オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 155 

「もしもし」

とっくに寝ていた。片目だけ開けて、誰からか確認する。ため息を飲み込んで、しぶしぶ出た。

『玲、おめでとう』
「シンさん、何ですか。こんな時間に」

深夜の二時半。杉浦にとっては、普通に仕事をしている時間なのかもしれない。

『今送ったメールを見てくれ』

普段なら、後で見るからと即刻携帯を切り、眠りに戻るところだ。けれども、相手が杉浦ならば仕方ない。そろそろとベッドサイドのライトに手を伸ばした。

「今見ますから、ちょっと待ってください」

ライトの明るさに目をしばしばさせながら、すぐそこに置いてあるiPadを開いた。メールされた「ランペイジ」のリンク先に飛ぶ。

“一つヒット曲を持っているからって、オーディションも受けさせずに素人バンドを「ランペイジ」に出すつもりか。フェスとしての格が堕ちたな”

ランペイジサイトの掲示板に残されたこの妙な書き込みが、杉浦の言った「おめでとう」の意味なのだろう。

『消す前に、玲に知らせてやろうと思ってね』
「やっぱり来ちゃいましたね、こういうの」
『これで人気も実力も、世間に認められたわけだ』
「別におめでたくも何とも無いですよ、シンさん」

玲は急いでバンドのサイトもチェックした。

“新人のクセに、オーディション免除で「ランペイジ」に出る気か。ちょっとヒットしたからって、浮かれんなよ”

玲はこれをスクリーンショットと共に、別のところに記録してから消した。ハンドルネームは異なるが、同じ人物だろう。似たような書き込みが、杉浦と玲の事務所のサイトにも来ていた。無駄なこととは思いつつも、一応ブロックをかける。

「じゃあ僕は、明日からの対応があるんで、もう寝ます。シンさんも無理しないでくださいよ」

杉浦が牧場でのんびりしている馬のように「ふん」と鼻で笑うのが聞こえ、電話が切られた。



「もしもし」
『玲さん、書き込み消しました?』

目覚ましの時間を少し早めにセットし直してからベッドに戻り、目を閉じたところだった。

「何だ、祥吾。僕からのメールはチェックしないくせに、バンドのサイトはまるで24時間セキュリティーだな」
『こんな時間にすみません』
「気にするな。みんなにも、反応するなって言っといてくれ」

少しだけ面倒くさいことになるかもしれないと、朝以降に起こりえることを想定しながら、ベッドにもぐる。こんな夜中まで田島が何をしていたかなんて、玲にとってはもちろん、どうでも良いことだった。

ただ、もう誰からの電話も来ないことを願いながら、眠りについた。



「玲さん、もう消してくれたみたい。心配ないよ」
『良かった』
「批判なんて、どこにでもあることだから。俺は別に気にしないし」

携帯の向こうから、安堵の息がわずかに漏れるのが聞こえる。それにしても、高校生がこんな夜中の時間まで何をしているというのだろう。

自分が高校生だった時期はそういえば、夜中までギターの練習をしたり、曲を作ったりしていた。週末に鏡と瞬の家に泊まったときなどは、夜通し朝まで三人でずっとしゃべっていた。そんなことを思い出して、人のことは言えないと苦笑する。

「ていうかさあ、奏ちゃん、もう夜中の三時だよ」

けれどもここは、一応二十歳を超えた大人として、世間的な対応を取ろうと試みる。

「こんなに遅くまで、ネットサーフィンでもしてんの? 明日の学校大丈夫? 授業中寝ないでよ」

とは言うものの、自分の高校時代、授業中に起きていたことなど、あっただろうか。

そこは棚に上げて、この子は女の子なんだから、などと今だけの常識人ぶろうとする。鏡にこれを聞かれたらきっと、「お前がそれ言うか」と極太の太鼓のばちでど突かれていただろう。

『明日から期末テストなんです。だからなんとなく眠れなくて。暑いし』

確かにこのところ、梅雨明け直後の、蒸し蒸しとした暑さが数日続いている。気温だけ高くて、湿度はまだまだ体にまとわりつくように残る、季節の変わり目。これが終われば夏休み、という高校の学期末。

