オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 162 

「Here we go!」

今日の衣装は、スクランプシャス・デビュー一周年にふさわしいセミ・フォーマル。会場はグランドプリンスホテル「憩」。

司会の日本アカデミー賞協会組織委員会副会長とパートナーの大女優が、感動的に今年の各賞を紹介していく。

映画「夢追い」は日本アカデミー賞の各賞にエントリーされ、その中でも、最優秀作品賞の最有力候補に上がっている。

スクランプシャスの歌う「夢叶」も映画主題歌賞(注)にノミネートされ、他のノミネート曲同様、各賞発表の幕間でライブと共に紹介された。(注:本当の日本アカデミー賞に主題歌賞はありません。音楽賞があります。)

「さあ次は、今日がちょうどデビュー一周年の記念日だという、スクランプシャスの登場です。映画『夢追い』の主人公のように、スクランプシャスの夢も叶うのでしょうか。『夢叶』です!」

映画界の関係者が多く集まり、格式あるセレモニーの中で行うライブは、ライブハウスで行う熱気のあるライブとは雰囲気が全然異なるが、それも良い経験。

ちょうど今日の日が、デビューの記念日と重なった。授賞式が終わったら、新宿のライブハウス・カビーに戻り、デビュー一周年ライブを行う。

一年前のこの日に、スクランプシャスはスタートした。その時と同じように、ファンがカビーで待ってくれている。

「長谷川部長、いつから田島と俺のこと、知ってたんですか?」

新宿カビーのステージには、特別スクリーンが設置され、日本アカデミー賞の中継放送が流されている。その映像を集まったファンと一緒に見ながら、花園は会社上司の長谷川と小声で話をしていた。

「覚えていないなあ。もう、ずいぶん前だよ」
「俺は、さっきまで知らなかったし」

花園の会社上司の長谷川は、田島からこのデビュー一周年のライブに招待され、夫婦でやってきていた。

純が両親を花園に紹介しようとしたところ、「よう、花園。こいつは次男の純だ。長男は祥吾君の高校時代の知り合いなんだ」と先を越された。そのときの花園と純の驚き様といったらコミック漫画のようだった。

「まあ、そんな話、会社ではしないし」
「いや、してくださいよ。会社関係知ってないと、まずいでしょう」
「あのクマ課長は知らないが」
「クマ課・・・いえ、渡辺課長とはつながり無いですから。あの人、演歌ですし」

会社関係で仕方なくカラオケに行くとき、長谷川部長は、必ずスクランプシャスを歌う。明らかに全く歌えないのに、なぜいつもかけるのか、理由に納得したのもさっきの話だ。

「花園、発表だぞ」

いや、自分の事情など、どうでも良い。今夜は、スクランプシャスのために、みんなが集う夜。それを思い出して、花園もみんなと同じように、スクリーンに目を向けた。

「スクランプシャスの皆さん、おめでとうございます! どうぞ、こちらへ」

司会の協会副会長と大女優が、甲高い声でスクランプシャスを表彰のステージへと促す。

「成ちゃんこれ、夢、かな」
「夢じゃないさ」

隣に座っていたプロデューサーの葦埜御堂玲に、「早く行け」と背中を押された。鏡に引っ張られるように、ステージに向かう。ほんの数十秒の距離なのに、ほんの数歩の階段を上がるだけなのに、壇上までが眩しくて、足がもつれる。

会場からの大きな拍手の中、前年度受賞のストレッチャーズから、ブロンズ像を受け取り握手を交わすと、じわじわとしたものが胸に浮かんでくる。

「成ちゃん、隣にいてくれ」
「いいけど祥吾、俺の顔を見るなよ。で、泣くな」
「大丈夫。たぶん」

ステージの真ん中に存在感を示すスピーチ・スタンドの前に立つと、会場がしんと静まった。誰もが行儀良く、何かを期待するように待っている。田島は、手に持つブロンズ像にちらりと目を向けてから、マイクに向かった。

「ありがとうございます」

その言葉をかみ締める。ライトの光に包まれる心地良さを味わいながら、しっかりと息を吸い、放つべき言葉を口にする。

「この賞をいただけて、すごく光栄に思います。この曲『夢叶』を通じて、たくさんの出会いがあったことに感謝します」

そうして、出会った人々、みんなに感謝を述べる。始めは、瞬を失い一人になったとずっと思っていた。けれども思い返すと、一人だったときなんて一度もなかったように思う。

一人でなんか、生きていけない。良く分かっている。だから、いつでも誰かがそばにいてくれたじゃないか。今だって、手を伸ばせばすぐそこに。

「最後にメンバー。策、湊人、成太郎、瞬。ありがとう。サンキュー」

ブロンズ像を振り上げ、鏡と肩を組んでステージから下がる。バックステージに入ったとたんに、全員と声を上げ抱き合って喜んだ。このメンバーと出逢った奇跡、それを一生大事にする。

