オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 131 

「二人だけのユニットとしては、良い音してるね。テンポも良い」

ドラムとギターという少し変則なコンビネーションだけれども、バランスは悪くない。それどころか、ボーカルがのびのびと聴こえてきて、キャッチーなメロディーラインと共に胸に響く。

丈之助は、手に持つブッキングリストに、サラサラとペンを走らせた。

「もうちょっと、ハードでスピードのあるやつをやってくれる?」

二曲目のリクエストをすると、丈之助は椅子の背にもたれた。腕と足を組み、視線だけを赤外線ビームのようにステージに飛ばす。

田島と鏡は急いで曲を選ぶと、息を合わせて演奏を始めた。丈之助は微動だにしない。ただホール一杯にあふれる、音の勢いだけに耳を傾ける。

「うん。パンチが効いてて良かった。次、ゆっくりの。バラードとか。ある?」

今日集まった中で、三曲目を演奏したバンドがいただろうか。そんなことをちらりと気にしながらも、言われるままに続ける。

田島は、今日のたった一人の観客である丈之助に語りかけるように、そのしっとりと落ち着いた曲を歌い上げた。

「ボーカル、うまいねえ。リズムも安定していて、凄く良い」

丈之助のコメントに、田島と鏡はホッと胸をなでおろすように視線を合わせた。あとはブッキングの時期を聞いてそれで終わり、と思ったらそうではなかった。

「最後、アンコール」

思わぬリクエストに少しだけ戸惑う。丈之助は上目遣いで、黙ってステージを見つめるだけ。田島と鏡はどれにするかを手短に相談して、アメリカのロードトリップの途中で作ったうちの一曲を始めた。

アコースティックからエレキギターに楽器が変わった田島の曲は、弾き出すサウンドがなめらかな広がりを見せる。鏡の打ち出す小気味良いリズムとの相性はぴったりで、ノリが抜群に良い。

曲が終わると同時に、パチパチと大きな拍手の音がホールに響く。丈之助は椅子から立ち上がると、白い歯を見せながらステージにあがって、二人に握手を求めた。

「オープン、来月だから宜しく。来月と言っても、初日、二週間後だけどね」
「もしかして、俺ら初日なんですか」
「そう。杮落としに初日と二日目は『ストレッチャーズ(Stretchers)』に来てもらうんだけど、二日間、そのオープニング・アクトね」

「ストレッチャーズ(Stretchers)」といえば、ライブハウスとアリーナツアーしかやらないポップパンクの大物。メディアにほとんど出ないため、ファンはライブにつめかける。「すげー」と、田島と鏡は顔を合わせた。

「俺らもサインとか、もらえますかね」
「何言ってんの。『スクランプシャス』もばっちり宣伝するから、奴らにあげるサインでも練習しときな」

丈之助は目を細くして、白い歯を見せっぱなしだ。夏休みを心待ちにする子どものように「オープンが楽しみ」と田島と鏡に交互に目を向ける。

「それと、一ヶ月間、オープニング・キャンペーンやるんだけど、週三ぐらいでできる?」
「週三、ですか?」
「まだまだバンド募集中だからさ」
「そんな週三なんて、チケット捌(さば)けないですよ」
「チケット? ノルマないから、うち。オンラインと窓口でこっちでやるから心配しないで。その代わり、客呼べるようになるまでギャラもないけど」

チケットノルマがないとは、バンドとしては助かる。けれども、ライブハウスの経営側としては、それで採算が取れるのだろうか。しかも、ギャラだなんて。恐いくらいにどんどん進む話に、田島も鏡も目だけをパチクリさせていた。

「ジャンルは全然違うけど、あのアコースティック君とダブルね。来週末のオーディションでまた良いのが来たらそことも対バンで」

「はあ」と双子のように同時に眉を下げる二人に、丈之助は他のバンド同様「後はメールで」と切り上げた。ステージから降りると、早々に「じゃ」と白い歯が印象的な笑顔に見送られ、田島と鏡はライブハウスを後にした。

