オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 138 

‘Akane, this is a song about you.
Akane, such a beautiful name.
Akane....’


路上で何人ものために歌ったこの歌を、今はバンドで日本語バージョンを交えて歌う。

イリュージョンのショーから引き続き残っていたお客さんにも、バンドの音楽を気に入ってもらえたようで、スクランプシャスのライブはアンコールまで盛り上がって終わった。

「記事は9月中旬ごろ発売の最新号に載るから、忘れずに買ってくださいね」

インタビューと写真撮影も無事に終了し、引き上げるさやかと茜さんを見送る。

「じゃ、俺も帰る」
「湊人、話は?」

鏡が呼び止めるが、「うん、話す」と言いながらも、湊人はベースを肩に掛けると背中を向けた。

田島と鏡は、純とみんなで飲みにでもと思っていたのだが、純はスクランプシャスのインタビューの途中、機材の片づけを終わらせると、イリュージョニストと連れ立ってさっさと帰ってしまった。

「杉浦さんはいつ帰ったのかな」

丈之助から「ここで軽く飲んでくか」と声を掛けられたときに、そういえばと思い出す。杉浦と丈之助の二人がどんな話をしたのか、想像もつかない。いや、そんなことはどうでも良いと思う。

「インタビューで遅くなったから帰りますよ」

今日は打ち上げもなく、田島と鏡は揃ってカビーを後にした。



9月に入ると、新宿カビーには連日のようにイベントが入り、新顔のライブハウスとしてうまく軌道に乗ったようだった。

スクランプシャスもカビーのイベントからつながりができ、他ライブハウスで行われるイベントからもちょくちょく声がかかるようになった。

それに伴って名まえが少しづつ知られるようになり、ライブにも観客が入るようになってきた。

「成ちゃん、イタリアンに日本酒なの?」
「甘いな湊人。この生地の厚みはアメリカンだから」
「だったらビールじゃね?」
「何だって良いんだよ」

ライブの無いこの日、ミーティングと称して鏡と湊人は田島のユニットに来ていた。届いた宅配ピザにかぶりつき、アルコールで胃に流す。

「渋谷からやっと返事が来た。来月のはじめだって」

ブッキングを問い合わせていた渋谷のライブハウスから、日程が決まったと田島に連絡が入った。6月に音源を送ったときは、出演は少なくとも三ヶ月後と言われていた人気の老舗だ。

ライブハウス「原宿ルイ」が撤退したあと、その「渋谷ウイング」が数多くのバンドを輩出し、近年はストレッチャーズなどのプロもよく出演する人気のライブハウスとなっていた。

「あと、これ」

田島が「ジャジャーン」と手に入れたばかりの「スマッシュ・ミュージック」誌をかざす。

「お、発売今日だっけ?」

そういうところは気にしない鏡が、目をパチクリさせると、「俺が読む」と湊人がひょいと田島の手から雑誌を取り上げ、ページをめくる。

「あった!」

『ライブハウス発掘! 八月のとある暑い日、オフィスビルのひしめく新宿に新規オープンした「新宿カビー」を訪ねました』

「きたーっ」

鏡がワクワクする。田島も耳を傾ける。

『キャパ。オールスタンディングで150~200人』
「そんなに入ったのなんて、ストレッチャーズ以来見たことないよな」

田島が言い、三人で声を上げて笑う。湊人が続けて読み上げる。

『ライブハウスの名まえの由来:新宿カビーのカビーには、カビーハウス(Cabby House)の意味があります。カビーハウスとは、子どもたちが集まって雑木林の中などにみんなで作る、秘密基地のような家のことです。

でも、そこは秘密に隠される場所ではなく、誰にでもオープンに扉が開かれる家。カビーハウスは子どもたちの持ち寄りによって作られ、増築されるところなのです。

新宿カビーは、そんなふうに、出演者が集まり、お客さんが集まり、いつでも誰にでも扉をオープンする、元気の良いライブハウスです。(店長・丈之助)

