オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 134 

「丈さん、日曜のオーディションで、良いバンド来ましたか?」

週明け。今日のスクランプシャスの対バンは、ガールボーカルのポップスユニット。ファンやファミリーが来るらしく、久々にある程度の数のオーディエンスの前で演奏できそうだ。

「うん。ロック、ポップス、ビジュアル系、ヘビメタ、ガールズ、不思議系、ジャンル不詳、色々来てるよ。お笑いとか、マジシャンとかも来てる。東京はやっぱり色々可能性があって面白いよね」
「へえ、全部ブッキングですか?」
「うん。大体ね。うちはまだまだバンドもイベントも不足してるから。スクランプシャス、お笑いとやるかもよ。楽しみにしてて」

「え」と目を丸くして固まる田島の脇を、丈之助は「かはは」と白い歯を見せながら笑ってすり抜けていく。同時にポケットで鳴った携帯を取り出し、「もしもし」と対応しながら外に出て行った。

今日も、ライブのために与えられたリハーサルの時間は30分。ステージでいつもの位置にセットアップをして、鏡と呼吸を合わせる。

PAに入るはずの丈之助が、外に行ってしまったのを少し気にするが、照明も音響も普段と特に変わることもなく、大きな問題もない。

―――え? 何だこいつ?

曲の途中、それは一瞬にして始まった。ベースを抱えた青年が素早くステージに上がると、あっという間に自前のコードをアンプに差し、リハーサルに加わってきたのだ。

セカンドコーラスの始まり。田島は驚いて、「誰?」というように鏡に顔を向けた。鏡もドラムを打ちながら首をひねる。

黒いベースを低く抱えるこの青年は、痩せてひょろりと背が高い。今時、製造停止のフェンダー・クラッシック・モデルを持っているなんて、どうやって手に入れたのだろう。

背を丸め、俯く顔に前髪が長くタラリとかぶさり、どんな目をしているのかが見えない。ニヤリとした口元だけを田島たちに見せ、遠慮なく曲に合わせてくる。

青年の弾くベースラインが、妙にフレーズにマッチしてサウンドが膨らむ。それがすぐに分かったから、演奏を途中でやめることはせずにそのまま最後まで続けた。

「名まえは、湊人(みなと)。ここのアルバイト・スタッフ」

曲が終わると、田島が口を開く前に、青年の方から自分の名まえを告げてきた。片手で前髪をかき上げると、切れ長の鋭い瞳が、田島のことをまっすぐに見据えていた。

「ここのオープンの初日と二日目、ドリンクバーに入ってたんだけど、覚えてないよね」
「何の用?」

田島は少し警戒して睨みを返す。曲に湊人の弾くラインがマッチしていたとはいえ、ペースが少し崩されたことには変わらない。

「祥吾さんたち、ベースいるよね」

田島の返事も聞かずに、湊人は軽快にベースをワンフレーズ弾いて見せた。

「ね。良いでしょう」

少しだけ目尻を緩める湊人が、自慢げに問いかける。正直、うまい。どこかで基礎をみっちりやってきている。田島はそんな印象を持った。けれども、それを口にすることなく、じっと湊人の瞳を探る。

「スクランプシャスは、今ベースがいない分、成太郎さん、ドラムのキー低くしてるけど、俺が入ればキー戻せるでしょ」

鏡と田島が同時に顔を合わせた。

「湊人は、学生? 社会人?」
「大学生」
「どこの」
「東京音大。今年四回」
「良い大学に行ってるじゃないか」

田島と鏡とで交互に訊ねる。

「何勉強してるの?」
「一応、アレンジ専攻。だけど、ほとんど大学には行ってない。祥吾さんたちとバンドやれるんだったら大学は辞める」
「大学は辞めるな」
「四年なんだろう。卒業しろよ」
「いやあ、今からはもう今年の卒業は無理」
「そっか。短い付き合いだったな、湊人。お前、なかなか上手かったよ。じゃあな」

