オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 140 

「ね。話し長かったでしょ」

これで終わりというように、湊人は口を閉じて小さな笑みを見せた。けれども、田島はまだ湊人について、初めて会った時から少し気になっていることがあった。

「湊人、このこと、最初に言ってくれたら」
「ああ、ジョノみたいに俺のこと、周りの好奇の目から守ってくれた?」

やはりそうかもしれない、と確信に一歩近づく。田島も少しだけ似たような環境を過ごしてきたから何となくわかる。

「そのゲゲゲの鬼太郎レベルの前髪、すぐに切れって言った」

だらりと顔にかかる前髪から見え隠れする湊人の目が、また上目遣いとなる。その目鼻立ち、顔の輪郭、作り、湊人は生き写しのように父親の村崎一人とそっくりなのだ。

実のところ、田島と鏡の間では、苗字も一緒だし、もしかして湊人は、という話もしたことがあった。けれども、湊人が何も言ってこない以上、詮索することは無いと結論していた。

「髪?」
「長すぎ。目が見えない。誰だかわかんない」

湊人はその容姿のせいで、幼い頃から良い事も嫌な事も、数え切れないほど経験してきているのだろう。髪で顔を隠そうとするのも、ささやかな回避の一つに違いない。

「俺は誰だかわかってもらえない方が良いんだ」

田島は、答えを掴んだようにニヤリと口元を緩めた。

「湊人、俺の名まえ、知ってっか?」
「は? 何の話?」
「あのー『バンド甲子園』に出られてた方ですよね番組見てました。っていう名まえで、よく呼ばれる。ついでに、成ちゃんの名まえは、えっとバンドのドラムの方ですよね筋肉凄いですね刺青カッコ良いですね何で和太鼓辞めちゃったんですか。だ。俺より全然長い」

横で鏡が手を打って爆笑している。

「お前の名まえはたぶん、村崎一人の息子さんでしょうお父さんと良く似てますね。とか、いきなりの、あらまあそっくりだね~、とか? 私お父さんのファンでした、ってバージョンもありそうだな」

鏡の笑いが止まらない。湊人も目尻を緩めていた。

「そうだ、って答えれば良い。隠すよりも見せる、跳ね除けるより受け入れる。すべてをひっくるめてお前なんだから。それにお前さあ、お父さんのこと嫌いなんじゃなくて、大好きなんだろう」

はっとして湊人は田島を見つめ、それから安心したように黙って頷いた。湊人の中にある、偉大な父親との関係、それはきっと言葉で表せるものではない。だからなかなか言い出せなかったのだろう。

それは、田島と鏡が持つ瞬に対する思いと通ずるものがある。思いを実行することはいつでも難しい。田島と鏡も二人掛かりでやっと現状だ。

けれども、動くことによって状況は変わる。昨日よりも今日と、一歩づつでも前に進んできた。それを積み重ねていけば、先にあるものがきっと大きく見えてくる。湊人もそれを知っているはず。

「俺、自分のやりたいことと、父親のやりたかったことが同じだったら良いなあって思ってる」

湊人が父親の影の向こうに見ているもの、それは、田島と鏡が見ているものとよく似ているように感じられた。

「スクランプシャスを、お前の居場所として選んでくれたのが嬉しいよ」

鏡が、笑いのない真剣な表情で湊人に伝える。ダイスはもうとっくに振られ、三人はすでに同じ道に乗っていた。同じものを目指し、同じ方に向かっていた。

「ちなみに確認だけど、俺の名まえは祥吾。鏡家は六人兄弟みんな太郎がつくんだけど、成太郎っていうのは一人しかいないから。で、俺は湊人っていうベーシストと演ってんだよな」
「俺明日、髪切りに行くよ。大学終わってから」

そう言って長い前髪をかき上げた湊人は、良いことを思いついた、という自慢げな笑顔を見せた。

「そういえばお前、大学どうなってんだよ」

けれども、田島が素早く反応したのは違うほうのトピック。そのため、話題が一瞬にしてすり替わってしまった。それから湊人は、大学卒業についての説教を田島から延々と聞かされた。



