オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 106 

初めて踏み込む屋外ステージの明るさが眩しくて、田島は目を細める。路上ライブとは全く異なる空間の広さと、野外ならではの空の高さに、体が吸い込まれるような気がして足がすくむ。

“This is Johnny and I’m Tony.”

トニーが手馴れたように自己紹介をする。

ステージでのライブは高校のときの『バンド甲子園』以来で、エレキギターを手にするのは、卒業式の次の日に自分のを学校の焼却炉で燃やしてしまって以来だ。

そんな感傷に浸る間もなく、トニーがキーボードで軽快に4コードを弾き始めると、それと知っている観客からの歓声が上がる。けれども、田島はトニーの弾くイントロを聴いたとたんに眉間にしわを寄せた。

―――トニー! キーが高い!

ギロリと横目で睨んでくる田島の反応に、トニーは例の「ニッ」とした笑顔で嬉しそうにウインクして返す。始まったものは仕方がないと、すぐにあきらめの境地となり、田島は歌い始めた。

―――1曲目からこれじゃ、この先どうなる。

という田島の心配通りに、キーもテンポもトニーのペースで進んで行く。次々と全米のヒット曲を操るトニーと、それに合わせて必死に歌う田島に煽られるように、会場のノリもヒートアップしていく。

「トニー! ザッツ・・・」
“Don’t worry, Johnny. Just follow me.”

―――フォロー・ミー、じゃねえぞ。高いし、速いし、昨日と曲のオーダーも全然違うし。

中盤でいい加減、田島も我慢ができずに、般若のような形相で眉を吊り上げ、トニーににじり寄る。

“Come on, Johnny. ‘Let It Be’.”

トニーはそんなマジ切れ寸前の田島を無視し、ぐっとテンポを落として、このビートルズの名曲のイントロを弾き始めた。あくまでもこのステージでリードを取るのはトニーなのだ。

―――「レット・イット・ビー」ですか。このまま行けって事かよ。

ビートルズの曲は案外難しいものが多く、「レット・イット・ビー」もその一つ。これを歌うためには、田島は高ぶった気持ちを落ち着かせなければならなかった。

イントロをかみしめながらメロディーに入ると、トニーはさらにテンポを落とした。なぜかこれだけは、4コードではなく、ゆっくりとフルコーラスで歌わされた。

田島はしっとりと歌い上げ、トニーのキーボードが曲をしめると、それまでしんみりと聴いていた観客から、割れるような拍手と歓声があがった。

“Johnny, look at the audience. They like you.”
「ハウ・ドゥー・ユー・ノウ?」
“Because I know.”

田島が首をかしげている間に、トニーは観客に向かって語り出した。

“Hi, everyone. I’m Tony, as you know. And this young Johnny is with me today. He’s not too bad, isn’t he?”

昔からの「トニー・アンド・ジョニー」を知っている観客に、相棒で弟の本物のジョニーが、今どこでどうしているのかを説明すると、会場から笑いが洩れた。

“Now, this Johnny will sing his originals for you.”

トニーは田島の曲のイントロを弾きだした。そのノリの良さに、観客の手拍子も始まる。

―――どうして、いつの間に?

嬉しいというか、困ったような視線を向ける田島に対して、ほれほれ、歌え、というようにトニーは何度も頷く。

田島はマイクに向かい、会場を見渡した。観客のほとんどが初めて聞くだろう自分の曲から、どんな反応が返ってくるのだろうか。それを見て感じなくては、と覚悟を決め、呼吸を整えた。

「サンキュー、トニーー!!」

一つ大きく叫んでから、ピックでギターを弾く(はじく)のと同時に歌い始めた。シドニーで作った曲から順に、即興でメドレーに仕立てて歌う。

歌いながら、会場を隅々まで見渡す。楽しんでもらえるだろうか。観客の盛り上がりに、そんなちょっとの不安は吹き飛んだ。

後は観客のノリを掴んで、どんどん進める。トニーもさすがで、ここはうまく田島のペースに合わせてくれた。

「サンキュー!」

終わって、深く礼をして両手を振る。会場の歓声が止まらない中、トニーとハイタッチをした。

“Well done, Johnny. You made audience happy. Good job!”

