り中です。
まだまだよろしくお願いします^^
2013.08.27 Tue 22:20
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

ついに百話まで来ました。

ほんと、祥吾くんなにしでかしたんだろう……(^^;)

ホールドアップされて現金を……持っていないから、別の、いやまさか、そんな(←妙なことを想像しているらしい(^^;))
2013.09.11 Wed 17:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

お。いつの間にここまで。コメントありがとうございます!

> ほんと、祥吾くんなにしでかしたんだろう……(^^;)

大したことを起こした訳ではないのです。
大掛かりなトリックとかもちろん私描けませんからぁ(><)

> ホールドアップされて現金を……持っていないから、別の、いやまさか、そんな(←妙なことを想像しているらしい(^^;))

現金を持っていないところは当たりです(何かトピックが違うような・汗)
妙なことって、どんなことかなあ~(そっちが気になる)

是非またお越しください^^
2013.09.11 Wed 20:17
Edit | Reply |  

Name - 100にたどりつきました  

Title - No title

のろのろとしか読んでないので、遅くなってますが、100話到達です。
こんなところでセイちゃんのお話を聴くなんて、そりゃあ涙が出てしまいますよね。
成太郎くん、元気でがんばってて妻子もいるみたいで、私も嬉しかったです。

けいさん、日本語で喋る外国人の描写もお上手ですね、さすが。
昔、職場にベトナム人男性がいまして、こんなふうに喋ってたのを思い出しました。

日本に来たらするべき、10のこと、関西バージョン。

京都で明治維新の史跡を見る。
ついでだからお抹茶とお茶菓子をいただく。

滋賀・彦根のひこにゃんと会う。
ついでだから琵琶湖を見る。

奈良で鹿と遊ぶ。
和歌山で魚の市場を見る。

大阪、道頓堀界隈を散歩する。吉本お笑い芸人の着ぐるみも見て下さい。
神戸の異人館散歩。外国人にもノスタルジックかな?

日本三景のひとつ、天橋立に行く。
関西各地のお城を見にいく。

非常に月並みですが、考えてみました。
けいさんが外国人の方を案内してこられるときには、ひとつくらいためしてみて下さいね。

2013.09.13 Fri 13:29
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 100に……

この前のコメントの「名前」がとんでもないことになっています。
タイトルとまちがえました。

あかねでした。失礼いたしました。
2013.09.13 Fri 13:32
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

100にたどりつきましたさん・・・ぷぷぷ。
100話までたどりついていただけてとても嬉しいです^^

書くほうものろのろで迷走していますが、
読んでいただけることが本当に励みになっています^^

成ちゃんがセンセイになって噂のみの登場です。
予期しないところから出てくる話って、驚くんですよね。
田島の引っ掛かりがまたひとつとけました。たぶん(^^;)

> 日本に来たらするべき、10のこと、関西バージョン。

おおお。これは凄いです! ありがとうございます。
関西方面は(も)あまり行ったことがないのでとても参考になります!

外人を連れて行くときはお決まりコースが多いのですが、
個人で行くときは色々と足を伸ばしてみたいですね。
初めて行くという点では、外人と変わりないかも。

日本は良いところ満載で、短期滞在では見きれません(><)
もっと見せてあげたいし、自分も見たい!^^
2013.09.13 Fri 23:01
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

祝100話(って、遅っ!

いきなり出てきたねぇ〜、鏡君。
田島君、感動の涙かな。
様々な記憶とか、色々な想いとか、たくさんの感情があふれ出てきちゃったのかな。
こういうときって、あるよね。意図せずに出てきてしまう涙。
ちょっと切なくて、熱くて、自分じゃ止められない涙。

うーん、感極まるかんじのシーンでした。
2014.01.13 Mon 13:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

お祝いありがとうございます。
西幻さんにもここまで来ていただけて、嬉しいです^^

200はないと自分の中ではキーなのですが・・・いや、ないっすマジで(-_-;)
銀ちゃんのシリーズ第一作を100話まで行ったとき、あともう少し、と思いながら最後まで一気に行ったことを思い出します^^

> 様々な記憶とか、色々な想いとか、たくさんの感情があふれ出てきちゃったのかな。

そうなんです。成ちゃんの話が突然出てきて、泣くしかできなかった田島です。
こんなに弱くて、この先ニューヨークでやっていけるのか(-_-;)
という感じなのですが、また追っていただけると嬉しいです。
2014.01.13 Mon 15:16
Edit | Reply |  

Add your comment