オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 152 

「瞬が夢見るって言ってた」

鏡は、田島の知らない話ばかりをする。田島はいつも瞬のそばにいたはずなのに、瞬の何を知っていて、何を理解していたのだろう。そんなことを今更ながらに思うと苦笑が漏れる。

「瞬がいて、祥吾がいて、俺がいて、目の前にオーディエンスがいて、でっかいホールででっかい音出して、最高に気分が良い夢だって。それ、事故の前の日」

田島からは何のリアクションもなく、ただビールをすする音だけが二人の間を小さく通る。

「デビューしないで大学に行く、って言っていたくせにだよ。瞬の頭の中には見えていたんだ。今の俺たちのこと」

目の前のデビューしか見ていなかった田島と、先を見ていた瞬。この場に瞬はいないけれど、田島には鏡の言っていることが痛いほどに良く分かる。

「あの時、瞬がバンドを裏切ったと思ったか。違うだろう。お前にソロで一人でやれ、と突き放したのとも違う」

分かってる。あのときだって、田島には分かっていた。ただ、瞬の言葉の先を理解する余裕がなくて、自分の感情をコントロールできなかった。

「祥吾、お前が瞬の言ったことを思い出して、それを守ろうとか、瞬ならどうするとか考えるなら、それは違う。全然違うんだよ」

さっきも鏡は「違う」と言った。瞬の目指したものを追っていこうとするところのどこが、何が、違うのだろう。瞬の目指したもの、それは自分の目指したものでもあるはず。

「あの時、瞬は、お前の名まえを叫んだ」

田島の心臓が、どくんとひとつ大きく跳ねた。鏡は目に力と思いを強く込めて、田島の視線を捉えた。今ここで田島に伝える。

「あいつの目は確かにお前を捕らえていて、ぐっと体と手を伸ばした」

そう。鏡が目撃したあの瞬間。田島の知らないあの時。田島は、心臓の鼓動が急激に高まるのを感じながら、鏡の次の言葉を待った。

「前のめりになって、お前の背中を押した。それこそ必死に」

田島がぎゅっと目を閉じ、目頭を押さえた。やはりここが田島の琴線なのだ。背中を押されたときの感覚。あのぞくっとする。

目頭を押さえてうつむく田島の肩が、小刻みに震えている。しんとした夜中の空気の中で、田島の少し不規則になった呼吸の乱れが感じられる。

「俺は声も出なかった」

けれども、鏡は田島に視線を向けたまま続ける。この話はこれからなのだ。

「あの瞬間、俺は瞬の全てを見て、理解した。遅すぎたとあとで後悔もしたけれど」

田島はゆっくりと目を開き、うっすらと涙のにじむ瞳を弱々しく鏡に向けた。田島の見なかった瞬を鏡は見た。鏡がそこで知ったことを、田島はいまだに知らない。

「あんな状況で、とっさの中でもあいつは、自分の思いを押し通した」

鏡の中でも、これは田島に言うべきか、黙っているべきか、ずっと思い悩んでいたこと。結局、それを持ったまま京都に行った。けれども今という時が来た。今なら話せる。いや、話してやらなくてはいけない。

「あいつはお前を守るのと同時に、あいつ自身の夢と思いも守った。あの時、瞬の命以外のすべてが守られた」

瞬の思いがどれだけ崇く、それに向かっていたか。田島や鏡との絆をどれほど大切にしていたか。夢に見るほどのどれだけのものを信じ、育てていこうとしていたのか。鏡は理解した。

「瞬の生き様を見た、というよりも、見せ付けられた。あいつは全てを生かすために、命の全てを使い切った。おかげで俺は、生きることと死ぬことの区別がつけられなくなって、すっげー悩んだ」

鏡は京都に行ってから、しばらく鏡家の菩提寺に毎日通った。本堂にあるご本尊の前に座し、静けさの中、涙を流した。鏡にとっても、瞬と高校時代のことを整理するのには時間がかかったのだ。

「瞬と祥吾が部室で言い合っていたとき、俺は瞬の方を持つべきだったと後悔した。でも、そんな風に考えることは間違っていると納得した。納得してからは、祥吾が俺を呼びに来るまで待とうって決めた」

田島がいつ訪ねてきても良いように、腕を上げておくために、太鼓の練習に励んだ。「鏡の鳴き龍」と呼ばれるまでになったのはその結果で、鏡は田島ともう一度やるということを常に念頭に置いていた。

