オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 123 

「マスター、ビール。二つ」

目を細めて田島のライブを見守っていたマスターの背後から、不意に低くぶっきらぼうな声がかけられた。その声を聞くだけで、この常連客が誰なのか分かる。けれども、「二つ」というのがいつもと違った。

「何で二つなの」

振り返ると、そこにはカフェの常連客で、渋谷にオフィスを構える写真家の三宅がいた。その隣に、クラッシック・バーバリーのコートを上品に着込んだ、黒縁メガネの男性もいる。

「今日はいつもより早いね」

マスターは、手早くボトルとグラスを二つ出し、カウンターに置いた。

「マスター、ライブのこと知らせてくれてサンキュ。祥吾、もう解禁で良いんだよね」
「解禁?」
「あ、この人は杉浦さん。忙しいところ、来てもらった」
「どうも。三宅さんのお友だちですか」

いつもの人懐っこい笑顔を見せて、マスターは二つのグラスにビールを注いだ。

「事務所の者です」

杉浦と紹介されたその人物は、マスターに軽く頭を下げた。カウンターからボトルとグラスを拾い上げ、「テーブルの方へ」と三宅に言い、席に向かった。

事務所と聞いて、マスターは、あっと気が付いた。有名なミュージシャンを大勢抱える大手の音楽事務所。そこの取締役が確か杉浦という名前だったはず。時々雑誌やニュースなどで見かける。

「三宅さん、いきなり大物連れてきちゃうんだねえ」

田島のライブは中盤に入り、テンポが上がっていた。三宅と杉浦は、田島を見ながらしきりに話をしている。カウンターにいるマスターには、二人がどんな話をしているのかが大いに気になるところだ。

「次の曲を歌うためには、どなたかのお名前をお借りしたいのですが」

「オレ、オレ」と手を挙げる花園を交わして、田島は一人の女性を選び、名まえを入れて歌う。アメリカでやっていたときとは違う、日本語バージョン。女性の照れ笑いが、他の客の笑顔も誘った。

その後は、ニューヨークで作ったノリの良い曲を並べ、一気にラストまで行った。暖かい拍手を送られ、礼をしてカウンターに下がる。花園も客のさげものを手伝いながらカウンターに戻ってきた。

「花園、今日のライブ、どうだった?」
「そんなの、決まってるよ。何で、いちいち俺に聞くんだよ」
「お前が良いって言うかどうかが、俺の基準だから」
「田島のライブは、いつだってすっげー良いよ」
「お前の曲は?」
「俺の曲ね。もう、カッコ良くて最高!」 

花園が親指を立てて田島に見せると、田島も「やった」と小さくガッツポーズを返した。

「祥吾、ちょっといいかな」

花園と一緒に洗い物などを手伝うために、田島がカウンターの裏手に入ろうとするところ、三宅から声をかけられた。「こっちはいいから、行きな」と花園がフリフリと手で追いやる。

呼ばれたテーブルに腰掛け、取締役とある名刺を差し出す杉浦と面する。その音楽事務所の名前は田島も知っていた。そこに所属する有名アーティストがどれほどいるかということも。

「祥吾君は、今どのくらいの持ち歌がある?」

差し出された名刺を両手で大事そうに受け、チラチラと目を上下させる田島に、杉浦がおもむろに尋ねる。

「まだ一つもないです」

上目遣いで小さく答える田島の返事を聞いて、三宅と杉浦は顔を見合わせた。

「ユーチューブにたくさんあるでしょう。あれ全部オリジナルだよね」
「ユーチューブの、ご存知なんですか。結構出しましたけど、あれ、正直に言うと、出来上がっているのは一つも無いんです」

杉浦は眉間にしわを寄せながらも何かを引き出そうと、メガネの奥から田島をギロリと見つめた。

「出来上がっていない、というのは?」
「まだ、完成していない、というか」

田島は伏せ目がちになり、声がさらに小さくなる。

「今日のアコギのライブは、完成度が非常に高かったけど?」
「そうですか。そう言っていただけるのは、とても嬉しいです」
「なんなら、祥吾君の納得の行く完成まで、喜んで僕がサポートしたいと思っているんだけど」