店長から一言:いつでも遊びに来てください。出演バンド、ソロ、ユニット、パフォーマー、イベンター、オーガナイザー、ホールレンタル、受付・募集中! お問い合わせは新宿カビーのホームページから。www.shinjukucabby.com 』

「へえ、カビーにはそんな意味があったんだ」
「知らなかった。丈さん、言ってくれないし」
「ジョノは聞かなきゃ教えてくれないタイプなんだよ」
「その言い方、気になるなあ、湊人。いつになったらお前の話しが聞けるんだ?」
「次。『ライブハウスがピックアップする注目のバンド』」

ガクッと肩を下げ、鏡がため息を落とす。湊人は「話す」と口では言うものの、結局まだ鏡と田島が聞きたがっているその話をしていない。二人を尻目に湊人は読み進める。

『バンド名:スクランプシャス(Scrumptious)

メンバー:田島祥吾(ボーカル・ギター)、鏡成太郎(ドラムス)、村崎湊人(ベース)

ジャンル:ノリの良いロック・ポップス系のアレンジで、ジャンルは様々。

スマッシュ・ミュージックによるバンドのおススメ評価: ★★★★★』

「五つ星だよ。茜さん、ありがとう」

そう言って、夢見るように視線を宙に浮かす湊人に、田島が「次っ」と急かす。

『軽快なリズムにノリの良いギター、それにベースが上手く絡み、楽しくキャッチーなメロディーを奏でる。

語りかけるように言葉を紡ぐ祥吾のボーカルが、非常に魅力的で、聴く者誰もが心を引き込まれる。アップテンポは疾走感にあふれ、バラードはその世界観に酔いしれる。

スクランプシャスの創り出す極上の音楽を、色で例えるなら「スカイブルー」。まさにどこまでも高く澄みわたる音を提供する。漢字ひと文字では、眩しいくらいに明るい「陽」。四文字熟語では、何にもくじけず意気軒昂に前を向く「意気自如」。

近い将来、日本から世界へと羽ばたくであろう、とてつもなく大きな可能性を秘める、大注目のバンドです!

メンバーから一言:ライブに来てください!(祥吾・成太郎・湊人) スクランプシャス、ホームページ。www.scrumptious.band.com

(取材・編集、津々井茜。撮影、中川さやか)』

「『ライブ映像もスマッシュ・ミュージックのHPにて同時発信』だって。これ凄いわ」
「茜さんに感謝だね」
「お礼のメールするよ、今」

田島はうんうんと頷きながら携帯を手にし、早速メールを打ち始めた。その間、鏡と湊人は机に置かれた田島のラップトップから、スマッシュ・ミュージック誌のホームページを検索する。

ライブハウスを紹介するスナップショットと、ライブのダイジェスト映像を見つけると、二人は食い入るように見入った。



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バンド評価の中の「スカイブルー」(色)、「陽」(漢字)、「意気自如」(四字熟語)の三つは、以前、「田島の声のイメージ」についての企画物をしたときに、ブログ「茜いろの森」のあかねさんからいただいたものをご紹介させていただきました。

あかねさんは「茜いろの森」の中でメインキャラのフォレストシンガーズを「俺たちの声を色で表すと」のような形でいろいろと表現されています。

その中に、漢字とか四字熟語もあって。それがメンバーにぴったりとマッチするのですょ。宝石で、というのもとても印象的でした。ワンちゃんのにウケて、お腹がひねっちゃって大変でした^^

