オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 132 

「サイン、くれる?」
「俺も」
「ライブハウスにもひとつ書いて」

丈之助から「はい」と六枚の色紙とペンをボンと渡された。表彰状を受けるように両手でそれを保持し、田島は小声で控えめにたずねる。

「えっと、俺らも、『ストレッチャーズ』のサイン欲しいんですけど」
「あげるあげる。CDもTシャツも持っていって」

昼から行われていたリハーサルのあと、まだ客のいないホールで、お互いのバンドのサイン交換会となった。

ライブハウス「新宿Cabby(カビー)」の新規オープン初日。エントランスには、ストレッチャーズのポスターが隠れてしまうほどのたくさんの花が飾られ、ゲストの入場を待っていた。

ストレッチャーズは「ポップパンク」と呼ばれるジャンルのバンドで、メンバーは二十代後半の男性五人。演奏のスキルが非常に高く、社会や思想をさりげなく歌詞の中に盛り込む。

曲の方は、ハードでありながらも、ポップミュージックのような親しみやすいフレーズも織り込んでいるため、パンクと呼ばれないときもある。本人たちは、どう言われようと全く気にしていない。

バンドの仲はとても良さそうで、リハーサル中もメンバー同士でずっとジョークを言い合っていた。

パンクバンドにいそうなスキンヘッドや、薬で痩せこけた青い顔のメンバーなどいなくて、五人ともブラックジーンズをスリムに着こなし、彼らの音楽同様スマートで格好良い。

「パンクも変わったねえ」
「丈さん、いつの時代のパンクの話なのそれ」
「ピストルズとか、クラッシュとか」
「クラッシュはちょっと違うでしょう、てか、殿堂レベルだし」

メンバーと丈之助は良く知った仲らしく、話が途切れることなく談笑を続ける。その横で、田島はぼーっと話しに耳を傾け、鏡はドラムのスティックを器用にスピンしていた。

「丈さーん。青、見てくださーい」

ストレッチャーズの照明スタッフに呼ばれて、丈之助は席を立った。

「スクランプシャス、カッコイイね」

ストレッチャーズのギターのタカが、興味深げに田島に話しかけると、メンバーの注目が田島と鏡に向いた。

「丈オーディション、どうだった?」
「丈オーディション?」
「バンバン落とされたでしょう」
「全員ブッキングでしたけど」

田島の答えに、「全員なんて、信じられない」とメンバーたちが顔を合わせる。

「『原宿ルイ』って、原宿駅前にあったライブハウス知ってる?」
「ああ、何年か前に、なくなっちゃったところですよね」

田島たちが高校時代『バンド甲子園』に出演したとき、そのライブハウスでの公開中継審査が一度だけあった。

当時「原宿ルイ」でライブをするためには、競争率の激しいオーディションを通過しなくてはならなかった。

そのオーディションをパスし、晴れてステージに立つことができれば、音楽事務所からも注目され、メジャーデビューにつながるという、ステータスの非常に高いライブハウスだった。

普通はそこに高校生バンドが入れる隙間などなく、『バンド甲子園』という人気テレビ番組の企画だから、田島たちは特別に演らせてもらえたのだった。

「丈さんはそこでブッキング・マネージャーをしていたんだよ。そのときの‘丈オーディション’は伝説になるくらい厳しかったんだけど」

ストレッチャーズはデビュー前「原宿ルイ」でライブをしたいために、何度も‘丈オーディション’に挑み、何度も‘撃沈’したのだという。

「丈さんのコメント、きつくてさあ。音がうるさいだけとか、歌詞の内容がわからないとか、五人のバランスが悪すぎるとか、ボロボロに言われた。俺らだけでなく、他のバンドも散々落とされて、みんなで文句言ってたくらい」

この間の自分たちの時とは全然違う。そう思いながら、田島はステージの上で照明を見上げて指示を出している丈之助にちらりと目を向けた。

「何とか拾ってもらえても、昼間呼び出されて延々とリハーサルさせられて。俺たち、丈さんにずいぶん鍛えられたんだよね。『へばってんじゃねえぞ、そんなんでライブ2時間できるのか』って。で、ライブ2時間当てられた」
「へえ、体育会系運動部みたいですね」
「そうそう。体力付けるために代々木公園を走った。てか、『行ってこい』って、丈さんに追い出された」

