オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 103 

祥子と違って田島には見える。「見える」とは、どういうことなのだろう。教室に子どもたちがいるのが見える。

何人いるのか、年齢がどのくらいなのか、男の子なのか、女の子なのか、どんな服装をしているのか、どんな様子なのか、それらがすべてわかる。それが「見える」ということ。

人が視覚から得る情報は、全体の80%。そして、残りの20%は、視覚以外のところから得る情報である。その20%の情報は、田島には「見えない」。そして、それが祥子の持っている情報なのだ。

「目で見る」のではない。祥子は、見せたいのではない。そう思う。だから、五感で探る。視覚以外から得られる20%の情報を活用する術(すべ)を体験するために、目を閉じ、心を開く。

―――聞こえる。何の音? どこから聞こえる?

リコーダーの音、リコーダーを吹く子どもたちの息。子どもたちの声。祥子とメアリーの声。机や椅子が床とすれる音。前から、後ろから。あちらこちらから様々な音が聞こえてくる。

さらに耳を澄ます。集中する。

ふと目を開いて確認すると、そこにメアリーがいた。音の無いところだった。傍らに、リコーダーを手にはしているものの、何もせずにただ無表情に座っているだけの男の子がいた。

男の子の手を取り、丁寧に指導しているメアリーを目にして、教室の隅々にまで張り巡らされた情報網に唸る。

再び目を閉じ、今度は、聞こえる音と、聞こえないものとに気を配る。

―――コミュニケーション? してる?

田島は、何かが行ったり来たりするのを感じていた。それは子どもたちが練習するリコーダーの音であったり、祥子やメアリーの説明に対する応答の声であったりするのだけれども。

―――音だけじゃない。

それを探っている途中で、「祥吾、どこにいる?」と祥子に呼ばれた。隣でおとなしく「伏せ」をしていたはずのエダが、頭を持ち上げ「ここにいる」と知らせるように「クウ」と答える。

「お前は、本当に良くできた子だなあ」

降参したように田島はエダの頭を軽くなでて、さっと祥子のもとに行った。

「ディス・イズ・マイ・ブラザー、ショーゴ」

祥子から紹介され、前に立つ田島に、子どもたちからの気が一斉に向けられる。田島に顔を傾ける子、耳を傾ける子、皆それぞれに歓迎してくれている様子。

メアリーから渡された学校のガットギターで、今日、子どもたちが練習している曲を軽く弾くと、みんな「わー」としゃぼん玉がはじけるように興奮した。

つい先程、教室で感じた、祥子とメアリーと子どもたちの間にあったもの。音でないそれが、何であったのかを探ろうとしてみる。

「ヒア・ウイー・ゴー」

田島の弾くフレーズを、子どもたちがリピートする。「弾いた通りに、繰り返してね」と言ってから始めた。

まずは、シンプルなフレーズをいくつか。子どもたちは、「そんなの簡単」とばかりに得意げに付いてくる。みんなの笑顔が見える。

さっきは何もせずに、メアリーが付きっきりで教えていた男の子も、田島の方に目を向け、何となく指を動かしている。

「ディス・ワン・ネクスト」

だんだんとテンポを速めていく。フレーズも複雑なものに。みんな上目遣いで田島を見つめ、耳を傾け、必死の表情で自分のリコーダーを操る。

メアリーがしていたように、一人一人の子どもたちに目をかける。自分に子どもたちの何がわかるだろうかと、全体に気を配る。

「ハウ・アバウト・ディス・ワン!」

さあ、これはどうだ、という早弾きをする。子どもたちが、「えー、そんなの無理」と文句を言う。「弾いた通りに、繰り返してね、って言ったでしょう」と、返して笑いを取る。

盛り上がったところで、祥子が「はい、それまで」と時間を切ると、子どもたちからがっかりする声が上がった。

“Don’t worry. We all play together now.”

