オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 150 

「瞬、俺たち明日、優勝できるかな」
「できるさ」

それだけ言って、瞬はいつもの笑顔を見せた。それで安心できた。

『バンド甲子園、グランドチャンピォンはっ!』

ファンファーレが響き、金と銀の紙吹雪が舞う。瞬と成太郎と抱き合って泣いた。最高に嬉しかった。

「祥吾、俺は大学に行く」
「え、何言ってんだ瞬。デビューはどうなる」
「大学に行って、やりたいことがあるんだ」
「瞬、待って・・・瞬!」

瞬の笑顔が白い霞の中に遠く薄く消えていく。白く視界の届かないそこに手を伸ばし、必死に名まえを呼ぶ。何度も、何度も。

すると不意に誰かから背中を押され、体が前に倒れ込んだ。目の前が真っ暗になり、どこか知らないところへと吸い込まれていく。瞬のいないどこかに。



一瞬、体が緊張し、ぶるっと震えた。

「祥吾、どうした」

うっすらと目を開けると、別の座席にいたはずの鏡がすぐ横にいた。

昨日の名古屋でのライブは最高だった。気持ちの良い余韻を残し、新幹線で次の目的地である大阪に向かって移動している途中だ。

何となく窓の外を流れる景色が楽しめなくて、いつの間にか眠ってしまっていた。そして夢を見た。本当に久しぶりにあの夢を。

「疲れているのか」

鏡が普段と変わらない声のトーンで、田島の顔を覗き込む。この同級生は、いつだってこうしてそばにいてくれるのだ。田島は、頭を小さく横に振って答えた。

「瞬の夢、見てた」
「そう、かなと思った」

「なんで」と聞く前に鏡はそっと教えてくれる。

「泣いてるから」

それで田島は、自分が涙を流していたことに気づいた。鏡が自身のタオルをボンと田島に渡す。それから、高校のときいつもしていたように、田島の頭をくしゃくしゃとなでた。



大阪では、単独ライブが二晩とイベントが一つ入っていた。バンドのサイトとユーチューブにアップされていた東京のライブを見ていた大阪・関西のファンが、待っていましたとばかりにどっと集まった。

「ありがとう~! Love you, Osaka! また戻ってきます!」 

大阪での初ライブは大盛況を博した。ライブ終了後、気持ちを高揚させたままミナミに繰り出し、居酒屋で打ち上げの杯を合わせる。

「大阪も最高だったね」
「すっげー人が来てくれて、嬉しかったあ」

湊人と策は、乾杯してから喋りっぱなしで止まらない。鏡は串かつに手を伸ばし、機嫌良く日本酒をあおりながら、二人の話に相槌を打っていた。

「東京で祥吾と二人で演り始めた頃とは、比べ物にならないよ」
「そそそ。カビーでも7月とか、ひどかったよね」
「ああ、湊人もその頃はカウンター・バーから見ていたんだよな」

大阪ライブの盛り上がりと、東京での閑散とした初ライブの頃とを比べると、鏡は鼻で笑ってしまう。

「演奏はマジでやってたのに、客がアコースティックくん一人しかいなかったんだよね」
「そういえばあいつ、どうしてるかなあ。アコースティックくんが俺らのファン第一号みたいなもんなんだけど」

アメリカで路上をやると出て行ったアコースティック君からは、その後何の連絡もない。けれども、つながっているフェイスブックには、アメリカ旅行の写真がいくつも上がっていた。

「成ちゃん、俺の方がファン第一号だって」
「いや湊人、お前はメンバー第四号だから」
「え、何でナンバー・フォーなの?」
「四人目だからだよ、湊人。で、俺がナンバー・ファイブね。光栄っす」

