オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 157 

そわそわと、なんとなく落ち着かずにベースをいじっていたら、ベースの弦がぷっつりと切れてしまった。

「んだよ、気合入れろってことかあ?」

新しい弦に張り替えながら、湊人が顔を紅潮させる。開演前のこの時間はたまらない。オーディエンスはもう集まっていて、自分たちの出番を待っている。もうすぐそこに出て行く。

「気合入るよねー」

ギターを抱えたままクーラーの前に陣取る策も、ピックを摘んだきり離さない。この大イベントにわくわくする。ステージでは思い切り楽しもう。そう思っている。

「祥吾さん、いる?」

エンジニアでスクランプシャスのスタッフに入った純が、やっと控え室に顔を出しに来た。

「お、純。今日はそのオレンジの髪の色、やけに暑っ苦しいな。そっちはどう?」

純は玲や杉浦と共に、「ランペイジ」の会場設営のときから、ずっと現場につきっぱなしでいた。

「こっちは順調。祥吾さん。今日はもう、最高の音にするから」
「だってさ、策。一発目、出したときにびっくりすんなよ」
「すげー。楽しみ」

策は始まるのが待ちきれない様子で、またギターをシャカシャカと鳴らした。純はちょっと顔を出しただけで、「じゃ」とすぐにまた行ってしまった。調整には余念がなさそうだ。

「ランペイジは、他のフェスとはなんか違うよね」 

ベースの弦を新しく張り替えた湊人が、張り具合を眺めながら誰にとも無く声をかける。刻々と迫ってくる開演時間に気持ちを合わせるように、「よし」とまた気合いを入れた。最初の音出しに向けて、今一つ一つがつながってきている。

「成太郎さんは、いつでも変わんないよねえ」

だんだんと高揚してくる空気を読む策が、暇をもてあそぶようにドラムのスティックをスピンする鏡に向かって言った。

「俺は緊張してるよ」

スティックのスピンを止めずに答える鏡に、新しく弦を張ったベースのチューニングをしながら湊人が「らしくなくね?」と突っ込む。

「こんなすげーフェスの前に、少しくらいは緊張感を持った方が良いでしょ」
「俺は、超緊張」
「超はやばいね。程良い、ぐらいが良い」
「そんな微調節できねえよ。こんな時に弦切れるし」
「ま、あそこに湊人よりずっと緊張しているヤツがいるけどね」

ほら来たと自分に振られたことを自覚する田島が、少しだけムッとした流し目を送る。

「俺は、この緊張感が好きなの」

緊張が無くなったら、きっとダメになる。張り詰めたところを、一気に破って出て行く。その前のこのひと時に、震えるほどのエナジーをため込んでいるところだ。

「てか、祥吾、感極ったりして、ステージで泣くんじゃね」
「泣くわけねーだろ。湊人、ポイントずれてる」
「いや、わかんねえよなー」

鏡が湊人を援護し、策も加わって、三人が田島に目を向けてニヤニヤする。田島がしょっちゅう泣くのは、ライブハウスツアーで証明されている。

「あのときは酔ってたんだ、って何回も言ってんじゃん」

ツアーの最後、新宿カビーでやった凱旋ライブの後の打ち上げでは、達成感に感動のあまりスタッフの前で号泣した。いつまでもその言い訳をする。

“Hey, Johnny! コニチワ!”

突然、白ひげに満面の笑顔を見せる巨漢の外人が、ドカドカと控え室に入ってきた。

「え、なんで?」

田島は目を丸くしてそのアメリカ人に歩み寄り、握手とハグで迎えた。首からは一応、外人関係者の札を下げている。

「ヘイ、トニー、ワット・アー・ユー・ドゥーイング・ヒア?」
“What’re YOU doing here, Johnny? Tell me how you’ve been.”

トニーは変わらぬ笑顔で、成長した息子を眺める様に目を細めた。

「祥吾、紹介して」

鏡がそばに寄って来て軽い肘打ちと共に声をかけると、田島は思い出したようにトニーにメンバーを紹介した。

“Scrumptious, sounds yummy. Awesome name, Johnny.”

トニーは、ランペイジに出演するダン・ヘイレンのキーボーディストとして、デイブたちと共に来日していたのだ。

“I’m gonna watch you on stage.”

