オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 156 

チケットを見せて、リストバンドをつけてもらう。ゲートを通過すると、そこから先の空間はフリー。

「奏、どのステージ?」
「あれだと思う。ステージ・ブルー」

向こうの方に、自分たちを受け入れてくれる場所があるのが確認できる。ふと気づくと、同じようにリストバンドをした人々が、何かに引き寄せられるように、同じ方に向かっている。

「安美、早く」

急かされているわけでもないのに、なぜか小走りになる。

『良かったら、安美ちゃんと一緒に来て』

田島からチケットをもらってから、奏はこの日をずっと待っていた。スクランプシャスのステージを、ユーチューブではなくライブで見る。

「待って、奏。そんなに急がなくても」

わかっている。始まるまでには、まだ時間がある。けれども、はやく、はやく、という思いが先走る。

デビュー曲の「Departure」も、ヒットした「Eternity Blue」も、歌詞は奏が書いたのだ。田島が自分の言葉を歌にする。

それをCDで聴くのではなく、初めてライブで、目の前で見る。奏にとってそれは、この夏休みの大きなイベントになるはずなのだ。

胸の高鳴りを抑えることができない。出かける前に鏡の前で、髪を束ね、ほどき、束ね、ほどきして、結局いつものポニーテールにした。

ライブが始まったら、どうしようか。男の子のファンのように、大声を上げることは出来ないけれど、田島の言葉に合わせて一緒に歌うことは出来る。それで行こう。

「なに一人でニヤニヤしてるの」

親友の安美に「もっと前に行くよ」と背中を押される。一番前にまで行ったって、良いんだ。「ランペイジ」ならではの楽しみ方で、スクランプシャスを応援しよう。

時間と共に人が集まり、熱気も上がってきた。あちらこちらから、不規則な歓声が上がる。オーディエンスのほうは、もうかなり出来上がっている。

すべてが始まる直前、動き出す前のぽっかりと穴の開いたような透明なステージはやけに静かだった。

ここの空気が割られる瞬間、そこから向かってくる音がどんなものになるのか、想像がつかない。

ただ理由無く、胸がドキドキとする。はやくその時が来てくれないと、心臓が破れてしまうのではないかと思うくらいだ。

「今日の空もエンドラインないよ、祥吾さん」

何かを確かめるように、奏はステージの上に高く青く広がる空をしっかりと見上げた。



「熱くなりそうだ」

「ランペイジ」のイベント管理室で、客の入りを映し出すモニターから目を離さずに、杉浦がつぶやく。

昨年は、台風にたたられた。天候と睨み合いながら、嵐の中でライブを決行した事務所所属のストレッチャーズは、オーディエンスと共に「ランペイジ」に伝説を残した。

「入場開始から、集まってますね」

杉浦の横で、一緒にモニターを見つめる葦埜御堂玲が、相槌を打つ。杉浦と共に、各ステージのライブ映像を編集・プロモートする。

今年は、初日から快晴の天気に恵まれている。天気予報では、連日30度を超える気温になる、と発表されている。だから暑くなる、いや、きっと熱くなる。

今年はどんなバンドが、どんな歴史を残すのだろうか。お膳立てには、抜かりない。全てのキャンバスを揃え、オーディエンスを迎える。

そこには、どんな彩が添えられるのだろう。描かれるのか、刻まれるのか、それとも引き裂かれるのか。

始まりの今から、最後どんなエンドロールが見えるのか、楽しみで仕方が無い。モニターに向かう杉浦の目が、めがねの奥で細くなる。

「ほとんどの人がステージ・ブルーのスクランプシャスに流れていくよ」

初日のメインステージ、トップを飾るこのバンドに対する注目度は高い。「ランペイジ」の起爆剤となれるのか、それとも全くポシャルのか、実力が試される。

「玲、自分の子どものステージを待つ気分はどうだ。心配でもしてるか」
「僕はあいつらの親じゃないですから。何とも無いですよ」
「相変わらず感情を出さないなあ、お前は」
「シンさんほどじゃないですよ」
「俺は仕事以外では義理も人情も厚い方だけど」
「知っていますよ」

かつて玲は、杉浦の直属で働いていた。杉浦は若手の中から玲を引き抜いて、自分のパートナーとしていた。だから、玲から独立したいと相談されたときには、大きく落胆したのだった。