老舗のライブハウス「渋谷ウイング」。ここで演るというステータスの高さのせいか、それとも、最近、音楽関係の二大雑誌に取り上げられたせいか、今夜のライブにはスクランプシャス目当ての観客が集まり、チケットが売り切れた。

「イベントじゃなくてブッキングでチケットが売り切れるなんて、プロ並だね」
「いえ、今夜は他にも人気のあるバンド入っていますから」

リハーサルを終え、一息ついているところへ杉浦が現れた。今日も、秋物ファッション誌を先行するような色合いのスーツを、きちんと着こなしている。

そんな格好で来なくても、オーラを放つようなこの人の存在は、十分にその場にいる者の目を引く。

「シンちゃん、最近よく来るね」
「おう。髪切った湊人を見にね。短い方が人気が出そうだな」
「杉浦さん、また無駄なお金を使ったんですか」
「それはチケットについてのことかな」

湊人から話を聞いているとはいえ、田島のこの人に対する苦手感は変わらない。

「僕はここはフリーパス。事務所がここの株主だし、うちの企画でもしょっちゅう色々やってるしね」
「杉浦さん、俺も話しあるんで、外に行きませんか」

田島に続き「俺も」とついて行こうとする湊人を、鏡が引き止める。

「俺らはサブウェイ」

鏡は湊人を引っ張って、先に外に出て行った。



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冷戦、始まる。


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Comment

Name - lime  

Title - No title

田島くんの、包み込むような優しさが勃発!
ここで、こんなふうに湊人くんに寄り添ってあげるところが、田島くんだなあ~。
湊人くんの中の葛藤を、さっと感じ取っちゃったんですね。
田島くん流のほぐし方が、いいなあ~~^^
確かに、有名人になったら、長ーーーい名前で呼ばれるんでしょうね。名前を覚えてよって感じ(笑)
でも、私もすぐに有名人の名前を忘れてしまうから、「ほら、○○に出てた、背の高いあの人」とか、言っちゃうなあ^^
髪を切った湊人くんは、ちょっと大人になるのでしょうね。
大学、ちゃんと卒業しなさいよ~~。

で、田島くんは杉浦さんと、何の話だろう・・・。
2013.10.30 Wed 16:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

はは。勃発しました!? 田島、湊人より年上なんで。
なんとなく似たもの同士が集まったような気がしてちょい汗(-_-;)
田島らしきところを汲んでいただけて嬉しいです^^

サザンの桑田さんとか、ミスチルの桜井さんとか、~の、っていうのがついちゃうよね。
スクランプシャスの、なら良いのですが、まだ、番組のと、太鼓のと、村崎さんのなんで(苦笑)

> 髪を切った湊人くんは、ちょっと大人になるのでしょうね。
> 大学、ちゃんと卒業しなさいよ~~。

叱咤激励、ありがとうございます^^
湊人は辞めるつもりでいたから、やっぱり今年の卒業は難しいですねぇ。
田島が苦労して卒業したクチなので、もう、説教が長い長い?(^^;)

田島と杉浦さんの話はっ・・・次回に。
↑って、それはわかってるって(^^;)
2013.10.30 Wed 18:52
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

え…冷戦なんだ…。始まっちゃうんだ…。

まあ、杉浦さんくらいの人だったら、
どのライヴ行ったって、顔パスですよね。

それにしても、渋谷のハコ(大きさわからないですが)
いっぱいにしちゃうなんて、すごいですね、スクランプシャス。
昔からのファンも来ますよね、きっと。
で、名前が長いですから、きっとファンは略しますよね。
スクシャかなぁ? なんだろうなぁ。

そんで、今日の祥吾ですよ。
うるっときてしまいました。
いいわ~、祥吾くん。惚れ~(〃≧◡≦〃)
これで音もがっちり絆強まった感ですね。
いいわ~、祥吾~(感動したので二度言う)。
2013.10.31 Thu 21:34
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

始まっちゃうんだけど、どうなるんか(-_-;)