意外なバンドと丈之助のエピソードに、田島も鏡も思わず目を細める。

「黒い格好した金髪と長髪の連中が、酒臭い汗垂らして一列になってランニングだよ。タバコむせて、それでやめたし。今思い出すとホント笑える」

その後ストレッチャーズは「原宿ルイ」でライブを重ね、メジャーデビューを果たす。デビューしてからずっと変わらぬパワーとコンセプトで、コンスタントに新曲を出し続けてきた。

「今の丈さんは、オヤジになって丸くなったのかなあ」

「原宿ルイ」がなくなってから丈之助とは何年も連絡が途絶えていたが、この「新宿カビー」のオープンで本当に久しぶりに再会したのだという。

「スクランプシャスは、俺らのデビュー前よりずっと良いよ。これからここで丈さんにビシッと鍛えられるんじゃない?」

田島は「週三でライブ」と言われたことを思い出した。横にいる鏡を見ると、鏡も眉をハの字にして田島を見返している。

「新宿界隈で走れるところ、ありますかね」

ストレッチャーズのメンバーが「ぶはは」と大声で笑った。

「ランニングルートをリサーチする宿題は、家に帰ってからやってよ。それより、ライブの前に何か食いに行こう」

そう言われて、田島のお腹の虫が「ググー」と元気の良い返事をした。



「湘南ビーチは海開き、新宿はカビーの扉が開く!」

ドカンと雷でも落ちたようなサウンドが会場に響く。そこから駆け出すように始まったストレッチャーズのオープニングに、ファンの歓声が波のように覆いかぶさる。

田島と鏡は自分たちのアクトのあと、最前列にもぐり込んでただのファンとなりこぶしを上げる。ストレッチャーズのライブはパワーもノリも最高だ。

「うしろー。聞こえてるよねー。まえー。耳潰れてない? 大丈夫? おっと、二階席はどうだぁ~?」

ちょっと滑りがちのジョークもファンは慣れている。バンドとファンとの一体感が半端ない。ストレッチャーズがライブハウスを好むのも、ファンが殺到するのもこの近さのせいなのだろう。

二日間で、両日共チケットは完売。ストレッチャーズの杮落としライブは「新宿Cabby」の最高のオープニングとなった。



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Comment

Name - lime  

Title - No title

ストレッチャーズのメンバー、かっこよくて気さくで、いいですねえ。
すでにしっかり、親しくなれてる田島君たち。
それでもやっぱり、サインは貰うのね^^

しかし、丈さん、今と昔では随分とちがうのですね。
単に丸くなっただけかな?
方針を変えたのかな?

なんにしても、好調のオープニングで、よかった^^
ここは、規模的には結構大きいライブハウスなんでしょうね。
田島君たち、こっからスタートかあ^^

この前の日曜日にライブに行こうかと迷ったけど、絶対次の日(疲れて)仕事にいけなくなるから、諦めました。
ああ、もう少し体力があれば・・・。
2013.09.15 Sun 11:38
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

「担架」兄ちゃんたち、結構カッコ良かった(また自我じーさん)
パンクはいかがですか、limeさん。
サイン、きっちり貰います。丈さんのコレクションとなります。

> しかし、丈さん、今と昔では随分とちがうのですね。
> 単に丸くなっただけかな?
> 方針を変えたのかな?

すすするどい、limeさん。
今はスルーさせてください、とだけ(滝汗)

「カビー」のサイズは普通ぐらいのつもりです(?)
大きいところは800人から1000人くらい。
あ、でもそうなると、ライブハウスという呼ばれ方ではないですね。

お、ライブの予定があったのですか。
いいなあ。次回に行かれたらまたレビューを^^
2013.09.15 Sun 17:00
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

サイン求められたらどうしようか。
率直にそんなことを思ってしまった。
しかし、音楽をする人は音楽をする人であって、正確には芸能人とはまた違う・・ということを考えると、サインできなくても良い。。。と考えるのが普通なんでしょうか。
2013.09.16 Mon 18:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そう考えると、サインを欲しがる心理って面白いですね。
スポーツ選手もサイン求められるし。
お、作家さんもそうですね。