数日たってから送られてきたメールには、オープンしてからの仮日程と、イベントカレンダーが添付されていた。

ライブハウス「新宿カビー」のホームページは一新され、トップには杮落としのバンドとして登場する「ストレッチャーズ」と、オープニングアクトの「スクランプシャス」が派手なレイアウトと共に並んでいた。

『アコースティック君、じゃなくて大橋君「今月のピックアップ・アーティスト」だなんて凄いよね、祥吾』

「ストレッチャーズ」との二日間ライブに向けて、田島は京都の鏡と頻繁に電話で連絡を取っていた。

「それより、成ちゃん、仕事の方は大丈夫?」
『うん、長期休暇にしてくれた。うちは家族経営みたいなもんだから、理解あるよ。鈴ちゃんもじいさんもアニキたちも、みんな応援してくれてる』

それでも、休暇に入るまでは休み無しで働く、と鏡は電話の向こうで軽く笑った。

ライブハウス「新宿カビー」のオープンと7月の海開きまで、あとほんのわずか一週間のところまで来ていた。



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「ストレッチャー(Stretcher)」の意味は、「担架」です。


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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

……丈さん、何者でしょう。
チケットノルマなしで、道楽商売でもなさそうだ。
そして、こけら落としに外タレを呼ぶ。
何と繋がっているんだ……と、
2度読みしてしまいました。

オーキド博士の研究所(ホーム)を出たところで、
100レベの進化済みポケモンゲットしちゃった、
みたいな。あ、古いですね、ポケモン。

やや、しかし、
それもスクランプシャスの実力、というわけですね。
だてに世界を回ってこなかったぜ!という
祥吾の心意気を音に乗せて、ファイティ~ン!
おばちゃんもサイン欲しい……。
2013.09.08 Sun 10:17
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Name - lime  

Title - No title

これは、なかなかいい滑り出しですね。

数曲聴いただけで、そのバンドの実力ってきっと、目利きには(耳利き?)わかるのでしょう。

オープンが楽しみ。
普通は、ライブで黒字になるのって大変らしいけど。
「スクランプシャス」が客を呼べるようになるのは、きっとすぐですよ。
サインの練習、しなきゃ^^
2013.09.08 Sun 12:32
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

丈さんは、湘南にあるサーフショップの元店長で・・・はないですっ(><)
道楽商売ではなく、このライブハウス、真剣ビジネスです。

何とそして誰と繋がっているのかなぁ~
世間てほら、狭いじゃないですかぁ。とだけ。
てか、まだ描けていないの。いつものごとく(-_-;)
2度読みとは。ドキドキ・・・

ぷぷぷ。ポケモン、懐かし。
田島たちはどんなポケモンをゲットできたのかな。
ゲットしたのか? された? ま、どちらでも。

スクランプシャスは結構良いのでは。自我じーさん。
田島のボイスはニューヨークでトニーに鍛えられたし、
成ちゃんは「鏡の鳴き龍」ですし。
けどね、業界を渡って行くにはどうなんでしょうね。
心意気を見せてくれい。

城村お姉さまには、サインでも、田島のピックでも、成ちゃんのスティックでも^^
2013.09.08 Sun 13:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

とりあえず、またゆっくりと前進です。
数曲聴いただけでわかるのか・・・って、
丈さんはわかると突っぱねるのでしょう。きっと(^^;)

私もオープンが楽しみです。
これから書きますっ(-_-;)

ライブで黒字は大変そうですね。いろいろありそう。
払う方もチケットの高さに驚くときもありますよね。
お金払っても見たいっていうバンドになって欲しいですよ。
サインも練習ね^^
2013.09.08 Sun 15:27
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Name - LandM  