そう言って「ニッ」と口元を上げる笑いが、全く変わらず懐かしい。トニーと一緒に、ニューヨークのサマーステージで演ったのは、ちょうど二年前の夏。瞬時に思い出せる。

「あの時も、暑かったよね」

トニーが、眉をハの字にして首を傾げる。けれども今日は、あの時とはまた違った暑さとなるはず。

「スクランプシャス、五分前です」

その合図と共に、トニーと二年前の思い出話を語り合う間もなく、部屋の空気があわただしく動き始める。いよいよだ。

“Will catch up. ジャアナ”

トニーがウインクをしてから、田島の背中をバコンとたたいた。その勢いに「おっと」と思わず一歩を前に踏み出す。妙な日本語を覚えた。きっとデイブから教わったのだろう。

ライブが終わったら、最近の曲についての感想を聞こう。気に入ってもらえる自信はあるけれども。田島は手を振り、「ジャアナ」を連呼しながら控え室を出て行くトニーを見送った。

「行くぜ、スクランプシャス!」

田島の掛け声と共に全員で円陣を組み、改めて気合を入れる。ステージではSE (Sound Effect) が流れ始めていた。



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トニー、デイブと一緒に日本に来ちゃったらしい^^
次回やっとライブです。えっと、次回はいつかなー・・・(汗)


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - ポール・ブリッツ  

Title - 

>次

ライブなんだから、「今」でしょ! 「今」しかないでしょ!

……人の揚げ足を取って追い込んで喜ぶSな男であった(笑)
2014.03.30 Sun 08:13
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ポール・ブリッツさん

コメントありがとうございます。

おちつけ、ポール・S・ブリッツさん^^
あと5分、いえ、2分ですからっ^^

ヘッドバッキング、いえ、トライアングルの準備の方もお願いしますね。
忘れちゃいませんから(キリリ)
2014.03.30 Sun 09:19
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Name - lime  

Title - No title

いいですね~、この緊張感。
どんなに百戦錬磨の役者でも、緊張感を忘れたらダメになるんだって聞いたことがあります。
緊張することも大事なんですよね。(私は緊張しすぎてダメになっちゃうたちなんですが・笑)
トニーとデイブも見守る中、いよいよライブが始まるんですね。
わくわく。
この状態でけいさんは『待て』をするんですね><
ええ、待ちますよ~。
私もスティックを新調して待ちます。
我が家の一角には、折れたりボロボロになったスティックが、40本くらい放置されています。(捨てろよ><)
・・・でも、そんなにハードなのね、ドラムって。

2014.03.30 Sun 09:35
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

メンバー、緊張していますよ~^^
適度な緊張感て、大事だと思います。身を引き締めるというか。
だらけはやっぱりダメだと思う。あと、緊張しすぎるのもね。
緊張とリラックス、その加減が難しいのですけれども(^^;)

成ちゃんだけがバランス保ってます~。策もまあまあかな。
田島と湊人が結構緊張派。
どんなベテランだって、きっとそれぞれなんでしょうね。
トニーはどんと来い派っぽい(?)
limeさんはしすぎるタイプなんですか?
長谷川さんがついているからどんなときも大丈夫でしょう^^

> この状態でけいさんは『待て』をするんですね><

ぷぷぷ。すみません^^
待て。 ください。

そうそう。忘れちゃいけないコラボレーションズ!
limeさんと私でリズム隊です。ハードに行きましょう(?)
えっと、こっちも、いつかなあ。
スクランプシャスのライブの後なんで・・・
さらに、待て。 ください(-_-;)
2014.03.30 Sun 11:58
Edit | Reply |  

Name - 城村優歌  

Title - No title

おう、SEきたよ、待ってたよ。
前回に戻って読み直しちゃった。

しかし、張ったばかりのベースの弦って……( >o< )
デカいステージの時は、しかもイベントだと、まぁいろいろありますね。
湊人くんにもそのうちローディーがつくかもしれないし^^v
頑張れ頑張れ! こっちまで緊張しちゃいますね。
祥吾の、ポテンシャルの高まりようも、手に取るように感じます。
まるでリアルで傍で見ているようなステージ前。

そして、やっぱ来るでしょ、トニーは!(喜!)