窓を全開にしても、教室に風が通らない。汗を吸った夏服の白いワイシャツが、ピタッと肌にくっつく。皮膚呼吸、大丈夫か、と期末テストとは全く視点のずれたところの心配をした。

『ただネットをフラフラしていたわけじゃなくて、ちゃんと日本史の調べものしていたんですから』
「バンドのサイトに、日本史の問題の答えなんかないでしょう」
『サイトチェックは、テスト勉強が一段落してからしたんですよ。そうしたら』

学習参考書はインターネットというわけだ。目次のかわりグーグル、ページをめくるかわりにクリック。そのうちに、教科書さえ紙媒体ではなくなる時代が来そうだ。それにしても。

「玲さんに直接連絡すれば良かったのに。いとこなんだし」
『玲兄さんには、メールしておきました』
「玲、兄さん、かあ。ホント兄妹みたいだ」
『いとこの良いお兄さんです。それに、いくらいとこだって、こんな時間に電話できないですよ』

「てか、奏ちゃん、俺には電話してくるし」という呟きが、携帯からきっちりと向こうに伝わる。すると、ククと息を抑えるような笑いが聞こえた。

『すみません。でも、祥吾さんにはすぐに連絡しなくちゃ、って思ったんです』

言うこととやることがちぐはぐなのは、高校生だから、ということもあるかもしれない。考える前に行動に走ることは、田島にも覚えがある。

『やる前に、これをやったらどうなるか、って考えてからやれ』と、学校の先生にではなく、瞬からよくそう言われて反省していた。奏と話すときは、いつも自分の高校時代のことを思い出す。

「情報ありがとう。それで、テスト勉強のほうは、大丈夫?」
『あんな書き込みを見つけたら、テスト勉強なんてできるわけ無いじゃないですか。祥吾さん、ちょっと勉強に付き合ってください』

また何かを思いついたのか、奏が「ふふ」と嬉しそうに笑いをもらすのが伝わってくる。

『祥吾さんに、私がちゃんとテスト勉強していた証拠を見せます』

いや、電話じゃ見えないんだけど、とこれは口にはせず胸のうちに抑える。

『じゃあ、問題出しますよ』
「俺が答えるの?」
『学んだことを誰かに教えてあげることで、より自分の理解が深まるのです』

大学時代に、花園から聞かされた言葉だ。

『安美に教わったことです』

やっぱり。奏には、やたらな事は言えない。きっと花園と玲に筒抜けになる。これからは、口にすることには慎重にならなくては。瞬時に悟る。

「そうだ、安美ちゃんと勉強すればいいじゃん」
『安美がこんな時間まで起きているはず無いです』

だよね。というよりも、すでに夜中、という時間ではなく、早朝といえる時簡になろうとしていた。



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以下、本文としてはボツになったくだり。

「鎌倉幕府を開いた源頼朝が、朝廷から任命された役は?」
「征夷大将軍」
「正解。祥吾さん、頭良い」
「それ、一般常識」

「頼朝は家来に領地を与えるかわりに自分につくさせました。この関係を何という?」
「義理と人情」
(奏、爆笑の後)
「ご恩と奉公」
「それはテスト用語でしょう」 

「『ご恩と奉公』の関係をよく表している言葉は何ですか?」
「敵は本能寺」
「いざ鎌倉。祥吾さん、ふざけてるでしょう」
「いや、マジだって」
「じゃあ、これ最後」

「鎌倉時代から『鎌倉幕府』というように、幕府が登場しますが、そもそも幕府とは一体何でしょう」
「え。それはググッて」

田島、奏から幕府についてのレクチャーを受けたところで、夜明けと共に寝落ち・・・

昼間寝ていたところ、鎌倉時代に「義理と人情」だの、「敵は本能寺」だのって、それ何? という花園からの電話でたたき起こされる。お願いだから寝かして、と泣く。

バンドのサイトに来た書き込みについての情報を流し、対応についてのメールを回したのは、玲ともちろん田島ではなく鏡。



前回の「夢叶」154話で、ブログのカウンターのアクセスが、30000を越えましたあ^^(2014年2月18日)

