オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 102 

田島は、昔から姉とは良く話をするのだけれども、ほとんどが祥子の問いに答える、という形で会話が進む。

「祥吾はバスキングをして、それで、どうしたいの?」
「どう、って・・・」

田島の場合、曲を書くのは「聞いてくれ」みたいな大げさなものではなく、もっとずっと気楽なもの。

「俺は歌うことが好きだからまずそれで、俺の歌を聴いて楽しんでもらえればそれは嬉しいことで」
「バスキングして、自分の歌を聴いてもらう、それだけじゃ片道通行なんだよね」

田島は、祥子の意図することを探ろうと顔を覗く。けれども、祥子の目に視線がない分、表情からは何も読み取れない。

「歌を聴いてもらいたくて、歌ってみて実際どうだったの? 誰かが祥吾の歌を聴くとき、祥吾には何が聴こえたの?」

それは何の音か? それはどこから聴こえたのか? それが聴こえたときに何をどう感じたのか? そこからなにがわかったのか? どう理解したのか? 祥子はたたみかけるように訊ねてくる。

「歌うことは、話すことと一緒。歌詞は言葉、曲は感情。誰かと話をするとき、自分ばかりが喋るんじゃなくて、相手の話も聞くでしょう。それと同じ」

そして、祥子は再び田島に、バスキングで何を聴いてきたかを訊ねる。

「聴こえたのは、拍手、人の声、足音・・・」
「拍手はどこから聴こえてきたの? 前からだけ? どのくらいの人が祥吾に拍手をくれて、どんな風にくれたの? 拍手喝采だったの、パラパラ程度のものだったの、それが聴こえたとき、祥吾はどう感じたの? 感じたことを、どう返したの?」

田島の答えが詰まる。祥子は、田島がどう答えようとも関係ないかのように、問い続ける。

「祥吾の歌を聴いてくれた人は、どんな人だった? どこから来て、どこに行く人? どうして立ち止まって聴いてくれたの? 祥吾には、集まって聴いてくれた人の、どれだけのことがわかった?」

ここでやっと考える時間を与えられる。ビデオの編集をするように、今日やったことを思い出してみる。

頭の中に浮かんだ映像は、自分の前に人がいないところから始まる。それからの情景が、映画のメイキングを見るように流れ出した。

「少しづつ立ち止まって聴いてくれる人が増えて、拍手もチップももらえて」
「コミュニケーションは?」
「サンキュー、とか」
「それだけ?」

祥子は、英語がどうの、などとボソボソつぶやく弟には耳を貸さずに、「明日、私と一緒に来なさい」と『スタジオ』を後にした。



次の日、田島が先を行くエダと祥子に付いて連れて行かれた先は、州立の盲学校だった。ニューヨークシティー郊外の、広々とした敷地内にある建物のフロント・オフィスで、ビジター登録をして中に入る。

祥子は、この学校のほとんどと知り合いなのだろうか、と思うぐらいに、すれ違う人ごとに「ハイ」と挨拶をしながら歩みを進める。

「ハイ、メアリー」
“Hi, Shoko. Hi, Edda.”

いくつか教室を過ぎたあと、小さな部屋をノックして中に入ると、小柄で濃い赤のチュニック・ドレスを着た若い女性が祥子を迎えた。

田島は祥子から弟だと紹介され、メアリーと握手をした。度の強そうなめがねを通して見えるブラウンの瞳は深く、真っ直ぐに田島を捕らえていた。

メアリーはこの盲学校の教職員で、音楽を担当している。夏休みのミュージック・クラスを企画し、子どもたちを指導している。祥子はボランティアで毎年クラスを手伝っていた。

学校のサマー・スクールのプログラムの中でも、体験型のこのミュージック・クラスは毎年人気が高いのだという。

“Kids have been waiting for you, Shoko.”

祥子とメアリーは、簡単な打ち合わせをしてから、教室に入っていった。子どもたちが「ショーコ」「ショーコ」とざわつき始める。そこには小学校高学年から、中学校ぐらいの学年の子どもたちが、十数名ほどいた。

「ハイ、エブリワン」

祥子の声かけに、クラスが元気に答える。昨年のサマー・スクール以来、1年ぶりの再会に、祥子も子どもたちも声が上がる。

“Is Edda there?”

