オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 151 

大阪ライブの後、機嫌良く打ち上げをしてホテルに戻った。ホテルではツインルーム二部屋で湊人・策、田島・鏡とに別れる。

「大阪、良かったー」

部屋に入ると、鏡はドサッとベッドに身を投げ、田島もソファーを占領するように肘掛に足を投げ出し横になった。

「祥吾、飲み足りないんじゃね。まだ付き合っても良いぞ」
「なんか疲れたから、酒はいい」
「そうか。お前、ここんとこあんまり寝てないからな」

田島はソファに体を横たえたまま、今にも途切れてしまいそうな弱々しい視線を鏡に流した。

「わかってた?」
「あたりまえ」

当たり前でないことを、当たり前だと言ってのけるこの仲間には、昔からやられっぱなしだ。田島は何を見るともなく天井を仰ぎ、隠していた罪でも白状するようにぼそっとこぼした。

「なんか、眠れねえ。眠ると夢の中で誰かが背中を押してきて、俺はどこかに落ちるんだ」
「背中を押されて、か。それが怖いのか」
「怖いんじゃない」
「心配なことでもあるのか」
「そうじゃなくて」

田島は「やっぱ飲む」と体を起こして立ち上がった。冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、一本をベッドの鏡にひょいと投げる。

「思い出す。瞬の思い出があふれてきて、たまらなくなる」
「そう。良いじゃん」

鏡と視線を合わせずに、田島は「ふん」と鼻で答えた。ソファーに腰掛けると、缶ビールのプルトップを引き、はじめの一口をつける。

「俺たちデビューして、怖いくらいに全部がうまく行ってるよね。これって、瞬の言ってたことかなあって」
「そうだよ」
「俺には、瞬が言ったことと、今このうまく行っている状況が、同じなのかどうか、わからない。瞬だったら、バンドをどう持って行くんだろうって」
「それ、なんか違うな」
「違う?」

鏡もビールをぐいと飲んでから、やっと自分の方を向いた田島と視線を合わせる。田島の目は、鏡が「違う」と言ったことに対して、少しだけ困惑の色を見せていた。

「俺だって、瞬のことはいつだってすぐに思い出せる」

鏡が、田島と共有する瞬の思い出を羅列する。瞬の笑った顔、怒った顔、優勝したときの泣き笑いの顔。瞬の最高にカッコ良いプレイ、ギターの音。瞬の言ったこと、やったこと。全部。

「瞬は『成ちゃんのビートがここに来るよ。最高』って言ってたよ」

田島は、これは知らないだろうというように、自分の胸を軽くポンポンとたたいて見せた。

「俺には『祥吾の声と、俺のギターって、すっげー相性良いと思わない』って熱く語ってたぞ」

「えー?」という疑問の声と共に、田島も押さえられていた何かが堰を切ったようにしゃべり出した。

「俺にはさあ、『祥吾、てめー、誰に向かって声出してんだよ。全然できてねーじゃん』とか、『心の底から 叩き出せ。腹の底じゃねえ、場所ちげーんだよ』とか、そんなのばっか」
「覚えてるよ。練習の時の瞬は、口悪かったよな。祥吾に向かって、こっちが気の毒になるくらいのおっかねー顔して文句言ってた」
「文句っつうか、しごき。瞬が竹刀でも持ってたら俺、はたかれてたな」
「はは。そうだな。それだけ瞬は真っ直ぐで真剣だった」

今までずっと、心のどこかに仕舞っていた瞬の思い出。田島と鏡だけが知っている瞬の素顔、思い。バンドデビューを果たした今なら、それを思い出してみても良いだろう。

瞬と高校の軽音楽部の部室で初めて会ったとき、なぜか分からないけれど、懐かしい感じがした。中学も違ったし、初めて会ったはずなのに、昔からずっと一緒だったような不思議な感覚。瞬からも同じことを言われた。

