オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 124 

まだ、梅の花が開く前の2月。田島は、ホームに降り立った。意外な風の冷たさに、少しだけ首をすくめる。次の駅に向けて出発した新幹線を見送り、改札口に向かう人の流れに目を追いやる。

―――行くか。

大きく深呼吸をして、関東とは少し違う空気に、今更の覚悟を決めた。新幹線のホームから小走りに階段を下り、乗り換え口で行き方を聞いて、山の方に向かう。

観光シーズンから少しずれているためか、ローカル線の車内はすいている。田島は窓側の席に着いた。けれども、車窓の冬景色は全く目に入らない。

『卒業したら、京都に行って、宮大工の弟子に入る』

そして、続ける。鏡はそう田島に残した。

―――成太郎に会ったら・・・

話すことが、山のようにある。高校卒業後のこと、大学でのこと、それから。直接会って、言わなくてはならない。

けれども、高校時代のことを思い出すと、やはり想いばかりが先走る。どんな顔をしたら良いのか、先ず何と言おうか、絶対に泣くな。電車の中で、そんなことのシュミレーションばかりしていた。

ガタンというブレーキと共に、電車が目的の駅に到着した。山と川の景色の楽しめるこの観光地には、京都の街から足を伸ばして訪れる観光客も多い。

グーグルで調べたマップを手に、駅前の土産物商店街を抜けていく。途中途中で地元の人に道を聞きながら、だんだんと目的地に近づく。

いくつかの交差点を過ぎ、いくつかの角を曲がる。様々な想いを交錯させながら、高まる気持ちと共に歩みを進める。

手にしたマップが手汗でシワシワになる頃、垣根の曲がり角に、一見、こじんまりとした古い民家のような建物を見つけた。田島は玄関の前に佇み、『民謡「鏡会」』とかけられた看板をじっと見上げた。

シワシワになったマップを、ギュッと握り締めてからポケットに押し込む。カラカラとすべる引き戸を開けて中に入ると、正面の柱に「迎」と一文字描かれた掛け軸が目に入った。

「すみません」

そろそろと声をかけると、中から紺の作務衣に身を包んだ男性が現れた。短い白髪をきちんと整えたこの男性は、かなりの歳を召しているように見えるが、姿勢が良く、きびきびとした物腰を見せる。

田島は手短に自己紹介をして、緊張しつつ、鏡との面会を訊ねる。

「田島はん・・・祥吾はん、どすか。成太郎ん・・・なんとまあ」

田島が名まえを言ったところから、この男性は、まるで宝くじが当たった知らせでも受けたかように目をパチクリさせた。

「遠いとこ、わざわざおこしやす。一太郎と申しやす」

深く礼をされるのに恐縮して、田島も「はじめまして」と頭を下げる。

「祥吾はんことは、成太郎からよお聞いてまんねん」

鏡一太郎は、民謡「鏡会」のまとめ役で、鏡の祖父であった。宮大工「鏡工房」の大棟梁でもあり、「鏡太鼓」の元奏者でもある。

京都の民謡会の中でも「鏡会」は大きなグループである。特に、「鏡太鼓」は各地の民謡大会で賞を取るなど、全国的にも有名で、「鏡会」を代表する存在となっている。

「連絡もしないで突然に来て、すみません」

民家のような事務所の建物から、稽古場へと案内する一太郎についていく。今日は、京都民謡会の定期発表会の練習をしているのだという。

「そないなことは、気にせいで。成太郎も喜ぶでっしゃろ」

一太郎は、大きな秘密を持ってわくわくするかのように、田島を見て目を細めた。間もなく、平屋の建物が見え、太鼓の音が聞こえてきた。

その音に呼応するかのように、田島も心臓の鼓動がドキドキと高鳴るのを感じる。一気に湧き上がる想いを抱えながらも、心の準備をすることに努める。

一太郎が建物のドアを開けたとたんに、太鼓演奏の大音響が洩れ出した。けれどもそれがほんの数秒で終わり、中の誰かが「休憩」と告げるのが聞こえた。

「ちょうど良かった」と振り返る一太郎の肩越しから、田島は稽古場の中をちらっと覗いた。

まだ冬だというのに、みんなTシャツ姿で汗だくになり、はあはあと息を切らしている。タオルで汗をぬぐい、ドクドクとボトルの水を飲む。床にへたばっている者も見える。

稽古場の壁には、数々の民謡大会などで受賞した賞状がずらりと並び、一角にはトロフィーや楯などが所狭しと飾られていた。

「成太郎、ちょいええか」

一太郎は、背を向けて床に腰を下ろしていた一人に向かって声をかけた。鏡だ。後姿でもわかる。

鏡は振り返って、一太郎のすぐ後ろにいる田島のことを見つけると、これでもかというほどに大きく目を見開いた。

「祥吾!」

ばちを握って、飛び上がるように立ち上がり、鏡は足早に田島の方に向かってきた。

「祥吾じゃねーか! オイ!」

そばに来た瞬間に、鏡は持っていたばちで小太鼓でも演奏するかのように、田島の腕や体や頭を軽やかに打ち始めた。

「うわっ! 成ちゃん、イテ、それ、凶器。やめろ」

田島は身を守るように、腕を交差したり、手で頭を覆ったりするが、ぱたぱたと続く鏡の攻撃から逃れられない。

「祥吾、元気かよ。今、何してんだよ」

鏡は、田島のことを連打しながら話しかける。田島は、打たれながらそれに答える。

「いてーよ、成ちゃん。俺は元気だよ。お前も、イテ、元気そうだな」

鏡はしばし田島を小突いたあと、ばちを下げて、田島に満面の笑顔を見せた。



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ナマ成ちゃん、ついにリアルタイムで登場w。
皆様にかわいがってもらえますように(祈)

