オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 129 

田島は、日々のバイトにいそしんだ。夢を追うなんて、美談になどなりはしない。そこにあるのは現実。今必要なのは先立つもの、つまり、お金。

いくつかのライブハウスのオーディションに行き、ほとんどのところでライブをやらせてもらえることになった。けれども、ライブをやるからには、お客さんに来てもらわなくてはならない。

チケットノルマ。なじみのファンなどいない田島と鏡は、これを自腹でライブハウスに払わなくてはならなかった。

ほとんど客のいない中ライブをして、チケットノルマとその他諸費用をライブハウスに払う。そんなスタートを切る。

無名バンドも見に来てくれる常連客を持つ、有名な老舗のライブハウスから返事が来るも、出演は3ヵ月後。どこかのライブハウスでレギュラーに、という話などありそうにない。

『ま、時間のあるうちに、新曲作っといて』

京都からの鏡の連絡に、時間があるわけではないけれども、今できることをやろうと部屋でPCを開く。

バンドのホームページを立ち上げ、ユーチューブとフェイスブックとにリンクする。それから、音源をオンラインで販売する。今はCDを売る時代ではない。一曲ごとに買ってもらえるようにセットする。

価格も購入者が自由に設定できるようなサイトを選ぶ。10円でも、100円でも、値段は買い手次第。アクセスがあれば嬉しい。売れればラッキー。そんなレベルの販売。一人暮らしの自室で、チマチマとそんな作業を続ける。

「ごめん、祥吾。新幹線込んでて」
「成ちゃん、遅い。リハーサルで、メンバー揃っていないのか、ってPAさんに睨まれた」

ライブのある日も、鏡はぎりぎりまで仕事をして、京都から駆けつける。今日の対バンは、間もなくインディーズデビューをするというビジュアル系で、ファンらしき女の子たちが、入場前にライブハウスの前で列をなしていた。

前売りを持っていないかと声をかけ、自分たちのチケットを少しだけ売る。今日はそんなおこぼれに恵まれる。

「チケット、二枚ありますか?」

後ろから声をかけられ、笑顔で「あります!」と振り返ると、そこには以前カフェで会った有名音楽事務所の杉浦が立っていた。

田島の知らないブランドの高そうな黒いスーツに身を包み、もう夕刻だというのに黒いサングラスをかけている。

そんないでたちは一目で業界人だとわかるし、きっと今夜出演するビジュアル系を見に来たのだろうと予想がつく。

「杉浦さん」
「僕のことを覚えていてくれたとは、嬉しいね」
「チケット、二枚ですね。ありがとうございます」

ビジネスライクに、二枚のチケットを渡す。一万円を受けとり、財布からおつりを出そうとする田島に、杉浦はやんわりと言った。

「祥吾君、京都から『鏡の鳴き龍』を呼び戻すなんて驚いた」

鏡が怪訝な顔をして、田島に目を向ける。この人物が自分たちの過去を知っていることに、田島はさほど驚かない。ただ、もやもやと胸に居心地の悪いものが浮かんでくる。

「民謡界の大御所たちが、どれだけ残念がっているか。僕の耳にまで届いているくらいだよ」
「おつりです」

杉浦は、受け取ろうとしない。田島はじっと杉浦を見つめて表情を読み取ろうとするが、サングラスのせいで目の色が探れない。

「うちに来ないか、祥吾君。僕はスカウトをしているつもりなんだけど」

前回同様、ストレートに訊いてくる。田島は眉間を寄せて、杉浦に視線を投げるだけ。問われたことには、何も返さない。

「前に聞いたとき、曲が未完成だって言ったのは、バンドでやるからっていう意味だったんだね。でも、もう一人、長谷川瞬君が戻ってこなくては、いつまでもバンドは未完のまま。それを理由にまた断るのかな」