皆様からの毎回のご訪問に感謝いたします。ありがとうございます。

まだまだ描くことは学ぶことな身ですが、少しでもお話を楽しんでいただけると嬉しく思います。

こういう記念のときって、特別企画をされる方も多いのですが、すみません、私にはそんな技量がなく・・・(-_-;)

けれども、30000越えの記念にせっかくですから、「夢叶」154話で結成いたしました「コラボレーションズ」のライブでも演ろうかな、と。

どうなるか全くわからないところに、今から汗ですが・・・(てか、こう言ってしまっただけで、すでに滝汗)

ミュージック・フェスティバル「ランペイジ」に堂々の(?)登場です。メンバー、まだまだ募集中。皆様からのご参加をお待ちしております。遠慮なくお知らせくださいね^^

皆様からのご訪問・応援にはいつもパワーをいただいています。
今後とも、よろしくお願いいたします。

けい m(__)m

PS: コラボレーションズにもパワーを(^^;)


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

そっかあ。これから名前が大きくなるたびに、そんな書き込みもふえるんでしょうね。
出る杭はなんとか。
だけどそれが売れっ子の宿命、かな。
そんな書き込みをすることが恥ずかしくなるような、名実ともにぴか一のプロを目指してね、スクランプシャス。
まあ、玲さんは大変だけど^^

田島君と奏ちゃん、仲良いなあ。恋人というより兄妹の関係みたい。
いや、姉弟だったりして。ちょっと妬けるなあ~。

アクセス30000ヒット改めておめでとうございます。
コラボレーションズの登場、楽しみにしていますね^^
2014.02.23 Sun 08:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

出る杭、打たれましょう。
スクランプシャスは打たれ強いはず。
ま、サポートも強いので、大丈夫でしょう。

田島と奏ちゃんの姉弟説、ありえそうですねえ。
奏ちゃんのバックには、玲と徹さんがついているので、田島は常にこの二人のお兄さん方の監視下。
田島、それでも手を出すのか。って、何の話・・・

お陰さまで、アクセス30000ヒットいただきましたあ。感謝です。
limeさんの毎回のご訪問と応援ポチもありがとうございます!
コラボレーションズでは、私もlimeさんと一緒に和太鼓でリズムを担当しますので、よろしくお願いします^^
えっと、それって、いつ?
というのが実は現在の悩みで・・・(-_-;)
2014.02.23 Sun 10:43
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - あ~何だか

ありそうな話ですよね。ネットという手段はプラスにもなるし、マイナスにもなるし。そのおかげで名前を知られて、いい面を知ってもらえる一方で、こういう一方的な対話のない中傷もあったりして。
こんな時代ですものね、こんなことひとつひとつを乗り越えていく必要があるんですね…
こういう出来事から、田島くんたちが何を学んで、どう乗り越えていくのか……これからは順風満帆なだけでなく、こういう向い風と闘う話にもなるのかな。
あぁ、でも、どんな道に進んでも、ネットのない時代には帰れないですものね。
技術や科学が進むと、世界は確かに広がるけれど、気にしなくてはならないことも増えるなぁ。(しみじみ)

で、なんだかんだと言いつつ、電話デートしてる!?
やっぱり、くっついて欲しいわぁ(*^_^*)
義理と人情、いいですね(*^_^*)
間の抜けた感じのラブラブ会話……(^^)

そして、カウンター30000、おめでとうございます!!
記念ライブとは……なんて楽しそう(^^)
えーっと、三味線の練習しなくちゃ^m^(って、違う?)
2014.02.24 Mon 00:11
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: あ~何だか

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

はい、よくある話ですね。
これはミステリーでもサスペンスでもスポ根でもなくて・・・
へえ、という程度で別に大げさなものにはならなくて・・・

サイバー物が現実世界にも現れてニュースになったりしていますよね。
こういうのと上手く付き合っていくのが今の時代なのかなあと。
スピードについていくのが大変です。便利なんだけどね。
こちらも自分のニーズに合ったものだけを選んでいますよ。
そしてフェイスブックは未だに・・・(-_-;)

ぷぷ。間抜けっぽかったですかね。
まだ一方的。たぶん(^^;)
義理と人情、これで田島は世を渡っていくかも。

カウンター30000のお祝い、ありがとうございます!! 感謝です!!
記念ライブは……どうなるか、分かりませんが(←マジ滝汗)
三味線の準備、よろしくお願いします。お囃子で待ち受けています^^
2014.02.24 Mon 18:12
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

アクセス30000越えおめでとうございます!