田島と成ちゃんのサインって、どんなかな・・・?
2013.09.16 Mon 20:19
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

2階席があるんですか、Cabbyは。
新宿パワーステーション思い出しちゃったな。
あの2階から見るの好きでした。

確かに、今のパンクは、鋲のついた服着てなかったり、
頭も、モヒじゃないバンド、多いんですね。
最近、パンクはほとんど聴いてないので、
どんなバンドがいいのかもわからないのですが、
モッズとかって、もう古典?
昔、The JAMとか聴きました。あれも古典?

るるる~時代は流れ~(ToT;)
1990年。思い出すな~。

「新宿界隈で走れるところありますかね」
って言う祥吾かわいいww
内容は違うけど、あまちゃんのアキちゃんに通じるものを、
祥吾は持っているんだな~^^
2013.09.17 Tue 17:05
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

Cabbyは2階席ないっす・・・
すみません。説明不足でしたね m(__)m

モッズ、まだ頑張ってるみたいですね?
The JAMって、パンクだったのですか(@@)今さらびっくり。
ググったら、ポール・ウェラーがまだやっててまたびっくり。
グリーンデイがパンクって聞いたときも衝撃でした。

私のパンクのイメージは音がダンダン!とやたらうるさくてメロディーがなくて歌が一本調子で汗だくで叫んでてギター床に叩きつけて破壊して、何でそんなに機嫌悪いの・・・? って、どんだけ偏っているやら(^^;)

> 「新宿界隈で走れるところありますかね」
> って言う祥吾かわいいww
> 内容は違うけど、あまちゃんのアキちゃんに通じるものを、
> 祥吾は持っているんだな~^^

「城村さん、東京ですよね。ありますか、新宿界隈で?」(by祥吾)
人気のあまちゃん、見たいのに見れないし。(><)
どこがどうつながるのか気になりますぅ~~^^
2013.09.17 Tue 20:18
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

おお!ついに追いつきました!
鏡くんにあってからバンドの動きが気になってしまって一気読み!!

面白いーー!テンション上がっちゃいます^^
ライブ始まる前の高揚感に似た気持ちになるというか。
ドキドキとわくわくがない交ぜで。

ストレッチャーズもカッコいいし!丈さんも、気になる存在です。
あと、ちょっと悪役(?)ぽい音楽事務所社長も次どう出てくるのか!

田島くん、鏡くん、徹さんとの三人飲みも嬉しかったー。
鏡くんじゃないけど、みんな「ずっと待ってた」んですね、田島くんのこと。
もちろんきっと瞬くんも。ダメだ。また泣けてくる><

これからが彼らの本番ですね!!次回更新楽しみにしています!!^^
2013.09.19 Thu 01:11
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

ここまでの一気読み、ありがとうございます!
とっても嬉しいです^^

遅筆なもので、私も時々一気に読み返して流れとかテンポとかがどうかを確認します。
一話を必死に書いていたときと、上がったものを数話一気に読むのとではやはり雰囲気が違うこともあって。
だからといって、書き直すこともできないのですけれど(それで放置プレイ><)

> ライブ始まる前の高揚感に似た気持ちになるというか。
> ドキドキとわくわくがない交ぜで。

うん。自分でもそうなんです。
早くここまで書きたい、けど、書けない、みたいなドキドキ。
ただの妄想を文章化するための悶々・・・楽しいです(-_-;)

> ストレッチャーズもカッコいいし!丈さんも、気になる存在です。
> あと、ちょっと悪役(?)ぽい音楽事務所社長も次どう出てくるのか!

