オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 120 

伝統的な七面鳥のクリスマス・ローストを目の前に、舌打ちするどころか、超緊張して席に着く。

“What would you like? Would you like a glass of wine or beer or…?”
「ビア、プリーズ」

上目遣いで、控えめに答える。12月25日、ニュージャージー州にあるクリスの実家に来ていた。アメリカで初めてのクリスマス・デーを迎える。

いつもはジーンズにジャケットなのだけれども、今日はクリスにセミ・フォーマルのシャツとスラックスを借りた。

大きな長方形のテーブルの一番角に座る。隣に祥子、その隣にクリス。テーブルにはクリスの両親をはじめ、親族一同が席に着く。

“Cheers.”

それぞれのグラスを手に乾杯し、パンプキン・スープからフォーマルなクリスマス・ランチが始まった。

「祥吾、緊張しなくて良いのよ。みんな良い人たちだから」
「分かってる。けど、このランチは結構フォーマル」
「日本のお正月みたいなものだからね。遠慮しないで、食べなね」

遠慮しないで、と言われても、初めてなものはどうも勝手が分からない。それでも、口にする料理はすべておいしくて、ファミリーのアットホームな会話と共に、食事は楽しく進んだ。

クリスの家は、祥子が初めてアメリカに来たときのホストファミリーだった。ここから祥子のアメリカでの生活がスタートし、クリスと出逢った。

「クリスは末っ子なんだ」
「私はさらにその下で、クリスの妹になったのよね」

当時、クリスは祥子と同じ音楽院に通っていて、それがホストファミリーになった理由の一つでもあった。学院には毎日一緒に通い、何かと祥子の面倒を良く見てくれたという。

「ホストファミリーから、旦那さん、かあ」
「当時はこういう展開になるとは、思わなかったけどね」
「そのときからクリスは優しかったんだね」
「そうね。良いホストブラザーだったかな」

クリスの両親から、祥子のおなかの赤ちゃんについての話題が振られると、普段は大きなクリスの青い目が、線のように細くなった。今建てている家が出来上がると、この実家から近くなる。

クリスのファミリーは、音楽一家だった。ランチが済むと、広いリビングでクラッシックなファミリーコンサートが始まった。

ボストン交響楽団に所属するという、クリスの一番上の兄がバイオリンを弾く。クリスがピアノで、祥子がクラリネットを演奏する。クリスの母親は声楽家で、父親は音楽院で作曲科を担当する教官なのだという。

そうそうたるメンバーの中で、田島はギターを渡された。もちろん、アコースティックではなく、父親所有のクラッシックギターだった。

―――いや、ここで俺、クラッシックなんかできないでしょう。

やっといて良かった、と去年の夏にマスターのカフェでやったジャズの演目を披露した。

さすが祥子の弟はセンスが良い、とみんなから拍手を送られる中、人生、何でもやっておくものだ、とホッと胸をなでおろした。

クリスと兄と祥子が演奏を続ける中、田島は緊張でのどが渇いて、キッチンの冷蔵庫にビールを取りに行った。

“Do you have Christmas in Japan?”

ビールの栓を開けたところで、声をかけられた。日本ではクリスマスは祝うけれど、アメリカとはずいぶん違うと、しどろもどろの英語で答えた。

「えっと・・・」
“Sam. Chris’ brother.”
「ああ。セカンド・ブラザー」
“Yes. I’m not a musician.”

クリスの3人兄弟の2番目の兄のサムは、シカゴで音楽とは全く関係のない独立したビジネスをやっているのだという。

家族の中で一人くらい違うタイプがいても良いだろう、とクリスと同じ青い目を、クリスと同じように細くして笑う。

“So…, what is your religion?”

田島の宗教観など、典型的な日本人タイプで、結婚式は神前、葬式は仏前、ウエディングドレスも着るし、クリスマスも祝うし、お正月にはお寺や神社に行く、と話す。

“Do you believe your God?”

宗教の話は日本語でさえ難しい。日本には「ヤオヨロズ」の神がいて、というくだりが上手く英語で説明できずに、「うー」と頭を抱える。

“I wonder how many ‘Gods’ in the world. I know there are too many.”