トニーは田島の耳元で早口に褒め言葉を言うと、間髪入れずに、ダン・ヘイレンの大ヒット曲のイントロを始めた。

「ジャンプ!?」
“Yes. ‘Jump’.”

「ラストソング!」とトニーが叫ぶと、最後にそれが来たかと、会場が揺れるほどの大歓声が返ってくる。

「ノー! トニー、ストップ・イット」
“Why? Go, Johnny.”
「ノー。アイ・ドント・ドゥー・イット」

―――オリジナルの大御所バンドがバックステージにいるってのに、歌えるわけないでしょう、それ。

そっぽを向き、なかなか歌い出ださない田島を待って、トニーはイントロのフレーズを繰り返す。

すると、突然会場が大きく沸いた。ダン・ヘイレンのボーカルのデイブがステージに駆け込んで来たのだ。

―――うわ、やっぱり来た、デイブ。ご本人様だよ。

田島に「歌え」とどつくデイブの登場に、これでもかというほどに会場が盛り上がる。デイブのブラウン・アイが昨日よりもさらに近く、命令するように田島の瞳を覗き込む。

“Just enjoy this time, young Johnny.”
「はあ、もう、これって、楽しんだ者勝ちなんだよね。じゃあ、行くよ! I GET UP!」

半分やけくそで、シャウトした。やっと歌いだした田島に、デイブは「ニッ」と満足げな笑顔を見せた。そして、田島の肩を引き寄せ、髪をぐちゃぐちゃにして、ポンと背中を押した。



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あの方との共演はお約束^^

こちらが Van Halen のオリジナルの “Jump”



このバンドとの出会いは “Pretty Woman” 懐かしー古いー(^^;)



4コードソングのモデルです。



ところで。

今年に入り、何気にお祝い事の続くブログ『憩』は、『夢叶』106話で200記事目を迎えました(やっと・うるる) 

半分が『夢叶』かあ(←だからって、なんでしょね)

仕事をしながらの執筆は大変ですが、楽しくマイペースでやっています。

いつもいつもご訪問くださり、ありがとうございます。
皆様からの応援が励みとなり、お陰様で、何とかここまで参りました。感謝です^^

まだまだ、物書きとしては‘ひよっこ’ですが、今後も宜しくお願いいたします^^

けい m(__)m

PS: えっと、2週間ほどプライベートで旅行に行ってきます。楽しんできます^^
(ネット環境が全くわからないので、もしかしたら音信不通になるかも。そうだとしたら、すみません。先にお詫び)


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

臨場感、ばりばり伝わって来ます。
いや~~、トニーにすっかりリードされて、焦り気味の田島くんが、かわいいったら。
トニー、ナイス。
だけど、慌てながらもきっちり自分の力を発揮して、観客を沸かせる田島くんが、かっこいいですね。
そんな彼、周りがほっとかないような・・・。
取られちゃう~(誰に)。^^

そして、200記事、おめでとうございます。
(え、記事数って、どこ見るんですか?探してみよう)
マイペースだけど、着々と続けられてて、すごくうれしいです。
小説ブログ仲間がどんどん減ってしまって、やっぱりこの世界は続けるの、難しいんだなあと思っていたので。
この先も、楽しませてくださね。

お、旅行ですか。
ちゃんと待ってますからね。
どこに行くんでしょう^^
気をつけて、いってらっしゃい。

2013.04.02 Tue 07:55
Edit | Reply |  

Name - 甲辰  

Title - No title

Have a nice trip!
お気をつけて!
2013.04.02 Tue 22:48
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

ありがとうございます、ありがとうございます。

いや~、よかった。
おかあさん(もうすでに、祥吾の母の気分)
舞台の袖でハンカチ握り占めちゃった!
ほんと、いいステージだった!
立派な息子の姿に涙うるうるよ~。

しかし、トニー、やってくれました!
ほんとにーありがとう、トニー!
JUMP!も演れたし!
キーボードで飛び入りしたかった、前奏だけ!(汗!)

