オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 105 

ダイニングテーブルの真ん中には、緑あざやかなブロッコリーと共に盛られたローストビーフが、バースデーケーキのようにドンと場所を取っている。今日の帰りがけ、トニーからお土産にと持たされたものだ。

やんわりと上がるおいしそうな匂いに、食欲がそそられる。その今日の夕食をはさんで、さっきからクリスが横でクックと笑っている。

「ドゥー・ユー・ノウ・ヒム?」

「もちろん、知っているさ」と、クリスはさらに声を上げて笑い、祥子も苦笑を見せる。いつもは良い子のエダでさえ、眉を下げたような目で田島を見上げていた。

クリスはトニーの店にあった、あのピアノの調律をするのに、よく呼ばれるのだと話す。

“He plays that piano too strong. He’s never listened to my advice.”
「あの体で、あの指とあのパワーで弾かれたら、確かに調律狂うよね」

田島は、思い出して納得する。

クリスの話によると、「トニー・アンド・ジョニー」はピアノ兼キーボードで兄のトニーとギターで弟のジョニーの兄弟ユニットで、もう30年以上のキャリアのあるベテランであり、サマーステージは常連なのだという。

“And also, he is a very good voice trainer.”

ライブカフェのオーナー、というのは趣味のような副業で、実はトニーは今までに何人もの無名シンガーをビッグスターに育てている名ボイス・トレーナーなのだ、とクリスが教えてくれる。

田島が店で会った有名バンド所属のデイブも、デビューしたての若い頃に、トニーのトレーニングを受けてバンドをヒットさせた、というボーカリストの一人であったことに少し驚く。

「トニーに声をかけられたなんてねえ」
「なんか、すごく褒められて、乗せられたような気もする」

それがトニーのやり方だ、とクリスが続ける。4コード・ソングはトニーがトレーニングによく使う方法で、トニーの指導のもとでは、とにかく歌わされる、というのも業界では有名であるとのこと。

「あれは歌いっぱなしで、かなりきつかった」
「トニーからローストもらって、明日も来なさい、って言われたって事は、良い方に取って良いんじゃない?」
「来なさい、つーかさあ、いきなりステージでライブなんだけど」
“That’s funny, Shogo.”
「イッツ・ノット・ファニー、クリス」

急なステージの話に、どうしたら良いかと不安がる田島の様子が、クリスも祥子もおかしくてたまらない。

「今までバスキングしてきたくせに、なんでステージに怖気づいてるの。緊張するタイプだったっけ?」
「路上とステージは全然違うでしょ。俺は見た目と違って、繊細で敏感なの」
「どこが。そうは見えないけど」

祥子に見える見えないの話をされ、ふてくされてローストを口に放り込む。

“Eat a lot and sleep well.”
「クリス、それ、トニーが言った事と全く同じ」

何を言ってもクリスと祥子にクスクスと笑われる。「明日は、見に行くから」と二人から言われても、田島の耳に入っているのかいないのか、ただ「はあ」というため息を繰り返した。



8月の最終日曜日。青い空に、ソフトクリームのような白い雲がポツポツと浮かび、シティーのビルよりも高いところを漂う。

田島は夏の終わりを思わせる爽やかな風を感じながら、セントラルパークの歩道を急いでいた。

目的地のラムジーフィールド(Rumsey Field)に向けて長い列が続くのが見える。その列の前方、関係者のゲートから'サマーステージ・アーティスト'のタグをもらって会場に入り、バックステージに向かった。

“Hi, young Johnny.”

昨日会ったデイブだ。今日はキラキラとした派手なステージ衣装を着ているが、気さくな笑顔は昨日と変わらない。

―――そうか。

この再結成したベテランバンドを目当てに来る、往年若年のファンが会場前の列を成していたのか、と今頃気付く。

“Are you Tony’s new partner?”

―――ギターのダン・ヘイレン。ドラムのアレックスもいる。

全米で大ヒットしたこのバンドの曲を、田島も高校のときにコピーして歌った。そのメンバーに囲まれる。驚くやら嬉しいやらで目が泳ぎ、歩みが止まる。

“How’s his roast?”
“Have you got it? Congratulations!”
「コングラッチュレイション? 何でローストもらったこと知ってんの?」

アメリカン・レジェンドのバンドメンバーに囲まれるも、彼らが何の話をしているのかがわからない。

“Hey, Johnny! Come here.”