Title - No title

アンコールというのは確かに欲しいですよね。
その辺まで準備しておいての楽曲なような気がします。
文字通り、曲を楽しむという観点から言えば。
結構、私もアンコールを要求したりします。
2013.09.09 Mon 06:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。
トップとアンコールの位置って、ライブでは重要なのでは。
ライブには映画や演劇のような流れがあって、ストーリー性のあるものも多いように思います。

自分の好きな曲がアンコールで始まると、キターってなりますね。
アンコールを想定してオーダーを決めるようなバンドになって欲しいですね。
2013.09.09 Mon 18:22
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - おぉ~

何だかすごくとんとん拍子で怖いくらい(って、私が緊張してどうする??)
田島くんと成ちゃんの戸惑う顔が目に浮かぶようです。
それにしても気になるのがこの丈之助さん。
何やら渋い~感じがしますね。
自分の耳を絶対信じている人なんだな。
こういうタイプの人、うちにも1人欲しいわ、と思いました。

でも、結局はこれからなのですね。
どんな世界を目指すのか、ただメジャーになるのか、音楽と真摯に向き合えば何が見えてくるのか、これからの二人が楽しみ(*^_^*)

だんだん、追いつきそうになってきたので、コメント挟む間隔を短くしました(*^_^*)
追いつきたいような、追いつきたくないような。
2013.11.23 Sat 01:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おぉ~

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

ここは軽く、やって、と言われて四曲やらされました。
丈さんの渋みを気に入っていただけて良かったです。
渋さは少々抑え気味ですが。経験には長けている。たぶん。

まだまだこれからです。
申し訳ないくらいに先が長い・・・(-_-;)
いや、たぶん、話としては短いかも。
書くペースが長い。それは作者の遅筆のせいぃ~~(><)

> どんな世界を目指すのか、ただメジャーになるのか、音楽と真摯に向き合えば何が見えてくるのか、これからの二人が楽しみ(*^_^*)

どんな世界かな。
そんなに壮大な世界ではないですが、何かが見えてくるような展開になると良いなあ。
田島に見えると同時にみんなにも見える、みたいな。
・・・まだ見えていない作者(滝汗)

こちらはゆ~っくりと進んでいますので、大海さんのペースで追ってきてくださいね。
ホントもうすぐだ。ありがとうございます^^
2013.11.23 Sat 11:43
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Name - あかね  

Title - すごい

またまた久しぶりに戻ってきました。
前は130まで読ませてもらっていたようです。

丈之助さんってどういう人なんですかね。
前身は大物ミュージシャン?
音楽をやっている若者が好きで、商売っ気もなくはないけれど、そういう子たちの力になってやりたいとか?

自分も音楽をやっているから、聴く耳もたしかなんでしょうか。
私もそんな人間になりたい。
演奏はできませんから、お金があったらパトロンになりたいな、なんて思いました。

ああ、祥吾くん、がんばって。
というよりも、祥吾くんだったらがんばりすぎなくても、自然体でいいんだよね。

もはや他人とは思えない祥吾くんには、母心を抱いてしまいます。
祥吾くん、いやがらないで。
2015.01.16 Fri 01:00
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Name - けい  

Title - Re: すごい

あかねさん、コメントありがとうございます。

戻ってきてくださるのはいつでも嬉しいです^^
私も久々にこのあたりを読んでみました(^^;)

丈さんは良い人なんです。前身は、後で語られるので、そこまで是非に^^
ライブハウスは商売っ気とサポートと、ですかね。
聴く耳はたしかです。良きアドバイザーです。

自分はできないけど、スポンサーになるっていうアイデア、良いですね。
そのくらいの金持ちに、てのが・・・(-_-;)

あかねさん、いつも祥吾の応援をありがとうございます。
高校時代とは違って、今は考えながら行動している祥吾です。
母心のあかねさんにはいつも感謝していますよ~^^
この先もよろしくお願いします^^
2015.01.16 Fri 12:13
Edit | Reply |  

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