ほんのそれだけで、田島は話を切り上げた。そそくさと背を向ける田島に、湊人は何が気に入らなかったのかと唖然とする。鏡が素早く助け船を出した。

「何が何でも卒業する、って言え」
「うん。祥吾さん、今年は無理でも、来年でも何年かかっても大学は卒業するから。ね、一緒にやってよ」
「やってよ、かよ」

口は悪いが必死に訴えてくる湊人に、田島が向き直ったところで、外に出ていた丈之助が戻ってきた。

「おお、湊人。‘祥吾オーディション’はどうだった?」

「なにそれ?」と口を膨らます田島を無視して、フロアの丈之助とステージの湊人とで会話が進む。

「ジョノ、俺、大学辞めないで、卒業するまで行くことになったから」
「そうかあ。その方がお母さん、喜ぶでしょ」

妙に親しげに話す二人に、田島が割って入った。

「丈さん、どこ行ってたの。このバイト、今日来る日なの?」
「こいつ、6月のオーディションのときにベース一人で来たんだけど、ベースだけじゃね。歌えるわけでもなかったし。それじゃあスタッフに、ってうるさくてさあ」

「ふーん」面白い話だ、と鏡が乗り出してきた。

「それでバイトしながら、自分が入れるバンドを探していたんだ」
「そそそ。つーか、ストレッチャーズとやったときのスクランプシャス見て決まった」
「へえ」

いまひとつ会話に加われない田島は、少しふてくされ、鏡はもうひとつ湊人へ踏み込む。

「いつからやれんの?」
「俺は今夜からやる気なんだけど」
「できるのか」
「一ヶ月練習してきた」

それを聞くと鏡は目を細め、田島に視線を流した。さっきから黙っている田島に向かって、今度は湊人が訊ねる。

「どう、祥吾さん、良い?」
「成ちゃんが良いなら」
「じゃあ、湊人、もう一つ、二つ、リハやろうか」

田島がボソッと答えるのに鏡は素早く反応し、サッとドラムのチェアに座ると、チューニングを変え始めた。丈之助はいつの間にかフロアから姿を消し、PAに入っていた。

「そういえば、湊人、お前の苗字、何?」
「村崎(むらさき)」
「え? 紫色のムラサキ?」
「ちげーよ」
「ちげーよ、かよ」

その時、鏡が「ワン・ツー」とスティックでカウントするのが耳に入り、二人は慌ててイントロを弾き始めた。



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Comment

Name - lime  

Title - No title

はははは! いいですね~~! ちげーよ、かよ。

うん、今回も更にテンポがよくて、楽しかったです。
そして新キャラ、湊人くん登場!
ちょっとタカビーかなと思わせといて、実はけっこう可愛い、必死なところもあって。
いいですねえ、すごく新鮮^^
やっぱりベースがいたほうがいいですもんね。

ベース1本で虎視眈々と自分の居場所を探してた湊人くんに、興味津々。
また一歩、スクランプシャスは、完成系に近づきそうですね!
2013.09.29 Sun 05:20
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Name - けい  

Title - limeさん

ちげーよ、かよ。です^^ コメントありがとうございます。

湊人、ちょっとタカビーと見せかけ、実はけっこう可愛いく、必死の姿で(?)登場です^^
新鮮で、生きが良いですかね。limeさんに気に入ってもらえますように。

> ベース1本で虎視眈々と自分の居場所を探してた湊人くんに、興味津々。
> また一歩、スクランプシャスは、完成系に近づきそうですね!

湊人については今後もう少し語られますので、どんなヤツかも少しずつ明らかになります。
ふふ。久々の予告。
てか、メンバーなのに、素性がわからないままで一緒にはやらないって。ねえ(^^;)

相変わらず一歩がのろいのですが、何かに近づこうと頑張るスクランプシャス(と作者)を、
どうか今後もよろしくお願い致します^^
2013.09.29 Sun 14:31
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Name - 城村優歌  

Title - No title

すごいかっこいい名前!
名前がキマってると、読む前から、
その人物のイメージ、ほぼ9割は固まってる感じがしますね。
今どきの、という感じが軽快で、湊人くんに興味津々です。

が、祥吾はまだ躊躇してる……
成ちゃんノリ気で、ここに湊人くんが入ると
……きゃー(//з//)
↑放置してください。祥吾のすねた顔はおばちゃんの萌えツボ。

まぁ、ベースは必要ですよ^^ ね。
2013.09.30 Mon 08:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

おお、名まえを気に入っていただけて嬉しいです!
この子は難産で・・・(by生みの親)

え、9割すか(@@)ドキ。
半沢直樹、ハリー・ポッター、宮本武蔵、紫港・・・ちゃうっ。

ぷぷぷ。祥吾、口チューの格好でスネオです。
成ちゃんは気に入った様子。
これでリズム隊は安泰です^^
2013.09.30 Mon 12:36
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

おお!新キャラ登場ですね。
湊人くん、名前からしてすでにカッコいい~!