あ、もう客電落ちます? 落ちますね? 次回楽しみ~^^
2014.03.30 Sun 21:43
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Name - ヒロハル  

Title - No title

お帰りなさい。

ライブ前に弦が切れるって、私だったら手が震えて弦が張れません。汗。
誰かにやってもらいます。笑。

彼らはプロだからその辺は大丈夫でしょうね。でもあの和田アキ子さんも極度のあがり症だそうですね。

田島、ライブ前に一杯引っかけていくくらいがいいのかもしれない。
2014.03.30 Sun 22:19
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - わ~い

良かった、生存確認が必要なくなって(^^)
そして、いよいよ、と気分が盛り上がったら……またちょっとお預けですね。
でも、その前にトニー、来ましたか。再会は嬉しいけれど、また緊張が増えるかしら?

この緊張分かります。
私はヒヨコのヒヨコなので、緊張しかないのですけれど、この緊張が曲者で……すごく緊張しているけれど、上手くいくときもあるし、空回りすることもあるし、本当に、いつも一定でいられる秘訣を教えて欲しいです。
でもすごい人でもやっぱり緊張するそうですものね。無茶苦茶に練習していてすごく上手い人でも緊張するなら、私なんてなんやねんって気もしますが、この昇華の仕方って試合・本番を積んでいかないと、練習だけでは培われないんですよね。田島くんたちも、これからまた違った本番を何度も経験して、何かを積み上げていくのかなぁ。
さてと、次回まで大人しく待ちます(*^_^*)
2014.03.30 Sun 23:40
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

コメントありがとうございます。

きましたよー^^
時間たっちゃうと、忘れちゃいますよね。やば。

ベースの弦って、ゆるくはなっても、そうそう切れるものではないらしいのですが、
こんなときにぃ、ということで切れてもらいました(?)
湊人、焦らせてごめん^^

田島がやっぱり一番緊張するタイプ。
そして、トニー乱入~^^ 
おっちゃんも、田島の姿をみてくれいっ。

バックステージってちょっと興味有り。
アーティストの素顔が垣間見れるようで。
お邪魔させていただきたいですね。

ランペイジは野外フェスなので、そのまんま行きます!
城村さん、準備は良いですかーっ^^
2014.03.31 Mon 16:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

ただいまー、で、またいってきまーす、なんですが(^^;)
もうこの遅筆っぷりには超をつけ、公認とでもしましょうかねえ。(よくわからん)

湊人は楽器に関しては自分で何でもやりますよ。
丈さん仕込みですから。(わかるかな?)

田島は和田アキ子さんほどではありませんが、緊張する方。
でも緊張感も取り込んでもって行きます。
一杯ね。汗で出ちゃいますけどね^^
2014.03.31 Mon 19:54
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: わ~い

大海彩洋さん、コメントありがとうございます。

はい、何とか生きてはおります^^
描けてはいないのですが、皆様のところにお邪魔して感覚のリハビリはじめましたー。

トニーはこれからも曲つくりの良い相談役になってくれると思います。
緊張感が理解していただけて良かったです。
そうそう。緊張って曲者ですよね。スポーツの世界でもいろんなことしてくれる。

うん、練習が一つポイントだと思います。
練習と本番を繰り返して経験を積んで、自信につながると良いですね。
どれだけビッグネームになっても、練習と緊張感はずっと持っていて欲しいです。

えっと、お預けではないのですが、描けるまで、気長にお待ちいただけると嬉しいです~(*^_^*)
2014.03.31 Mon 20:19
Edit | Reply |  

Name - rurubu1001  

Title - おおー!!

ついにきましたね!彼らのこの瞬間を待ってました!!

感慨深いなあ。感無量だなあ。

田島くんが一度手放した音楽を仲間たちのおかげで、もう一度手に入れて…彼にとっての「夢叶」も本番なんでしょーか!?

ライブ前の緊張感、私も好きです。当事者でないから、たのしんじゃっているのかもしれませんが^^

さあ、いよいよだー!!瞬くん、見ててくれー!!
2014.03.31 Mon 23:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: おおー!!

rurubu1001さん、コメントありがとうございます。

きましたあ。とりあえず、ここまで(-_-;)
ホント、たぶんここ、瞬間、を描くところなのでしょうが、いや、えっと・・・(汗)

> 田島くんが一度手放した音楽を仲間たちのおかげで、もう一度手に入れて…彼にとっての「夢叶」も本番なんでしょーか!?

嬉しいこときいてくださる~。
コメント返ししたいのですができないところです。鋭いっす。

> さあ、いよいよだー!!瞬くん、見ててくれー!!

わわわ。そんなこと言われると泣く~ 田島がですよ^^
rurubuさんも見ててくれー!! (すでに半泣き)
2014.04.01 Tue 09:51
Edit | Reply |  

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