オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 115 

「お、さやか。久しぶり」

日本からの便りは、いつでも嬉しい。このところドライブ続きで、しばらくメールをチェックしていなかった。

ロサンゼルスを発って、まずは、ラスベガスに向かった。ニューヨークを出る前に、「カジノでは遊び過ぎないように」とジョニーから念を押されていた。

「お前が言うか」とトニーに突っ込まれるジョニーの困り顔を思い出しながら、カジノでちょっとだけお金を使う。それで十分楽しめた。

ラスベガスを拠点に、グランド・サークルを巡る。グランドキャニオンやモニュメント・バレーなどの、フォレスト・ガンプが走った道を車で行く。

ネイティブ・アメリカンの聖地として崇められる場所を訪れ、アメリカのというより、地球の大自然を堪能した。

その後は、サンタフェからダラスへとゆるく南下し、アメリカ南部の田舎道をひたすら走った。

ミシシッピー川を越えて、ニュー・オーリンズまで来たところで、少しのんびりしている。安宿に泊まり、ジャズ・バーに行ったりして、連日運転してきた疲れを癒す。

『祥吾のことが、ピックアップされてるよ。これ見て』

さやかからのメールにあったアドレスをクリックすると、国際ニュースブログのコラムに飛んだ。そこに「ロサンゼルスの日本人パフォーマー」とタイトルされた、ロサンゼルスタイムス紙の記事が紹介されていた。

―――ああ、マットの記事だ、すっかり忘れていた。

それは「海外で活躍する日本人」を独自にピックアップして、不定期に紹介するという、よくあるコネタ系コラムだった。英文の記事が、ほぼ全文日本語訳されている。

『例えば、誰かから白いTシャツをプレゼントされる、としよう。けれども、そのTシャツはただの真っ白いTシャツではない。

なぜならそのTシャツには、自分の名前がプリントされ、オリジナルのロゴがデザインされているからである。

それを手にし、身につける時の嬉しさは、誰にでも想像できるだろう』

―――マット、俺、Tシャツの話しなんかしてないでしょ。

目を細めながら、どれどれと読み進める。

『ロサンゼルスの路上パフォーマー、ショーゴ・タジマはTシャツのデザイナーではない。ミュージシャンである。

ショーゴの歌には、それを初めて聴いた人でも必ず笑顔にしてしまう魅力がある。

その理由は・・・』

部屋のドアがカチャリと開いて、夕食の買い出しに出ていたエディーが帰ってきた。今日はパブではなく、自炊にしようと話していた。

“G’day, Shogo. What’s up?”
「エディー、ハブ・ア・ルック」

田島がPCのスクリーンをエディーに向けると、載っていた写真で「マットの記事か」とエディーにもすぐにわかった。

“I don’t understand Japanese. You’ve never known it.”

エディーは買いものの袋をバサッと足元に下ろして、ポケットから自分のiPhoneを取り出した。

エディーはロサンゼルスタイムス紙のサイトから、田島はさやかが教えてくれたサイトから、それぞれにマットの記事に目を通す。

“This is fantastic, Shogo.”

貼られた映像を田島のPCで一緒に見る。エディーがマットのUSBに入れておいたものが、いくつもつなげられたダイジェスト版になっていた。もちろん、ナタリーを撮ったものも使われていた。

“Matt is really a professional.”

これはすごい、とエディーが声を上げる。そして、マットの記事の中のくだりをいくつかピックアップする。

『ただの真っ白いTシャツなのに、名まえが入っているだけで引き出しの中の一番大切なTシャツになる』

“I agree, it is very important to call your name as a special one.”

『無名の路上シンガーが歌う無名の歌なのに、名まえが入ることでそれが自分だけの特別に大切なものになる』

“And also, Shogo, you say and sing it is beautiful. That’s a big point.”

エディーがニュースの解説者のように饒舌になる。

『ショーゴは、誰もが持つ美しい名まえを呼び、その持ち主のために歌う。そうすることで、目の前にいる人の笑顔を探す。それはとても優しい。それがショーゴの歌を聴く人の心を揺らす』

“Matt said everything right in this article.”

マットの文を声に出して読み上げては「なるほど」と共感するように唸った。

『人が幸せになるかどうかは、そばにいる人のちょっとした言葉や優しい声がけだったりする。誰かのためにそれをするのは、簡単なことなのだ。ショーゴがそれをやって見せている』

“This is awesome! Abusolutely fantastic!”

