オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 125 

鏡の手が止まったところで、田島は「ふう」と息を吐きながら肩を降ろした。

「祥吾、大学はどうした。ちゃんと行けたのか。今、働いてんのか」

高校卒業以来の再会。鏡が京都に行ってしまってからは、会うどころか、連絡さえ取らなかった。

連絡を取ろうと思えば、実家からでもいくらでも方法はあった。けれども、そうしなかった。

「大学は、去年卒業したよ。今は、仕事とかしていないけど」
「ふーん。浪人してから、ちゃんと合格したんだ」

苦笑しながら、今更大学についての報告をする。ふと視線を落として、ばちを持つ鏡の腕に目を向けると、田島は少し驚いた。

「成ちゃん、すっげー筋肉だな。それと刺青・・・登り龍?」
「鳴き龍だよ。カッコ良いだろ。ここに来てから、かなり鍛えられた」

鏡はTシャツの袖を上げて、引き締まった筋肉のつく腕を見せた。左上腕にある鳴き龍の刺青は、弧を描き天空を睨んでいる。

高校の頃とは全然違う。やはり鏡はずっとやってきたのだ、と田島は改めて思った。

「悪いな、練習中。民謡会の発表会が、もうすぐなんだって?」
「大丈夫だよ。大会じゃないし。今日はもうすぐ終わる。けど、祥吾、よく俺がここにいるってわかったな」
「始めは宮大工の職場に行ったんだけど、そこで今日はこっちにいるって」
「そうか」

気が付くと、鏡の太鼓仲間と思われる数人がそばに来ていた。

「成ちゃん、紹介してよ」
「アニキ。もう」

仕方ない、というように紹介されたのは、鏡の兄たちだった。鏡は男ばかりの6人兄弟で、そこには2番目から4番目までの兄たちがいた。

「成ちゃんは、5番目だっけ」
「よく覚えていました。一番上は実家に戻って、一番下はまだ学生」

田島はたちまち、鏡の3人の兄たちに囲まれた。

「俺のこと、覚えてる? 祥吾君とは、会ったことあるんだけど」
「覚えていないでしょう。俺たち兄弟多いし」
「祥吾君、高校生のときより、大人っぽくなったなあ。当たり前か」

高校時代に、長谷川と共に鏡の実家を訪れたことがあった。げれども、6人もいる兄弟全員のことは覚えていない。

そのときも、兄弟の多さが印象的だったことだけは思い出す。太鼓をやりに、京都の鏡本家に来るのが家族の恒例らしい。

「おーい、鏡兄弟! 始めるよー」

休憩時間が過ぎたのだろう。仲間に呼ばれた。

「祥吾、ごめん。もうすぐ終わるから、そこで待ってて」

田島は、鏡に指差された方にあったパイプ椅子に腰掛けた。高校時代に鏡が盆踊りを打つのを見たことがあったが、練習といえども、創作太鼓の演奏は初めて見る。

「ほな、『鏡太鼓』行くで」

リーダーの掛け声と共に、後方にある大太鼓の一発目から始まった。間を取って打たれる一打一打は、耳にではなく、頭にでもなく、お腹にどーんと響く。

鏡は数名の奏者と共に、中心に立っていた。力強く大きな音を、スピードとリズムの中で操る。それでいて細かく繊細な拍子も表現する。他の太鼓との絶妙な強弱のバランスを取りながら、流れるように、舞うように演奏する。

「凄い」

田島はその圧倒的な演奏に目を見張り、音の響きを体全体で感じていた。「鏡太鼓」がいくつもの民謡大会で大賞を取り、民謡会に名を馳せている理由が良くわかった。

田島は鏡から目を離すことができなかった。滝のように汗を流し、太鼓とばちを体の一部のように操る。自身から音を叩き出すようなその姿は、まさに天空の龍が吼えるよう。

―――あそこ・・・成ちゃんの立つところ。

高校卒業からとおに時間は経ち、二人の道は完全に違う方向を進んでいた。続けてきた鏡と、止まっていた田島。その間には、遥かな距離が開いてしまったように思えた。

それでも、ここで鏡と再会できて、少しでも話ができたこと、今何をしているのかが分かったこと、田島はそれがすごく嬉しかった。今までずっとわからずにいたものの答えの一つを、見つけたような気がしていた。