> で、名前が長いですから、きっとファンは略しますよね。
> スクシャかなぁ? なんだろうなぁ。

なるほど、それ良いですね。
そう呼んでもらえるということが、
ファンがついたということなのでしょうね。
渋谷のサイズは普通サイズ。
だから普通ってなに、って話なのですけれど・・・

> これで音もがっちり絆強まった感ですね。

そうなると良いですね。
まだバンドとしては始まったばかりなので、これからです。
(なんかずいぶん長いことやっているような気がしないでもない・汗)

これからも祥吾を母の目で、いや、美少女の目で見守ってあげてくださいね~^^
2013.11.01 Fri 21:10
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

子どもと親の仕事が一致しないのが今のご時世ではありますが。
要するに時代をつむぐ、意思を紡ぐのが大切なんでしょうね。
子どもでなくても後進が育てば良いというのもあるでしょうね。
それが子どもだったら一塩でしょうし。
2013.11.02 Sat 17:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。
子どもってやはり親の何かを継いで行くのでは、なんて思っています。
それが親にとても近いことであったりしたら、親としては嬉しいのかなあ、とか。

子どもがおこぼれとか無理やりとかではなく、
自分の選択として親の後を継ぐ、というのは良いなあと思います。
2013.11.02 Sat 19:41
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

なんだかね、このパートを読んでいて思いました。
私が「プラスワン」で書かせてもらった祥吾くん、あのときはまだここまでは読んでいなかったのですが、ああ、やっぱり祥吾くんはこういう人だな、って納得したのです。

祥吾くんは基本マジメで、ちょっと堅いところもあって。
どっちかっていうと女の子は苦手ですよね?
だけど、本気で恋をしたら一途に突き進みそう。
別のお話に、大人になった祥吾くんが出てきてましたっけ? 私、誰かと混同しているでしょうか?

祥吾くんの性格の一端がまたすこし見えて、とても興味深いパートでした。
2015.02.13 Fri 00:20
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

またぐぐっと進んでくださって嬉しいです。
お。どんな人だろう。
「プラスワン」では妙におりこうさんのようなのですけれど・・・

うんうん。祥吾の性格は、あかねさんの思うところで当たりにしといてください。
基本、明るい系ヘタレですかね。

田島の恋愛は・・・マスターの話に影響受けちゃったかも(?)
(マスターなつかし。お元気ですかあ)
いえ、私は田島の恋物語なんか描けませんからね~(^^;)
またお越しください^^
2015.02.13 Fri 16:54
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

例外もなくはないはずですが、私の偏見では、ミュージシャンはたいてい遊び人、いい加減、だったりするのですよね。

ちょっとした知り合いにはもとミュージシャンだったり、現売れてないシンガーだったりする方もいまして、そういう方から聞くミュージシャン像もやっぱり……って感じで、偏見に満ちてしまいました。

小説に出てくるミュージシャンも、どっかイカレタのが多いですしね。
だからもちろん、私が書くのもそんな奴ばかりです。

そんな中、けいさんの描かれる田島祥吾くんはいい意味で健全なのですよねぇ。
だから私は田島くんに惹かれるのでしょう。
こんなミュージシャンがいたらいいなぁ。
幸生も章も祥吾くんを見習いなさい!! (^o^)

今回ここまで読ませていただいて、つくづくそう感じました。
2015.04.19 Sun 01:44
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

はは。偏見ですか、あかねさん。
私の見た人たちは、酒が強くて、めちゃくちゃなんだけど、意外に真面目でしたよ。
その髪、触らしてくれと聞くと、気さくな感じで触らしてくれたりとか(←ロン毛クルクル)
熱かったり、クールだったり。色々でした。
(ちなみに、この中に田島のモデルはいないのですけれど)

健全ですか。ありがとうございます。
健全だから普通に悩むし、泣くし^^ なのですかね。
フォレストシンガーズの皆さんとは良い関係になれると嬉しいです (^o^)
2015.04.19 Sun 11:35
Edit | Reply |  

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