「そうそう。あれ、どっかで会ったことない? みたいな感じだよね。実は俺もそう思ってたから、祥吾からも言われたときはびっくりした」

自分たち三人が出会ったのは、偶然ではなく「奇跡」だと瞬は言った。それと、高校で初めて会った、ではなく高校で「再会」したと。

「不思議だよね。じゃあ、はじめはどこで会っていたんだろうって」
「俺、実家にあった小さい頃のアルバムを全部見たんだけど、写ってたのはアニキたちばっかりだった」
「はは。俺はそれは見なかった」

田島が軽く笑顔になったのを見て、鏡も安心するように目を細めた。今なら話しても良いかもしれない。おそらく田島の知らない瞬の言葉を伝えようと、鏡はゆっくりと口を開いた。

「瞬に相談されたことがあったんだ」
「瞬が、成ちゃんに」
「そうだよ。祥吾のこと。祥吾は凄い、って」

やはり田島はこの話を知らない。聞き耳を立てる田島に、鏡は瞬から言われたことをそのままの言葉で再現しようとする。

「祥吾の凄さについていくには、まだまだ自分には足りないものが多すぎる。どうしたら祥吾と肩を並べられるようになれるか、ってさ」

田島は少しだけ眉間を寄せ、怪訝な表情となったが、鏡の話に黙って耳を傾けた。

「それ聞いた時、マジやばい、って思った。あの瞬が祥吾のことをそんなふうに思っているなら、俺はどうなんだって。俺の方こそ、京都に修行に行かなくちゃじゃねえかって」
「それで京都行きを決めたの」
「まあ、それだけでもないんだけどね」
「なんだよそれ」

田島の気持ちが当然のようにデビューに向き、それ以外にはないと信じていた頃の話だ。自分の知らない何かが紐解かれる。そんな予感がしてきて、心のどこかがむずむずし始めた。

「だから、瞬が大学に行きたいっていうのを初めて聞いたときも、実はあんまり驚かなかった」
「聞いてねえし」
「どうやって祥吾を納得させるんだって訊いたとき、あいつは黙った」
「何だよ、そのウラ話。言ってよ」

田島は、少し憮然としてから黙った。鏡は話を続ける。まだ終わらない。田島がいまだに抱えているもの、無意識の中で涙を流させるもの、それは何なのか。

恐らくそれは、自分だけが持っている情報の中にある。鏡は自分の中にだけある瞬の姿を探るように、願うように思い出しながら、話を続けた。



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成ちゃんだけが持っている、田島の知らない瞬の情報。
何でしょうね。あれなんだけど・・・


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Comment

Name - ヒロハル  

Title - No title

田島・・・・・・結構思いつめるタイプですよね。
私と似てるな。キラーン。

「アイツ、お前のこと、こんなふうに言ってたぞ」って本当にドキドキしますよね。悪口かと。笑。
2014.01.23 Thu 19:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

田島は見た目と全然違って、「割れ物注意」のステッカーの貼られる奴。
ヒロハルさんもステッカー付き?

はは。悪口だとドキドキですが、良いことだと照れてしまったり^^
2014.01.23 Thu 20:59
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Name - lime  

Title - No title

夢に近づいて、順風満帆だとおもいきや、やっぱり瞬くんのことが、田島君をナーバスにしちゃうんですね。
後悔があるのか・・・。

でも、思い切り瞬くんの想い出話が出来てよかったね。
ため込んでるより出しちゃわないと。で瞬くんもそのほうが嬉しいはず

でも、田島君の知らなかったことって・・・。なんなのかな。気になります。
田島君を変える、何か??
2014.01.23 Thu 22:39
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Name - 城村優歌  

Title - No title

ここにきて、フィードバック。
好きです、こういう展開。わくわくしちゃう^^

成ちゃん、明かしておしまい。
そうじゃないと、前へ進めないじゃないのよ。
と、読みながら煽ってます。

祥吾はホント、友だちに恵まれてますね。
次回は瞬くんが乗り移った成ちゃんに泣かされそうな予感。
どうしようwww
2014.01.23 Thu 23:36
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