―――良かった。ここに来て。

よくわかった。これで満足じゃないか。そう自分に話しかけているうちに、なぜか太鼓の音がだんだんと遠く薄くなっていった。



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寝ちゃったわけではありません(-_-;)


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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

清清しさに涙……。
涙腺弱いもんで…(;ToT;)

並ぶ兄たち、男前祭りだわ。
成ちゃんの鳴き龍の舞う上腕二等筋、ス・テ・キ。
そして、和太鼓ときたもんだ。

おばちゃんのハートをわしづかみにするアイテム
てんこ盛りです。

和太鼓のライヴは、心拍に直接訴えかけますよね。
あの音の中で血が沸く感じ、わかります。

ニューヨークの地下鉄ライブの時にも、
公園でのパフォーマンスの時にも思いましたが、
音が。音が聞こえてくるようです。

すてきです、憩さん!
2013.07.26 Fri 14:32
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Name - lime  

Title - No title

なんと、6人兄弟!全部男!
お母さん、頑張ったねえ><
もう、奇跡に近い。友達に4人姉妹がいますが。男。
子育て大変だったでしょうね。いっぱい食べるし、喧嘩するし。
(でも、男の子は可愛いから、いっぱいいてもいいや・笑)

やっぱりこの、太鼓の演奏の描写ですよ。
腹にどんどん響く感じ。躍動感、筋肉、汗、たまりません。
いいですねえ~。聞こえてきましたよ。

以前、大好きな劇団(男5人)が、太鼓打ちの物語を演じたんです。
最後のクライマックスで、約10分間、それはそれは迫力のある、もう心の震えるような演奏をしてくれたんです。もう泣きましたよ(悲しいシーンでもありましたし)その時の感動がよみがえるなあ。
(ごめんなさい、話がそれちゃって)

田島くんは、自分の立ち位置にしっかり立っている成ちゃんを見て、なにか答えを見つけたんでしょうね。
言葉で説明できないだろうけど、でも、なんとなく伝わってくる感じがします。
みんな、少しづつ、大人になって行ってるんですよね。

巷にいる、ダメな「大人」じゃなくて、彼らは、本当の意味での「大人」になろうとしてるような気がします。
2013.07.26 Fri 18:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

ぷぷぷ。城村さんも涙する鏡一族男祭り(?)
アニキたちはまさに骨太。 
伝統芸能で城村さんのハートをわしづかみ^^
京都まで来たかいがありましたかね。

和太鼓、大好きなんです。
成ちゃんから教わりたい。

> 音が。音が聞こえてくるようです。

おお。音が。届いたのでしょうか。
お腹にドコドコ来るのを感じていただけると嬉しいです^^
2013.07.26 Fri 20:41
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

はい。6人兄弟、全部男で、成ちゃんは5番目。
私の住む田舎では、4人兄弟は普通だったり・・・(^^;)

> やっぱりこの、太鼓の演奏の描写ですよ。
> 腹にどんどん響く感じ。躍動感、筋肉、汗、たまりません。
> いいですねえ~。聞こえてきましたよ。

わ。ありがとうございます。
ちょっと骨太風にしてみました。
聞こえると言っていただけるのが超嬉しいです^^

ほうほう。演劇でされたということは、どこかからの指導を受けたということですよね。
10分間も打つなんてすごいです。すごく練習されたと想像できますね。

> 田島くんは、自分の立ち位置にしっかり立っている成ちゃんを見て、なにか答えを見つけたんでしょうね。
> 言葉で説明できないだろうけど、でも、なんとなく伝わってくる感じがします。

田島にとっては、自分と成ちゃんとの立ち位置の違いが、一目瞭然だったみたいですよ~(←ひとごと)
limeさんにどんなふうに伝わったのかがちょっと気になりますねぇ。

「大人」になるのって、時間かかりますよね。私も(*u_u)
2013.07.26 Fri 21:18
Edit | Reply |  

Name - おなかぴーたろー  

Title - No title

こんばんは~!

