オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 145 

今年の残暑は、予報に反してそれほど厳しくなかった。暑かった夏はどこかに吸い込まれるように静かに去り、雨が降るたびに秋の気配が深まってきていた。

天気の良い11月上旬の休日、車窓から見える小さな秋を数えていたら、目的の駅にすぐに着いた。

横浜市立の図書館。駅からすぐ近くのその場所に向かう。奏からのメールで指定されたそこで、新曲の歌詞についての相談をするのだ。

今回の曲は、今までのようなメールの連絡だけでは伝えづらいところがあって、田島の方から奏と直接会って話したいと都合をたずねていた。

「祥吾さんたち、デビューしないんですか?」

会っていきなりそんな素朴系疑問を投げられ、田島は眉尻を下げる。久しぶりに再会した奏は、夏休みに会ったときよりも前髪が少し伸び、それだけでなんとなく少女から女の子に成長したように思える。

「したいよ。メンバーも揃って、やっと伝えたい音が出せるようになったし」

奏はスレンダーな長身に、秋らしいカラーのロングスカートをティーン誌の読者モデルのように着こなす。後ろから見るとその身長のせいか、高校生には見えない。

「でも、ほぼ全部のスカウトを断っちゃったみたいなもんだからなあ。もう良い話は来ないだろうな。どうしようかなってところ」

そう言って苦笑する田島に答えるように、奏も微笑みを返した。

「でも、これからデビューして、いろいろなところでライブして、思い切り歌いたい。それで、俺たちの音楽を聞いた誰かに何かが伝わると嬉しい」

めずらしくそんなつらつらを熱く語ろうとしていることに「どうして今ここで」と気づくと、田島は赤面しそうになる自分を抑えつつ口をつぐんだ。

奏はそんな田島の言葉を聞いているのかいないのか、気にしているのかいないのか、ただ田島の横で、行く先を案内するように一緒に歩く。

図書館にはすぐに到着し、フロアの一角にある学習のコーナーに席を取った。
奏は、かばんの中から日記のようなノートを取り出して、ぺらぺらとページをめくり始めた。どのページも文字で埋められているのが見える。

「これです」

ノートの一ページを開き、奏は田島に渡した。奏のノートを手にする田島が、その世界を目にする間、少しの沈黙が流れる。文字に想いを乗せているだろう田島の瞳の動きを、奏は静かに追った。

「きれいな字だね」

奏は田島のその言葉に、嬉しそうに目を細めた。デジタルの時代に慣れきっているところで見せられたアナログな綴り。田島には、その中の文字、言葉、表現、すべてが芸術であるように思えた。

奏から詞をもらうときはいつもするように、田島はノートの中にあるフレーズを小さく口に流してみた。

“Hmm…It doesn’t matter whatever happened…” ここ、うまく合うね」

いつも思うのだけれど、田島が曲を作るときの心情を、奏は良く理解している。曲の背景については、大まかな説明はするのだけれども、それもメールでほんの数行程度。

それにもかかわらず、田島にとって「これだ」ということを奏が言葉でうまく表現してくれている。そのことにいつも驚く。

「どうして・・・」

自分の気持ちが分かるのか、なんてちょっと怪しげなことを高校生の女の子に聞くのはどうか。そんなことが一瞬頭をよぎって躊躇したら、代わりに全く野暮なことを聞いていた。

「奏ちゃんはさあ、なんで英語そんなに上手いの?」

奏は目を細めて小さく微笑んでから話し始めた。

「私、シンガポールで育ったんです。小学校ずっとと、中学二年までシンガポールのインターナショナルスクールに行っていました」
「へえ、すごいね」
「学校では英語でも、家では日本語だったんですけどね」

滞在中は、家族でよく旅行に出かけたのだという。田島が訪れたアンコールワットやベトナムの海沿いの街々にも行ったことがあり、そのときのことを思い出しながら田島の曲に詞をつけていたのだと懐かしげに話した。