田島は単純に、体は大きくても心は小さい者、なのです。
簡単にナーバスになっちゃう。
後悔はないです。それは、前に徹さんに解かれました。

はい。やはり、瞬の話ができるのは成ちゃんとだけなので、ここでバーと話しました。
ため込んでるより出すもん出した方が良いですよね。何の話やら(^^;)

次回、もうちょっと成ちゃんから聞かされます。
田島の知らないこと、見ていないことと言ったほうが正確なのですが、
それ、limeさんは見ているのです。たぶん。
あ”~でもそれ、2年以上も前のことだ・・・(-_-;)
2014.01.24 Fri 09:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

ふふ。ここにきて、フィードバック、です。ったくこいつは。
え、わくわくっすか、姐御。ドキドキ。

ここは成ちゃんに明かしもらいましょう。
いや、秘密ごとではないので、煽って煽って(^^;)

祥吾は何というか、カリスマではないことは確か。
友だちがいなくては生きていけない。

次回は、え、乗り移りっすか。はは。
とにかく、成ちゃんに注目(?)
2014.01.24 Fri 10:17
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - 階段を上るからこそ

躊躇ったり、振り返ったり、行く先を憂えたり…・・
色々な感情が生まれてくるのですね。そして、今だから語られる「あの時」!←こういうの大好きなんですよね。

この物語の始めでは、瞬くんの死が、ものすごくあっさりと出て来ちゃって……そこからなが~い田島くんの旅が始まって、ここにきてまた最初に戻っていく。
でも戻るんじゃなくて、ここからの「実は…」は前に進むために必要なもの、なんですよね。
どんな前進になるのか、立ち止まっても振り返っても、ひとつの人生としては前進だよね。頑張れ、田島くん。

そうそう、けいさんがちょっと興味を示してくださったBOFの話。
結構、被るとこあるんですよね。バンドの話でもあるし。主人公、自負心はある癖に、時々自信ない~でいじけ気味だし。
だから最近は『夢叶』を拝読しながら、ひとりでず~っとニヤニヤです。
2014.01.25 Sat 09:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 階段を上るからこそ

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

そうですね。とりあえず、デビューが一つの節目でした。
さらりと過ぎてしまって、あんまり重要視しなかったみたいでしたけれども(^^;)
いえ、やはり、ここに来て田島がぶり返すほどのことを、デビューというものが持っていたわけで。

はい。お友だちのこの方が、「あの時」を語ります。
好きっすか。へへ。私も^^
けど、ほんとにクサイっすよ。友情物の王道に、ぷ、のご準備を~

そうなんですねえ。瞬の死の場面については本当にあっさりで。
今書き直すとしたら、もうちょっとマシにかけるかなあ、
いや、大体は変わらなそうとか色々と思いつつ、やはり放置のまま(><)
この物語のキーの一つであるエピソードなので、やっぱり、書き直そう。いつか(←はいこれ)

徹さんと飲んだときは、田島視点で瞬を見ましたが、今回は成ちゃん視点です。
あの場にいたのは田島だけではなかったですから。
ああ、これ、かなりのネタばれですよ~ん。

> でも戻るんじゃなくて、ここからの「実は…」は前に進むために必要なもの、なんですよね。
> どんな前進になるのか、立ち止まっても振り返っても、ひとつの人生としては前進だよね。頑張れ、田島くん。

さすがだなあ、大海さん。はい。この、展開で行きます。
もう、ネタばれもいいとこですが、分かりやすくていいでしょ(←何がいいやら)
青春と友情、行きますっ^^

おお。そうです。ちょっとどころではないですよ。
かなり興味ありありです。BOF物語。
うんうん。被ってるね。以前に教えていただいた、アネキのところとか。ドッキリです。
主人公のヘタレ具合(?)も気になります(^^;)
大海さん、PDFで送ってくださいよ~。ニマニマしたい^^
2014.01.25 Sat 11:39
Edit | Reply |  

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