「絶対に来るって信じていた。すっげー待たされたけど」

だから、田島が旅行中にあげていたユーチューブを初めて見つけたとき、ついにきたと胸の高鳴りを抑えることが出来ずに号泣した。

「成ちゃんは、瞬のことも俺のことも、ホント良くわかってる。さすが」
「ていうか、瞬の方が俺たちのことをよく分かってくれていたんだ」
「そうだね。やっぱり瞬にはかなわねえ」
「まあ、瞬もそうだけど」

鏡が一瞬間を置いたところに、田島が少しだけ首をかしげて鏡を見上げる。

「祥吾、お前だ。瞬が言っていた以上に、お前は凄いんだぞ。全然自覚ないみたいだけど」

鏡はニコッとしてから、また真剣な表情に戻して田島を見つめた。

「お前がやりたいようにやれ、祥吾。ステージに立って、心の底まであるがままのお前を見せるんだ。お前がお前の描いているところへバンドを持って行けば良い。わかるな。瞬じゃない」

田島の描いているもの。それは高校時代とは違う。瞬がいなくなって、一度は全てを失った中から新たに見つけたもの。田島は大きく目を開いて、「うん」と返事をするように鏡に視線を投げ返した。

「俺はいつでも祥吾のそばにいてやるし、今は湊人も策もいる。あいつらと出会ったのも、瞬の言葉を借りればある意味『奇跡』だ。お前だってそう思うだろ」

そうなのだ。瞬時に現状に戻る。湊人と策という、かけがえのない仲間を得て、今同じ時を過ごしている。そちらの方が、今の田島にとっては遥かに大事なこと。

スクランプシャスというバンドが生まれて、才能あるメンバーに恵まれた。スタッフに支えられ、ファンに受け入れられ、これからどんどん大きくなるという予感しかしない。それを想像するだけで、体に微熱が走り、しびれてくる。

そんなバンドに自分はいるのだと、いまさらながらに自覚する。足を踏みしめて立って、歌うのだ。それが今の田島のすること。そして、続けていくこと。

「祥吾、お前のことを、瞬が守ってくれている。お前が何をやろうと、瞬が支えてくれる。今だってそう」
「今も」
「そう。今もそこに浮いてて『ちゃんとやれよ』って見てるよ」

そう言って、鏡が指を指す方向に思わず目を合わせて田島が聞く。

「え、成ちゃん、見えるのか」
「ばーか。見えるわけねえじゃん」

二人同時に、ぷっと吹き出す。笑いながら、田島は何の躊躇も我慢もなく、ポロポロと涙をこぼし始めた。

「成ちゃん、話してくれてありがとう」

田島は泣き笑いの中からあふれ出てくる涙をぬぐいもせずに、ただしゃくりあげる。

「やっぱり瞬のことは、俺の中では大きい」
「俺の中でも大きいよ」
「でも、分かった。全部分かった。だから」
「うん」
「最後、泣かして」
「ばーか。泣くくらい、いつ泣いたって良いんだ。それに、俺はお前の泣きには慣れている」

ボロボロと流れる涙が止まらない田島に向かって、ボクシングのセコンドから飛ばされてくるようにタオルが投げられた。けれどもそれは、KOで試合終了という意味ではない。終了ではなく、新たな始まり。

スクランプシャスのライブハウスツアーはまだ序盤。大切な仲間と共にステージに立つ。何が見えるのか、何を見せるのか、まだ始まったばかりだった。



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「俺もよく目が血走ってるって言われるけど、ここまでじゃないなあ」

朝、とんでもない目の色を見せる田島を指差し、移動の間中、このときとばかりに嬉々としてからかい続けたのは策。

「祥吾、どうしたの? 二日酔い?」と湊人は目を丸くし、「夕べは祥吾、よく眠れたみたいだよ」という鏡の解説に「わからん」と首を傾げる。

「京都のライブには、鈴ちゃんとアニキたちと太鼓の連中が見に来るから、最高のステージにしてよね」

とダメ押しをする鏡に対して「わーてるよ」とぶっきらぼうに答え、なるべく三人とは顔を合わせないようにと、わざとらしく背を向けスタスタと先を行く田島であった。


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - ヒロハル  

Title - 

田島、相変わらず目の赤いウサギ。

瞬は田島の作るステージが見たいんでしょうね。
でも田島からすれば、それは瞬を置いてきぼりにするような気がするわけで。

ボクシングの例え、良かったです。
2014.01.26 Sun 08:06
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Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