メアリーがうまくまとめる。最後に、メアリーのピアノ、祥子のクラリネット、田島のギター、子どもたちのリコーダーで、大合奏をして、今年のミュージック・スクールを終えた。

保護者が迎えに来て、子どもたちが帰る。ひとりひとりとハグをしてバイバイする。子どもたちは、祥子のそばにいるエダともハグをしたり、イイコイイコと頭をなでたりするのを忘れない。

今日のクラスで、一番おとなしかった男の子の笑顔も見える。はじめは表情なく、メアリーがそばについて指導していた子だ。

「ワッツ・ユア・ネーム?」
“Ben.”

名まえを尋ねる田島に、男の子が元気に答える。

“Hey, Shogo. You are awesome.”
「ユー・トゥー、ベン」

「来週も来てくれる?」と目を向けるベンに、「来週?」とただ眉をハの字にして見せ、ハグをする。向こうでメアリーが、ベンの母親らしき人と笑顔で話をしていたのが印象に残った。

子どもたちが保護者に引き取られて帰ってしまったあと、教室でメアリーと祥子が、来年もまたやろうと盛り上がっていた。

“I believe kids loved Shogo.”

「ショーゴは来年は?」とメアリーから振られるが、田島は苦笑しか返せない。祥子もこういうときは笑うだけで、フォローを入れてくれない。

とにかく、「ナイス・トゥー・シー・ユー」とメアリーともハグをして、祥子と共に盲学校を後にした。

「祥吾、今日、子どもたちから何が聞こえた?」

帰り道。復習のように祥子から問われる。今日は即答できる。

「色々。たくさん。いっぱい」
「どんなこと?」
「言い切れないから、言わない。つーか、秘密」
「何それ。何か嫉妬メラメラする」
「メラメラ? 誰に?」

祥子は「ふふ」と小さく笑うだけで、エダと先に行ってしまう。田島が「秘密」と言っても、祥子はわかっているのだろう。

いつか、この姉よりも先を歩いてみせる。そう思いつつも、今は置いていかれないようにと、付いていくために足を早めた。



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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

あーやばいよー、こういうの弱いんだよー。
泣きツボだったりするわけだよ。
うわー、ちくしょー。

と言いながら読みました。
言わいでかな。

目は多いに他の知覚を補っているところ、ありますね。

祥子。ジェラすwww

2013.03.06 Wed 14:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

で、泣いた?
どうも詰めが甘いのが、最近の悩みです(-_-;)
もっとぎゅぎゅっと絞めたいのですが・・・(何を? 誰を?)

> 目は多いに他の知覚を補っているところ、ありますね。

そうですね。自分が普通に見えることに改めて感謝です。

> 祥子。ジェラすwww

ふふ。良いところを持って行かれて、メラメラです^^
2013.03.06 Wed 16:07
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Name - LandM  

Title - No title

見るというのは奥が深いですよね。
みるだけでもたくさんの漢字がありますからね。
それら総じてみるというのでしょうが。
2013.03.06 Wed 17:36
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

> 見るというのは奥が深いですよね。
> みるだけでもたくさんの漢字がありますからね。
> それら総じてみるというのでしょうが。

そうなんです。80%ですから(リサーチしました ^^;)
空間をみることにちょい興味があって。

絵描きさんは、空間を描くときはどうみているのかなあと。
物書きさんで、空間を描ける方はやはり素晴らしいなあと。
うーん・・・深い(><)
2013.03.06 Wed 18:53
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

目を閉じて、お姉さんの世界を把握しようとしてる姿が、すごくリアルに想像できました。
ここ、とても好きです^^
田島くんの素直で、優しくて、ちょっと負けず嫌いなところが、じわじわ感じられて。
目では見えないコミュニケーション。
電波のような、心のやり取り。
健常者は、忘れてしまいがちな、そして大切な感覚なのですよね、きっと。

大丈夫、田島くんは田島くんで、これからどんどんお姉さんに近づいて、そして超えていくんじゃないかと思います。
いや、超えるというより、大きくなっていくというか。

いつか、お姉さんに本気で嫉妬される男になってね^^田島くん。

先ほど、無事戻ってまいりました!
まだ安静に・・・といわれつつ、バタバタしています(汗)
なかなか、家にいて安静は難しい・・・。

また、よろしくおねがいします^^
2013.03.09 Sat 16:08
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