太鼓は生で見るとド迫力ありますよね~!
実家近くの自治会で、中学生位の子供たち
3人が叩いていたのをみたことありましたけど
少人数ながら、迫力ある演奏をみせてましたよ!
それを見ながら、自分もやれば良かったなーと。

悔しいので、自分の「おなか」
叩いてますe-350
結構、イイ音するんですよ~i-229
2013.07.27 Sat 02:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - おなかぴーたろーさん

コメントありがとうございます~!

そうそう。小学生も中学生もやってますよね。
三人でも、一人でも、ド迫力、ありますよね~!

ぷぷぷ。ぴーたろーさん・・・つぼにどんとはいった。
今からでも遅くはない。
イイ音に期待大です。
是非、成ちゃんとコラボで^^
2013.07.27 Sat 10:28
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

結構人生とはそういうもので、交差するとまた道が違ってきますからね。そこが生きることの妙ですよね。そういえば、最近はあまりそういうのと会ってないですねえ・・・。連絡はするんですけどね。
2013.07.27 Sat 17:10
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。交差点でどっちを選ぶかで全然違っちゃうんですよね。
生きることの妙、うまいこと言いますねぇ。
いろんな道があって、すべての道が正しいのだと思います。
2013.07.27 Sat 19:46
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

>寝ちゃったわけではありません(-_-;)

に、思わず笑っちゃいました!

すごい、鏡君は兄弟多かったんですねー。しかもみんな太鼓を!
すごいなあ~。生で聞いてみたいなあ。

和太鼓って響くんですよね。内に、というか体の中に。
昔一度聞けたことがあって、日本の音って実はすごいなあって思った記憶があります。

夢叶はまた色んな音楽に触れられるのがいいですね!音も物語も多彩だ!
2013.09.17 Tue 23:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

笑っていただけて嬉しいです^^
成ちゃんは五番目です。男ばっか六人・・・(-_-;)
バレーボールができる(?)

日本の音は凄いですよ。
太鼓は大好き。振りも。生、良いですよ~^^
民謡も実は好きだったり。陽気なやつ。
ちょい違うけど、演歌も。

> 夢叶はまた色んな音楽に触れられるのがいいですね!音も物語も多彩だ!

ありがとうございます^^
物語は・・・精進します!
2013.09.18 Wed 16:29
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

いきなり、和風炸裂!になりましたね!

いやー、でもこのシーン、すごくいいです。迫力あります。
頼もしい感じの鏡くんはもちろんですが、『鏡太鼓』の演奏が、目の前に迫ってくるような勢いのあるシーンになってます。なんかこう、映像にしたらとても色彩豊かになりそう。

鏡くんが6人兄弟というのも凄い(笑
2015.07.06 Mon 10:42
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

お。西幻さん、早っ。コメントありがとうございます。

はは。和風炸裂!になりました^^
田島の知らない世界です。

西幻さんの目の前に迫ることができましたかね。
「鏡太鼓」の演奏を気に入っていただけたなら嬉しいです。
自分の世界との違いを目の前で見せ付けられて、田島はちょと落ち込んでしまいました。

成ちゃんは男ばかりの兄弟の中でたくましく育ちました。
銀ちゃんとたくまし会談(?)でもしたら、合うかも(?)
お姉ちゃん子の田島とは大違いです(^^;)
2015.07.06 Mon 14:16
Edit | Reply |  

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