淡々と、けれどもストレートに問いかけてくる杉浦の言葉に、田島は肩をすくめてしまう。

「あの、凄く嬉しいお話を、ありがとうございます」

礼を言いつつも、田島は困惑した表情を見せていた。そんな田島に、杉浦の隣にいる三宅が、眉を吊り上げた真剣な顔で何度も頷く。

「うん」と言え、と歯を剥き迫り来る般若面のような三宅の顔を、田島は瞬きしながらチラチラと何度も見た。

「でも、これ、えっと・・・‘ノー’って言ったら、三宅さんの顔、潰しちゃいますか?」

それを聞いた途端に「わっはっは」と杉浦が両手を上げて笑い出した。

「三宅、脅すなよ。お前のかけた凄みのせいで、話し流れた」
「えー、俺が何したんだよ」
「損失分、訴えてやる」
「ちょっと、杉浦、なにそれ。祥吾、うん、て言えよ、うん、て」

杉浦は三宅のことを小突き、しばらくクックと笑ったあと、再び田島に目を向けた。

「祥吾君。今日のライブは凄く良かった。僕のリストに‘田島祥吾’を載せておくよ。今度は三宅抜きで話をしよう」

そう言って杉浦は立ち上がった。バーバリーのコートをさっと羽織って、レジに向かう。

ビール代以上の金額を、ライブ代、と言って残し、「今日はお前んちに泊めろ。ミーティングだ」と三宅を引っ張るように店から去っていった。

「田島、話、何だった?」

花園はもちろん、話の内容が気になる。

「わかんないうちに流れた」
「は? 流れた? 何?」
「僕が三宅さんから聞いておくよ」

来週のライブはちゃんと宣伝しよう、マスターはそれだけは心に決めた。



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Comment

Name - LandM  

Title - No title

曲を完成させるというのか結構難しいものですからね。
小説みたいにどこかで区切り、って感じにはできないですからね。
クライマックスをつけてちゃんと終わらせるのが難しい分野ではありますね。
2013.07.18 Thu 06:22
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Name - lime  

Title - No title

>「お前が良いって言うかどうかが、俺の基準だから」

っていうのが、泣かせますよね。
やっぱり田島くんはいいねえ。
私が大好きな伝説のローカル番組(終わってしまって10年が経つのに、今もファンが増え続けているお化け番組)があるんですが、そのプロデューサーは、出演している一人のタレントを笑わせるために、番組を作ったそうです。
その一人を笑わせられなければ、だれも笑わせられない、と。
(そういえば今年、10年ぶりにファンイベントが北海道で予定されてて、5万人が集まりそうな感じ・・・行きたかった)
なんか、同じものを感じます。
万人受けをするものを目指せば、どこかに甘さが出てしまうんですよね。

それにしても、田島くん、かっこいい。
すぐにこの話に飛びつかないところが、大人だなあ。
うんうん。それでこそだ^^
2013.07.18 Thu 08:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

ただ、やる、というのと違って、
完成、となると、難しいですよね。
完全に、成る・・・深いわ・・・

そういった意味では、小説の完成も難しいかも・・・
深そう。覗くのはやめておこう(-_-;)
2013.07.18 Thu 17:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

おお。なんと、貴重なお話をありがとうございます。

> その一人を笑わせられなければ、だれも笑わせられない、と。

> 万人受けをするものを目指せば、どこかに甘さが出てしまうんですよね。

なるほど。何となくわかります。
その人が笑わなければ、たとえ周りのみんなが笑っていようとも、それは本物ではない。
みたいな感じかな。
厳しい・・・そして、逞しい。骨太系ですね。
精進いたします。

> すぐにこの話に飛びつかないところが、大人だなあ。

だんだん大人になってきました。
てか、飛びついたらとんとん拍子にお話が終わってしまう。
けど、終わって欲しかったりもする。
複雑な作者心(^^;)
2013.07.18 Thu 19:37
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Name - 城村優歌  

Title - No title

事務所 キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!