ここに来て出てきた新キャラ、頑張って描いています。悪役はねえ、難しい。
青春ものにライバルとか敵とかはつき物かも知れないのですが。
恋愛ものについての課題とともに、まだまだ勉強中です(-_-;)

私も「ずっと待ってた」一人。旅行が長かったので(^^;)
瞬のことをうまく胸に留めて、成ちゃんとみんなと前に進む。
ああ、どうなるんだろう。

私の場合は皆さんが言うように、勝手にキャラは動いてくれないのですよ。
キャラが動いて話してくれたりストーリーを展開してくれるなんて・・・
そこのところ、どうですか、田島祥吾君・・・? 返事なし(-_-;)

ま、田島とのコミュニケーションは、上手くいっているので心配しないでくださいね^^
それをどう起こしてどう伝えるかが問題なわけで(ここが滝汗ぇ)

rurubuさんのコメントで色々考えることができました。ありがとうございます。
なかなか物書きが進まない作者なのですが、これからもよろしくお願いします^^

次回更新は、えっと・・・成ちゃん、ヘルプミー・・・
2013.09.19 Thu 19:49
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

お久しぶりです。
サボッていた分全部読んで、ここまで追いつきました。
最終章ってことはもうじき、終わりですかね?

また時間ができたら来ます。

2013.09.23 Mon 13:18
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

おお。ヒロハルさん、ホントお久しぶりです^^
いかがお過ごしですか?

全部一気読み! 嬉しいです。
最終章・・・あと残り四分の一ってところぐらいですかね(汗)
時期は・・・まだまだ遅筆なもので(汗2)

お父さん業の傍ら、是非またお越しください。
まだやってんのか、って思われるかも(汗3)
2013.09.23 Mon 18:03
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - うわ

すごく懐かしい名前を見て、ちょっと舞い上がって再度コメントしちゃいました。
(追いつきそうなので、やっとコメント欄も読む余裕が出てきて…)
THE MODS! 無茶苦茶懐かしい!!
結構好きでして。『激しい雨が』とか『バラッドをお前に』とか。
このタイトルで掌編を書いたなぁ(*^_^*)
アルバム名の『BEAT ODYSSEY』はバンド名に頂いたことも。
この辺の(ロック界隈)音楽に疎い私が、なぜ知っていたのかは思い出せないのですけれど……

何て事はともかく、これからは色んな登場人物も出て来そうで楽しそうですね。どんなふうに絡んでいくんだろう。音楽で? 人間関係で?
わくわくしてきました。
2013.11.23 Sat 01:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: うわ

大海彩洋さん、再コメありがとうございます。

はい。コメント欄の皆様のコメントがいつもすばらしくて。
本編よりもずっと素敵に表現していただいております。
いつも涙ものです。これからも是非^^

私は実はTHE MODSについてはあまり知らなくて(汗)
実在のものを自分の物語の中に組み込むのって、楽しそうですね。
掌編とはまた大海さんらしい^^
きっと、MODSのみなさんも知ったら喜ぶでしょう。
うちでは、実際の人物をキャラのモデルにお願いしています。
本人(一応・無理やり・事後報告)公認。徹さんのことです。

この最終章(?)、ここに来ての新キャラがちょろちょろと登場します。
再会もまだあります。絡んでいきます。いや、そんなに深くはないのですがね(^^;)
私も大海さんのようにひとつひとつを深く書き込めるようになりたいです。ああ、いつか・・・
またお越しください^^
2013.11.23 Sat 12:13
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - パンクも好きです

うちの木村章は頑なで、パンクとビジュアル系が大嫌いなのですが、私はどちらもけっこう好きです。
トムロビンソンバンドというパンクバンドが好きだったんですけど、彼らは有名なのだろうか?

それはともかく、丈さんはそういう人だったのですね。
ロックの目利き……はおかしいか。耳利き。

ライヴハウスというところにはほとんど行ったことがないのですが、若いときに行っておくべきでしたね。
いまやもう、オールスタンディングは無理です。
音楽はすわってじっくり聴きたいです。
2015.01.23 Fri 18:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: パンクも好きです

あかねさん、コメントありがとうございます。

章くんは好みこだわりありそうですよね。
あかねさんはトムロビンソンバンドとは。マニアックですねえ。ググりましたよ。
私はポップパンクのグリーンデイが好きですねえ。メジャーです^^

はい。丈さんはそういう人だったのです(^^;)
耳確かな人です。よろしく。

ライヴハウスでオールスタンディング・・・私も若かった(^^;)
音楽はジャンルによりそれぞれです。
基本好きなので、何でも聴きます^^
2015.01.23 Fri 21:19
Edit | Reply |  

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