「書き込みの方は、どうなってる?」
「まだ来ますけど、もうあまりに酷いの以外は放っています」
「一応、警備は増やしておいたから」

杉浦は警備だけでなく、暑さに備えて救護のほうも人員を増やしていた。開場前には自ら全てのステージと、食べ物屋台を回り、安全確認と声がけもしている。フェスティバル中はきっとほとんど寝ずに、行程を見守るのだろう。

「さすが。ありがとうございます。なんか、シンさんの方がスクランプシャスの親みたいじゃないですか」
「俺はただの片思いのファン。何回も振られてるし。玲は一回のプロポーズで恋が実っているんだよなあ。あー、うらやまし」

杉浦からは何度も「どんな手を使ったんだ」と問われるが、玲は「タイミング」とだけしか答えない。

かつてカリスマソングライターと呼ばれ、業界を一世風靡した後、若くしてこの世を去った村崎一人と、杉浦との出会いのようなものだ、と言ってその場をすり抜ける。

杉浦は玲のその言い草が気に入らないが、スクランプシャスを持っていかれたことに関しては根に持たない。

「今年は最高の入りになる」

最後までこのイベントが無事に終わること、バンドにもオーディエンスにも最高の思い出になること。杉浦はオープニングを前に、イベントプランナーとしての責任と醍醐味をひしひしと感じていた。

カメラを遠隔操作して、モニターに快晴の空を映し出す。台風と当たった昨年とは打って変わって、これでもかというくらいに爽やかな夏の空色が、モニターから流れてくる。杉浦は祈るような面持ちで、その画をじっと見つめた。



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スクランプシャスは、ランペイジ・メインステージのトップを飾ります。
じわじわとライブに近づいていきます。


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - No title

安美ちゃんと奏ちゃんも、このイベント会場にきてるのですね。
奏ちゃんのドキドキは半端ないでしょう。
自分もメンバーの一人と言ってもいいくらいですもんね。
目の前で、自分の作った詩を田島君が歌う・・・。
興奮して倒れちゃだめよ。(そんな子じゃないか^^)

さあ、ドキドキのイベント開幕ですね。
シンさんも、恨みっこなしでちょっと大人。
みんな力を合わせて盛り上げてね^^
2014.03.03 Mon 01:12
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

奏ちゃんは高校生だし女の子だし、今までは家から夜の新宿のライブハウスまで行く許可が下りなかったのです。
初めてのライブにドキドキしっぱなしですね。
ホント倒れないようにね。倒れちゃうと見られないし(^^;)
夕方には帰る予定なので、それまで楽しめると良いね。

> 自分もメンバーの一人と言ってもいいくらいですもんね。

おお、そうでした。名まえもクレジットされているので、問い合わせがあるはす。
けれどもそこはたぶん、いとこの玲がきっちり押さえているかと。

杉浦シンさんは、業界の実力者。
田島とだけウマが合わなかった。
ま、そんな相性もあるものです。ね。

さあ、一人の力だけでは動かせないイベント。
天気は良いらしい^^
2014.03.03 Mon 16:45
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - 

そちらは暑いですか?
こちらは寒いです。

頭の中でライブを想像して熱気で温まろうと思います。笑。
田島たち、メチャ緊張しているんでしょうね~。
2014.03.03 Mon 21:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

こちらは暑さも落ち着き、秋に向かっていますよ。
日本と違って、紅葉とかないんですけどね。
いや、あるんだけど、日本のようにそれを楽しむ趣がないというか・・・(^^;)
ジャパンは雪が降ったりして、寒そうですねえ。
ま、もうすぐ春、ですよね^^

ミュージックフェスティバル・ランペイジの季節は夏ですから、
熱くなってくだされ~~^^

田島たち、メチャ緊張してますが、頑張りまーす。
えっと、コラボレーションズの方も、応援お願いしますね。
てか、ヒロちゃん、でるよ^^
2014.03.03 Mon 22:35
Edit | Reply |  

Name - ポール・ブリッツ  

Title - No title

ノミの心臓のわたしにはこんなところでトライアングルを叩くなんて無理です(^^;)

……とりあえず続きを楽しみにしてます(^^)
2014.03.05 Wed 18:20
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

ふふふ。残念ながら、お名まえ入っちゃっています^^
大丈夫ですよ。みなさんいらっしゃるし。
私も叩き物で参加しますからぁ。

えっと、続き、ですね。
これが問題・・・(-_-;)
2014.03.05 Wed 21:36
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