「祥吾、ブロンズ像見せて」

ブロンズ像が、リレーのバトンのように、湊人、策、そして鏡の手に渡る。このメンバーと出逢い、ずっとまっすぐに走ってきた。自分の道を信じてまっすぐに行けば、こんなに良いことがある、それが証明されたと実感した。

映画「夢追い」は前評判どおり、日本アカデミー賞で圧倒的に支持され、最優秀作品賞をはじめ、各賞を総なめにした。

授賞式が終わり、カビーに戻ったスクランプシャスは、深夜にもかかわらず、ずっと待ってくれていたファンから、もみくちゃにされて迎えられた。

アカデミー賞では泣かなかった田島は、ここでは歌えなくなるほどボロボロに涙を落とすことを許された。



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うわー、やってしまいました。いえ、お約束ではありません(><)
あと一話、本当に、はみだしてしまいました。すみません(><)
とても短いのでこの回と一緒にしても良かったのですが、離したくなって・・・
本当の最終話につづくです。次回こそ、締めます。


ご訪問、ありがとうございます^^

『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

皆様が素敵な一日を過ごせますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - 城村優歌  

Title - No title

ふ・ふ・ふ。やられた。
はい、次回の更新楽しみにしてます^^
2014.04.21 Mon 12:06
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 城村優歌さん

す・す・すみませーーん!!

私、最終話をまず先に書いて置いておく、というタイプではない、
ということがわかりましたあー(遅いっ・滝汗)

未熟者なりに、頑張って締めようと思います(←って、まだなのかあー><)
2014.04.21 Mon 14:20
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

朝、『ああ~、最終話だから、心して読もう』と、帰宅してから心して読みました(笑)
いえ、いいのです。
もう一回あるということで、ほっとしていますよ~。

アカデミー賞ですか。
今年はばっちり見ました。あの場所に田島君たちも! 緊張するでしょうね~。(あれって、本当にその瞬間まで本人たちは知らないんでしょうか。受賞者w)
主題歌部門って、あったらいいのに~。
映画よりも主題歌がヒットするってこと、よくありますもんね。平井堅のあれとか^^
でもこの『夢追い』は、きっと主題歌で相乗効果だったんでしょうね。
いいなあ~、見たいなあ。

どんどん大物になって、手の届かないところに行っちゃわないでね、田島君~><

そして、長谷川部長って、そうなの???
なんてことでしょう~。
純君は花園君とは、知り合いだったんでしたっけ。
なんともホットなサプライズです。

さあ、最終話。楽しみです。(終わらなくてもいいよ・笑)
2014.04.21 Mon 22:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

す-みーまーせーーん(><)

心して読んでいただいたなんて、大変に恐縮です!

なんと。アカデミー賞をご覧になったのですか。
私もUSの見ちゃうんですよね。スピーチが楽しみで^^
フォーマルで、俳優さんたちの素顔とかがチラ見できたりで、好きなんです。
相乗効果、ありますよね。賞を取ったらまた売れ出す、とかね。

> どんどん大物になって、手の届かないところに行っちゃわないでね、田島君~><

心配しないでください。田島もメンバーも、変わりませんから^^

長谷川部長に気づかれたlimeさん、さすがです。
??の皆様にネタバレしますと、彼は拙作「怒涛の一週間」でも徹さんと主人公の上司なのです。
時系列が違うので、役職が違うのですが。
そして、瞬と純のお父さんでした。
limeさんのところの長谷川女史と親戚だったら・・・(色々妄想)
純と徹さんは・・・ドキ。田島つながりですでに・・・ということで(-_-;)

さあ、最終話。終わらなくて良いなんて、優しいお言葉。うるる。
けど、終わります(キリリ)
2014.04.22 Tue 01:01
Edit | Reply |  

Name - 大海彩洋  

Title - コメ書きに戻ってきました~

コメントを書けない環境にあって、遅くなりました!
いやいや、こんなすごいでっかい賞のラストが待っているなんて!
そしてこれ、何だか映画とのタイアップっていうのが、いかにも「みんなで一緒に取った賞」的な素敵さが感じられます。
で、え~っと、あぁ、次に残しとこう!
2014.04.23 Wed 21:21
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: コメ書きに戻ってきました~

大海彩洋さん、わざわざお戻り、申し訳ないです~。

大海さんも色々とお忙しそうで。
それでも、きっちりとコメ返とか記事のアップとかされていて、凄いなあと思います。
大海さんのペースが保たれますように。

ありがとうございます。映画と来たら、これもお約束です。
青春物にあるある的なクサ王道行きました(^^;)

で、え~っと、あぁ・・・すみません!!!
2014.04.23 Wed 22:11
Edit | Reply |  

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