200記事おめでとうございます。
旅行楽しんできてくださいね。
帰ったら、本文だけでなく土産話もぜひ!
楽しみにしております。
お気をつけて!
2013.04.04 Thu 23:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

今回は、トニーがナイスでした。
でも、田島もそれなりにできました^^
そんな田島は、limeさんに取られちゃう~(?)のか??

> そして、200記事、おめでとうございます。
> (え、記事数って、どこ見るんですか?探してみよう)

ありがとうございます^^
記事数は、記事のURLで見れるんです。
最新のでチェックしてみてくださいね。
物書きは難しいけど楽しいので、まだ続けるかな。
limeさんも続けてくださいね。

> お、旅行ですか。
> ちゃんと待ってますからね。
> どこに行くんでしょう^^
> 気をつけて、いってらっしゃい。

お待ちいただき、ありがとうございました^^
ネットから離れた世界で楽しんできました。
何かアップしようかな(?)(未定)
2013.04.13 Sat 17:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 甲辰さん

Thanks! 甲辰さん!

てか、ただいまです(^^;)
11泊12日の楽しい旅でした^^
2013.04.13 Sat 17:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメント、ありがとうございます、ありがとうございます。

いや~、ステージママに褒めていただけてよかった~(ほっ)
息子はまたちょいと成長できたかなぁ。遅い奴なんで。

そうそう、今回はトニーのお陰かな。
田島を発掘してくれてありがとう、トニー。
次回はママも乱入してね。

旅行は楽しくて、楽しくて、楽しかったです^^
お土産話は・・・うん・・・(続く・・・)
2013.04.13 Sat 17:53
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

おお、200記事ですね。おめでとうございます。
大体私もほとんどストーリーだらけですからね。
まあ100話も行ってますからね。おめでとうございます。
旅行気をつけてくださいませ。
2013.04.13 Sat 22:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

やっと200です。いつも応援を感謝です^^
LandMさんの記事と比べたらまだまだですが、これからもゆる~く頑張ります。

旅行は超楽しかったです^^
また行きたい!
2013.04.14 Sun 08:18
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

遅ればせながら
200記事おめでとうございます!!
それと旅行、楽しめたようですね!
休暇中はしている最中は
アッという間ですよね!
仕事中は長いのに・・
今度は、けいさんの
旅行記事でもアップしてくださ~いi-179
2013.04.21 Sun 03:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントとお祝いありがとうございます。

ただいま旅行疲れでへたれ中です(^^;)
ぴーたろーさんの記事を見て、写真良いなあと思って、旅ログを載せようかと一瞬だけ思いました。

けど・・・楽しすぎて、写真多すぎて、ピックアップできなくて・・・ははは(^^;)

ここはやはり、物書きらしく、いつかお話の中に織り込むとでも。なんちて。
2013.04.21 Sun 08:56
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - エディ~!!

ミーハー趣味もプラスしまして、エディ、大好きです。
彼もお父さんになったのですよね。
私は「踊り明かそう」が大好きでした。
今回はけいさんのストーリィにアレックス兄ちゃんも出てきて、楽しませていただきました。

それから、先だっては……むにゃむにゃ。
そちらもありがとうございました。
なんだかとてもくすぐったかったです。

好きなバンドをモデルにしたキャラを書いていると、ご自身でも楽しまれてますよね。
私もやろうかなぁ。
昔はDuran Duranをそのまんま登場させた、実名小説も書いたりしたのですよ。
2013.10.12 Sat 01:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: エディ~!!