「出かける前に鏡の前で、髪を束ね、ほどき、束ね、ほどきして、結局いつものポニーテールにした」
このあたり、女子(オナゴ)やなぁと思い、
ふふ、と読みながら笑みがこぼれるオヤジ城村。

黙って開演を待ちます。
しょっぱなのSEが鳴り出す直前。
あれがまた、たまらんのです。
ライブ行きたくなってきますやん。
2014.03.05 Wed 22:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

出た、城村さんのオヤジ疑惑。
オヤジは高校生に手を出してはいけません。
えっと、何の話・・・

もうちょい開演までお待ちくださいね。
始まる前のあの雰囲気、好きだなあ。
ライブに行きたいですねえ、私も。
2014.03.06 Thu 19:32
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - フェス待ってました!!

一気に物語がすすみますねー!

主催者側・スタッフ側のを気持ちをふむふむ聞いていると、昔自分で書いたロックフェスティバルの主催者編を思い出しました。

リストバンドに込められた思い…。
お祭りがついに始まるんですね。メインステージトップを飾る彼らに超期待してます!!

もちろんパフォーマー rururu は宙返りでも応援していますよ^^
2014.03.07 Fri 22:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: フェス待ってました!!

rurubu1001さん、コメントありがとうございます。

rurubuさん、あれお書きになったの、昔なんですか。
イベントって、企画・演出がなんか忘れられがちだけど、
裏方なしに表舞台は無いだろうっていつも思っていたので、
あれを拝読させていただいたときには感動したものです。
出演者・参加者・企画者、その他もろもろが全てあって、成り立っているのですよね。

リストバンドって、結構思い出になりますよねー。
ミュージックフェスでの経験は無いのですが(-_-;)

メインステージトップを飾る彼らに請うご期待(やや。言ってしまた・汗)
パフォーマー rururu の宙返りの方が期待大!!
2014.03.08 Sat 18:08
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - う~ん、さすが

このライブの昂揚感、分かるわぁ。
そうなんですよね、別に急いでどうというのでもないのに、気持ちは前へ前へと行くのですよね~
私も嵐のライブの時はこんな感じで~~~(って、何の話^^;)
しかも奏ちゃんにとっては、自分の詩ですものね。もう居ても立ってもいられない気持ち、分かります(*^_^*)
髪型も気になるし、ね(かわいい~。やっぱり付き合うか)←ん?

さすがけいさん、この辺の描写は抜かりないです。読んでいる方もドキドキしてきて、ライブどうなるの~って気持ちになります(*^_^*)
後半で、大人たちの会話もありますが、彼らまでドキドキしてるの、ちょっと楽しい(*^_^*)
忙しくてなかなかコメントを書きにこれていなかったのですが、またそろそろ次が更新されることを期待しつつ(*^_^*)、書き書きしました(*^。^*)
2014.03.11 Tue 17:55
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: う~ん、さすが

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

ライブって、みんなが盛り上がるから盛り上がるんですよね。
一人だけ盛り上がっても浮くだけで・・・
私、音楽のライブより、野球のライブと相撲のライブに行ってるんですけど(仕事絡みで)、テレビ中継より全然良いんですよねーやっぱり。大海さんは嵐ですかあ。ミュージックライブにも行きたいよ~ん。←仕事絡みで良いからさー^^

自分の生み出したものを人が演じるって、どんなんなのでしょうね。
興味有りです。

> 髪型も気になるし、ね(かわいい~。やっぱり付き合うか)←ん?

乙女心に理解のある大海さん、サポートありがとうございまーす。
つき合わせてあげたい? ふっふっふっ・・・(←久々のイミフ)

いやいや、ライブを楽しみにしていただけるのが、
何よりありがたくて嬉しいです(*^_^*)
私も楽しみにしている。
けれども、実況するのが自分だったりして変にドキドキ。

今しばらく、更新が遅れ気味で・・・
私は気にしていないのですが、もしお待ちになってくださっている方がいらっしゃるなら申し訳ないです(><)
書き書きありがとうございます。嬉し(*^_^*)
私もちょっとづつでも前に向かって書き書き(なんか良いなこの表現)頑張ります^^
ホントちょっとだ・・・(><)
2014.03.12 Wed 15:05
Edit | Reply |  

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