オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 126 

いつも来るという小料理屋で、鏡は京美人の女将に一品一品を注文する。

「乾杯!」

手焼きのぐい呑みをチンと合わせる。晩酌の始まりに、京の山菜を柚子と醤油を合わせた手作りのポン酢でいただく。地元のさっぱり味。

「祥吾と一緒に飲める日が来るなんて」

鏡のお勧めの酒は、伏見の端麗辛口。ぬる燗がすっと喉を通っていく。極上のうまさ。

「あの頃より、少しは大人になったかな」

苦笑する田島に、「少しだけだね」と鏡は念を押すように付け加える。

「祥吾、来てくれてホント嬉しいよ。連絡くれれば、仕事も練習も休んだのに」
「ごめん。突然で。宮大工の職場にでも、連絡すれば良かったよね」
「俺、携帯の番号変えていないけど。いまだに」

鏡は、少しだけムッとしたように目を流す。

「高校のときのまんま。お前はとっとと変えやがったな。俺に知らせもよこさないでさ」

高校時代のすべて捨てた田島は「そうだっけ」と笑ってごまかす。

「それで、祥吾、いつから外国に行ってた?」
「成ちゃん、知ってたの」

まずこの話が来たのに少し驚き、目を丸くする。

「ユーチューブにずっと投稿してただろ。俺、いつもチェックしてたんだよ」
「へえ、よくわかったな」
「だって、STって奴が『ハミスキャ(注)』だろ。分かるに決まってる。初めて見つけた時は、びっくりして震えた。てか、興奮してばち折った」

鏡がばちを折るのは、高校のときからであったことを思い出す。けれども、和太鼓のばちを折るなんて、それは相当のこと。

「それで酒飲みまくって、酔っ払って、稽古場戻って、一人でばち折りながらたたきまくって、そのまんま稽古場で寝ちゃって、次の日仕事にならなかった」
「なんだよそれ。成ちゃん、何本折ったの?」

思わずクスクスと笑う田島の問いには答えず、鏡は続ける。

「祥吾、そのあと、歌入れてアップするし、英語だし、路上のやつもどんどん上がってくるし、もう釘付け。最後のサプライズのなんか、泣きながら見た」

鏡が見てくれていたことが嬉しくて、何だかこそばゆくて、そして笑える。鏡も機嫌良くニコニコしながら、ぐっと端麗辛口をあおった。

「で、俺に何の用? 何か言いに来たんでしょ」

そう。鏡には大事な話がある。直接会って言わなくてはいけない。そのために京都まで来たのだ。

田島は「うん」と言ってぐい呑みをテーブルに置き、神妙な面持ちで鏡に向かった。

「成ちゃん。俺はまたやる。今度はあきらめない。それを成ちゃんに報告しに来た」
「そうか。それで?」
「ライブとかCDとか、ユーチューブも続けたいし、やりたいことがたくさんあるから、それをやるよ」
「で、誰と?」
「え? 誰、と?」