エディーはマットの記事にパチパチと拍手を送っていた。そのリアクションと、マットが書いてくれたことに、素直に嬉しいと思う。

“I like this part.”

『ショーゴの歌を聴き、笑顔を向ける人を見て、そばにいる人も笑顔になる。それを見ている周りも笑顔になる。水面に落とされた一滴の水が波紋を広げるように、ショーゴの歌から笑顔の輪が広がる。その共感は心に広がる』

“When I see you singing, I always feel it.”

エディーの褒め言葉に照れてしまい、田島の「サンキュー」が蚊の鳴くような細い声になる。

“I think, more people should know about you and your song.”

そう言いながら、床に転がっていた買い物の袋を拾い上げると、エディーは、冷蔵庫に入れるものと、出しておくものとに振り分け始めた。

“I’m happy to promote it for you on Facebook and Youtube.”
「アイム・ハッピー・ウェア・アイ・アム・ナウ」
“OK. I know, mate.”

エディーは、少しだけ残念そうな表情を見せたが、すぐに振り返って夕食の準備を始めた。田島の歌を鼻歌で歌いながら、野菜を切り始める。今日は自分が作ると朝から張り切っていた。

田島はしばしPCに目を戻し、見ていたニュースコラムをスクロールダウンした。さやかのメールに、コメント欄まで見るようにとあったからだ。

『絶対に同一人物だと思う』
『番組を覚えている。アメリカでデビューしたのか』
『祝・復活。日本でもやってほしい』

―――うわ・・・

ここで紹介されている「日本人パフォーマー」が、5年前の人気オーディション番組、『バンド甲子園』で優勝した高校生バンドのボーカリストではないかという意見がずらりと並び、コメント欄が盛り上がっていた。

苦笑する以外にない。マットへのお礼のメールとさやかへの返事は後でするとして、エディーを手伝おうと田島はPCを閉じた。



< 前話  TOP  次話 >



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




名まえはみんな、ビューティフルだと思います^^

「ビューティフル・ネーム」ゴダイゴ




ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - No title

今日の話を半分まで読んだとき、ゴダイゴのビューティフルネームが頭に浮かんだんですが・・・。
けいさんもですか(笑)

マットの記事、ついに読めましたね。日本の友達に教えてもらうところが、今風ですねえ^^
世界が繋がってる感じ。
そして、田島くんはいろんなところで人をハッピーにしてるんだなあ。
確かに、名前を呼ばれると、照れくさいけど嬉しい^^

以前、舞台を見に行ったとき、舞台上に引っ張り上げられて、1000人から名前を呼ばれたことがあって、照れくさくて消えそうでしたが、楽しかった^^

田島くんも、マットの記事に、別の意味で照れてますね。
良い子、良い子。

関係ないけど、最近うちの息子が、アメリカに語学留学したい、と言い出しまして。
おお、なかなか骨のある要求じゃないか。と思ったんですが。
先立つものが・・・><
でも1年、ネイティブの中に放り込んで、揉まれたら勉強になりそう^^;
ちなみに、オーストラリアの英語と、アメリカでは、言葉も少し違うんでしょうか。
2013.06.10 Mon 20:58
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - こんにちは

ゴダイゴ…世代です^^v
ベースのスティーヴが書いた小説の文庫本や
モンキーマジックのピアノスコア、まだ持ってます(滝汗)。

しかし、ネットの世間は狭いですね。
祥吾が苦笑で済ませられるなら、
ちょっとほっとしました。

マットの手腕に拍手を!
ロサンゼルス・タイムズって、大手ですよね。
この記事が、起爆剤になったりするんでしょうか…
と、勝手に想像。

わくわくですね^^

2013.06.10 Mon 21:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

ゴダイゴの「ビューティフルネーム」は後世に残したい日本の名曲ですよ(←DJけい、勝手に選曲)

情報がまわるのは早いですよね。
海外ニュースも日本語ですぐに見られるのが良いです。

> 以前、舞台を見に行ったとき、舞台上に引っ張り上げられて、1000人から名前を呼ばれたことがあって、照れくさくて消えそうでしたが、楽しかった^^

おお。1000人から呼ばれるなんて。それは貴重な経験でしたね。
そうして、一生の思い出になるんですよね。良いなあ。

limeさんのドラマーの息子さんですか。
何と。良いことです。骨ありますよ。
先立つものですか。行く前に、バイトしていただきましょう。

オーストラリア(イギリス系)英語と、アメリカ英語はちょっと違います。
例えば。

秋。これはご存知でしょう。
アメリカ - フォール
オーストラリア - オータム

マクドナルドでフライドポテト(日本語)を頼むとき。
アメリカ - フレンチ・フライズ
オーストラリア - チップス

お菓子のクッキー(日本語)は、
アメリカ - クッキー
オーストラリア - ビスケット

他にもたくさんあって、調べると結構面白いですよ。
でも、どちらも英語なんで、どっちでも良かったりします^^
2013.06.10 Mon 22:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: こんにちは