しかも蹴る?www

どこへ行っても祥吾は人に恵まれていますね。
確かに、メジャーになってビッグになる人というのは、
人と人が縁を繋いで引っ張り上げて、上っていくものかもしれません。

ううむ、杉浦さん、ちょっとかっこいいかも。

それより、祥吾の志の高さよ。
「まだ完成してない」って、君はダ・ヴィンチか!www

でも、そういう祥吾だから、ビッグな話になりそうなよ・か・ん♪
次のライヴも楽しみです~^^
2013.07.19 Fri 16:41
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

田島はまだ帰国したばかりで、心の準備がまだというか、スローなもので(^^;)
杉浦さんは諦めていませんよ。
三宅さんのうちで、ただ今祥吾獲得のためのミーティング中。

> どこへ行っても祥吾は人に恵まれていますね。

そうですね。出会いでどこまでもつながっていきますね。
これからもどこでどう出会って、引っ張ってもらうのか・・・

え。かのダ・ヴィンチがそんなことを。
完成したら、どうなっちゃっていたのでしょうね。

田島は完成というか、今までとはちょっと違う方向に行きます。
ライブも違う感じになっていきます(ちょい予告だぁ~^^)
2013.07.19 Fri 22:08
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Name - 大海彩洋  

Title - 最初から拝読せずに

何故か、途中から乗っかってしまいました。
最初からとなると、肩ひじ張ってなかなか取りかかれないので、そうか、もうどこからでも読ませていただいちゃおう、と。
というのか、始めからとお尻からと、同時になってる?
すみません、変な読み方をしていて。

うん、なるほど。
私も、まだ完成してないって、ミケランジェロの某彫刻を思い出しちゃいました。他の人から見たら完成しているようなのに本人はしていないと思う、逆に本人はもうこれ以上はどうすることもできない域なのに、他人から見たら未完成。
芸術って、深いものですねぇ。
2013.07.21 Sun 07:01
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Name - けい  

Title - Re: 最初から拝読せずに

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わあ。読んでいただけるのが超嬉しいです^^
初期の方は何度も騒ぎますように、あちゃーな書き始めの頃。
最近のは最近ので、まだまだだね、な物なのですが、
お越しいただけるとめっちゃ励みになります^^
どちらからでも^^

ホント、深いものですねぇ。
完璧って、本当は求めるものではないのでは、と思ったり。
未完のままでもがくのが、らしくて良いのかな、なんちて。

だいたい、田島のすることなんて、自分だけで完成させることができるのなんか、ひとつもありゃしないのです。
徹さんや、マスターや、アネキや、エディーや・・・みんなに助けられてやっと息しています。

大海彩洋さんも、田島が酸欠にならないよう、助けてあげてくださいね。
よろしくお願いします^^
2013.07.21 Sun 11:21
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Name - rurubu1001  

Title - No title

>「お前の曲は?」「俺の曲ね。もう、カッコ良くて最高!」 

ううう、ダメだ。わたし、前回からまた涙腺がゆるくてゆるくて。
何気ないかもしれないやりとりにグッときます。
田島くん、徹さん、良かったねー、本当に><

有名音楽事務所の誘いを流す田島くんがカッコいい!
三宅さん、やられましたね~。ぷぷぷ。

そうですよ。なんかまだ違うんですよね!
メンバーだってまだだし。
ここまでの道のりを大事に田島くんが納得するかたちで夢をかなえてほしいなあ^^

2013.09.16 Mon 02:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

rurubuさんに少しでもグッと来ていただけて、作者としては嬉しいです^^
ものすごい時間のかかりようですが(-_-;)、約束を果たせました。

そうなんです。まだなんです。てか、いつよ(><)
大物振っちゃって、大丈夫なのか。

まだまだ甘い田島ですが、納得するかどうかもわからないのですが、
これからの道のりも(まだ行くのかと)見守っていただければと。
2013.09.16 Mon 18:29
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - 追いついた