サムは、神様と呼ばれる者は、キリスト、モーゼ、イスラム、ヒンドゥー、たくさんいるけれども、そういう「人」を信じるのが宗教ではない、と持論を展開する。

田島は、面白い話だと思いつつ、それでは、神様を信じないのなら、誰を信じるのか、と聞いてみた。

“Me. It’s not about believing. It’s about love.”

「自分」とはっきり言うサムの顔は、もちろんどこぞの教祖様などには見えない。それは信じる信じないの話ではなく、愛するかどうか、なのだという。

自分を信じて、家族を愛して、お互いに助け合って、一緒に暮らす。世界に宗教はただ一つ。愛。それが宗教なんだよ。そうサムは続ける。

“God? Where is he? I can’t see him. Who can you see right in front?”

神とは天にいるのか。見えるのは空。それよりも、自分の目の前にいるのが誰なのか、愛すべき存在が誰なのか、それを見なさい、と言うサムと視線を合わせて見つめ合う。

“At this moment, the person in front of me is you.”
「は?」
“Do you want me to love you?”

何とリアクションして良いのか分からず、田島はサムと視線を合わせたまま、ただ目をパチクリさせた。

おいしいものを食べたいと祈るとき、愛を込めてそれを出してくれる神は誰か、という話だ、とサムはウインクしてから、

“God bless you.”

と一言残して、リビングの方へ行ってしまった。

キッチンに田島は一人残される。向こうの方から聞こえる音楽が、午後の子守唄のように優しい。

サムの言うところの、自分の目の前にいる者、それを考えたら、急に日本の家族や友人のことが思い出された。



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田島、ここに来てホームシック?

田島がジャズをやったときの話はもう、はるか昔のよう・・・
(↑『夢叶』32話から)

クリスマスデーの話を七夕の日に公開という季節感。何でしょう・・・
前も、マスターの話のところで、七夕の思い出を、年末の時期にアップしたという前例有り。なつかし・・・
日本は夏。オーストラリアは冬。感覚の滝に打たれております。。。

皆様の七夕の願いが叶いますように^^


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

フォーマルなクリスマスランチに招待されて、ちょっと緊張気味の田島くんが、かわいい^^
でも、どんな時でも音楽は味方ですね。
田島くんのジャズで、一気に距離が縮まったんでは。あ、もともと、緊張してたのは田島くんだけか。

宗教の話を、英語で説明するって、難しそう~。
八百万の神って、なんていうんでしょう。
物に、一つ一つ神が宿ってるという神道の感覚も、日本人ならではなのでしょうしね。

でも、クリスの一家が、ガチガチのクリスチャンでなくて、ちょっと気が楽かな、田島くん。
自分を信じるって、いいですよねえ。

私は、一人にひとつずつ、神様がついていると、思ってるんだけど。近いかな?
(神様を、ひとつって数えちゃだめか^^;)

こういう話をわいわいとできるって、いいですよね。
クリスの家族は、田島君にとっても、大切な家族ですね。
2013.07.07 Sun 03:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

limeさん、夜更かしですか、それとも早起きですか、な時間に、コメントありがとうございます。

田島をかわいいと呼ぶlimeアネゴ、良いですね^^
田島の緊張がドンとほぐれました。

宗教や政治や社会情勢の話を英語でするのはホント難しいです。
「うー」となりますよ。っとに。

> 自分を信じるって、いいですよねえ。

サムは音楽とは違う自分の可能性を信じてシカゴに移り、成功したドリームキャッチャーなのです。
なので、サムの言うことには現実感があります。この家族の自慢の一員です。
ってことが描けなかった(-_-;)

> 私は、一人にひとつずつ、神様がついていると、思ってるんだけど。近いかな?
> (神様を、ひとつって数えちゃだめか^^;)

ほうほう。興味深いですね。神と人とでワンペアですかね。
ひとつ?