杉浦はもちろん、すべてを知った上で話を持ってきているのだ。ノックされたドアを開けずに、中から声だけを返すように口を開く。

「杉浦さん、今日はデビュー前のビジュアルを見に来たんでしょう。楽しんでいってください」
「僕の興味は、このバンド」

杉浦はひらりと、たった今手に入れたチケットを田島に向かってかざした。何の根拠があるのか、自信有りげにニヤリと口元を緩める。

「立ち話はダメだね。話を進めるのは、また今度にしよう」

手にしたチケットをさっと背広の内ポケットに収めると、杉浦はあっさりと背を向けて行ってしまった。

「祥吾、あの人、俺たちがここでやるの」
「うん。知ってて来たんだ」

はっと思いついたように鏡はポケットからiPhoneを出し、田島が作ったバンドのサイトを検索した。

「やっぱり。一曲ごと千円で全部だよ、祥吾」

鏡が不安げに奥歯をかみしめる。サイトに公開していた曲が、全曲購入されていた。そんな買い方をする者が誰かなど、確認しなくてもわかる。

ざわざわと何かが胸に波のように押し寄せてくる。けれども、その波に乗ってはいけないし、巻き込まれてもいけない。

「あの人は強すぎる」

組んではいけない。何の根拠もないがそう感じる。

「過去のことは知られても、これからのことは誰にも託さない」

同意するように鏡が「うん」と頷く。チケットノルマを払うのに苦しむなんて、カッコ悪いスタートかもしれない。けれども、自分たちは一歩を踏み出した。

―――あきらめないと決めた。一歩一歩を積み重ねていくだけ。

田島は杉浦が背を向けて行った先を向き、お釣りとして渡すはずだったお札を千切れるほどにギュッと握りしめた。



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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

うわー、きたー、杉浦さん。

祥吾の気持ちもわかる。

わかるけど、杉浦の気持ちもわかる。
音楽業界の端くれで仕事したことがあるので、
輝くってわかってる石が目の前にあったら
放ってはおけない気持ちわかる。
杉浦さんが芯からの音楽業界人だったらいいのに…。

でもきっと、彼よりデカい人が、
祥吾を、もっと高みに引き上げてくれるよね、
あの人とかあの人とか……。

と祈るおばちゃんでした。
2013.08.25 Sun 12:25
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

今回は、今までと違った空気感があって、ワクワクしました。
田島くんの警戒心が、びりびり伝わってきます。

ただ単に、メジャーデビューして売れたいバンドだったら、飛びつくでしょうけど。
田島くんは、ちょっと違う。
少しばかり意地っ張りにみえるけど、そんなところが好きだなあ。
成ちゃんもきっと、想いはいっしょですよね。

杉浦さん、きっと売り出すために、田島君たちの過去話を使ってきそう。芸能界って、利用できることは全部利用するから。
それだけは、いやだなあ~。
杉浦さん、めっちゃいい人だったらごめん(笑)
でも、夜にサングラスかける人は、要注意だぞ!
2013.08.25 Sun 13:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

きたよー(><)
どっちの気持ちもあって、どっちもあり、ですかねぇ。

おお、何と。城村さん、元業界の方なのですか。
原石が宝石になるには険しい道のりが。
杉浦さんがどう関わるのかな。
(書いていないのか、おい -_-;)

祥吾を、もっと高みに引き上げてくれるのは誰か。
えっとぉ、どんな方にご登場いただこうか。
(書いていないのか、おい -_-;)

おば、誰ですかっ。お姉さま、どうか、(作者のことも)祈ってあげてください。
2013.08.25 Sun 20:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

> 今回は、今までと違った空気感があって、ワクワクしました。
> 田島くんの警戒心が、びりびり伝わってきます。

おお。ちょっとでも空気がかけるようになったかなあ。
limeさんに伝わるものがあったのなら、超嬉しいです^^

はい。田島も成ちゃんも、瞬と想いが同じなのです。飛びつきません。
一歩一歩ですね。近道はないのです。

田島たちの過去話は狙われやすいですねぇ。
利用価値大のトピックです。どうなるか。

> 杉浦さん、めっちゃいい人だったらごめん(笑)
> でも、夜にサングラスかける人は、要注意だぞ!

ふふ。要注意だ(?) ごめんの人かも(?)
ここに来て初登場の読めない人を書くのに作者が苦労する(-_-;)
2013.08.25 Sun 21:30
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

最近の芸能界は結構シビアというか「やってみることはやってみる」必要性はあるんですよね。拘るものはこだわる。ぐらいの気概がないと売れないし、テレビ見ている人も音楽聞いている人も分かっているんですよね。本当に芸のある人の集団ですからね。
2013.08.26 Mon 18:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

この人についていったら、ホイホイと何でも上手くいくのでしょう。
でもね、自分でやってみたい年頃のようです(^^;)
果たして、どれだけのことができるのか。
見守っていただけると嬉しいです^^
2013.08.26 Mon 19:22
Edit | Reply |  

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