おおお。limeさん、お帰りなさいです。
コメントまで、ありがとうございます。

田島の学びの姿を気に入っていただけて、嬉しいです。
目では見えないコミュニケーションは色々あるのですが、文章化するのは難しいですね。
そんなことを思ったエピソードになりました。

田島は、今すぐにでも体育会系物語に変えられるほど、体は十分にデカイんですけどね。
アネキを超える、超えポイントはまだまだ先ですね。

いつかlimeさんにも本気で嫉妬される男になりますよ。かな(^^;)
それを見届けててやってくださいね~^^

limeさん、お体をお大事に。安静に^^
ご自愛くださいね^^
2013.03.10 Sun 09:50
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - おぉ

こういうの、本当にいいですね!
102-103と圧感のストーリー運びでした。
とてもストレートで、とても情感豊かで、そして光を感じるシーン。
田島くんが目の前にある、周囲にあるものへ心や感性を開いていく過程が、とても素直に伝わってきます。
田島君、無茶苦茶いい経験しているよね。これらを引き寄せている力は何だろう。
お姉さんが自分の力で一歩ずつ登った階段から大事な家族を手繰り寄せている、でもそれは見えない分だけ深い思いですね。う~ん、そうか、始めから見えないのだから、きっとまるで違う世界なんだろうな。でも分かり合おうとする想い・願いがじんじん伝わってきます。
あ、ちょっと意味不明になっていますね。
素直に感動しました(*^_^*)
2013.10.15 Tue 18:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おぉ

大海彩洋さん、連日のコメントありがとうございます。
素敵な感想・解釈(?)がとっても嬉しいです^^

アネキ主導で良い経験ができました。
アネキは問いかけばかりで、答えは教えてくれないので、自分の感性で答えを探す。
そんなシーンが、僭越ながら大海さんのセンスのお話とちょいどこかでリンクするような気もしたり・・・(図々しくてすみません。ワラゴマ ^^;)
結論としては、やっぱりこのアネキには頭が上がらない。でした。

直球ストレートしか描けない作者ですが、じんじん行けて、良かったです。
(↑最後に意味フだよ -_-;)
2013.10.15 Tue 20:19
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Name - 大海彩洋  

Title - 再登場

そうなんです。実は私も、この部分、私の書いた掌編(『センス』)と被って、妙に嬉しくて、別の意味でも感動しちゃってました。良かった。自分勝手に思っていたので、書こうかどうか迷っていたのです。
あ、「いつかこの姉よりも先を歩いてみせる」←これ、いいですね。無理とわかってて言ってるのも伝わってきて(^^)
2013.10.15 Tue 23:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 再登場

大海彩洋さん、再登場ありがとうございます。
再でも再々でも何度でも^^

センスというか、感覚というか、毎日生活していく上で凄く大切なものだと思うんです。
そして、それについて良く知る、とはどういうことなのかを、
大海さんのお話の中で見つけたような気もしています。
知った上でどう使いこなしていくのか、結局は自分、というところに行き着くのですが(^^;)

田島はアネキより先へは一生かかっても歩けないでしょう。ムリムリ。
田島は違う道を歩き、その道程をアネキに見せることになると思います^^
2013.10.16 Wed 10:44
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Name - 西幻響子  

Title - No title

お。なんか、すごい。
田島君がニューヨークに来てから、感動のシーンが怒涛のように続いてますね。

もし目が見えなかったら…、きっと耳から、とても多くの情報が入ってくるんだろうな。
それは多分、目が見える時とはまったく違う世界なんでしょうね。

それにしても、祥子さんといい、この学校のようすといい、非常にリアルに描けてますよね。
すごい ^^
2014.01.18 Sat 13:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

田島はニューヨークでも色々と経験していきます。
アネキはやっぱり田島とはちょっと違う感覚を持っていて、そこから学ぶところが多いはず。

わ、リアルですか。超嬉しいです。
脳内の妄想を、必死に文字化して、それが西幻さんに伝わったのなら、本当に嬉しいです^^
物書きの醍醐味であり、難しいところでもありますね。

またお越しください^^
2014.01.18 Sat 19:23
Edit | Reply |  

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