あかねさん、コメントありがとうございます。

そうなんです。兄ちゃんも健在。
あの大御所バンドのメンバーの方々に特別出演していただきました(^^;)
復活のニュースと変わらぬ様子が嬉しかったからかな。
楽しいですよ^^

おお。Duran Duranですかっ。実名ですか。名まえ覚えていたりする。
それ、こっそり出してください。80年代マニア受けするかも?
2013.10.12 Sat 14:10
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - おぉ~

なんだろうなぁ。けいさんの物語、この臨場感というのか、その場にいる感じが伝わってくるのは、会話のテンポの良さとか、展開のスムーズさとか、いろんな要素があるんだと思うけれど、田島くんの戸惑いとか、それを現場で克服していく勢いと清さとか、それがうまく表れているからなんだろうなぁ。
羨ましいようなストーリー展開です(^^)

私は洋楽はもうさっぱりわからん子ちゃんで(でも友人の影響で、QUEENだけは全部レコードを持っていたんですが)、色々散りばめられた仕掛けとか面白みとかは分かっていないんだろうってのが残念ですが、この熱気は十分伝わってきました(*^_^*)
いや~、面白かったぁ。
何って、え? いきなり本番で何するよ? それ聞いてませんけれど!っての、うちもよくあるんですよ! アドリブと勢い、とりあえず最後まで乗り切る!って感じで。
ライブの魅力とすごさ、ですよね。
それがひしひしと身に迫ってきました(*^_^*)

2013.10.26 Sat 10:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おぉ~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わ、こんなに色々・・・ありがとうございます。
ライブは映像なので、これを文に落とすのは難しいですね。
音楽物は音を出さなくてはいけないので、これはまだまだ修行中(-_-;)
でも、大海さんに励まされた気がして(勝手に)うれしがっています^^

ライブで盛り上がるのは外人も日本人も同じですね。
良いものは良いし、気に入らなければ聞かないわけで。音楽業界も厳しいね。

おお、QUEEN、今やエッセンシャル・クラッシック。全部とはすごいですね。
フレディーは今でも最強のボーカリストの一人ですね。あの強さ、良かったなあ。

> 何って、え? いきなり本番で何するよ? それ聞いてませんけれど!っての、うちもよくあるんですよ! アドリブと勢い、とりあえず最後まで乗り切る!って感じで。
> ライブの魅力とすごさ、ですよね。
> それがひしひしと身に迫ってきました(*^_^*)

そうそう。いきなり、もういっちょ、とかね。だからライブは面白い。
アドリブと勢いに乗り切るには、それなりのスキルも必要なわけで。
そんなライブを見たときは、うおーとほえますねぇ~^^
2013.10.26 Sat 12:07
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - でた〜!ジャンプだ!

うわあ、凄いです。
すごい盛り上がり。
目の裏にライブの情景が鮮やかに浮かびました。

こう、知ってる曲ばかり出てくるとやはりコーフンしますな。
しかもデイヴとの共演(競演?)。田島君、きみは凄い。
2014.02.11 Tue 14:57
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - あ、コーフンして書き忘れた

200記事、おめでとうございます。次は300ですね!
2014.02.11 Tue 15:01
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: でた〜!ジャンプだ!

西幻響子さん、コメントありがとうございます。

ライブを楽しんでいただけたようで、良かったです。
最近のいろいろなロックも良いですが、クラッシックロックも良いですよね~。
良さが違うんですよね。上手く説明できないんだけど。

デイヴとの共演はお約束で(^^;)
おっちゃんが田島に合わせてくれました^^
2014.02.11 Tue 19:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あ、コーフンして書き忘れた

西幻響子さん、お祝いもありがとうございます。

もう、遅筆も個性、と認めて、のんびりと行ってますぅ~(^^;)
300・・・流れのままに^^
2014.02.11 Tue 20:05
Edit | Reply |  

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