オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 108 

今日も田島はニューヨークの街角に立ち、ギターを抱える。この頃は、路上に足を止めてくれる人々とのちょっとした会話や、鳥や動物、街の景色などを楽しむ余裕もでてきた。

セントラルパークでの路上は定期的に行い、曲も増えてきた。来た頃より気候も涼しくなり、樹木の色が秋色に変わってきたことに時間の経過を感じる。

木々の間を素早く走り回るリスとも、少しは仲良くなれたような気もするが、やはり、誰か人に演奏を聴いてもらう方が良い。

「イッツ・フリー」
“Free hug?”
「ハグじゃなくて、フリー・ソング」

ふらりとこの女性は田島に近づいてきた。いや、近づいてきたというより、ギターを抱えて歩道に立つ田島のことなど、全く視界に入っていないかのように前を横切ろうとするところ、声をかけた。

このところ、祥子の誕生日に作った曲をもとに、「パーソナライズド・ソング(personalized song)」をオファーしている。歌詞に名まえを入れて、その人だけの曲として、一人のために歌って贈るものだ。

「アイ・ウイル・シング・ア・ソング・アバウト・ユー」
“About me?”
「イエス。ワッツ・ユア・ネーム?」
“Emily.”
「エミリー。ビューティフル・ネーム」
“Whatever...”

田島の声掛けに足を止めるも、この女性には表情がなかった。真夏でもないのに大きな帽子をかぶり、顔を隠すような大きなレンズのサングラスをかけている。

生成りの上品なブラウスに黒のベスト。黒のタイトロングのスカートに足元はショートブーツ。

一見、素敵な服装に包まれた金持ちそうなご婦人に見えるが、サングラスの下の瞳がどんな色をしているのかが分からない。

―――暗いなあ、この人。

そんな印象を受けながらも、自分の前でただ無言で佇むその人のために、田島は歌い出した。

‘Emily, this is a song about you…
Emily, such a beautiful name…
Emily…’

『これは、エミリーという美しい名まえを持つ人の歌。

エミリーとは会ったばかりだけど、すごく良い人。
エミリーはおいしいものが好き。きれいなものが好き。
好きなことがたくさんあって数え切れない。

エミリーと友達になれてすごくラッキー。
エミリーは素敵でかっこいいから。

エミリーは誰が何と言ってもすごい人。僕にはそれがわかる。
どうしてかというと、エミリーは僕の歌を聴いてくれるから。
今もこうして僕のそばにいてくれる。
それは特別にすばらしいことだね。

僕はそんなエミリーのためにこの歌を贈る。これがエミリーの歌。』

誰の名前を入れて歌うのと変わらず、いつもと同じように歌った、つもりだった。だから田島は、自分の目の前に立つエミリーが、さめざめと涙するのに少し驚いた。

エミリーはサングラスをはずし、指で流れる涙を払う。すぐにそれでは間に合わなくなって、手の甲で目をこすり始めた。

“Wow. That’s fantastic.”

それは悲しみの涙ではなかった。目尻に細いしわの寄った、壮年の、けれども上品な目が、田島に泣き笑いを見せる。

“Thank you so much. What’s your name?”

エミリーはカバンをごそごそと探った後、小切手帳を取り出した。ささっと素早く書きものをして、1ページをぺらりと切り離すと半分に折り、田島に差し出した。

「ノー、ノー。アイ・セッド・イッツ・フリー」
“It’s okay. I want to. Because I like it.”

少し困って首を振る田島の手を掴んで、エミリーは小切手を渡した。その手は、明らかに今年の夏の間、太陽に当たっていなかっただろうと思われるほどに、青白く細かった。

“I wasn’t happy before. But you made me feel so good.”
「ザッツ・グッド」
“You said, you like me listening to your song. Is that right?”
「ザッツ・ライト」
"And also, it's special."
「イエス・ベリー・スペシャル」

はじめはサングラスに隠れていたブルーグレーの瞳の色が、今はやさしい笑顔と共にクリアに輝いて見える。

“Thanks again. Bye.”
「あ、ちょっと待って!」
“Take it.”
「そうじゃなくて、写真。えっと、テイク・フォト・ウイズ・ミー」

ちょうど犬を連れて通りかかった人にiPhoneを渡して、エミリーとツーショットの写真を撮ってもらった。この歌を歌うときはいつも名まえを提供してくれた人と写真を撮る。

「キャン・ユー・リスン・トゥー・マイ・ソング・アゲイン?」
“Sure. Anytime. I would love to.”