城村優歌さん、コメントありがとうございます。

> ゴダイゴ…世代です^^v

私もです^^v
けど、城村さんの方がマニアック(?)

そうですね。ネットの世間は狭いですね。
上手く付き合っていけたらと思います。
自分の手の届かないものは、苦笑するしかないですよね。

ロサンゼルス・タイムズ・・・適当につけたつもりが、実際にあったんですね。
今さらググって、ちょいびっくりしています。
描く前にちゃんと調べよう(汗)

> この記事が、起爆剤になったりするんでしょうか…
> と、勝手に想像。

マットが良い仕事した分、どうでしょうね。
田島の自信につながれば、と願います。
2013.06.10 Mon 23:29
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

ああ、確かに名前は大切ですね。
非常に大切ですね。アメリカみたいな国だと自己というのがひたすら尊重される世界ですからね。自分の名前を入れるのは確かに大切かもしれませんね。自己表現の一つになりますしね。
2013.06.15 Sat 18:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

名まえはアイデンティティーですね。
人と一緒になることで、世界に一つのものになると思います。

名まえを入れると自分のものだし。
お財布に名まえ(と住所)を入れておくと、無くしたとき戻ってくるし?
2013.06.15 Sat 18:37
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

世界って広いようで狭いですね!

田島くんの活躍を友人たちがいち早くキャッチできるなんて!
彼に対するコメント欄の盛り上がりに、なぜか私も参加したくなりました。

今回のこの部分大好きです!
>『ただの真っ白いTシャツなのに、名まえが入っているだけで引き出しの中の一番大切なTシャツになる』
『無名の路上シンガーが歌う無名の歌なのに、名まえが入ることでそれが自分だけの特別に大切なものになる』

マット、素敵な記事を書くなあ!ちょっとしかでてないのに、なんかファンになりました^^
2013.08.30 Fri 00:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

色々な場面で世界は狭くなってきましたね。
遠いところもあるのですけれど。
はは。コメントにはいつでも乱入してください^^

> 今回のこの部分大好きです!

うわ。マットが書いたことなんで。ぽりぽり。
ちょいはずかしい。けど、嬉しいです。
まとまりがいまひとつなので、マットにまた校正・編集を頼みたいところです(^^;)

> マット、素敵な記事を書くなあ!ちょっとしかでてないのに、なんかファンになりました^^

マットは(も)良い男さんですよ。ずっと仕事ばっかりしていますけど^^
2013.08.30 Fri 22:58
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - 大草原の小さな家

昔々に一度読んだのですが、おばさんになってから読んだら感覚がちがうかな、と思って、もう一度読みました。

19世紀のアメリカ西部を馬車で走る一家のシーンを、ここを読ませてもらっていて思い出しました。
あの時代のお父さんってすごいですよね。
勇気があって強くて、サバイバル能力抜群で。
こんな時代に生まれていたら……私には無理。

田島くんだったら近いかも、なんて思いました。
彼は生活力もうりそうだし、いざとなったら大道芸をやって歌ってお金を稼いで、しっかり食べていけそうですよね。

私もアメリカ大陸縦断、してみたいです。
2013.11.20 Wed 17:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 大草原の小さな家

あかねさん、コメントありがとうございます。

大草原の小さな家。壮大な名作ですよねぇ。
景色がとにかくきれい、と思います。
お父さんは何でも知ってて、何でもできる。
あのお父さんは、とにかくかっこいい。頼りになる。

田島は馬車ではなく、車でバーっと行きました。
田島は・・・どうだろう。
いやいや、あのお父さんの偉大さと比べてはいけませんて。
今はエディーとか、アネキとかに支えられて、
やっと生きています、なレベルですから(^^;)

アメリカ、良いとこ、らしいっすよ。
紙上旅行者っす(汗)
2013.11.20 Wed 20:41
Edit | Reply |  

Add your comment