オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夢叶 128 

京都から戻ってすぐに、田島はバイトを始めた。新しいギターを買い、アンプなどの機材を揃えるためだ。再び実家を出て、東京で暮らす準備も始めた。

鏡は、京都での仕事は続け、週末だけ東京に来て田島と合流した。実家に残していた高校時代のドラムセットの保存状態が意外に良く、すぐに練習を始められた。

「高校時代も、祥吾はよくモノマネをやってたよ」

田島は、先ず花園に鏡を紹介した。三人で、花園が大学時代にバイトをしていた渋谷の居酒屋に行き、ジョッキを合わせる。

「もう、カラオケでなりきっちゃってさあ。似てるし、上手いし」

花園と鏡は「そうそう」とお互いの話に相槌を打ち合う。田島についての情報交換で二人は話が弾み、旧知の間柄であったかのように意気投合した。

当の田島は、途中で口を挟むことが許されず、花園から「黙ってろ」としばらく放って置かれる。憮然として一人でつまみをバクバクと食べると、今度は鏡から「食いすぎ」と箸を持つ手の甲をペシッと叩かれた。

―――なんなの、お前ら?

カフェに鏡を連れて行ったときは、マスターが涙を流すほどに鏡との対面を喜んだ。エプロンの端で目をこするマスターを前に、鏡は田島がここで過ごした時間を容易に理解する。

「いつでもコーヒー飲みに来てよ」

カウンターで、ゆっくりとカプチーノをすする。変わらぬマスターの笑顔と居心地の良さが嬉しくて、そして安心した。

ほどなく、田島と鏡は音源とデモを作り、出演させてもらえそうなライブハウスを探し始めた。

先ずはライブを見に行き、出演バンドの傾向などをチェック。ジャンルは多様化しているようだが、やはりポップスとロックがメジャーだ。衣装・メークやステージングなどに凝っているバンドも多い。

ライブハウスに渡すプロフィール写真と、CDカバーのデザインを頼もうと、田島はさやかに連絡を取った。この時は、三人で懐かしの再会、というわけにはいかなかった。

「さやか、落ち着け」

田島の横に立つ鏡を見つけると、さやかは大きく目を開き、言葉を失った。はらはらと涙を流し続けるさやかをなだめることが、頼みごとをする前に男二人のすることとなった。

その後、電話やメールでいくつかのライブハウスに問い合わせをするのと同時に、さやかに作ってもらったプロフィールとCDを郵送したり、直接ライブハウスに持ち込んだり、という出演交渉の時期を過ごした。



―――花の色は一体何色あるのだろう。

そんなことをぼやっと考えるせいで、田島はスタスタと先を行く鏡からはぐれそうになった。

整備された歩道の脇で、パンジーやらマリーゴールドやらチューリップなどの春の花が咲き乱れる。ぽかぽかと明るい日差しを浴びて、競うようにそれぞれの色を明るく放っていた。

郊外の静かな丘の上にあるこの公立霊園は、色彩豊かな花木に囲まれた広大な庭園のようだ。

「瞬、伏見の端麗辛口だ。うまいぞ」

長谷川の墓石の前で、鏡が京都から持って来た日本酒を三つのグラスに分けた。軽く乾杯をして、グラスの中身を一気に飲み干す。

「瞬はわかっていると思うけど」
「ま、こういうことだから、どこかで見てて」

ここに来て説明はいらなかった。あとはただ心を無にして手を合わせ、目を閉じるだけ。

しばしの静けさの中、暖かい春の風がさっと吹いて、少し伸びた田島の髪を揺らした。手をおろすと同時に薄目を開け、うつむいたまま隣に立つ鏡に声をかける。

「行こうか」

返事がない。横を向くと、鏡がシャツの袖で目を押さえていた。

「成ちゃん?」
「いまだにだめだ。何年も経っているのに」

鏡は持ってきた日本酒のボトルを開け、「もう一杯だけ」とグラスに注いだ。

「成ちゃんが泣くなんてね」
「俺だって泣くさ」

鏡は酒の入ったグラスを手にし、視線を落として鼻をすする。じわっと浮かんでくる涙をまたシャツの袖で押さえた。

「祥吾がつぶれてしまうんじゃないかと思ったときが、一番泣いた」
「俺が?」

鏡が長谷川のことで涙を流すのは、長谷川が命を落としたあの事故の当日以外、田島は見たことがなかった。鏡は田島と違って、人前で取り乱したり、自分の感情をあらわにすることは一度もなかった。