もちろん、エダのことも覚えている子どもたち。祥子は「ちゃんと今日も一緒に来ているよ」と答えて子どもたちを安心させる。

間もなく、祥子がクラリネットでリードし、メアリーがピアノで合わせるという二重奏でデモンストレーションが始まった。

子どもたちは皆それぞれに、教室を流れる音楽に聞き入っている。手拍子を打つ子、足を鳴らす子、上半身を揺らす子、首を振る子、じっと聞くだけの子もいる。

同じ教室に入り、田島は目を凝らし、良い子で伏せをしているエダの横でじっと耳を澄ませていた。

子どもたちは程度の違いはあれども、皆それぞれに視覚の障害を持っている。祥子の障害は重いほうで、ほとんど見えないに等しい。

祥子には子どもたちが見えない。子どもたちにも祥子が見えない。そんな環境の中で、どんなことがなされるのか、田島はそれを見なければならなかった。

拍手と共に、祥子とメアリーのデモンストレーションが終わり、子どもたちの番となる。子どもたちの使う楽器はリコーダー。メアリーが説明をし、祥子が実演と補足をする。

音楽の好きな子どもたちが、集まっているのだろう。みんな真剣に自分のリコーダーに取り組んでいる。

そんな中、教室の片隅で気配を消すように立っていた田島は、そっと目を閉じてみた。



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田島は、どんな事に気付くのか。


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皆様の一日が平和でありますように。

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Comment

Name - lime  

Title - No title

いいですねえ~。この姉と弟の関係。
お姉さん、田島くんに大事なことを気づかせてあげられるでしょうか。
(私も知りたい)

路上で演奏するアーティストと、立ち止まってくれる人々の間に発生するものは、なんなのでしょうね。
田島くんは、ただただ、自分の作ったものを聞いて欲しいという純粋なキモチ。それは間違っていないですが。
でもきっと、足りないものがあるんですね。

目を閉じて無になった田島くん。
何を感じ取るんでしょうか。

姉弟って、いいなあ~。(しみじみ)
2013.02.21 Thu 18:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

この姉弟、離れて暮らしている時間のほうが長いのですが、仲は良いらしい。
アネキが何を教えてくれるのか、私も知りたい(^^;)

> 路上で演奏するアーティストと、立ち止まってくれる人々の間に発生するものは、なんなのでしょうね。
> 田島くんは、ただただ、自分の作ったものを聞いて欲しいという純粋なキモチ。それは間違っていないですが。
> でもきっと、足りないものがあるんですね。

なんなのでしょうね。ホントに。
それは田島がずっと追っていく課題のようにも思います。
足りないものは、とりあえず、経験がまだまだ足りないのです。
まだまだ成長の過程です。(えっと、作者も・汗)

> 目を閉じて無になった田島くん。
> 何を感じ取るんでしょうか。

集中します。
(こっちは描くのに集中できないっていうのに ><)

> 姉弟って、いいなあ~。(しみじみ)

ホント、家族って、良いですよね~(しみじみ)
2013.02.21 Thu 20:48
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

わ、だめだ、涙があふれる。
この、言葉以外で繋がる感じ。
あたたかい、そして、気持ちの清清しさ。
神々しよショーコ、女神みたいだ。


と、書いて、祥子と祥吾、さすが姉弟。
名前は誰かから一文字取ったのかな。
おとうさん? おかあさん?
そんなことまで考えてしまった今回でした。
2013.02.22 Fri 10:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

むむ。城村さんを泣かす場面はどこだ。わからん・・・(-_-;)

アネキはねぇ、さすがです。
身内なので容赦ないです。
言われたことのすべてに、はい、と答えざるをえない、みたいな。

この姉弟にはもちろん両親がいて、ちょい設定はあるのですが、お話の中に登場するかな。どうだろう・・・
名まえのつながりには、家族のつながりを感じますね。
2013.02.22 Fri 21:46
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

私も姉がいますけど、仲はいいですね。
今でも付き合いありますし。
姪や甥の世話もしてますし。
そういうのは続きますね。
しかし、国際派な二人ですね。
2013.02.23 Sat 15:50
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

きょうだい仲良しなのは良いですよね。
ちゃんと交流もあるのも素敵です。

うちは物理的に離れているので、スカイプをしています。
便利な世の中です。

田島家はアネキが国際人ですね。
弟はアネキから教わることがたくさんあります。
2013.02.23 Sat 17:20
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 聴こえる

人がストリートミュージシャンをしている。ストリートに限らず、どこかで演奏している。
そんなとき、その人は「聴かせる」ほうに心を砕いていて、「聴こえる」ことは意識していないのかと思っていました。
私がこういったシーンを書くと、「なにが聞こえた?」なんて発想はしないだろうなぁ。そっかぁ、自分が人に音楽を聴かせているとき、なにが聴こえていたか、ものすごく新鮮な発想で、感じ入ってしまいました。

台湾に行ったとき、ファッションビルの前でギターを弾いていたひとがいたのです。どこかで聴いたことのある曲……あ、尾崎豊の「I love you」だ。
異国で聴いたあのときの日本の曲を思い出しました。
2013.09.21 Sat 11:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 聴こえる

あかねさん、コメントありがとうございます。

アネキは目が不自由なので、普段聴いたり感じたりしているほうが断然多いのです。
だからそういう発言になったのかな。

路上では、周りにいるのは自分のことに注目してくれている人たちばかりではないので、
そんな雑多な音もあるだろうとも思いました。

台湾で尾崎豊の「I love you」の路上ですか。しみじみしそう。
私はメルボルンで週末休みの銀行の前で「リンダリンダァ~~」とギターをかき鳴らしていた日本人青年を見たことがあります。
もう、その度胸に超感動。このシーンを『夢叶』(83話)に使ったくらい。(ほんの一行ですけど・汗)
2013.09.21 Sat 13:57
Edit | Reply |  

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