そして、まさかの「そそそ」が聞けるとは!
もしや、けいさんに私の口癖をうつしてしまったでしょうか??
申し訳ないと思いつつ、だとしたら嬉しいなあ^^

湊人くんが加わったことで、ますます盛り上がって来ましたね~!
2013.10.01 Tue 21:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

ここに来て新キャラの湊人をどうぞ宜しく^^
湊人が加わったことで、サウンドに深みが出ました。

え、「そそそ」はrurubuさんの口癖だったのですかっ。
若者と話すとよく聞こえてくるフレーズだったので、最近の新語かと・・・
湊人のモデルはrurubuさんだったのか・・・ドキドキ・・・
2013.10.01 Tue 22:42
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

卒業するしないは微妙にネックになりますよね。
結構、それが人生の妙になるときもありますから注意ですよね。
人生とこでどうなるか分かったものでないですからね。
なんにしても、後悔がないように生きたいものですが。
2013.10.02 Wed 19:14
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

田島自身は必死に卒業したので、卒業にはうるさいのかも。
東京音大は良い大学だし(架空だけど)

卒業しておいたほうが、その後の選択肢も増えるんじゃないかな。
人生やっといて無駄なことはないですからね。

> 人生とこでどうなるか分かったものでないですからね。

ホントです。人生の妙。はい、妙尽くしですょ(-_-;)
2013.10.02 Wed 20:09
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

次々に奇才があらわれますね。鬼才ともいうのでしょうか。
関西では大学三回生とかいうので、なんの気なしに小説にそう書いたら、東京の方に、関東では○回生とはいいません。と言われたことがあります、東京音大ではいうのでしょうか? 
ふと気になったので、細かくてすみません。

少々話はずれますが、方言のある地方の人間は、時々、これって標準語? と悩むことがあります。
嵩が高い、嵩が低いとも東京ではいわないと聞きましたが、山梨では言うのかなぁ。林真理子さんは使っています。

使ったものはちゃんとなおしましょう。
ペットボトルの中身は捨ててからゴミ箱にほかしましょう。

こんな貼り紙が大阪にはあります。

うわ、話がずれまくった。
私は大槻ケンヂさんの書いたものが好きでよく読むのですが、けいさんのこの「夢叶」に出てくるような用語がよく登場してますよ。
けいさんの書かれるこういう世界はいいなぁ。とても楽しく読ませていただいています。
2015.01.28 Wed 12:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

大学生の学年の言い方って、関西と関東の違いなのですか。知らなかった・・・
私の時代はやはり両方あって、どっちでも気にしていなかったような・・・なのはきっと私だからだったかもしれない(?)(いつもこれで -_-;) 
今はどうなんですかね。

東京の大学だったので、色々な地方から色々な学生が来ていましたよ。東京出身を探せって話題が上がったほど(^^;) いろいろな方言を教わっては、なんじゃそれと笑っていました。私が「じゃん」を普通に言ったら岡山の子が「ホントに言うんだー」と感動してくれました。なつかし^^ 

方言のある地方の方は、生まれながらにバイリンガルでうらやましいです。
まあいろいろ言う言わないはありますが、通じれば良いのではないでしょうか。
(→おおざっぱのO型 ^^;)
ほかす、って言うんだ。メモメモ^^

いえいえ、ずれまくる話も楽しいですね。
大槻ケンヂさんすか。またあかねさん、マニアックぅ~。
え、どれが大槻ケンヂさん風用語なのでしょう。気になる。教えてください。
あかねさんに楽しんでいただけるのがうれしいです。
またお越しください^^
2015.01.28 Wed 16:03
Edit | Reply |  

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