久々にウサギになりました^^
ニューヨークで最後の路上をしたとき以来かな。

瞬には高校のときにすでに見えていたんですね。
田島には何も見えていなかったあの頃・・・

わ。ボクシングの例え、褒めていただき(?)超嬉しいです^^
成ちゃんは田島の良きセコンドです。
立てぇ~立つんだぁ~祥吾ぅぉ~・・・お約束。ちゃう(><)
2014.01.26 Sun 10:31
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

田島君にとっては、衝撃の話ですよね。

>あの時、瞬の命以外のすべてが守られた

これもう、泣くしかないでしょう。それ程あの瞬間、瞬君はすべてを田島君に賭けたんですもんね。デビューして、お前の夢を叶えろっていう強烈なメッセージ。今、田島君にとって一番必要なメッセージですよね。
また、背中を押されちゃったね、田島君。

鏡くんも、よくぞ言わずに待っていた。
いいやつですね。
もし最初からそう言ってたら、田島君は「瞬くんのために」デビューを目指していたと思うし。そしたら、やっぱり何か違う。
信じて待ってた鏡君、素敵だなあ。

全てがこのデビューに向けて準備されてたような。
田島君、GOです。
そうだ、田島君は泣き虫だった(笑)思い出しました。
ガッチリしてでっかい男が無く乗って、可愛いだろうな^^
鏡君の前だったらこれからもいっぱい泣いていいよ~。
2014.01.26 Sun 17:51
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Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

色々と読み取っていただけて嬉しいです。
成ちゃんが見て、感じたことをきっちりここで伝えました。
直接の瞬の言葉ではないので、あとは成ちゃんから受けたものを、田島がどう理解するかに寄るのですが、ま、それは田島に委ねるというところですかね。

> また、背中を押されちゃったね、田島君。

ホントにそうですね。でも今回は違うメッセージを受けたはず。

> もし最初からそう言ってたら、田島君は「瞬くんのために」デビューを目指していたと思うし。そしたら、やっぱり何か違う。

そうですね。直後はさすがの成ちゃんも言えなかった。
目にしたものを、言葉で伝えるのは難しいですよね。
成ちゃんは見たから分かったけれど、見ていない田島に言葉で伝えるのは結構大変でしたね。→ええ、筆者がですよ(-_-;) 
田島が本当のところ、どう受け止めて理解したかは、わかりませぇん(^^;)
うん。とにかく、GO だ。

そうですよ。田島は泣き虫キャラ。
ガッチリしてでっかい男がボロ泣きです。
成ちゃんの前でも徹さんの前でも、これからは湊人や策やファンやlimeさんの前でだって、ボロボロに泣かせます。ふふ、できたらね。
2014.01.26 Sun 20:41
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Name - 城村優歌  

Title - No title

う。コメント欄が涙で滲む……。

来ましたね、ここに。
あー、あとはもう登り切るだけだー、という気持ちになります。
憩さん、いい頂上見せてくださいね(まだだとは思うけど)。

先を見ていた者と、今を見ていた者、
目の前を見ていた者と、俯瞰で見ていた者。
いつも一緒にいると思っていても、
きっと同じ目標に向かって進んでいると思っていても、
やっぱりそれは、目の数だけ違うんですね。
向かう方向は同じなのに。

「あいつは全てを生かすために、命の全てを使い切った。」
この台詞が重くて、すごく説得力があるのに、
まだ消化しきれていません。
とても素晴らしい文で、今まだずしんと心に響いています。


祥吾はやっぱり幸せ者ですね。
今回の読後はすごく深いところがあったかいです。
最終回じゃないけど、ありがとうございましたって
お礼を言いたい気分です^^
2014.01.27 Mon 11:27
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Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

お蔭様でここまで来ましたぁ。別の意味で、う”。
もうちょい、登ります。
そのちょいがまた長そうなのですが(今のうちから言っとこう ^^;)
登りきりますが、え”、いい頂上っすか。ドキドキ。
↑だってさ、田島ぁ。と振る(-_-;)

> 先を見ていた者と、今を見ていた者、
> 目の前を見ていた者と、俯瞰で見ていた者。
> いつも一緒にいると思っていても、
> きっと同じ目標に向かって進んでいると思っていても、
> やっぱりそれは、目の数だけ違うんですね。
> 向かう方向は同じなのに。