もちろん自分でやるのだけれども、誰と、ときかれると答えに詰まる。眉を寄せて固まる田島の顔を、鏡が迫るように覗き込んでくる。

「祥吾、お前、すっごく良い目をしてる。変わった。あ、これ良い意味で」

鏡は、田島と視線を合わせ、瞳を吸い込むように見つめた。

「祥吾、俺に言いたいことは何?」
「だから、久しぶりの挨拶と、これからの報告と」

田島としては、かなりの覚悟でこれを言ったつもりだったのだが、鏡から改めて問われると調子が狂い、トーンが下がる。

「それで、俺にどうして欲しいの」
「成ちゃんに?」

泳ぎ出す田島の目を、逃がさないようにと鏡の視線が追う。少しの沈黙が流れ、「ああ、もう」と鏡は手にしたぐい呑みをまさにグイと空けた。

「俺、お前に何年待たされたと思ってんだよ。アニキたちみたいなおっさんになっちまうところだった」

鏡は「危ねえ、危ねえ」とつぶやきながら、徳利に手を伸ばして自分と田島に注いだ。田島は鏡が何を言っているのか、いまひとつピンと来ない。

「祥吾、やっとまたやる気になったんだろ。ったく、復帰するのに時間かかりすぎなんだよ」

ぶつぶつと文句を言いながらも、鏡は待ち人にやっと会えた時のような笑みを見せる。酒の進む鏡の一方で、田島は迷子にでもなったように、少し困惑していた。

「ちょっと待って、成ちゃん」
「なに。あ、まさかお前、一人でやるつもりじゃないよな。いや、それはありえねえ。じゃあ、俺じゃダメってこと?」

まくし立てる鏡に、田島は言葉を遮られる。

「ダメ、なの?」
「ダメなわけないでしょう」

目尻を下げ、「だよね」という顔を見せて、鏡は田島に間を与える。

「俺だって本当は、また成ちゃんと一緒にやりたいよ」
「ははぁ。やっと言ったな、祥吾」

鏡は手を伸ばして、子犬の頭をなでるように、田島の頭をくしゃくしゃとなでた。

「お前にもの言わせるのには、相変わらず苦労するよ。そこは変わらねえな」

鏡は嬉しそうに箸を持ち直して、つまみに手を伸ばす。

「けど、成ちゃんは、鏡太鼓やってるだろう。そっちはどうなる」
「どうにもなんないよ。鏡太鼓にはアニキたちがいるから、俺がいなくなっても全然平気」
「成ちゃん、それマジで言ってんの? お前が立ってたあそこは?」
「あそこは俺じゃなくても誰でも立てる。それに、あそこは俺の本当の居場所じゃない」
「本当の居場所?」

田島は首を傾げる。鏡は箸を止め、田島にまっすぐに目を向けた。

「俺の居場所は、瞬と祥吾がいるところ」
「瞬と」



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積もる話が長いんで、いったん切ります(-_-;)
日本酒もちょっとなら良いです^^

(注)「ハミスキャ」とは(→『夢叶』89話


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Comment

Name - lime  

Title - No title

おおっ。成ちゃん、いっしょにやるのかい?
田島くんとまた、いっしょにやるのかい?
これはきっと、田島くんも思いがけない言葉でしょうね。

前回、田島くんはたぶん、成ちゃんの歩く道を、ぼんやり確認してしまったんでしょうね。
成ちゃんの居るところはここで、自分の歩く道とは違うんだって、なんとなく。

ところが、あっさりと成ちゃん、田島くんと歩くと?
泣かせるねえ。
きっと成ちゃん、それが夢だったんでしょうね。
田島くんと、瞬くんの居るところ。
何かが、始まる予感^^
2013.07.30 Tue 18:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。太鼓をやる成ちゃんを見て、ここから引き抜いてはいけない、と思った、
にも関わらず、成ちゃんの方は、実は田島のことをずっと待っていたわけで・・・
またいっしょにやります。

成ちゃんは田島と違って、よくわかっている人なので、
田島を引っ張りながら、一緒に歩いてくれるでしょう。
何かが、始まります^^
2013.07.30 Tue 22:50
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

・・・大人かあ。私は昔より大人になったのだろうか・・・。
と思うときもあります。
未だに小学生のころの同級生と酒を飲むときがありますが。
確かに姿容姿は変わっているのですが、
本質は変わっていないのかなあ・・・と思ったりします。
これは男性視点だからこそなのか。
大人になると、それ相応の対応はとりますけど、
本質は変わらないのかなあ・・と思ってしまうところもあります。
2013.07.31 Wed 17:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

なっていますとも!
へえ、小学生のころの同級生さんとですか。それは良いですね。
もう、気心以上に知り合っていらっしゃるのでしょうね。

大人になる、というのは変わることではないと思うんです。
変わることではなく、気付くことではないかな。
変わらない、ということに気付く。
LandMさん、大人。

大人になれるか。
田島がじゃなくて、私が(*u_u)
2013.07.31 Wed 19:56
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

夏バテっている間に、成ちゃんと祥吾の間で、そんな話が……。
しかも、京美人のいる小料理屋だなんて粋ですわ。

ふたり、いい感じですね。
20代男子が、同性に髪くしゃですか?
おばちゃん、ちょっと萌えですよ。どうしましょう。
そんな目線、持っちゃいけないと思いながらも
……どうしましょう(爆萌)。

89話まで戻ってしまいましたよ。
アジアにいたのに!
日本もアジアだけど!
けっこう回りましたね!

