オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 148 

策が入ってから、田島はバンドのサイトを一新した。プロフィールと写真を差し替え、新曲も入れた。ライブの予定もコンスタントに入り、ファンが集まるようになっていた。

「祥吾、ちょっと」

今日は久しぶりに、イベントでカビーに来ている。リハーサルが終わると、丈之助に呼ばれた。

「丈さん、何? クリスマス・ライブの話は、この間したじゃん」
「祥吾、まだうちのオーナーに会っていなかったよな」
「オーナー?」

丈之助はカビーの店長であって、ビジネスパートナーとしてオーナーがいるという話は以前から聞いていた。

この人物が出資の面でカビーのバックにいるお陰で、オープン時の客の入らなかった状態のカビーでもやってこられた。

「あしのみどう、さん・・・って」

もらった名刺をまじまじと見つめてから、田島は思わずその名まえを声に出してしまう。それから改めて、丈之助からこのライブハウスのオーナーだと紹介されたその人物に目を向ける。

目の前にスラリと立つこの三十代前半くらいの男性は、いわゆる青年実業家なのであろう。スマートにスーツを着こなし、マリンブルーのネクタイがその肩書きの割りに若々しい。奥二重の切れ長の目を優しげに細め、田島に向かって微笑んでいる。

「奏が、すっかりお世話になっているみたいで」

物腰もいたって柔らかそうな声で、田島の知っている高校生の女の子の名まえを告げる。「Ashコーポレーション、取締役・葦埜御堂玲(あしのみどうれい)」。その名刺と本人との間を、田島の目が超高速で行ったり来たりしていた。

「奏と僕は年の離れたいとこ」
「いとこ、なんすか」
「でも、うちの家族はみんな仲が良くて。いとこと言うより、兄妹みたいな感じかな」

「そう言われても」とそれは口には出せず、田島は手立てなくただ棒立ちする。

「とりあえず、外に行こうか」

立ち話もなんだからと、玲に言われるままカビーを出て、近くのカフェに場を移動した。テーブル席に向かい合って座る。

「葦埜御堂さんは・・・」
「玲で良いよ。舌かむでしょ」

玲はしばらく、田島に奏のことを話した。奏が赤ちゃんだった時からよく世話をしていたこと、シンガポールにはビジネス・トリップを含めて度々行っていたこと。

シンガポールから日本に戻った奏が、はじめは学校になじめなくて、家族全員が心配したこと、けれども、良い友達ができ、ユーチューブの無名のシンガーに歌詞を送るようになってから、性格が明るく変わってきたこと。

「奏から歌詞のことを知らされたときは、びっくりしたよ。‘Kana’ってクレジットはユーチューブにあがっていたけど、それがうちの奏だなんて思わなかったから」

田島のことは、例のロサンゼルス・タイムス誌の記事が出る少し前から、すでに業界では話題にのぼっていたのだという。

実際、田島のフェイスブックには、アメリカから帰国する際には連絡が欲しい、という各方面からのメッセージがいくつも入っていた。けれども、そのどれにも田島は返事をしていなかった。

「祥吾と成太郎のことはもちろん、バンド甲子園のときから知っていた。スクランプシャスがカビーに来たときも、嬉しい驚きだったね。ジョノさんが気に入っちゃって、早く見に来いってうるさくてさ」

丈之助と玲は大学が同じで、先輩後輩の関係なのだという。その縁が元で、ビジネスを一緒にやろうと手を組んだのが、ライブハウス・カビーだった。

「杉浦シンさんに動かれたときは、思ったより早くて、ちょっと焦ったよ。でも、三宅さんの話から、祥吾はシンさんのところは絶対に断ると信じていた」
「三宅さんとも知り合いなんですか」
「この業界は案外狭くてね。あ、三宅さんの人脈は、驚いちゃうくらい広いんだけどね」

そう軽く話す玲の人脈の方こそ、実は非常に広いのではないかと想像する。この人物は、まだ若そうに見えるけれども、相当な情報力と経営手腕を持っていそうだという印象を受けた。