京都弁はわからへんさかい、教えておくれやす。
よろしゅうお頼み申します。

前回123話で、23456アクセス成りました^^
皆様の毎回のご訪問、ありがとうございます。感謝です m(__)m
踏まれた方、どなたですかね。


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

祥吾、忙しいですね。
今度は京都か~^^

宮大工、民謡、和太鼓。
そのアイテムだけでも、
気持ちいい人ですね、成ちゃん。

仔犬がじゃれ合うようなふたり、
おばちゃんは眩しくて眩しくて。

いいなー青春。
あまりの眩しさにサングラスかけつつ遠い目で、
今後の展開、心待ちにしております~^^
2013.07.22 Mon 15:09
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

はい。このタイミング(どの?)で京都です~^^
成ちゃんは気持ちいい人ですょ。

ぷぷぷ。仔犬とウサギでじゃれ合ってみました。
このお話はくさぁ~く青春王道行きます。

今後の展開は、太陽に向かって走れ、みたいになるかもしれません(?)
サングラス必携で要チェックお願いしますね~^^
2013.07.22 Mon 17:32
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

なま成ちゃんだ。
やっと会えましたね。お噂は、かねがね・・・。

田島くん、泣き出さなくてよかったね。
積もる話は、あとあと。
今は、太鼓がわりにいっぱい、打たれなさい^^

ニューヨークから、京都。
がらっと舞台が変わって、また新鮮です。
冬の京都は、さむいよ~~><
でも、若者は元気ですね^^

京都弁は、なかなか難しいですよね><
2年住んだけど、すっかり大阪の河内弁に毒されて、忘れてしまいました。
いいんです、どんと行きましょう!

青春物、好物です。楽しみにしています^^
いいねえ、おっとこのこ^^
2013.07.22 Mon 19:53
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

はは。そうですね。成ちゃんはずっと回想と噂の人でした。
なま成ちゃんの感じ(?)はいかがでしょう。まだこれからか。

田島は泣く暇もなく打たれまくっています。
凶器を持ったもん勝ちです。

日本に戻って、英語でセリフを書かなくて良くなった、と思ったら、
京都弁です。なんちゅうことや~

けど、京都弁、習いたい(^^;)
limeさん、2年もおいやしたのどすか。
おせーておくれやす。

青春物、好物っすか。私もです。じゅる。
おっとこのこ率も今後上昇する、かも。ふふ。
2013.07.22 Mon 21:44
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

新幹線はやはり日本に戻った感じなりますね。
こういう描写はすごい大事だと思います。
やはり海外と日本の何気ない描写が描かれているのはすごい好きですね。
2013.07.25 Thu 00:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

季節を表す季語ではなく、新幹線は何語なんでしょうね。
面白いです。てか、
LandMさんに気に入ってもらえた、かな、
と、勝手に有頂天^^
2013.07.25 Thu 17:00
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

鏡くんだーーーー!!

待ってました!
回想シーンとかでしか彼を知りえなかったので、再会場面本当に楽しみにしていました!

よかったー!!だめだー、またウルウル来てしまう!!
田島くん、あいに行けてよかったねー><

方言もいいなあ~。またちょっと旅行感覚です^^
2013.09.17 Tue 00:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

ナマ成ちゃんですー。
待っててもらえて嬉しいです。どうぞよろしく。

ははは。田島のかわりウルウル、ありがとうございます。
ここでは田島のウルルはシュミレーションにより自粛されるので(^^;)

成ちゃんとはこのタイミングで逢いたかった。
京都弁は習いたいくらいに興味あります!
2013.09.17 Tue 18:13
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

けいさんの描かれる関西弁、なんだか可愛いです。
そっか、成太郎くんに逢いにいったんですね。
スカウトしにいったのかな?

デビューはまだ先だということですが、そのほうがいいのかもしれませんね。
田島くんってかなり完全主義みたいで、こと音楽に関しては、中途半端は絶対にいやだって考えていそうですもの。

舞台は京都のどこかなぁ。
なんとなく、北山杉の森を思い出しつつ読ませていただきました。
2014.04.06 Sun 02:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

あ"~ 関東人によるへんてこな関西弁です。
直してください~(><)

成ちゃんに逢いにいきましたあ。やっとです。
デビューは先ですが、成ちゃんとの再会でまた少し動きます。
田島はある意味、やり直しをしようとしているところなので、どうしてもストイックになるのかな。
今度はちゃんとした道を行きたいと思っているのかも。

おお。北山杉の森ですか。滝がありますよね。良い所だ。
勤め先が宮大工の工房なので、ありかもですねえ。
とりあえず、太鼓の音が漏れても近所迷惑にならなそうです。
2014.04.06 Sun 12:44
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