以前、途中から拝読しかけたところに追いつきました。
何だか自分勝手な感慨にふけっています。
日本に帰ってきた! そして懐かしい人たちが相変わらず支えになっていて、そしてなんとすでにいい話が目の前に転がっている。
でも、田島くんが気にしているのは、いつも目の前のたった一人の(そして一人ずつが積み重なって大勢になる)聴衆なのですね。
前に自分が書いたコメントがすでに記憶のかなたでしたが、同じことを再び感じました。
まだ完成じゃない。聞く人がいて、聴く人の心に触れて何かを越えていく。頑張れ、田島くん。
さて、今度は前へ向かって読み進みます(*^_^*)
2013.11.04 Mon 18:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 追いついた

大海彩洋さん、二度目のコメントありがとうございます。

変わらない友人がいつでもそこにいてくれるのって、嬉しいんですよね。
おかげで時間が途切れずに、流れる。安心できるところだと思います。

> でも、田島くんが気にしているのは、いつも目の前のたった一人の(そして一人ずつが積み重なって大勢になる)聴衆なのですね。

そうなんです。まだまだ田島は自分のやりたいこと、
それをどうやって行くか、を探りながら進んでいきます。

> 前に自分が書いたコメントがすでに記憶のかなたでしたが、同じことを再び感じました。
> まだ完成じゃない。聞く人がいて、聴く人の心に触れて何かを越えていく。頑張れ、田島くん。

おお。印象が同じだったのかな。良かったです。
まだ帰ってきたばかり。
越えていかなくてはならないステップがいくつもあります。
自分の求めているものをつかむために前に進んで行きます。
大海さんに応援されて、きっと大丈夫だと思います^^

引き続き、追っていただけると嬉しいです。
のろいんですけど、ね(^^;)
2013.11.04 Mon 21:58
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - そろそろかな

おー、プロデューサー登場ですね。
メジャーデビューまで秒読み段階でしょうか。

田島くんの曲をアップしたyou-tube、見たいな。聴きたいな。

で、田島くん、デビューしたくないんですか? 
どういう心境なのかな。まだ、したくない、なんですか?
田島くんは明るくふるまっているけれど、心の中は複雑なんですものね。なにを考えているのかなぁ。
2014.03.09 Sun 23:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: そろそろかな

あかねさん、コメントありがとうございます。

ここで一回振ってしまったので、デビューは先のこととなっています。
というか、まだまだ先で・・・(汗)

デビューはしたくないのではなく、もう、ありありにしたいのですが、
デビューの前にやることがあって・・・
この先の田島(たち)を見ていただければと(-_-;)
長いんだけど・・・申し訳ないくらいに(><)

YouTube私も見たい~~
あかねさんの中では、田島はどう動いているのかな。
こっそり教えてください^^
2014.03.11 Tue 10:01
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

え、え、え?
話、流れちゃったんですか?(^^;
そんな、もったいない。
いやいや、このまま終わるわけないですね。

久々の日本のシーン。
やっぱり、花園くんとかマスターとか出てくるとほっとします。
『故郷に帰った』という感じが。
2015.07.06 Mon 10:24
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

話、流れちゃいました (^^;
いあ、そんなに簡単に成立したら、お話終わっちゃいますし、何より田島の教育によくありません(何の話?)

私もこのスリーショットのときはほっとしました(^^;)
マスターが全然変わらない。
この人はきっとずっとこのまんま、良い感じに年を重ねていくんだろうなあ、なんて思ったり。
『故郷に帰った』田島のこれからもよろしくお願いします^^
2015.07.06 Mon 13:58
Edit | Reply |  

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