「予想通りシンさんのところを断った後、祥吾どこに行くのかなあと思っていたら、どこにも行かないでギターの策を入れたでしょ。それで僕も、ああ、ってわかった」

そこまでを話すと、玲は一息ついて、コーヒーを口にした。

「玲さん、情報張って、取引の賭けと掴みどころを狙うのって、醍醐味ですよね」
「祥吾、よく分かるね、それ」
「俺、大学は経営学部で、ビジネスのことも少しは勉強しましたから」
「そう」

玲がコーヒーを味わう間、少しだけ沈黙となる。玲はここまで物事について、あくまでも淡々と穏やかに語った。けれども田島にとっては、自分たちのことを語るその内容は、少しも穏やかなものではなかった。

杉浦と初めて会ったとき、田島の名まえを自分のリストに入れておく、と言われたことを思い出す。玲のリストには、いつから自分の名まえが記されていたのだろう。そんな余計なことを考えるほどの時間が過ぎる。

「じゃあ、僕がこれから言いたいこと、分かるよね」

カップに少しだけコーヒーを残し、再び田島に向けられた玲の目は、奏の優しい兄のようないとこの目ではなくなっていた。田島の視線を捉え、するどく切り込むように挑んでくる。

その事業を担う経営者としての玲の目の中に、なぜか田島は、すべてを取り込むような間の余裕と、なにか落ち着きを感じていた。次に出てくる玲の言葉を取り逃がさないようにとじっと待つ。

「今のタイミングで、スクランプシャスにオファー出したら、どうなる?」

田島は玲の目をぐっと睨み返し、ニヤリと口元を緩めた。



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田島、コーヒー冷めないうちに飲みな。
オーナーがドンピシャのタイミングで、スクランプシャスを拾った。


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Comment

Name - ヒロハル  

Title - No title

葦埜御堂さん・・・・・・コピペしましたが、実際呼ぶとなるとキツイですね。笑。
この人も悪い人には見えませんね。
果たして田島の答えは・・・・・・。
2014.01.10 Fri 12:49
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

葦埜御堂さんは、実際にはいらっしゃらない苗字です。一応調べた。
でも、四文字苗字の方は結構いらっしゃいましたね。
いかがですか、四文字苗字キャラ。

田島の答えはもちろん・・・^^
2014.01.10 Fri 14:19
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

奏ちゃんと、こんなところでつながってるとは。

この二人のやり取り、いいですねえ~。
玲さんもスマートなやり手といった感じですが、田島君も対等な大人の雰囲気。
ここからはビジネスの話ですもんね。
思えばシンさんを振った時から、こっちの道が開けてたのかも。
田島君のニヤリが、かっこいい~。惚れるぜ。
2014.01.10 Fri 23:39
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

奏ちゃんと、こんなところでつながっていました。
ちょっとだけビジネスなやり取りを気に入っていただけてよかったです。
ここにきて出てきた新キャラですが、良いところを持っていきました。
いや、設定の中でははじめからこうだったのですが(←執筆ちょい裏話)

> 田島君のニヤリが、かっこいい~。惚れるぜ。

うほ。やた。limeさんに惚れられた。って、田島にですよね。はい。嬉しっす^^
2014.01.11 Sat 07:54
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

おおー!なんか急展開だ!!
もしやこれはついについにー!!><!!

できる男が登場ですね。こういう人、大好きなので嬉しいです^^
(でも、一番は徹さんですがね・笑)

まさか奏ちゃんとつながっていたなんて!

本当に人の縁ってわかりませんね。

そして、何より田島くんはいい人運?を持っていますよね。才能もそうでしょうが、やはり彼の人柄や魅力が大きいんだろうな。
これからどんなふうに話が展開がしていくんだろう。

私もカビーで、彼らの音楽がききたいなあ。
2014.01.12 Sun 01:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。
急展開でついにーです!! たぶん^^

お。できる男、とは玲のことかな。嬉しい言い回しです。
できる、といえば、徹さんもぴか一^^

ふふ。つながるものなんですよ。
人生、そんなものです(れれ?)

> そして、何より田島くんはいい人運?を持っていますよね。才能もそうでしょうが、やはり彼の人柄や魅力が大きいんだろうな。

そう言っていただけると本当に嬉しいです^^
田島はヘタレな分、どうやら人を寄せるやつのようです。
私もカビーでバンドのライブを聴きたいです。どんな感じなのかな^^
2014.01.12 Sun 08:07
Edit | Reply |  

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