「だからかあ」

奏の詞の中の描写が、田島が見た通りのものを再現していた理由が分かった。奏が同じものを目にし、同じように感じ、共感していたのかと思うと、今更ながら嬉しくなった。

「去年、中学三年になって日本に戻ってきて、いきなり高校受験で大変でした」
「え、何で? 英語ができたら私立の帰国子女推薦とかでどこにでも入れたでしょう?」
「私、シンガポールではインターナショナルスクールだったから、高校は公立の学校に入りたかったんです。国語と社会が大変でした」

意外な奏の話に田島は聞き入った。日本に戻ってから編入した中学で、花園の妹の安美と出会って仲良くなり、それからの付き合いだという話にも驚く。

「安美が助けてくれなかったら、私、高校落ちていました」
「俺も。安美ちゃんのアニキがいなかったら、どっかに墜ちていたな。ここにはいないし、奏ちゃんとも会えなかった」

二人で声を上げて笑い、「あっ」と同時に口を押さえる。図書館にいるにしては、声を上げてしまったからだ。

それにしても、こんなふうに花園兄妹とつながるなんて、と思うと、奏と田島はしばらくの間、目を合わせては笑いをこらえることになった。

「祥吾さんは、去年、私の国語の勉強を手伝ってくれたんですよ」

奏の口からは思わぬ話題がどんどん出てくる。机に置かれていた日記のノートを取り上げ、奏は別のページを田島に見せた。

それは、田島が旅行中、最初にユーチューブにアップした「Departure」の曲の歌詞がつづられているページだった。



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おっと。あと少しだけつづくです。
ただ単に話が長くなったから、っていうだけで、オチはないっす(-_-;)
花園兄妹は、兄妹そろって良い人たちらしい。


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

奏ちゃん、本当に良い子ですよね。
しっかり自分というものも分かってるし、そこからの道も見据えてる。
花園君の妹も、そんな奏ちゃんを全力でサポーーとしたくなったんでしょうね。
その妹ちゃんも、とってもいい子で。
その縁で、これまたとってもナイスガイの田島君に出会って・・・。
みんないい子だなあ。

お正月に会った親戚の子供たちも、とってもいい子で、ちょっと逆に背筋が伸びる感じでした。
今、大人にならなきゃいけないのは、大人の方だなあ・・・と。(いや、わたしか・笑)

純粋な若者たちを、応援したくなりますね。
田島君、最強なサポートを受けて、また、いい曲を作り上げてね!
2014.01.04 Sat 10:29
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

良い子ばかり登場のこのお話。またかと突っ込まれる~(課題課題 -_-;)
はい。奏ちゃんも良い子です。そして、しっかり者。
妹の安美ちゃんはアニキ同様、さらにしっかり者。
大きくなったら、徹さんすら超えるかも。

人の縁なんて、意外に近いもの、とよく思います。
大阪とAusも案外近いかも?

そうそう。子どもたちって、良い子なんですよね。
うん。大人がね。わが身を見返る。同感です。
背中伸ばしなさいって。ほんとに(-_-;)

純粋というか、まだまだな若者たちを、どうぞ応援してあげてください。
おっと、作者のほうもlimeさんの最強なサポートをよろしくお願いします^^
2014.01.04 Sat 12:52
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

『車窓から見える小さな秋を数えていたら』
このフレーズ、いいですね、クールです。

ウチも基本良い子、良いオッサンばかりしかでないですからね。笑。
課題です。

今年は一緒に悪い人を描いていきましょうね。フッフッフッフッ。
2014.01.04 Sat 16:48
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - わ~

これは恋が始まる予感が~
恋になってほしい~
読者勝手に妄想に走る新年なのでした(*^_^*)
田島君、今年もがんばれ! 応援しているよ!!
2014.01.04 Sat 17:49
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Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます

わっ。フレーズを拾ってもらえるなんて、なんか照れますが、超嬉しいです^^

> 今年は一緒に悪い人を描いていきましょうね。フッフッフッフッ。

ぷぷぷ。良いオッサンは歓迎ですが。
課題は色々あるのですが、「悪い人」から取り組んでいきましょうかね。
できるかなあ。その前に、今の話を終わらさねば。そっちが先だった(^^;)
2014.01.04 Sat 21:43
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わ~

大海彩洋さん、連続コメ、ありがとうございます。

> これは恋が始まる予感が~
> 恋になってほしい~

ははは。どうなるくあぁぁ~~
なったら年の差ありよ。それでも良い?