白く細い手を、ゆるく振って去っていくエミリーの後姿を見送った後、半分に折られた小切手を開いて見て、飛び上がるほどに驚いた。

「1000ドル!? えー!!」

エミリーと名乗ったその婦人は、一体、どこの金持ちなのだろうと、想いをめぐらす。けれども、アメリカ経済の文化など、自分とは全く違う想像のつかない世界なのだろうと、すぐに考えることをやめた。

はじめは暗い印象だったエミリーが、笑顔を見せて帰っていった。そのことだけで田島は満足だった。

―――ご主人とうまく行っていなかったとか、そんなことだろう。

そういうことにして、話を納得させた。こうして小切手に記された金額に動揺している少しの間、背後から「エクスキューズミー」と声をかけられていることに気付かなかった。

“Would you please sing a song about me?”
「あ、ソーリー。イエス、オフ・コース! ん?」

振り返った田島の動きが一瞬止まり、時間が一気にさかのぼった。



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Comment

Name - lime  

Title - No title

田島くん、こんなふうに歌を提供することも始めたんですね。
ふいに、田島くんに呼び止められて、自分だけの歌を歌ってもらえたら・・・ふふ。照れちゃうな。

でも、この女性は一体、どんな気持ちで歌を聴いていたんでしょうか。
小切手の金額が・・・すごい。
田島くんは、それほどこの女性の気持ちをあったかくしてしまったんでしょう^^

いろんな出会いがあるねえ。素敵だな。(この女性とは、またいつか出会うんでしょうか)

そして、次なる出会いは??だあれ?
2013.04.27 Sat 08:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

lime...such a beautiful name...♪
どうでしょう^^

このご婦人は・・・大富豪です(ちょいネタバレ)
でもね、この人を幸せにするのは富でも名誉でもないのでした。

それにしても、金持ちのやることは、貧乏人にはわからん。
一曲10万ですよぉ??
ま、田島、取っときな。ということで(^^;)

> いろんな出会いがあるねえ。素敵だな。(この女性とは、またいつか出会うんでしょうか)
> そして、次なる出会いは??だあれ?

田島は、ただいま絶賛出会いを肥やしにする男。
出会いの数こそ成長の証(←なんでしょこのお一人様向け盛り上がり?)
次なる出会いは次回です(←ネタバレにさえならない・汗)
2013.04.27 Sat 10:35
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

歌の意味を分かっているというか。
そういうのを感じますね。そもそも歌の原点の原点は誰かに捧げることにあると思いますので。それは大衆ではなく、個人に捧げるものとして。それを感じるので余計に嬉しいですね。また、たまにはこちらにも遊びに来てくださいね。
2013.04.27 Sat 19:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

歌は元々、祥子のためにクリスと作ったものなので、英語なんです。
日本語は作者の訳で(^^;)

誰かに捧げる歌。そうですね。
心を揺らす歌とはそうなのでしょうね。

たとえ誰かに捧げられた歌であっても、それに感動して共感するときに、
その歌が自分のものになったりすることもあるのかな、なんて思います。

LandMさんのところにもまた遊びに行きますね^^
2013.04.27 Sat 21:24
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

そうか、この歌はあのシーンの…
(コメント欄を読んで思い出しました)。

英語だと、こういう歌詞、まっすぐに歌えますよね。
日本語だと、ちょっと照れくさい。
なんでしょうね、国民性かな。

まっすぐに歌えるから、まっすぐに響くんだろうなぁ。

エミリーさんとの出会いと小切手は、
これからどう活かされるんだろう、
と思いながら読んでいたら、最後にまた!

誰!?

誰だろう~。
2013.04.29 Mon 21:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがというございます。

はい。この歌はあの歌です(通じますか -_-;)

曲に乗せると、すらりと言葉が流れていくこともありますよね。

世界で一番、熱く光る夏。世界で一番、愛してるぅ~(プリプリ)とか・・・
(ちょっとポイント違うかなぁ?? 日本語もストレート??)

日本語の方がかっこ良かったり、英語の方がかっこ良かったり、
それぞれに良いですね。

エミリーさんの小切手、はですねぇ、ありがたく活かさせていただきます(キリリ)

で、最後の誰? は、次回の最初に^^
2013.04.29 Mon 23:18
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 記念日

記念日にはまったく興味もなく、いまや家族からも「誕生日? 別にめでたくないよね」と言われ、たしかに、と苦笑いするしかない私ですが。

祥子さんのお誕生日、嬉しかったでしょうね。
で、ご懐妊? 二重の喜びですよね。
おめでとう。田島くんも叔父さんになるのですね。

誕生日は私は嬉しくないですが、誰かが歌を作ってくれたら嬉しいだろうなぁ。
田島くん、もしも時間があったら、フォレストシンガーズのテーマを作って下さいな。
2013.10.18 Fri 00:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 記念日

あかねさん、コメントありがとうございます。

あはは。お誕生日、大事ですよぉ~。いくつになってもぉ~^^
田島が早くもオヤジに、か。ぷぷぷ。そうですね。

誕生日ではないのですが、家族の記念日に、家族ソングを作ったというお友達が身近にいて。
良いですよねぇ、マイ・ソング^^
フォレストシンガーズのテーマですか。田島で良いんですかね(^^;)
2013.10.18 Fri 20:54
Edit | Reply |  

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