「瞬が守ったお前を、俺が守れるかどうかわからなくて」

今まで聞いた事のなかった、田島の知らない鏡の思い出。

「ここに来て、瞬にどうしたら良いか相談しようとしたけど、涙が凍るくらいに寒かっただけ。瞬がいない、ってやっと自覚した」

心がつんと突かれる。鏡は自分よりずっと大人でしっかり者なのだ、と田島は思っていた。けれども、そうではなかった。

「祥吾が抜け殻みたいになっちゃったからさ。祥吾まで俺の前からいなくなったらどうしようって。祥吾は俺のそばにいて欲しかった」

鏡の思い、過ごした時間、流した涙、すべては田島と同じ。長谷川を失ったあと、鏡は田島のことも失わないようにと必死だったのだ。

田島の思い出の中では、鏡の方がいつも田島のそばにいた。それがどれだけ田島を落ち着かせていたか。

三人でとっていたバランス。ひとつが欠けて崩れそうになったとき、バラバラにならないようにと守っていたのは鏡だった。

「俺は成ちゃんに守られていたよ。成ちゃんがいなかったら、俺はきっと抜け殻のまま墜ちたきり。だから俺は、成ちゃんに頭が上がらないんだって」

飲みきれなかったグラスの酒を地面に振り、鏡は表情を緩めた。今だから言える。そんな話ができて、少しホッとしたようにも見えた。

「今日はうれし涙」

ゴシゴシと目をこすり、鏡は顔を上げた。

「行くか」

二人は春の花の咲き乱れる歩道に戻って、霊園を後にした。

―――瞬、また来るよ。

きっとこれからは、長谷川に新しく報告することばかりになる。それを信じて、二人は初めて臨むオーディションライブに向かった。



< 前話  TOP  次話 >



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




成ちゃんとみんなとのご対面。
何気に、田島と徹さんと成ちゃんのスリーショットにうるる。

さやかの初登場はこちら → 『夢叶』57話


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - lime  

Title - No title

花園くんとも、マスターとも、成ちゃんはご対面したのですね。
一瞬にして、田島くんと彼らの、親密な日々が理解できちゃったでしょうね^^
成ちゃん、仲間入りです。

そして、瞬くんにも報告できたし。
そりゃあ、何年経っても喪失感は満たされないよねえ、成ちゃん。
泣いたっていいよ。
これからは、どんどん、吉報をもってここに来れたらいいね^^
2013.08.18 Sun 09:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

はい。ご対面(挨拶回り?)です。
あれだけ話題にものぼっているし、会わないとね。
その割にはあっさり(^^;)
初対面という感じではなかったのでは。

瞬は二人にとっては心のよりどころ。
今は引きずることはないけれど、忘れることもない。
ここでまたこころ新たにできました。たぶん(ナヌ? -_-;)

成ちゃんだって、泣くのさ。ね、成ちゃん。
瞬とlimeさんに吉報を持ってこれるように(作者が)頑張ります(汗 ^^;)
2013.08.18 Sun 11:23
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

涙腺弱いおばちゃんの心を、ぐいぐいと突かれてしまいました。
きっと守って導いてくれますね。

そちらにはお盆のような行事はあるんでしょうか。
ジャパンの暑さ緩まず。
そちらは、暖炉生活でしょうか。
あなたにも残暑あげたい(チェルシ~)
2013.08.20 Tue 23:15
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

城村さんのおめめの方も守ってくれますように。
お大事になさってくださいね。

お盆のような行事はないですねぇ。
町の墓地にはいつもお花が飾られていて、芝生もきれいに刈られています。
管理されているとは思うのですが、詳しくは・・・?

暖炉は週末に楽しんでいます^^
平日はエアコンがんがんで、電気代消費しています(><)
雨がしとしと降ると、ホント寒々しい。ここはどこ・・・
2013.08.21 Wed 15:15
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

こうゆう悲しみも共にした友達というのは何年経っても壊れないものですよね。うらやましいなあ・・・と思うところもありますね。こういうものを真の友情というのでyそうね。すばらしい絆ですよね。
2013.08.24 Sat 12:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。共通のものが胸にあると、ずっとずっと友達でいられる。かな。
同じものを見て聞いて語り、同じ時を過ごす。
離れていても再会したらまた笑える。そんな友達、良いですね。
2013.08.24 Sat 15:35
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - いよいよ

本格的に新しいスタートですね。
成ちゃんが待っていてくれた。これは本当に宝物ですね。
何だろうな、昔の友、一番つらい時傍にいてくれた友、その人とは、長い時間語り合わなくても元の位置に立つのは簡単ですよね。そして、過去のことは、言わなくても分かっちゃう。たとえ一緒にいない時間のことであっても。
でも、これからのことは時間をかけて、いっぱい話さなくちゃ!
そんな感じの二人の時間がとても素敵です。
で、伏見の端麗辛口、と(そこ?)。やはり酒があって、隙間が埋まっていくのですね~
そしてそして、瞬くんも「そういうことだから」と言われて、ただもう「わかった!」って感じなんだろうな。
周りの人も、もう自然に馴染んじゃっているのが、田島くんだな。素敵。でもこのじみ~に人の心に入り込む感じ、ただのメジャーに行くんじゃないよね。

花の数だけ、色があるのですよね(*^_^*)
素敵な、2人の色の花が咲く、そしてこれからは他の人の色も混じっていく、その時間を追いかけることにします。
2013.11.15 Fri 20:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: いよいよ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

はい、やっとスタートです(^^;)
遠回りしたけど、これが進む道。
そこに戻ってきました、というところですかね。
成ちゃんと田島との間には多くの言葉は要らないんですよね。そんな関係。
本編ではまだまだ表現しきれていないのですが、読み取っていただけて嬉しいです。

伏見の端麗辛口にちょっとお手伝いいただきましたよ^^
彼らも高校生からちょっとは成長したということで。

> 花の数だけ、色があるのですよね(*^_^*)
> 素敵な、2人の色の花が咲く、そしてこれからは他の人の色も混じっていく、その時間を追いかけることにします。

田島と成ちゃんとの再会がベースとなるけれども、高校時代とは周りの色が大分違う。
その色と時間をチェックしに、またお越しください^^
2013.11.16 Sat 10:01
Edit | Reply |  

Add your comment

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。