シンさんなど百戦錬磨でしょうから、
そりゃあ「牧場でのんびりしている馬のように」
ふん、なのでしょう。(↑この形容がすごく好きです!)

テスト勉強に付き合わされる祥吾、そして寝墜ち。
なかなかほのぼのとして良いシーンで、
もったいなく感じました。
でも、文字にするのが難しいシーンでもありますよね。
ご苦悩、お察しいたします。
「御恩と奉公」を「義理と人情」。このくだり、なかなか絶妙ですのに。

しかし、そこがなくとも奏ちゃんとのやりとりは、
充分に心がほんわかとなる空気感を味わわせていただきました。

さて、祥吾の次なるや、いかに!
2014.02.24 Mon 19:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

お祝いありがとうございます!

杉浦シンさんは、業界動かしていますからね。
へ、でもないですよ。
バフンと鼻を鳴らす馬男、いかがでしょう。(年男ではない)

ああ、ボツになったシーン・・・絶妙すか、ありがとうございます。
なんとなく間に流れる雰囲気が伝わっていただけたようで良かったです。

前もあったんですよ。描けなくて、あーってなって、
アップした後で大幅に書き加えたっていうのが。
このエピも、もう少し頑張ろうかな。あとでね・・・(-_-;)
っとに一朝一夕にはできないものです。日々精進。

祥吾の次は、いかになりますかね!
最近ちっとは考えている(^^;)
2014.02.25 Tue 15:54
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - リアルです

やっぱリアルに新人アーティストさんはフェス初参加となる色々とあるのかもしれませんよね。

ネット社会になってからさらに中傷とかもすごそうですし。でも、そういう人たちに限って一度好きになったらハマってくれそうな気がします。

だから是非田島くんたちの演奏を聞いてもらいたいな。絶対好きになること間違いなしだから!

歴史クイズの解答に思わず笑ってしまいました。
いいなあ、田島くん。ナイスすぎる~^^
2014.02.26 Wed 03:25
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: リアルです

rurubu1001さん、コメントありがとうございます。

参加者も色々ですが、主催者もきっと色々。お客さんも。
いろんな色々が折り重なって、イベントって出来上がるんでしょうね。

そうそう、CD聴いてもいまいちだったけれど、ライブに行ったら好きになった、とか、
CDは好きだったけれど、ライブがいまいち、とか、よく聞く話ですよね。
最近のアーティストさんたちは、ライブが売りのような・・・?
個人的にも、やはりライブでバランスの良いのが好きですねえ。なんちて。

スクランプシャスもライブでの安定感が売りの一つです。
ライブ見て好きになってもらいたいですね。
rurubuさんにも見ていただきたい。
私も見たい・・・(-_-;)

歴史クイズ・・・ありがとうございます^^
アンなんでも田島は一応真剣でした(^^;)
高校時代は授業中に熟睡していたタイプだったので。
授業中に物語を書いていたほうがよっぽど良かったですね^^
2014.02.26 Wed 16:34
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

来ましたな。
批判、ヤジ、荒らし・・・・・・私だったら速攻凹んでやめたくなりますよ。
何度されても免疫がつきません。
無意味なプライドですが、特にネットは顔が見えないので、皆、好き放題か来ますからねえ。

コラボレーションズのライブ、楽しみにしています。
2014.02.27 Thu 14:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

来ましたよ。
まあ、来るって事は・・・?

私のところには来たこと無いんで、分かりませんが、
つか、来ないって事は話題にも上らないと言うことで(-_-;)
来ないに越した事はないですね。
サイバー物には困ると思う。

コラボレーションズのライブは、リード、お願いしますね^^
2014.02.27 Thu 16:24
Edit | Reply |  

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