わ。ありがとうございます。
成ちゃんがここを良く見て理解していた。
成ちゃんも只者ではないのです。
一を見て十を知ることのできるヤツです。
自分には理解できたけれども、田島にはどう伝えようかと
この成ちゃんでさえ考えあぐねるほどの複雑な心情を持つのが田島です。
(そして、そこのところが描けない作者であります・涙)

> 今回の読後はすごく深いところがあったかいです。

わ。良かったですとうか、嬉しいですというか、恐縮です。
お礼は成ちゃんに(^^;)
いやほんと、ここ、終わるところじゃないんだよ、と実は確認しつつ、進みました。
はい。まだ先に向かいます。一気じゃないけど(滝汗)
2014.01.27 Mon 14:45
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Name - 大海彩洋  

Title - う~ん

なるほど。瞬くん、えらいなぁ。
とっさの状況で、そこまで考えられるんだろうかとも思うけれど、実はとっさの状況だからできること・考えられることってあるんですよね……多分、この瞬間、瞬くんには「瞬間」じゃなくて、スローモーションだったんだろうなぁ。時が止まったくらいに。
それにしても、瞬くんも、成ちゃんも、ほんと、大事なことを口にしなかったんですね。不器用というのか、それだけ想いが深いから簡単には口にできなかったというのか。こうして伝えるチャンスが巡ってきたこと、本当に良かったなぁと思います。
うん、信じていたんだよね。この時が来ることを。
で、田島くんだけが、まだ何だか夢の中?? ほんと、主人公ってどうしてこうも「蚊帳の外」感があって可愛いんだろう(^^) いいえ、今日泣いたら、もう明日からは全開で頑張ろうね!
2014.01.29 Wed 00:04
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Name - けい  

Title - Re: う~ん

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

わ。なんだかいろいろと読み取っていただけて嬉しいです。
瞬は・・・どんな人だったんだろう。今となっては・・・
彼は最後まで思い出の中のみの人物となるでしょう。

時が止まったのは、田島も成ちゃんも一緒だったのでは。
あそこで一斉に止まったね。
その意味は三者三様で全然違うかもですが。

口にしなかったというか、そうそう、不器用でできなかったと言う方が正解に近いかもです。
なんだかんだで高校生でしたし(^^;)
デビューというタイミングでやっとできました。

> で、田島くんだけが、まだ何だか夢の中?? ほんと、主人公ってどうしてこうも「蚊帳の外」感があって可愛いんだろう(^^) いいえ、今日泣いたら、もう明日からは全開で頑張ろうね!

ぷぷぷ。ホント外ですね。
こいつが中心で回っているようで、実はそうではなかったり。
田島は特に、周りのサポートのおかげでここまで来ましたなヤツなので、よけいにですね。
ひと泣きして、心固まる。
全開、大海さんから頼まれたよ^^
2014.01.29 Wed 18:56
Edit | Reply |  

Name - -  

Title - 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2014.02.01 Sat 15:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 鍵コメさん

うわ~、超嬉しいです!

あとでメッセージを送らせていただきますね^^
2014.02.01 Sat 16:53
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - No title

成ちゃん…、すごいなあ。ずっとずっと待っていたんですね!

今だから話せる瞬くんの話は、待った分だけ心にずしんときますね。
ああ、これはまた大きな名場面になりそうです、私の中で。徹さんのあの場面ように。

ううう…、なんか私も胸がいっぱいです><!!
田島くんと一緒に泣き笑いですよ、もう!
2014.02.06 Thu 02:23
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - rurubu1001さん

コメントありがとうございます。

rurubuさんが田島と一緒に泣き笑いをしてくださるなんて。
田島は幸せ者ですよ。

成ちゃんはやっぱねえ…、すごいです。田島と違って、できています。
見たことも聞いたこともちゃんと理解できる人です。
瞬の話しがリアルにできるのは成ちゃんだけですから、ここで久々に言えて良かったです。
もちろん、これからもちょこちょこ出てくるはずですが、これからはみんなの前でも泣かずに言えそうです。

ああ、徹さん。rurubuさん嬉しいですよ。
そうそう。彼も大切な友人。
田島の泣きについていけるのは、この徹さんと成ちゃんの二人くらい(そういう意味か><)

rurubuさんも田島の泣きについてきてくださいね~
できたらまたどこかで田島を泣かせたい作者(^^;)
2014.02.06 Thu 16:52
Edit | Reply |  

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