詳しくはこちら(と他も)をご覧ください。
「茜いろの森」から → 『フォレストシンガーズFC1「Sweet10」』

私、このエピソードが気に入ってしまって、あかねさんに、田島に是非とお願いしたのでした。
あかねさん、素敵なイメージを考えてくださって、ありがとうございました^^


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - あかね  

Title - 早速お邪魔しました

まだ途中を読ませていただいていませんので、状況を完全に呑み込めていないのですが。

田島くんたち、プロになったってことなんですかね。
そのあたりは途中、三十話ほどをじっくり読んで追いかけたいと思っています。

ギターとドラムとペースと歌、policeみたいな構成なんですね。
policeはレゲェがかっていてあまり明るい雰囲気ではなかったですが、田島くんたちはスカイブルーですものね。
カリフォルニアの青い空(この歌は歌詞は暗鬱みたいですが)のイメージかなぁ。
ノリのいいポップロック、好きなタイプの曲調ですよ。

聴いてみたーい。
ぜひ、近いうちにスクランプシャスのライヴをyou-tubeにアップして下さい。
あ、それから、ご紹介、ありがとうございました。
こうしてよそさまのサイトに「茜いろの森」って書いていただけると、頬がぽっとしたりして……いやーん←気持ち悪がらないで下さいね(^^;
2013.10.19 Sat 00:40
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Name - lime  

Title - No title

湊人くん、なかなか自分の秘密をしゃべってくれませんね。
もうちょっと引っ張るか~><
でも、今はそれよりも、記事の方が気になるかな?

茜さんに、こんないい記事を書いてもらって5つ星もらえて。
本当にいい感じになってきました。
茜さんともジャンル的にいろいろ情報やイメージ交換できて、うらやましいなあ~。
スクランプシャスが、どこまで登っていくのか楽しみに眺めています^^
うちの息子のバンドも、最近はCDも作って、人気も(少し)出てきたらしいのですが、本当に音楽でやっていきたい者と、就活に向けて動くものと、意見が分かれ始めています。
「昨日は一晩、4人で話し合った」と。
うん、悩め、若者たち。自分の人生だ^^
2013.10.19 Sat 09:00
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Name - けい  

Title - Re: 早速お邪魔しました

あかねさん、早速のコメありがとうございます。

田島たちは、まだまだアマなのです。
そう簡単に事は運ばなくて(^^;)
こちらも亀更新なので、あかねさんのペースで追いかけて来てくださいね^^

おお。ポリス、好きですよ、スティング!
ウッドベースと淡々とした、けど汗かいてるライブが印象的です。

私もスクランプシャス聴いてみたーい(苦笑)
きっと誰かがYouTubeにアップするでしょう。
てか、将来的にはオフィシャル・チャンネルだな。って、いつのことやら。

いえいえ、こちらこそ、色々なお願いを受けてくださって、ありがとうございました^^
次は・・・なんちて。
2013.10.19 Sat 11:07
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

すみません。もうちょっと引っ張ります~。ちょっとです(><)
てか、引っ張るといえば、limeさんのほうが。
私、limeさんに最後の最後まで引っ張られてツボ化したことありますから。ね。
(↑これ、今年の十大ニュースに確実にインします。)

↑そんなこんなを含め、訪問・コメントに始まるブログの交流って、良いなあと改めて思います。
ちなみに、癒しのお宿『憩』が超お気に入りです。

スクランプシャスの歩みは遅々としていますが、のんびりと眺めてやってくださいね。
おお、息子さん、カッコ良いですねぇ。ホント親としてはうちも、頑張れよ、とだけ。

バンドにはみんなドラマがあって。バンド存続に関わる部分て、難しいんですよね。
田島たちも、進学希望の瞬とプロ志向の田島とに分かれてしまい、
結果、バンドとしては最悪の展開となって、ここまで・・・いや、長い(-_-;)

> うん、悩め、若者たち。自分の人生だ^^

そうそう。これっすよ(線目)
2013.10.19 Sat 11:50
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

スクランプシャス、雑誌掲載おめでとう!
色、漢字一文字、四時熟語に例えるとは、
とても粋ですね!
確かに、バンドのイメージが確定されて、
とてもわかりやすかったです。