そして日本は暑いですよ!
おこたに暖炉なんて、考えただけでも…(ToT)
2013.08.01 Thu 14:52
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

今年のジャパンは相当熱そうですね。
回復されましたか。お大事に。

成ちゃんと祥吾、冬なのでぬる燗してます。
(↑熱(あつ)じゃないのかと突っ込まないでね)
会話もゆるめです(^^;)

> 20代男子が、同性に髪くしゃですか?

ぷぷぷ。そんな目線てどんな目線かなぁ~。見たい。
この20代男子、高校時代も髪くしゃしてます。
さあ、今度は『夢叶』62話まで戻っていただきましょう。
http://meuniverse.blog10.fc2.com/blog-entry-135.html

こちらもまだ冬ですよ。
今日、朝、エアコンを入れて、そのまま、仕事に行き、 一日、きっちりと仕事して、帰ってきた時、ドアを開けた途端に、中から空気が、ボワン、と来て、それで、あ、と、思い出した、なんてこと、しました。

いやいや、これでも今年初。はい、毎年(-_-;)

熱くて暑いところ、お体を大事になさってくださいね^^
2013.08.01 Thu 20:16
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - いったんここで

このあたりに来ると、あともうちょっとで追いついてしまうわぁと、ちょっとのろのろになりました^^;
何だか読むところが無くなるのがもったいなくて、ぐずぐず読みになっています。
124のね、早く会いたいけれど、ちょっとためらっちゃう、でも早く会いたい、でも……みたいな気持ちの揺れ、すんなりと伝わってきます。
このストレートさがいいんですよね、けいさんの書かれるお話って。
そしてそして、そう、待っててくれたんですよね。今まで初めて会う新しい人脈の中で動いていた田島くんが、本当に大事な仲間のところに帰ってきた! それはすごくすごく遠い回り道のようでいて、実は必要な過程だったのですね。段を積んだから、今何かに届くかもしれないところまで来ている。
和太鼓、カッコいいなぁ。民謡のひとつも唸りたくなりました(^^)
あ、それから、妙に鏡兄弟の登場が面白い~~賑やかな兄弟たちのわさわさした感じ、伝わってきます。
あと15話くらいかぁ。追いつきたいような、もったいないような……
2013.11.06 Wed 23:24
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: いったんここで

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

着々と追ってくださるのが本当に嬉しいです^^
バンバン書かれていらっしゃる皆様と比べると、
時間かかってるくせに記事数は少ないですねぇ。
だからって、気にせずに、得意のマイペースを発揮しております^^
描いてるより、読んでるほうが長いな。多分。

> 124のね、早く会いたいけれど、ちょっとためらっちゃう、でも早く会いたい、でも……みたいな気持ちの揺れ、すんなりと伝わってきます。

わ、伝わりましたか。ちょっと安心です^^
心の動きって、表現するの難しいですね。ホントに。まだまだです。
今のところはストレートで切り抜け、変化球は練習が必要というところです(^^;)
ストレートを褒めてもらえるのも、嬉しいものですね。もっと。ちがーうっ。

> そしてそして、そう、待っててくれたんですよね。今まで初めて会う新しい人脈の中で動いていた田島くんが、本当に大事な仲間のところに帰ってきた! それはすごくすごく遠い回り道のようでいて、実は必要な過程だったのですね。段を積んだから、今何かに届くかもしれないところまで来ている。

もうこれは、成ちゃんが田島のことを信じていた、に尽きます。
そこのところを読み取っていただけて嬉しいです。
これから二人の時間が再び動き出します。

> 和太鼓、カッコいいなぁ。民謡のひとつも唸りたくなりました(^^)
> あ、それから、妙に鏡兄弟の登場が面白い~~賑やかな兄弟たちのわさわさした感じ、伝わってきます。

和太鼓、大好きなんです。民謡は良いよう~(何度も言ってる^^)
鏡兄弟、男ばっかで六人です。みんな太鼓をやります。
わさわさ、いかがでしょう(って何の話? -_-;)
大海さんとの共演も、いかがですか。囲まらせるとか。背後にはべらせるとか。

> あと15話くらいかぁ。追いつきたいような、もったいないような……

大海さんのペースで^^
今後もお楽しみいただけますように。
2013.11.07 Thu 20:14
Edit | Reply |  

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