今年の田島も頑張りま~す。妄想よろしくお願いします^^
今年の作者も頑張りま~す(こんなノリであんただいじょぶか -_-;)
2014.01.04 Sat 22:02
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Name - rurubu1001  

Title - No title

そうなんですよ、花園兄妹は凄いんですよ!(徹さん、大好きですから^^)たぶん花園家族はみんな、ね。

でも、縁ってとても素敵ですよね~。大事にできたらと思います。

奏ちゃんの抜群の英語能力が気になってきたので、田島くんの質問に感謝でした。全然やぼじゃないですよ。ナイス、アシスト★

個人的に奏ちゃんと田島くん、うまくいってもらいたいんですけどね。でも、難しいのかなあ。。そこんとこ、どうなんですか、けいさん!って、聞くのはやぼかな。^^
2014.01.09 Thu 22:56
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

妹ちゃんの初登場はあちら(どちら)のお話で小学生だったのですが、成長したものです。
花園家物語、いつか・・・いやいや、なさそうっす(^^;)
おお。徹さんLove。徹さん、嬉しいでしょ^^

> でも、縁ってとても素敵ですよね~。大事にできたらと思います。

そうですよね~。そして不思議です。大事にしたいですね。

奏ちゃんは帰国子女でした。え、うまくっすか。
難しいっす・・・あ、作者がその分野を描くのがって意味で(-_-;)
rurubuさんから描き方講座でも受けたい・・・
2014.01.10 Fri 14:10
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Name - あかね  

Title - No title

先ほどはまた、以前にコメントさせてもらっていたのと同じところに買いてしまいましたが。

今夜はここまで読ませていただきました。

私は祥吾くんには、あまりいい子じゃない女の子と恋をしてほしいです。
性格悪い美女か、いや、いっそ性格悪い不美人か。私の趣味では後者ですが、祥吾くんには似合いそうにないですよね。

祥吾、あんな女やめとけ。
と友人たちにこぞって反対されるような。

なんて言っている私も、祥吾くん、なんであんな女と……と反対しそうですが。
たぶんけいさんの書かれる、そんな女を読んでみたいからというのもあるようです。←と、他人ごとみたいに(^o^)
2015.04.19 Sun 01:54
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Name - けい  

Title - あかねさん

再びのコメントありがとうございます。

ここまで! 長いお話でここまで、とっても嬉しいです。
メンバーが揃って、またここからです(あれれ。っとに長くて -_-;)

あはは。みんなは嫌いなのに、祥吾だけが好き、みたいな感じですかね。
そういうのが絵的には良かったりするのでしょうか。
ゴシップぽくて良いかも(?)

そんな女にひっかかりそうになったら、姉の祥子から蹴っ飛ばされそうです。
徹さんからは無視され、成ちゃんからは太鼓のばちでボコボコにされるかも(^^;)
あ、瞬が化けて出てくる(突然ホラー?)

あかねさんの描かれる女の子たちにはバリエーションがあって、良いですよね。
色々な子たち、へえ~とうなずかされる子たちがたくさん出てきて興味深いです。

私は・・・女の子は(も)描くの難しくて(-_-;)
いつか女の子のお話も。いつかね~(^o^)
2015.04.19 Sun 12:24
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Name - LandM  

Title - 

う~む、田島くんは誰にでも好かれる才能がありますね~~。
こういう人間力も高いのでしょうね~~。
デビューしでもやっていけそうな感じですけどね。
音楽活動も結局のところ営業活動が必要ですからね。
2016.12.03 Sat 22:19
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Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

お話の中だけで生きているので都合の良い奴になっていますねえ(?)
人間力高めて、営業活動…できるのかなあ…
ほんの一部にはいけそう?
(改稿するとき、いぢっちゃおうかな~?)
2016.12.04 Sun 11:30
Edit | Reply |  

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