すぐそこにトニーがいたのに気付かなかった。助けを求めるように、トニーのもとに行く。

「良く眠れたか」の問いに、「全然」と答え、「ロースト、うまかっただろう」の問いに、「それは全部食べた」と答える。

“Good boy, Johnny. So, you’re ready, aren’t you?”
「ノット・リアリー」
“Come on, boy. Time to go.”
「は?」

トニーは田島にギターを渡して、あごでステージの入り口を差した。

“We play first.”
「え、トップなの? てか、始まってんの?」

気付くと、司会のMCが聞こえ、会場から歓声が上がっている。

“Hurry up, Johnny.”

トニーからせかされるように背中を押され、田島はギターを肩にかけながらステージの階段をかけ上がって行った。



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おっと、ステージまで行かなかった。次回に(-_-;)


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Comment

Name - lime  

Title - No title

おお、心の準備もそこそこに、さっそく始まってしまいましたね。

でも、大きな舞台は、もしかしたらグダグダ考えるより、考える時間を与えられずに放りこまれたほうが、いいのかも。

田島くん、度胸試しだね^^。

ローストビーフ食べたし、大丈夫さ!
2013.03.28 Thu 08:39
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

ちょ、ステージ前で…。
おあずけかい、そりゃないぜ~(>0<)/

いいですね、このライヴ始まる前の雰囲気。
暗いステージ袖から見る観客の埋まった明るいステージ。

ちょっと、祥吾っ! 気合入れて、気合!
トニーの経歴もわかったことだし、ここは大船に乗ったつもりで!
頑張ってっ!

て、憩さん、私、
次回まで手に汗握る状態で置いておかれるんですかっ。
でぇぇぇぇ(←悶絶)。
2013.03.28 Thu 16:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。心の準備もそこそこに、始まってしまいました。
いいからやれよ、って感じです。

ま、田島はできるんでね、ホント度胸がないだけで。
自覚のない奴なんです。いつになったら自信が持てるのか・・・

トニーにローストで釣られて放り込まれました。
やはり、胃をつかむ者は強いのでしょうかね。
トニーの手腕にちょい期待^^
2013.03.28 Thu 17:24
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

はい。おあずけよーん^^
ただいま田島のハートはストップモーション(←何のこと -_-;)

いきなりステージに上がっちゃいますよ。
どうなるんでしょうね(←まだ描いていない -_-;)

> ちょっと、祥吾っ! 気合入れて、気合!

そうだっ! 気合だっ! はっはっ!

> て、憩さん、私、
> 次回まで手に汗握る状態で置いておかれるんですかっ。
> でぇぇぇぇ(←悶絶)。

ぷぷぷ。城村さん、耐えてくだされ。
仕事の山を何とか越えたので(あと少し、フォローアップがありますが)、ちょい描く時間が取れそうです^^
それでも、次回はいつかな。はは(年中自転車操業・汗 ^^;)
2013.03.28 Thu 17:48
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

結構音楽は気をつかってやることが多いですよね。
まあ、そういうときでない場合もありますけど。
即興でやるというのも難易度は高いですけど。
その辺は才能と練習でカバーなんでしょうね。
2013.04.03 Wed 21:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。
即興は普段から相当練習していないと、できないですよね。
何事も、練習は大事だと思います。

物書きも(^^;)
ただいま絶賛練習中(汗)
2013.04.13 Sat 17:23
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

わははは、ダン・ヘイレンには笑えました。
デイヴ・リー・ロス!
まさか彼が出てくるとは!

トニー、いい味だしてます。レイ・チャールズを連想させられました。
田島君、刺激的な体験が続いてますね。こうした体験が彼の音楽にどう影響していくのか……
2014.02.02 Sun 15:33
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

ふふ。彼、出しちゃいました。
今やおっちゃんだけど、茶目っ気は相変わらず。
もう、どんな突込みだって受けますから(^^;)

おお。トニーがレイ・チャールズとはなるほど。
トニーのお陰で、刺激的な体験しまくりです。
影響っすか・・・ドキ。そこまで深くは考えていない(汗)
とにかく、沢山を吸収している、ということで~(><)
2014.02.03 Mon 18:24
Edit | Reply |  

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