ああ、ととぼけ顔で流す湊人が手を出した牛かつを、策が横取りして二人でもみ合う。鏡が目を細めてその様子を見ながら、また杯をあおる。

気心の知れた仲間とバンドを組み、夢だったデビューを果たした。ツアーも順調に行っている。すべてがうまく進んでいた。

「祥吾さん、どうしたの? 飲んでる?」
「あ、うん。飲んでるよ。お前ら、ガキみたいに食いもんで喧嘩すんなよ」
「喧嘩じゃねーよ。ただの早食い。祥吾も食わねえと、策に全部食われるぞ」
「何だよ湊人、食ってんのはお前の方だろ」

ひょいと手が伸びて、残りの串カツを皿ごと持っていかれた。

「お前らも食ってばっかいねえで・・・」

結局、事を仲裁するのはいつも鏡の役目。男ばかりの兄弟の中で育ってきただけあって、場慣れしている。何事もなかったように湊人と策に日本酒を注ぎ、半ば強制的に「飲め」と勧める。

「祥吾も日本酒いくか?」
「いや、俺はいい」

そう短く言って、田島はジョッキに残るビールを口にした。表向き楽しそうにしているようで、今夜の田島はふと物憂げな横顔を見せる。鏡はそれを逃さなかった。



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「わかってた?」「あたりまえ」(次回予告)


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Comment

Name - lime  

Title - No title

デビュウ目前で、ライブは大盛況なのに、田島君、とってもナーバスになっちゃってますね。
やっぱり、あんな夢を見ちゃうようだから、またいろいろ思い出してるのかな。
瞬くんとの時間は、止まったままだから、しかたないよね。
切ないなあ。
2014.01.20 Mon 08:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

そうなんです。
瞬の夢を見るということは、また悶々としているわけで。
相変わらず弱くてねえ。こいつどうしようか、成ちゃん。

次回はめっちゃクサイので、ぷ、のご用意を。
(悩める?)青春します^^
2014.01.20 Mon 09:58
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

ナンスカ、この意味深な予告は? 笑。

ようやく波に乗り始めたのに、田島……お前は・・・・・・。

瞬の存在は大きすぎたようですね。
2014.01.20 Mon 14:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

次回はクサイよ、って予告です(^^;)
友情ものに、ぷ、してくださればと。

瞬のこともありますが、やはり田島本人の問題で。
やはりこいつは、一人では生きていけない(><)
2014.01.20 Mon 15:00
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

いいっすね、ライブ後の飲みは。
わしも成ちゃんに頭くしゃくしゃされたい…。

まぁなんというか、どんどん形になっていく中で、
祥吾のこの気持ち、わからなくもないです、
っていうか、わかります。

なーんて、わかったつもりで、
次回予告の意味深さがわかってないんですが(汗)。

でも、バンドのこういう空気、懐かしく思い出します。
機材車移動、やっぱ基本だし(笑)。ぐふぐふ。
2014.01.20 Mon 22:06
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - う~ん

わかるなぁ。ここまで来たんだから、もう真っ直ぐ突き進みなさいよって言ってあげたいけれど、自分が高みに登れば、その後ろで置いてきたものが気になってしまう。瞬くんが一緒に喜んでくれてるって思えたらいいんだけど、本人から聞かなきゃ納得できないよねぇ。でも本人からは聞けないし。
これを乗り越えるのに、新しいメンバーが力になってくれたらいいなぁ。
つかず離れずで。
2014.01.20 Mon 23:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

そうっすね。ちなみに、徹さんもくしゃします。
田島の面倒を見るのは二人がかり。いや、もっとだ。

祥吾のなんとも言えない悶々をわかっていただき嬉しいです。
次回、とその次も。クッサーい回が2回となる模様。

バンド関係のところはほぼ妄想なので、実際のところのお話を聞いてみたいものです。
2014.01.21 Tue 06:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: う~ん

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

大海さんに分かっていただき、嬉しいです。
真っ直ぐ突き進めないひっかかりがまだちょっとあって・・・
はい。瞬のことなんですけどね。

もちろん、湊人も策も大きな力になっているし、信頼もしています。
田島だけが悶々としているだけなのです。
困った君だなあ。成ちゃん、こいつなんとかして。
2014.01.21 Tue 07:13
Edit | Reply |  

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