> クリスの家族は、田島君にとっても、大切な家族ですね。

そうなんです。家族の単位って、すごく大切だと思います。
ご家族をお大事に^^
2013.07.07 Sun 11:45
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

義家族、なわけですね。
そりゃあ、緊張もするであろう、祥吾w

音楽一家、憧れます。
家族間で音楽で会話できる、というのは、
どこか特別ですよね。
祥子がその家族の仲間入りしたのも、
当然といえば当然だったんですね。
言葉も、五感も、人種も飛び越えて
家族たり得る人だったわけですもんね。
そして、祥子のベイビーも^^ ステキ^^

「愛=信」は、私も思います。
そのこころあらばこそ、ですね^^

さて、そろそろおばちゃんは
成田に迎えに行く支度しとかなきゃ?^^
2013.07.07 Sun 17:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

初めてのお宅は、どこをお訪ねしても緊張しますよね。
けど、食べちゃう、みたいな(^^;)

音楽一家、良いですよね。お正月に一日中飲んだくれるより、年に一度のファミリーコンサート、ですよぉ。
特別なんだろうなぁ(憧)

> 「愛=信」は、私も思います。
> そのこころあらばこそ、ですね^^

ですね^^
家族愛はシンプルです。男女愛は・・・やっぱ書けん(><)

> さて、そろそろおばちゃんは
> 成田に迎えに行く支度しとかなきゃ?^^

はいっ。次回ですっ次回っ。予告。宜しくお願いしますっ。
2013.07.07 Sun 19:07
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

これを書かれたのは半年ほど前なのですね。
けいさんのいらっしゃる国では、その時期が冬だから季節感的には書きやすかったですか? それとも、けいさんの感覚ではクリスマスは夏、でしょうか。

最近、田島くんがストリートライヴをやっているのを見物している、フォレストシンガーズの誰か、みたいな妄想が浮かぶのですよ。
外国の街角、ひとり旅に出かけた誰か。

田島くんのルックスって、明眸皓歯って感じですか?
背が高めで細身だけど筋肉はついている、というふうに想像しているの、当たってます?
田島くんの外見ってそんなに詳しくは描写なさってませんよね。

そんなシーン、書いてみたいと思ったり、むずかしそうかなぁ、と悩んだりしています。
時間的矛盾が出てきそうなのもありますが。
2014.01.29 Wed 01:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

もう、クリスマスは夏、の感覚なんですよ。
季節感のあるお話を書くのって大変だー、という気持ちになりました。
お正月の時期はもう何年も知らないです(><)

おおお! ニアミス! 描いてください!
いいなあ、一人旅、良いですよぉ~。
何気にお話しちゃっても^^
もう、この際時間なんて、良いじゃあないですか。ね^^

てか、明眸皓歯が読めなくて、ググりました(-_-;)
なんと素敵なのに驚きです。
田島は背が180以上、てだけですね。
徹さんが細くて華奢なので、それと比べたら・・・という感じですかね。
もう、あかねさんの思うままに^^

フォレストシンガーズのどなたとかなあ。
勝手に楽しみにしちゃっているのですが^^
もうこれ、あかねさんの頭から離れないでしょ。ふふ^^
2014.01.29 Wed 19:24
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - 

まあ、田島くんもたまにはホームシックになりますわね。
永遠の放浪人・・・というのもロマンがありますけど。
田島くんだって、待ってくれている人がいるんですからね!!

それはそうと、食べ方が分からないというのは共感できます。
郷に従え・・・というのもありますから、私も海外に行ったときに食べ方が分からなくて、あくせくした記憶があります。
その地域地域で食べ方が違うから面白いんですけどね。
2016.09.17 Sat 07:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。
返事が遅くなってすみません。

家族ものはやはりホームシックを誘いますねえ。
永遠の放浪人・・・はマスターの方が似合いそう?
田島を待ってくれている人は野郎どもばっかり(?)

そうそう。食べるときが分からないときは、これ、どうやって食べるのか、と聞くようにしています。
ま、聞いても難しくて、あくせくするんですけどね(^^;)
その地域地域のご当地ものは好きですね。
2016.09.20 Tue 18:11
Edit | Reply |  

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