1歩1歩、着実に登っている祥吾たち、
次なるは、どんなハコが待ち受けているやら。
渋谷ウィング、楽しみにしています。

で、シンさんはどこ行っちゃったのかしら?
押しの強さがスーツ着てるような人のイメージだったのに、
どうしちゃったのかしら?
き・に・な・る~。
2013.10.19 Sat 21:17
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

追いついたぞ……。(^^)v

田島くん、順風満帆ではありませんか。

わたしもそんなふうに生きたかったぜ(^^;)
2013.10.19 Sat 22:11
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

お祝い(?)コメントありがとうございます。

例え話のアイデアはあかねさんのものなので、感謝です^^
面白いですよね。

1歩1歩、歩みはゆるいのですが一応、着実に登っている祥吾たちです。
渋谷ウィング、もう、どこに向かうのかバレバレですよね。
でもほら、ゆるいんで、ね(って何の同意が欲しいの -_-;)

> で、シンさんはどこ行っちゃったのかしら?
> 押しの強さがスーツ着てるような人のイメージだったのに、
> どうしちゃったのかしら?
> き・に・な・る~。

杉浦さんはアポ無しで来ちゃったので、ジョノにあっち行けと連行されてしまいました。
今後の田島・杉浦の押し対戦も、き・に・し・て・ね~(^^;)
2013.10.19 Sat 22:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

うお(@@)追いつかれたっ。ありがというございます!

> 田島くん、順風満帆ではありませんか。

そうなんです。のろいだけで。
もっとドラマチックな展開があっても良さそうなものを。
って、作者ひねりとかできなくて・・・体操競技はムリだ(-_-;)

> わたしもそんなふうに生きたかったぜ(^^;)

まだまだこれからっ。帆をあげるぜ^^
2013.10.19 Sat 22:46
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

声や音を色で表現って面白い!

確かに田島くんは、スカイブルーって気がします!
私も空の色、青が一番好きです。

アメリカに渡った時に、書かれた田島くんの紹介記事もそうですが、けいさん、記事とかも書くのが超上手いですよね。実は副業がライターさんなんじゃ…。なんか雑誌の一読者になったみたいで、心を惹かれます。そのライブを、人を、見たくなる!

私、けいさんについてまだ何も知らなかったら、もしかしたら、プロの物書きさんがこっそりブログで小説を書いてるんじゃ…と思っていたかもしれません!^^
2013.10.20 Sun 00:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

面白いですよね。私もイメージになるほど~と。
あかねさんに感謝です^^

ややや。ちょとまてください。恐縮ですよぉ~~
(↑うつった^^)
本職一筋ですから(^^;)
超くすぐったいですが、ありがとうございます。
スマッシュ・ミュージック宜しく(?)

いやいや、私ではないですが、そんな作家さんが本当にいらっしゃるのではないかとずっと疑っていますよ。
私の疑いの眼は、ruruスケ、いや、ruru坊、いや、ruruべーの方が良いかな・・・あなたにもっ^^
2013.10.20 Sun 09:50
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

オススメ度ってあるんですね。今でも。
なかなか今の時代少なくなってきてますよね。
音楽業界は何が売れるかまったく分からないので、
賭けの部分がありますからね。
きゃりーぱにゅぱにゅが世界で売れるんですからね。。。

高校野球も以前はチーム力評価してましたけど、取り上げていた優勝候補がどこもベスト16にも残らない状況になった大会があって、評価するのを辞めたんですよね。
2013.10.21 Mon 06:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Land Mさん

コメントありがとうございます。

オススメ度は私の中のただの妄想で(-_-;)
今は少ないんですね。はい。

良い意味で予測不可能な方が良いですよね。
田島たちはどうかな。予測可能系ではないかな。
賭けも仕掛けも驚きの展開もなく、たんたんと(遅々と)進んで行きますが、
最後までお付き合いいただけると嬉しいです^ ^
2013.10.21 Mon 16:20
Edit | Reply |  

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